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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第1章:異世界召喚
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秘密と本音

「率直に言って、この世界は終わっている。聖人族と魔獣族は確認できる限りではおよそ二千年間、争いを続けている。最早争う理由など誰一人として覚えていないほど昔からだ。恐らく争うことが本能的に身に沁みついているんだろうね」

「二千年!? えっ、マジ?」


 レーンの予想外の言葉に、僕は思わず食いついてしまう。

 確かに女神様は長い間争ってるって言ってたけど、思い返してみるとどれほどの年数争っているかは言ってなかった気がするな。というか二千年もやりあってよくどっちの勢力も生き残ってるな……。

 あ、そういえば異世界なのに日数の単位は年なんだね。たぶんこれは女神様から授かった力というより、勇者召喚で授かった力かな。本来ならこの世界の言語なんて知らないし、きっと良い感じに翻訳されてるんでしょ。詳細は知らん。


「ああ、事実だよ。尤も全面的な戦争を二千年間続けているわけではないがね。さすがにそんな消耗戦を続けていたら百年ともたない」

「まあそりゃそうか。しかし二千年とはまた……」


 女神様をモノにできるから引き受けたとはいえ、これは想像以上に根が深そうだなぁ。レーンも似たようなこと言ったけど、もう遺伝子レベルで敵種族への敵意が刻まれてそう。


「この世界が想像以上にクソなのは分かったけど、逆にお前はどうして平和を求めてるの? それも全ての種族が手を取り合うなんて夢物語みたいな平和でしょ? お前にとっても魔獣族は敵のはずだよね?」


 敵種族への敵意が遺伝子に刻まれるレベルなら、それは目の前にいるコイツも同じはず。にも拘わらず全ての種族間での平和を謳うコイツの行動理念は一体何か。そんな疑問を遠慮なくぶつけてみた。


「……確かに私も、初めの頃は意味も理由もなく魔獣族を滅ぼすという使命感に燃えていた。そのため大いに興味があった魔術の勉強に打ち込み、試行錯誤と修行を重ね、実戦で何百何千という数の魔獣族を屠った。憎き魔獣族が断末魔の叫びを上げ、悶え苦しみながら死に至る様を見るのはとても愉快だったよ」


 聞きようによってはかなりサイコなことを言っているレーンだけど、その表情はどう見ても愉快には見えなかった。感情が薄めで表情が変わらないから愉快に見えないわけじゃないよ? 今まで変わらなかった表情が、はっきりと罪悪感に歪んでたからだよ。


「そして私は当代随一の魔術師として名を馳せたが、やがて病に侵され前線に出られなくなってしまった。自分が病で死ぬという未来より、このままでは魔術を極められないという事実と、二度と魔獣族を屠ることができなくなるという事実の方が、その時の私にとっては絶望だったね」


 今度は自虐的な笑みを浮かべるレーン。感情が薄いって思ってたら、意外と表情は豊かだね。どちらかと言えば負の方向にだけど。

 というか病で死ぬって……今、生きてるよね? どういうこと?


「だから私は残された命と、持てる才の限りを尽くして一つの魔術を作り上げた。私が死を迎えても、再び私として新たな生を授かることができるようになる究極の魔術を。その魔術により私は生まれ変わり新たな肉体を得て、更に魔術に磨きをかけ数多くの魔獣族を虐殺し始めたのさ」


 えぇ……何かこの人、死を超越してるんですけど。話を聞く限り魔術の才能と記憶を継承した上での転生だよ、これ。もうお前が勇者やれよ。


「虐殺と死と転生をひたすらに繰り返し、何百年経過した頃だったかな。少しずつ、魔獣族を屠ることが楽しくなくなってきたんだ。そればかりか、酷く虚しい気分になってしまう。ああ、何故自分はこんなことをしているのかと、自問自答してしまうほどにね」

「なるほど、大体分かったよ」


 暗い長話がまだまだ続きそうだったから、とりあえず大体理解した所で遮った。

 身もふたもない話だけど、要するに虐殺に飽きて戦うことが虚しくなってきたんだろうね。感情が薄く見えるのは転生を重ねて精神が摩耗したか、それとも虚しさのあまりか。

 どっちにしろ彼女は争いのない平和な世界を望んでるっぽい。大量虐殺をしてきたお前にそれを望む資格があるのか、なんて酷い言葉は言わないよ!


