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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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応戦

「では始めようか。私が合わせるから好きに動きたまえ。どうせ君のような輩に協調を求めても無駄でしかないからね」

「異常者の扱いに慣れてるねぇ。さすがはあたしたちのおふくろ」

「やめてくれ。その呼称が一生ついて回るのだと考えると、早々に次の人生に行きたくなってくる……」


 お互いに武器を構えつつ、四人の獣人たちを前に軽口をたたき合うレーンとキラ。

 とっても仲が良くて何よりだけど、明らかに二人して僕を乏しめてるね。とりあえずレーンは次の人生行ったとしても逃がさん。必ず探し出してやるからなぁ? 

 あ、ちなみに僕は消失(バニッシュ)かけたまま座って見学してるよ。二人がどんな風に戦うのか興味あるしね。

 えっ、二人がピンチになったら助けて好感度を稼ぐ気だろうって? そんな恐ろしくてあざとい真似するわけないじゃないか。そもそも二人には僕が防御魔法張ってあるから、どう頑張ってもピンチにはならんだろうし。防御魔法を解除すれば多少はピンチになる確率があるだろうけど、それで助けてもむしろ好感度下がりそうじゃん? ここは大人しく見学に徹するよ。


「ははっ。殺して欲しいなら言ってくれればいつでもあたしが殺ってやるよ。それじゃあ――行くぜぇ!」


 両手に鋭い鉤爪を携えたキラが、相変わらずの素早さと意味不明な体幹で一気に駆ける。

 百歩譲って体幹は良いとして、何で動きにくそうな編み上げブーツなんか履いてあの速度を出せるのか謎だ。でも食い込みがエロいからもうどうでもいいや。うん。


「彼女はできる限り傷つけるな! 魔法で操られているだけだ! そこの女を狙え!」


 過激派でも同族は大事みたいで、獣人のイケメン野郎は仲間たちにそんな命令を下す。

 当然狙われるのはご主人様だと思われてるレーンさん。四人の獣人がそれぞれ武器を手に、キラを避けるようにレーンへ向かって駆け出そうとして――


「ぎゃっ!?」

「いっ……!?」

「うあっ!?」

「お前たちどうし――ぐあっ!?」


 全員が一斉に悲鳴を上げて、何故か武器を手放した。

 皆一斉に静電気でも起こしたのかな? とか思ってたら事実はもっと酷かったよ。何せ柄とかの武器の持ち手にあたる部分に、それはもう鋭い棘が幾つもできてたからね。棘の大半が赤く染まってるのはアレで貫かれたからか。そりゃあんなもん持ってられんわ。

 元からあんなM向けのデザインの武器じゃないだろうし、やっぱりアレは誰かが魔法で干渉して形を変えた結果なんだろうね。あんな性格の悪い真似をする奴は一体誰だろうなぁ?


「うわっ、えげつねぇな……」

「対策をしていない方が悪い。戦争中はこの程度は挨拶代わりだよ。しかし自らの武器への魔法に対する防御策すら講じていないあたり、彼らは正規兵ではないようだね。聖人族への憎しみが抑えきれなくなった一般市民というところかな?」

「正規兵だろうが一般市民だろうが、あたしには何も関係ねぇな。つーわけでまずは一人だ」

「あっ――」


 そう言って、キラは痛みと衝撃から立ち直ってない野郎の一人の首を一息に刎ね飛ばした。ケモ耳付きの頭がぽーんと宙を舞い、尾を引く赤い血を月の光に煌めかせる。

 うん、実に幻想的な光景だね! 野郎のは汚いだけかと思ってたけど、月の光のおかげでなかなか絵になる光景だよ! 胴体の方も噴水みたいになってていい感じに美しいよ!

 え? 精神状態おかしいって? 大丈夫、僕にとっては狂ってるのが普通だから! 


