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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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大問題児の殺人猫

⋇キラ視点

⋇残酷描写あり

「何だコイツら、手応えねぇな……」


 リアがサキュバスを追っかけてって、レーンはそのリアを追っかけてったから、残った獲物は全部あたしのもの。たくさん殺せて最高だぜ。

 けど、そんな風に喜んでたのは束の間のことだった。だってよ、コイツら手応えなさ過ぎて何も面白くねぇんだよ。仲間の首が刎ねられたくらいで狼狽えるんじゃねぇよ、全く。その首を目くらましなり武器なりに使うくらいはしてこいってんだ。


「やっぱレーンの予想通り、兵士でも何でもねぇ一般人か。種族の身体能力の高さに胡坐かいて、ろくに鍛えてねぇ奴らがあたしに勝てるかよ」


 ま、そう言うあたしもそこまで集中して鍛えてるわけじゃねぇけどな。

 つーか、特にそういうことはやってねぇんだよな。精々魔物とやりあって欲求の解消してたくらいか。魔物の方がむしろ容赦無く殺そうとしてくるから、戦うなら魔物の方が楽しいんだよな。殺すのは人間とかの方が楽しいけどな。


「レーンはリアを追っかけてったところだし、今ならやっても文句は言われねぇだろ。よし、まずはコイツからっと……」


 転がった死体の濁った白い眼を見てたら、どうにも衝動が抑えられなくなっちまった。だから空間収納からスプーンを取り出して、眼球と瞼の間に突っ込んでその目を抉り出した。

 初めての頃は上手く行かずに傷つけちまうこともあったけど、今なら目を閉じてても綺麗にくりぬけるぜ。やっぱ慣れだよな、慣れ。


「これで良し、っと。ハハッ。綺麗だよなぁ、この目……この濁り具合とか堪らねぇぜ……」


 抉り出した二個の目玉を保存容器に詰めて、日の光に透かして眺める。

 綺麗っていや綺麗なんだが、点数を付けるなら十点満点で六点ってとこだな。じっくりゆっくり殺したわけじゃねぇから、間近に迫る死への恐怖が映ってねぇのが減点対象だ。やっぱ一人ひとり向き合って、嬲るように殺さねぇと駄目だな。


「よし。アイツらが戻ってこない内に、さっさと全部回収しとくか」


 それでも回収できるなら回収しとくのは当然だよな。だってそこに白く濁った目玉があるんだぜ? だったらもう抉り出すしかねぇよ。

 つーわけで、あたしは次の死体の目玉を回収するために歩き始めたわけなんだが――


「………………?」


 何か、視線を感じるな。

 まだ生き残りがいたのか? いや、目についた奴らは片っ端から殺したし、洞窟の中に隠れてた奴らも全部引きずり出して息の根を止めたはずだ。てことは一旦ここを離れてた奴が戻ってきたのか?

 何にせよ結構肝が据わってる奴だな。そこらに転がってる仲間の死体と、あたしが今正に目玉を抉り出してる光景を見てるはずだってのに、襲い掛かって来やしねぇ。じっくり隙を窺ってんのか? だとしたらコイツらよりは楽しめそうだな。


「……ふっ!」


 あんま時間かけてるとレーンたちが戻って来ちまうかもしれねぇし、こっちから仕掛けることにした。空間収納から目玉を保存する容器を取り出す振りをして、代わりに取り出したナイフを視線を感じる方向にぶん投げる。

 武装術は使ってねぇけど、牽制には十分だろ。当たりゃあ根元までぶっ刺さる力で投げたからな。まあさすがにこんな不意打ちを食らうような情けねぇ奴じゃ――


「――ぎゃあっ!?」


 とか思ってたら藪の向こうから悲鳴が聞こえてきやがった。おいおい、まさかマジで刺さったんじゃねぇだろうな?

 いや、もしかしたらあたしを油断させて隙を突く作戦かもしれねぇ。何にせよ仕掛けてみりゃ分かることだ。

 つーわけであたしは両手を振るって鉤爪を装着して、真正面から藪の中に飛び込んだ。こんな弱っちい奴らを一方的に殺しちまって物足りなかったからな。罠だろうが不意打ちだろうが、あたしを楽しませてくれるなら何でも良いぜ。


「う、ああぁっ……!」

「おいおい、マジで刺さってんのかよ……」


 せっかく楽しみにしてたってのに、藪の奥にはあたしを心底ガッカリさせる光景が広がってた。

 魔術師のローブを着た男が、あたしの投げたナイフに肩を貫かれて木の幹に縫い付けられてやがる。ふざけんなよ、お前? あたしを期待させといてあっさり落とすとか……命が惜しくねぇんだな?