「お前の目的や行動理念は分かったよ。だけど、それならどうして勇者である僕にこんなことを話したわけ?」


 結局話はそこに戻る。何故僕が怪しい人物であると分かったのか、そしてどうして聖人族にも魔獣族にも敵視されそうな目的を僕には話したのか。僕としてはとりあえずそれを知りたかった。


「勇者召喚が今回が初めてではないのは、君も分かっていると思う。私も平和を望み始めてからは、異世界の存在であるが故に偏見も思い込みも無い、中立の存在である勇者に助力を求めるのが最適だと思ってはいたんだ。勇者召喚の魔術に、魔獣族への敵意の擦りこみが含まれていなければね」

「うわぁ……そんなことやってんのか、この世界……」

「他に含まれている魔術も色々あるが、今は重要なことではないから置いておくよ。それに何より、召喚される勇者は私と比べると遥かに弱い。とてもではないが肩を並べられるような者たちではなかった」

「それはお前が強くなりすぎただけだと思うんですけど」


 この世界にレベルとかステータスとかいう概念は無いっぽいし、そんな中で生まれかわりながら力を磨いて戦争を何度も経験した歴戦の兵と、ついさっきまで一般人だった召喚されたばかりの勇者を比べることがそもそも間違ってるわ。序盤に出てくるスライムと裏ボスのステータス比較なんてしても面白くないでしょ?


「違いない。しかしそんな折、今まで召喚された勇者とは一線を画す存在が現れた。彼は敵意の擦りこみの魔術を弾いたばかりか、まるで自分が召喚されることを予め知っていたかのような振る舞いをしていた。今まで召喚された勇者はこちらの都合で異世界から召喚されたことに憤るか、嘆き悲しむか興奮した様子を見せていたというのに、そのどちらもなくまるで体の良い操り人形か道化のように」

「ふーん、誰の事だろうなぁ……」

「君のことだぞ、クルス」


 惚けてみたらあっさり突っ込まれた。

 でも考えてみれば、確かにちょっと国王たちにとって都合の良い駒を演じすぎたかな。勇者らしく振舞おうとしたのが裏目に出てたか。

 でも魔術を弾いたの下りは知らん。たぶん女神様のご加護か何かが弾いたんじゃない?


「そんなわけで君が只者ではないと判断した私は、君をじっくりと魔法的に観察してみた。するとどうだ。君の全身から魔力とは全く異なる、途方もなく力強い眩い光が放たれているのが見えるじゃないか」


 あ、わりと本当に女神様のご加護があったっぽい。まあ力を授かってるし、それをご加護って言っても問題は無いかな?


「そして先程、君が一瞬で作り上げた五重の結界。あれはその内の一つであろうと到底召喚されたばかりの勇者が使えるような魔術ではない。そもそも君はこの世界の魔術の何たるかを知らないだろう? にも拘わらず、君は一瞬で五つもの結界を同時に展開した。確かに勇者召喚には対象の寿命と引き換えに特殊な力を授ける術式も含まれているし、実際に様々な結界を張れる能力を授かった者もいるが、君はそんなレベルではない」


 一瞬っていうか、本当は十分以上頭を悩ませて練習したんだよなぁ。どうやったら魔法が発動するのか手探りで試しながら、そもそも魔法を使うために必要な魔力を認識するところから。まあ言う必要はないから言わないけどね。

 というか、今聞き逃せないこと言わなかった? 寿命を削るとかなんとか。えっ、僕、寿命削れてるの? 


