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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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楽しい見世物

「ただいまー。待ったー?」

「お、おかえりなさい、ご主人様……」

「待ちくたびれたぜ。よくもあたしに保護者役なんてやらせやがったな?」

 

 森の中に点在する洞窟の位置がマッピングされた地図を受け取った後、僕らは屋敷を出てすぐさまキラの所に戻った。屋敷の外でぼけーっと突っ立ってたキラに駆け寄ると、めっちゃ不満げな表情が返ってきたよ。

 リアに関してはクラウンや一般聖人族の目があるから、従順な奴隷の仮面を被ってるね。ミニスは凄い怯えた目でびくびくしながら押し黙ってるけど。


「お前のためを思ってのチョイスだったんだけどなぁ。それで、何か変わったこととかあった?」

「特に何も。強いて言えばコイツに色々プライベートなことを聞かれたくらいか」

「っ……!」


 引き合いに出されて、びくっとしたミニスのウサ耳が縮こまる。

 そういやコイツにはキラが獣人だって教えてなかったね。でも同族なら匂いで分かるんだっけか。プライベートなことを聞かれたって言うのはたぶんその辺のことだろうね。何で聖人族に紛れてるんだとか、色々。


「まあ聞きたくなる理由は分からないでもない。ていうかまともな奴なら誰でも気になると思うよ?」

「そこはあたしも分かってる。で、そっちは何かあったのか?」

「体よく汚れ仕事を押し付けられてしまったよ。明日、この街の北東に存在するタウラスの森へ向かい、そこに潜伏している魔獣族を掃討して欲しいそうだ。大天使様が現れた時から嫌な展開になりそうなのは、何となく予想できていたんだがね……」


 キラの問いに答えたのは、小さくため息を零したレーン。

 意外とレーンはラツィエルと似てたのに、何か苦手そうな感じですね。同族嫌悪かな?


「おいおい、好きなだけあの薄汚ねぇクソ共をぶっ殺せるチャンスなんだぜ? それのどこが汚れ仕事だってんだよ? 俺は喜んでやらせてもらうぜ」

「まあ内容はともかく、仕事を押し付けられたのは確かだよね。僕らにはそこらの木っ端じゃなくて、大本である魔王を倒すっていう崇高な使命があるのにさ」


 クラウンの過激発言は置いといて、僕らには優先すべき使命があるってことを強調しておく。実際にはそんな使命、ただの表向きの隠れ蓑に過ぎないがな!


「何にせよ、引き受けたからにはしっかり仕事しないとね。明日に備えて、今日はゆっくり休んで英気を養おうか」

「おうっ! 明日は朝一番で獣狩りだな!」

「それはあたしも楽しみだ。早く殺りたいぜ」

「殺意高いなぁ、コイツら……で、ハニエルはどうしたの? 何か浮かない顔してるけど」


 過激派と異常者から目を逸らして、この場でまだ一言も喋ってないハニエルに視線を向ける。何でか凄い暗い顔してるっていうか、いたたまれない顔してたね。お腹でも痛いのかな?


「そ、その……私、明日は留守番でもよろしいでしょうか……?」


 とか思ってたら、その口から絞り出されるように出てきたのはすっごい気弱な発言。

 明日は森に狩りに行く予定なのに留守番をしたいっていうことは、その真意は当然アレだよね。


「それはつまり、魔獣族を殺しに行きたくはない、ってこと?」

「は、はい……」


 僕の問いに申し訳なさそうに頷くハニエル。

 おいおい、僕の奴隷になった時に誓った言葉を忘れたんですかね? 多少はマシかなって考えを改めたのに、やっぱ根はお花畑だよコイツ。命令して無理やり連れてっちゃおうかな?


「おいおい、大天使様よぉ? 前々から思ってたが、あんたまさかアイツらを殺したくないなんて言うんじゃねぇだろうな? アレは生きてる価値の無いただの害虫だぜ?」

「が、害虫なんかじゃありません! 魔獣族の方々も、私たちと同じ、この世界に生きる尊い命なんです! それなのに有無を言わさず皆殺しだなんて、私には納得できません!」


 そしてあろうことか、自らの理想論をこんなところでぶちまける。この辺は屋敷とかが多い場所なせいか人通りはかなり少なめだけど、運が悪いことに四、五人くらいは通行人がいた。さすがに大天使様のこの発言には、その人たちも目を丸くして足を止めてたよ。

 いや、まともな人間性とかそういう論点からなら、ハニエルの論が正しいってことは僕にだって分かるよ? でもこんな魔獣族に敵意を抱いてる奴らばっかりの場所で、そんな超が付くほど少数派の意見を口にするなんてありえないでしょ。いやはや……。


「はぁ……おいおい、クルスよぉ? お前何でこんなの仲間に選んだんだ?」

「そこはちょっと考えがあってね。でもこんな話を聞いてるのもムカムカするだろうし、クラウンとレーンは先に宿を取ってきてよ。僕はちょっとハニエルとお話をしてから行くからさ」

「ああ、分かった。ったく、最高の気分だったのが台無しだぜ……」


 僕がそうお願いすると、クラウンは機嫌悪そうにぼやきながら歩いてく。

 いやぁ、しかしどうするかなこれ。僕としてはハニエルが一般聖人族にどう思われてようが別に興味ないんだけど、僕が勇者でハニエルがそのパーティの一員な以上、そうも言ってられないんだよね。

 でも今更ハニエルの発言を取り消すことはできないし、ここは僕だけは聖人族の過激派の人たちと同じだよって知らしめないと駄目かな? そのためにはやっぱり分かりやすいパフォーマンスが必要だね。よーし、ハニエルをたっぷり泣かせてやるぞー。


「……何をするつもりかは分からないし考えたくも無いが、あまりやりすぎないようにしたまえよ」

「努力はしまーす」


 僕の考えの大部分を見抜いてるみたいで、レーンは横を通り抜け様にぼそっと注意してくる。お前は僕のママか何か? それとも僕の手でママにして欲しいっていう遠回しな告白?