「ん? お前、聖人族か……?」


 というかコイツ、よくよく見ると獣の耳も無けりゃ悪魔の角とかもねぇ。牽制に投げたナイフがぶっ刺さってることに気を取られて、一瞬種族に気が付かなかったぜ。何だって聖人族がこんなとこにいやがるんだ? 

 見た感じ奴隷の首輪とかもねぇし、ローブも別に汚れてねぇし、魔獣族の奴隷ってわけじゃなさそうだ。だったら何で魔獣族たちが潜伏してる森の中に、ナイフ一つ避けれねぇ弱い奴がたった一人でいやがるんだ? 


「……まあいいや。それよりお前、見てたよな?」

「ひぃっ!?」


 視線を感じたタイミングから考えると、コイツはあたしが目玉を回収してる場面を見てた。それを見られてちゃ殺すしかねぇよな? 


「み、見ていません! 何も見ていません! ですからどうか、命だけは――がはっ!?」

「まあ見てても見てなくても殺すけどな。せっかく周りに誰もいねぇんだし、獲物を逃す手はねぇだろ?」


 男は顔を青くして必死に誤魔化してたが、見ていようと見ていなかろうと殺すことに変わりねぇ。だから命乞いは無視して、鉤爪で心臓を一突きした。一本ならともかく、爪は三本あるからさすがに心臓以外も傷つけちまうのは仕方ねぇな。


「あ……が……!」

「そうだ。ほら、死ぬまであたしのことをじっと見てろよ。綺麗な目をして死んでくれよな?」


 空いた方の手で男の髪を掴んで、少しずつ濁ってく目を見つめながらあの世に送ってやった。

 さっきまでとは違って多少殺すのに時間をかけたから、濁り具合も良い感じだぜ。さっきは手早く片付けちまったから、自分が死んだってことも分かってねえ奴らがいそうだ。

 けどやっぱあたし一人じゃ限界があるよなぁ。魔法も武装術もそこそこ得意な方だが、クルスみてぇに魔法の使用を封じた上で身動きを封じるとかはできねぇし。ああ、またアイツと一緒に殺しに行きてぇなぁ……。


「よし、取れた。おお、コイツは綺麗だなぁ……後でクルスにも見せてやろう。きっとアイツも喜んでくれるだろうな」


 抉り出した目玉は、時間をかけたおかげでそこらに転がってる奴らよりも綺麗なもんだった。これならクルスに見せるには申し分ねぇな。さすがにプレゼントしてやるにはまだ質が良くねぇけど……。

 いや、待てよ? 何であたしはクルスの奴に獲物を見せに行ったり、獲った獲物をプレゼントしようなんて考えてんだ? もしかしてこれが噂に聞く猫人の習性ってやつなのか? そういやアイツに何度も匂いつけちまったし、そういうことなのかもしれねぇな。まあ害があるわけでもねぇし、別にいいか。


「しかし、コイツ一体何者なんだ? 魔獣族の奴隷ってわけでもなさそうだが……」


 今となっちゃ話も聞けねぇから、身元が分かるもんが無いか探してみる。クルスの奴なら生き返らせて尋問して吐かせてから、また殺すとかできるんだろうけどな。羨ましいぜ。


「あん? 何だこれ、魔石か? 魔石にしちゃ、随分綺麗なもんだが……」


 懐を探ってみると、そこには手の平に乗っかる程度の小せぇ魔石っぽいもんがあった。けど魔石にしちゃ綺麗な球体になってるし、どっちかっていうと水晶玉みてぇだな。それにしちゃ今度は小せぇが。


「……まあ、何でもいいか。分かんねぇことは他の奴に聞けばいい。とりあえずコイツの死体だけは持ち帰っておくか」


 考えても分からなさそうだし、とりあえず男の死体を空間収納に放り込んどいた。

 クルスの奴と違って死体が腐らないようにすることはできねぇし、忘れないように注意しとかないとな。さすがのあたしも腐った死体が空間収納にあったら嫌だぜ……。







「おっ、帰ってきたか……って、何だお前ら。変に対照的になってんな」


 転がってた死体全部の目玉を抉り出して瓶詰めにした後、あたしも川で釣りをしながらレーンたちを待ってた。釣りの道具はもう持ち主も死んだし、勝手に借りても怒られねぇだろ。結局一匹も釣れなかったけどな。

 そんなことより、戻ってきたレーンたちの様子が何かおかしかった。リアの方はめっちゃ笑顔で血色も良くなってんのに、レーンの方は顔を青くしてげっそりしてやがる。ちょっと見ない内に何があったんだ、コイツら?


