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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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記憶喪失

「勇者様ー、もう朝ですよー? 起きてくださーい」


 身体を揺すられ声をかけられ、僕は夢の世界から引きずり戻される。

 せっかく女神様にメイドの格好させてエッチなお仕置きする最高の夢を見てたのに、誰だよ僕を起こしたのは。ぶち殺すぞ?

 というか気が付けばいつの間にやら朝じゃないか。昨晩はキラと真夜中のデートをしてたし、宿に帰ってきた時には結構疲れてたからぐっすり眠ってたっぽいね。あっ、もちろんあの後はキラと一緒にシャワーを浴びて、猫耳を触り倒しました。まあもっと別の柔らかいものもたっぷり触り倒したけどな!


「ううーん……あと五分……」

「駄目です。さっき五分待ってあげたんですから、早く起きてください。皆さん朝ごはんを食べずに待ってるんですからね?」


 あっ、無意識にあと五分って言ってたのね。ていうかしっかり待ってくれたのか。わざわざ起こしに来てくれた事といい、ハニエルは優しいなぁ……って、ん?


「あれ? ハニエル? ハニエルだよね?」

「はい、ハニエルですよ? おはようございます、勇者様」


 頭の中が疑問で埋め尽くされたおかげか、一気に睡魔が吹っ飛ぶ。さっきまでは重かった目蓋を開けて隣を見ると、何とそこにはニコニコ笑顔のハニエルが立ってた。

 あれれ、おかしいな? 昨日は初めての殺人にショックを受けて気絶してたはずなのに、どうしてこんな晴れやかな笑顔を浮かべてるんだろ? まさかキラみたいに殺人の快楽に目覚めた、とか……? 


「……この天使、ショックで私を殺した時の記憶を失くしたみたいよ。大天使の屋敷を出た辺りから、記憶が途切れてるらしいわ」

「はあ、なるほど。確かにそれもやむなしな反応してたしね」


 首を傾げてると、ハニエルの後ろからこそこそ現れたミニスが耳打ちしてきた。

 どうもショックによる記憶喪失を患ったみたいだね。あまりにもショックな出来事で心が壊れるのを防ぐために、脳がその原因になる出来事の記憶を忘れさせたんだと思う。一種の防御反応かな。

 でもこれ、物理的な刺激によって記憶が吹っ飛んだわけじゃないから、たぶん思い出せないだけで脳の中には記憶が残ってるんだよなぁ。その記憶を引っ張り出してもう一度壊すのも楽しそうだけど、うーん……。


「……勇者様、どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ。おはよう、ハニエル。起こしに来てくれてありがとう」

「いえいえ、どういたしましてです」


 僕がニッコリ笑いながらお礼を言うと、ハニエルは翼をパタパタ動かして嬉しそうに微笑む。

 うん、やっぱこれ何も覚えてないね。僕がハニエルに殺人を強制させたことを覚えてたなら、こんなのほほんとしたやり取りさすがにできないだろうし。


「ところでハニエル。昨日のことってどれくらい覚えてる?」

「昨日のこと、ですか。うーん、正直な所全然覚えていませんね……ラツィエルさんのお屋敷を出た辺りで、ぱったりと記憶が無くなっているんです。レーンさんたちに事情を聞いても、勇者様に聞いた方が良いとの一点張りでして……」


 なるほど。レーンたちが何も説明せず、僕に聞けって言ったってことは、要するに僕に判断を委ねたってことだね。ハニエルを生かすも壊すも僕の好きにしろって。


「勇者様、あの後私に一体何があったんですか?」


 どこか不安そうな表情で尋ねてくるハニエル。

 さてさて、どうするかなぁ? ここで真実を教えるもよし、同意を求めて魔法で記憶を引っ張り上げるのもよし。どっちにしろ防御反応で記憶喪失になっちゃう軟弱なハニエルだし、きっと大いにそそる反応をしてくれると思う。

 でもアフターフォローが面倒そうなんだよねぇ。朝からそんな面倒な事したくないし、ここはやっぱり真っ赤な嘘で行こう。


「……信じられないかもしれないけど、実は屋敷を出た直後に事故があったんだ」

「事故、ですか?」

「うん。空から握り拳くらいの大きさの隕石が降ってきて、それがハニエルの頭に直撃したんだよ……」

「えっ!? わ、私の頭に!?」


 でたらめも良いとこだけど、僕の顔はこういう時に役立つ良い感じに整った顔だから、ハニエルはばっちり信じてくれたよ。両手で口元を押さえながら、顔を青くしていらっしゃる。本当にちょろいなぁ、コイツ。