 何はともあれ、レーンとクラウンが去ってこの場に残ったのは計五人。僕とキラ、リアとミニスの奴隷コンビ、それから問題児のハニエル。あ、遠巻きにこっちを見てるモブ共は数に入れないよ?


「あの、勇者様……駄目、でしょうか……?」


 申し訳なさそうな顔をして、図々しく尋ねてくるハニエル。

 よし、やっぱりこれはそろそろ分からせてやらないといけないな。この純真な顔がどれほど絶望に歪むのか楽しみだぜ!


「ハハハ、僕はそこまで鬼じゃないよ。嫌がってる子に無理やり殺人を経験させるほど外道じゃないつもりだし」

「えっ?」


 後ろからリアの疑問の声が聞こえてきたけどそれは無視。だって僕の本性はむしろそっち側だから、まともな反論できないもん。実際リアには殺人を経験させたしさ。


「そ、それじゃあ――」

「――だから、選ばせてあげるよ。キラ、ミニスをこっちに連れてきて」

「あいよ」

「うぐっ!?」


 一瞬安堵に表情を緩めかけるハニエルを制して、背後のキラに振り向かずに声をかける。

 素直に頷いたから普通に連れてきてくれるのかと思ったら、僕の右斜め前に石畳をうつ伏せに滑る形でミニスが現れた。何か悲鳴も聞こえたし、さてはぶん投げるか蹴り飛ばすかしたな? コイツ、同族にも容赦ないよなぁ……。


「はい、ハニエル。これを受け取って」

「え? わ、わわっ!?」


 でもこれからすることを考えると容赦なんて必要ないから、よろよろと立ち上がるミニスは無視して、ハニエルにとある道具を投げ渡した。

 いきなり投げ渡したせいかハニエルはキャッチし損ねて、慌てて何度かお手玉してたよ。まあ落とさなかったことだけは褒めてあげよう。


「これは……短剣?」


 そうして落ち着いたハニエルは、手の中にある鞘に納められた短剣を目にして首を傾げる。

 アレは今しがた僕がこっそり魔法で創り出した、特別製の短剣。斬撃よりも刺突に特化した感じの、細く尖ったレイピアみたいな短剣だ。何でそんなものを創って渡したのかというと、それはもう当然決まってるよね?


「ハニエル、その短剣でミニスを殺して? それができたら、明日は留守番で良いよ」

「えっ!?」

「ひっ……!?」


 僕がそう口にすると、ハニエルは驚愕に目を見開き、立ち上がったミニスはびくっと震える。

 ハニエルが正しい聖人族で、僕が正しい勇者様だってことを証明するには、この場で魔獣族を殺して見せるのが一番手っ取り早い。そしてここにはどうなってもいい魔獣族がちょうど一人いる。

 だったらもう殺るしかないよね? ミニスの処女を奪えなかったのは心残りだけど、探せばウサ耳っ娘はいっぱいいるだろうし。真の仲間でもないコイツ個人に拘る必要はどこにもないし、精々有効活用してあげるべきでしょ?

 

「おっ、楽しそうな見世物になりそうだな。さすがはあたしに引けを取らない下劣畜生のクルスだぜ」

「ご主人様、やっぱり外道じゃ……?」


 なんて僕が超合理的な事を考えたってのに、背後からは微妙に野次が飛んでくる。何だよ、じゃあどうすれば良かったってのさ? 


「で、できるわけないじゃないですか!? こんなに小さい子を、何の罪も無い子を……こ、殺すなんて!」

「罪ならあるよ。勇者である僕を殺そうとしたっていう許しがたい罪がね。実際襲われたのが僕じゃなかったら死んでたし。それにこれは数の問題だよ? 森へ行けば、ハニエルは絶対に多くの魔獣族が死ぬ様を目の当たりにするし、きっと最低でも数人は自分の手にかけることになる。でもここでミニスを殺せば、殺す人数も死に様を見るのも一人で済む。考えるまでもない選択だと思うけどなぁ?」

「数の問題じゃありません! 命は等しく尊いものです! そもそも簡単に奪ってはいけないものなんですよ!?」

「そうか? あたしならここで殺して、森にも行って皆殺しにするぞ?」


 せっかく僕が論理的に説明してあげたのに、ハニエルは惚れ惚れするくらいの青臭い理想論を口にして、背後の殺人鬼は実に欲張りさんな答えを口にする。それはちょっと斜め上の回答ですね……。


「り、リア……助けて……!」

「ごめんねー、ミニスちゃん。リアはご主人様の奴隷だから、ご主人様には逆らえないんだー」

「そ、そんな……やだ、誰か助けて……!」


 必死の表情でリアに助けを求めるミニスだけど、あっさりその求めを断られる。

 まあリアは一見純真なメスガキに見えても、中身は復讐まっしぐらの極まった子だからね。その復讐を手伝ってくれる僕の命令に背いたりはしないでしょ。


「さぁ、命令だ。選べ、ハニエル」


 そうして僕は契約魔術を用いた命令をハニエルに下す。

 これでハニエルはもう逃げられない。ミニスを殺すか、それとも顔も知らない複数の魔獣族を殺すか。理想論者の選択、とっても楽しみだなぁ!


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