「ルドウィン!! お前っ、よくもぉぉぉぉっ!」

「何故怒りを私に向けるんだ。彼女を殺したのは私ではないんだが……」


 仲間を殺されてブチ切れた獣人たちが狙うのは、殺したキラじゃなくて何もしてないレーン。

 さすがに僕も怒りの矛先が見当違いの方向に向いてるのは分かるよ。レーン本人もただただ困惑していらっしゃる。


「同族をあんな風に惨たらしく殺すわけがない! お前が命令したに決まってる!」

「武器なんか無くても、人間一人殺すくらいわけはない! 俺たち魔獣族を舐めるなよ!」

「ルドウィンの仇を取ってやる! くたばれ、人間!」


 そうして棘で穴だらけになった手をイケメン獣人が治癒魔法で癒してから、残った三人の獣人が怒りと殺意を撒き散らしながらレーンに向けて走り出す。

 でも完全にとばっちりというか、見当違いなんだよなぁ。そもそもキラのご主人様は僕だし、大体キラは命令なんかしなくても息をするように人を殺すし……。


「助けはいるかー?」

「いや、この程度の相手なら必要は無いよ。練度もたかが知れている」


 迫る獣人たちを前にして、レーンは余裕の雰囲気。何せ杖を手にしてるけど構えてはいないからね。石突きの部分を地面につけた状態で持ってるだけだし。さてさて、一体どんな風に対処するのかな?


「ぎゃあぁぁああぁぁぁっ!?」

「あああぁぁあぁぁぁぁあっ!?」


 なんて風に僕が期待に胸を躍らせてたら、三人の中で先行してた二人の獣人が突然悲鳴を上げて転げまわった。そしてのたうち回りながら必死に靴を脱ごうと――ってまたやりやがったな、この女……。


「先の一幕で学習したまえよ。身に着けている物を全て脱ぎ去れとは言わないが、せめて魔力を通して他者の魔法の干渉を受けにくくするべきだろう?」

「ごはっ!?」

「が……!」


 そして説教なのか助言なのか分からないことを口にしつつ、地面から土の槍を生やして二人の胸を貫く。

 幾ら人間より丈夫で身体能力が高くても、胸に風穴開けられたらさすがに耐えられないみたいだね。二人の獣人は血を吐いてすぐに死んだよ。

 ていうか僕との決闘の時と同じく、一歩も動かずに終わらせましたね。何なの? 動くのが面倒なの? 固定砲台か何かなの?


「ば、馬鹿な! 我ら気高き魔獣族が、こんな人間の小娘に敗北するだと!?」

「気高さと強さは比例するわけではないと思うよ? むしろ種族の持つ高い能力に驕って修練を怠っていれば、敗北するのも道理だろう?」


 ついに一人になってショックを隠せないイケメン獣人に対して、淡々と指摘してくレーン。

 何だろうな、この指摘は僕にも通じるところがあると思う。やっぱり女神様から貰った力で満足せず、もっと修行やら何やらをした方がいいのかなぁ……。


「だ、黙れっ! 俺たち魔獣族は最強だ! 貴様らのようなひ弱で劣った聖人族に負けることなんてありえ――がはっ!?」


 凄い小物臭い事言い出したイケメン獣人が、突如血を吐いて地面に倒れ伏す。

 いやまあ、僕が後ろからグサッとやっただけなんだけどね? もうコイツしかいないからこれ以上見てても面白いものは見られそうにないし、何より小物臭い発言を聞いてても楽しくないしね。そういう演技ならともかく。


「お、何だ? いきなり血ぃ吐いたぞ」

「君の仕業で無いなら、たぶん彼の仕業だろう。どうせそこにいるんだろう? 姿を現したらどうだい?」

「あ、バレた?」


 言い当てられたから消失(バニッシュ)を解除して、望み通り姿を現す。

 レーンは特に驚きの表情は見せなかったけど、キラは突然現れた僕の姿にギョッとしてたよ。どうせなら息がかかるくらい目の前で姿を現すべきだったかな?