 だいたい隕石が頭にぶち当たるとかどんな確率よ? 仮にそんなことが起きるとしたら日頃の行いの悪いキラか僕にぶち当たるわ。


「うん、ピンポイントで。本当びっくりしたよ。気付いたら地面に血塗れの石が転がってて、ハニエルが頭から血を流しながら倒れてるんだもん。しかも頭の上半分が消し飛んだみたいになってて――」

「キャーッ! やめてください聞きたくないです! そんな丁寧に説明しなくて良いですからーっ!」


 そうして適当に考えたそれっぽい惨状を語ると、ハニエルは両手で耳を塞いだかと思えば翼で自分の顔も隠す。

 しかし実際の所、隕石が頭にぶつかったらどうなるんだろうね? 拳大の大きさって言っても、それは大気圏突入で燃え尽きずに残った大きさだから、かなりの速度がついてるはずだし……下手すると首から上が吹き飛ぶのでは?


「その後すぐにレーンと二人がかりで治療を始めて、何とかハニエルの命を繋ぎとめることができたんだ。治療が間に合って本当に良かったよ。絶対もう死んだって思ったからね……」

「うぅ……確かに運は悪い方ですが、まさか隕石が頭に直撃するほどだとは思いませんでした……助けてくださってありがとうございます、勇者様。レーンさんにも、後でお礼を言わなければいけませんね?」

「そうだね。レーンの迅速な指示がなかったら、僕も混乱で身動き取れなかっただろうし。何にせよ、ハニエルが元気そうで安心したよ」

「はい! お二人のおかげで、もうばっちり元気ですよ!」


 うんうん、ハニエルが元気で何よりだね。ガッツポーズに合わせて青い法衣の下のデカいモノが揺れてるから、僕も何だか元気になってきましたよ?

 しかし、アレだな。ハニエルの記憶が無いのはあの生意気ショタの屋敷を出た辺りからだし、今日は森に魔獣族狩りに行くことは覚えてるはずなんだよね。もしやこれは空元気かな?


「……でもやっぱりまだ心配だから、今日は宿で安静にしてなよ。それに一人は寂しいだろうし、ミニスと一緒にお留守番ね?」

「え……良いんですか?」


 そう思って僕が優しい提案をすると、やっぱり覚えてるみたいで嬉しさ半分申し訳なさ半分の顔をするハニエル。

 あっ、これ提案しなかったらちゃんとついてきたのかな? 失敗した。でも今更発言を取り消すのは僕のプライドが許さないし、ここは女の子を気遣う優しい勇者様で通そう。

 僕の提案内容が一回目と明らかに違うせいか、ミニスが何かスゲー怪訝な顔してじろじろ見てきてるけど、当然そこは無視だね。


「うん。一緒に森に行ったら見たくないものを見ることになるだろうし、もしかしたら自分で手を汚さなきゃいけなくなる場面もあるかもしれないからね。だから今日はゆっくりお留守番してなよ」

「勇者様……はい、ありがとうございます。お言葉に甘えて、今日は安静にさせて頂きますね?」

「うん、それが良いよ」


 さすがに頭お花畑のハニエルでも何かおかしいとは思ってるかもしれないね。そもそも僕が魔法で契約を結んだのは、こういう時に命令して強制するためって言外に伝えてたし。

 でもハニエルは理想論ばっかりで現実から目を逸らしてた輩だから、何かおかしいと思っても居心地の良い選択を選ぶでしょ。そんなんだから三千年も何一つ平和のために行動できなかったってのにねぇ?


「さて、それじゃあすぐに着替えて皆のとこに行かないとね。あ、今から服脱ぐけど僕の裸見る?」

「み、見ませんよ! というかもうすでに脱いでるじゃないですか! せめて先に聞いてから脱いでください! 勇者様のエッチ!」


 僕が上半身裸になりつつ尋ねると、顔を真っ赤にして部屋から飛び出してくハニエル。エッチなのは否定しないけど、ムッツリなお前には言われたくないんだよなぁ……。


「……何で、わざわざ嘘ついたの?」


 何も言わなくても着替えを用意してくれる甲斐甲斐しいミニスが、すっごい疑わしい目をしながら尋ねてくる。

 これハニエルのためって言っても絶対信じてくれないよね。まあハニエルのためなんかじゃないのは確かだし。


「朝から騒がれたり泣かれたりすると色々面倒だしね。それに殺人の記憶を忘れてるってことは、もう一回初めての殺人を経験させられるってことでしょ? だから二度目の初めてを経験させた後に、最初の初めてを思い出させたら楽しいかなって思って」