「いや……やはり無垢で可愛く見えようと、クルスの仲間であることに変わりは無いのだと思い知らされただけだよ。上辺だけに騙されて、私の考えが足りなかったようだ……」

「えへへ! サキュバス殺すの楽しかったぁ! またやりたいなぁ!」


 あー、何となく分かった気がすんな。サキュバスを追っかけてったリアが無残な殺し方をして、レーンはそれを見ちまったってところか? 人を残酷に殺してはしゃいでるあたり、リアはなかなか見どころがあるじゃねぇか。


「やっぱ殺したのか。どんな風に殺したんだ?」

「短剣を刺して刺してグチャグチャにしたの! 気が付いたらもう原型も無くなってて、すっごく汚い姿になってたよ! あははっ、思い出しただけでおかしくなっちゃう!」

「思い出さなくとも君はもうおかしいよ、リア……」

「へぇ。なかなかやるじゃねぇか、コイツ……」


 やっぱ予想通りだったみたいだな。無残に殺したリアは嬉しそうに笑ってるし、レーンは頭を抱えてやがる。

 基本はクルスと二人で殺しをするつもりだったが、サキュバスを殺すならリアも加えた方が楽しくなるかもしれねぇな。


「まあ、私たちのことは今は脇に置いてくれ。それより、君の方は何か変わりは無かったかい?」

「ああ、そういやさっき聖人族を見つけたぜ。あたしが楽しんでるところを見られちまったから、口封じのためにも殺しておいたけどな」

「……聖人族? 魔獣族の潜伏地になっているこの森の中に、聖人族がいたのかい?」

「ああ。ほら、コイツ」


 何か疑いの目を向けてきやがるから、空間収納から死体を出して直に見せてやった。

 同族の死体を目の前に出したってのに、レーンの奴は顔色一つ変えずに死体を調べ始めたぜ。さっきは青い顔してたってのに、肝が据わってんのかどうか良く分かんねぇ奴だな。


「……当然のように眼球を摘出していることについては、もう触れない方が良さそうだね。何か妙なものは所持していなかったかい?」

「妙なものっていや、コイツかな? 魔石の一種か何かか?」


 妙に真面目な顔で聞かれたから、男が持ってた小さい水晶玉みてぇなもんを取り出して見せる。

 あたしにはこれが何かさっぱり分かんなかったが、レーンの奴は一目で分かったみてぇだ。一瞬目を見開いたかと思えば、今度は眉を寄せて渋い顔してやがる。これそんなにヤバいもんなのか?


「なるほど、これは頭が痛い問題だ……サーチ」


 そしていきなり探査の魔法を使いやがる。何だ? まだ仲間がいたのか? それとも魔獣族の生き残りか?


「おい、一人で納得してねぇで教えろよ。コイツは誰で、これは一体何なんだよ」

「それはクルスと合流してから説明するよ。ここで説明しても二度手間になりそうだからね。とりあえず君は大問題児だと言っておこう。全く、何故私がここまで頭を悩ませることになるのか……」


 デコを押さえてため息をつきながら、あたしを罵倒してきやがる。

 まあ別に怒りは感じねぇけどな。世間一般から見ればあたしか問題児だってことは何も間違っちゃいねぇし。


「ともかく、そうだね……君はこの周囲を回り、他に聖人族がいないか探し回ってくれたまえ。先ほど探査魔法を使った感触だと聖人族の反応はなかったが、万が一ということもある。見つけたら殺してしまって構わない。というより、何か行動を起こす隙を与えることなく確実に無力化してくれ」

「そりゃ構わねぇけどよ。一体どうしたってんだよ?」

「先ほども言ったが、二度手間だから説明はしない。それに私はここ一時間で激しい頭痛をもたらす出来事にばかり遭遇しているんだ。少しは休ませてくれないか……?」


 そして何かすげぇ切実な頼みをしてくる。

 あたしにはよく分かんねぇけど、正常な神経を持ってたらキツイことが色々あったんだろうな。まあ後で説明してもらえるなら別にいいか。何かでけぇ問題があっても対応するのはコイツかクルスだし。


「分かったよ。んじゃ、ちょっくら周囲を回って来るわ」

「ああ、頼んだ……」

「えへへー! 嬉しいなー、幸せだなー! あはははははっ!」


 川べりに座り込んで放心した感じにうなだれるレーンと、空を飛び回りながら踊り狂うテンション絶好調のリア。

 あたしが言えた義理じゃねぇけど、コイツら精神大丈夫なのか……? 





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