「……いつのまに来やがったんだ、お前? 気配なんて全然感じなかったぞ」

「そこは魔法でちょちょいと。で、こいつら一体何か分かる?」

「ここはもう国境にほど近い場所だ。一見平和に見えてもその実紛争地帯なのさ。ならば敵国の兵士が潜んで破壊活動を行っていても不思議ではないだろう? 尤も彼らは一般市民のようだが」

「あー、そういうアレか……」


 最後にあった大きな戦いは四百年くらい前だったかな? 平穏が続いてると言えなくもないけど、それって実際には裏で色々工作してるってことだろうしなぁ。戦力の増強然り、秘密兵器の製作然り。

 となると国境に近づくにつれて襲われる頻度も増えるかもしれないのか。面倒くさいなぁ。


「……ところで、リアとハニエルは?」

「あの天使は知らね。リアならテントの中でまだ寝てるぜ。アイツ敵襲の知らせが大声で届いたってのに全然起きなかったからな」

「呑気な奴だなぁ……まあいいや。じゃあ僕はハニエルを探しに行って来ようっと。あっ、その前に死体を貰ってくね?」


 いつか使うかもしれないし、貰えるものは貰っておこう。一応ゾンビ兵を創る方法も幾つか思いついたしね。それが本当に可能かどうか、実験のためにも検体が必要でしょ?


「あっ、待てよ! 目玉はあたしのもんだぞ!」

「君らも大概呑気だと思うが……まあ、これは呑気というよりもっと別のおぞましい何かだね……」


 死体の所有権を巡って争う僕とキラに疲れた表情をしつつ、ため息を零すレーン。

 何か苦労人っぽい反応してるけどお前も人のこと言えないからね? 武器の持ち手に棘を生やしたり、靴の内側に棘を生やすとかまともな人は誰もやらんぞ?


「では私たちは他の人々の救援に回るとしよう。リアに関しては君の防御魔法がかかっているし、彼女も魔獣族だから身の危険は無いだろう。ゆっくり寝かせてやろうじゃないか」

「お前リアには優しいよね。僕にもその優しさをちょっとでいいから分けてくれたりしない?」

「君の奴隷となる契約を受け入れ、あまつさえ嫌らしい触れ合いを許容している時点で、十分優しく寛大に接していると思うが?」

「そういやそうですね。今更なこと聞きました」


 よくよく考えたら引っ叩かれても文句言えないことやってたね。

 しかもレーンは僕のために魔術書を探して、街を一日中歩き回ってくれたこともあるし。むしろ色々エッチな行為をした割にはかなり好意的に接してくれてるんじゃない? 何だお前、心が広すぎるだろ。やっぱママでは?


「じゃあ僕はハニエル探しに行ってくるね。そこの殺人鬼が公衆の面前で人の目玉抉り出さないように警戒よろしく」

「ちくしょう、あたしの目玉……!」

「私にはとても荷が重い気がするが、できる限り努力はしよう」


 僕に恨めしい目を向けてくるキラを引き連れて、レーンは未だ戦闘中の冒険者たちがいる場所へと駆けて行った。キラが可哀そうだから後で目玉だけはプレゼントしてやろうかな。『代わりにお前の目玉を寄越せ!』って襲いかかってきても困るし。

 ともかく二人と別れた僕は、今度は魔法でハニエルの位置を調べてそっちの方向へと向かった。まだ生きてるかどうかは知らんけど、特に動いてはないみたいだね。さーて、ハニエルは戦ってるのか、それとも補助と回復の後方支援に徹してるのか……。


「――武器を捨てろ! この天使がどうなっても良いのか!?」

「うっ、うぅ……!」


 答えはどっちでもなかった。獣人に羽交い絞めにされつつ、短剣を首筋に突きつけられてまさかの人質になってたよ。

 お前さぁ、世界平和を目指すならもうちょっとやる気をさぁ……。



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