「だからここで最初の質問に戻ろう。クルス、君は一体、何者だい?」


 感情の窺えない瞳で、レーンはじっと僕を見据えてる。

 ついさっき聞き逃せないことを口にしてたからその詳細を知りたいところだけど、今は後回しだ。ここで何を答えるかが僕の今後の行動と、この国での立ち位置を決定する。だから僕はもう一度自分の時間を加速させることで、考える時間を作り上げた。


「さて、どうしよっかな……」


 僕以外が凍り付いた世界の中で、必死に考えを巡らせる。

 レーンとは恐らく協力できる。彼女が望んでるのは全ての種族間での世界平和。そして僕の望みこと、女神様の望みも同じだ。レーンの言葉に嘘が無いなら間違いなく僕らは手を結ぶことができる。

 ただし、同じなのはあくまでも目的だけ。僕が目的を達成するにあたって取るべき方法は平和とは真逆の方法だ。それこそこの世界が滅亡の瀬戸際に追い込まれるほどの虐殺と破壊をもたらして、悪逆非道の限りを尽くすつもりだし。だからレーンがその方法に難色を示すなら、僕とは決して相容れない。

 不安要素は消してしまえれば楽だけど、レーンを殺してしまえば僕が綺麗で誠実な勇者でないということが一部の者にバレて、そこから国中に広がるはずだ。勿論いつかはこの世界の全ての種族に敵対するつもりとはいえ、さすがに今はまだ早すぎる。それは真の仲間を集めて事前準備を重ねた上で、満を持して行うことだからね。


「……よし、決めた」


 しばらく悩んで結論を出した僕は、加速させてた自分の時間を元に戻す。

 レーンからすれば瞬きよりも短い時間の出来事だから、僕が悩んでたとは思わないはずだ。実際は僕の体感では五分くらい悩んでたかな?


「僕はこの救いようのないクソ世界に、強大な敵として君臨することで平和をもたらすために送り込まれた、女神様の忠実なる下僕さ」


 でも五分悩んで出した結論は、全部ぶっちゃけるっていうクソみたいな結論。さすがに正直に答えてくれるとは思ってなかったのか、感情が薄いレーンも目を丸くしてたよ。まあ気持ちは分かるよ?

 いや、もう正直考えるのが面倒くさくてね。何で召喚されてすぐにこんな状況に陥ってるんだろうね? こちとら最初は誰にも気づかれないように裏で色々悪事を働いていこうとか思ってたのに、いきなり規格外っぽい魔術師の手の平の上で踊らされるとかありえないでしょ。こうなったらもう自棄だ!


「女神、とは何かな? 君は何者かの支配下にある存在なのかい?」

「何者かっていうか、この世界を創り上げたとっても偉い人だね。あとどちらかと言えば支配というより、僕が積極的に従属してる感じだよ。女神様めっちゃタイプの子だから」


 やっぱり女神様のことは知らないのか、レーンは首を傾げてた。

 どれくらい転生を繰り返してるのかは知らないけど、レーンが知らないってことは少なくとも人間の中に女神様のこと知ってる人いないんじゃない? これは信者ゼロ説が現実味を帯びてきたぞ。


「なるほど。その女神とやらが勇者召喚に乗じて君をこの世界に送り込んだということかな。察するに君の身体から放たれる輝かしい光は、その女神による魔法的な加護の証だね。しかしわざわざこんな他人任せな真似をするということは、女神当人は直接この世界に干渉することができないのかな? いや、あるいは直接干渉することが好ましくないのか。どちらにせよそれが可能なら共通の敵を作り上げることで種族間に平和をもたらすなどという、回りくどい真似をする意味はない……」

「わーい。察しが良くて助かるなぁ」


 一人で何かぶつぶつ言い始めるレーンの姿に、僕は白目を剥きかけながらぐったりと脱力する。

 何かもう僕の秘密の大部分がこいつに解き明かされちゃってる気がするよ。何でこんなのがいきなり出てくるんだ、全く。

 ごめん、女神様。色んな力を授けてもらったけど、平和への道は前途多難っぽいです。




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