「とんだゲス野郎ね……」


 うーん、ミニスのゴミを見るような視線が堪んないね。

 色々面倒なことになりそうだから真実を言わなかったってのはあるけど、やっぱり重要なのは一回で二度楽しめるようになる点だよね。それに今はぽやぽやしてるハニエルが、実はすでに手を汚した経験があるって考えると、何か無性に興奮してくる。被害者であるミニスは蘇って今隣にいるけどね?


「それで? 被害者としては加害者が自分を殺した記憶を綺麗さっぱり忘れてること、どう思います?」

「正直かなり腹立つわね――がっ!?」

「おっと、天罰」


 どうも嘘だったみたいで、ミニスの身体がびくっと跳ねて黒焦げになって倒れ伏す。

 昨日の内に虚言罰則(ライズ・ペナルティ)を改良しておいたから、目の前に雷が落ちたようなフラッシュも轟音も無くて静かなもんだね。精々目の前にこんがり焼けて煙を上げる焼死体ができただけだよ。

 しかし、兎人の焼死体か……ウサギ肉……ふむ……。


「か、かなり、腹が立つ、けど! アイツが、忘れてるなら、忘れてるで……安心してる私が、いるっ……!」


 僕のかけた魔法のおかげで見る見る内に黒焦げの身体が再生して、蘇生も完了するミニス。がくがくと身体を起こしながら麻痺った口調で言い直すと、今度は天罰が落ちなかった。

 まだまだミニスは聖人族に対する敵意があるはずなのに、やっぱりハニエルには多少思うところがあるみたいだね。おかしいなぁ? そういう感情を抱くなら、普通は勇者っていう主人公ポジションの僕に対してじゃない?


「はい、よくできました。この調子で自分に正直に生きて行こうね?」

「あんたを、ぶっ殺したい……!」


 ちゃんと自分の気持ちを正直に言い直せたご褒美に頭を撫でてあげると、殺意溢れる鋭い瞳で睨みを利かせてきた。

 でもキラに比べればそよ風みたいなへなちょこ殺意だし、何より頭の上にある可愛いウサ耳のせいで迫力なんて欠片も無かったね。それに着てる服も焼け焦げて半裸のエロい状態で言われてもねぇ……。


「あっ、そうそう。お前はハニエルと一緒に留守番だし、せっかくだから何か服を見繕ってもらいなよ。これお金ね」

「わっ……!?」


 僕が金貨の入った袋を異空間から取り出してポイっと渡すと、予想外の重さだったみたいで一瞬落としかけるミニス。

 焼け焦げて半裸になった姿を見て思い出したけど、コイツの服装まだ決まってないんだよね。昨日までは奴隷になる前に本人が着てた服で、今さっきまでは僕がリアに買ってそのまま死蔵してた、コイツには似合わない白とピンクの甘ロリ服だし。ちょうどいいからハニエルにコーディネイトしてもらおう。


「ちょっ!? 金貨何枚入ってんのよ、これ。奴隷にこんな大金渡すの?」

「もちろんだよ。僕は奴隷だ何だって差別しない善人だからね!」

「………………」

「何て言うのは冗談で、その金貨も魔法で創り出した偽造金貨だから元手はタダなんだよね。だからそれ全部使ったって別にいいよ。僕の懐は毛ほども痛まないし」

「どうせそんなことだろうと思ったわ、この犯罪者」


 あれれ、おかしいなぁ? 気前よく金貨を三十枚くらいプレゼントしてあげたのに、またしてもゴミを見るような冷たいを目をしてるぞ? 魔獣族的には経済が混乱して聖人族が右往左往するのは願ったり叶ったりじゃないの?



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― 新着の感想 ―
よく描けてると思う。 主人公がすごいサイコパスで、ドン引きするけど。
ここまで弁は立たなかったけど、 ハニエル見てると昔の自分見てるみたいで、 なんか可哀想だな。 迷子みたいで。 ハニエル(ボクよりも理想論すぎて空虚な虚無になってて意味分からないけど。正直迷子で可哀そ…
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