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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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敵襲

「敵襲だああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! みんな起きろおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「あぁん? 敵襲ぅ……?」


 ドゥーベを出て三日目の夜営中、ぐっすりと寝てた僕はそんなやかましい声で夢の世界から叩き起こされた。

 せっかく可愛い女の子とエッチなことする夢を見てたのに! 起こしやがった奴は絶対許さん! 四肢を切り落としてそれを穴という穴に突っ込んでやる!


「そんな馬鹿なことあるはずないだろ、ふざけやが――って、誰だお前!?」


 眠気に瞼を擦りつつ目を開けると、見知らぬケモ耳の女の子が僕の身体に跨ってる姿が目に映って腰を抜かしかけたよ。夢の光景がまだ網膜に焼き付いてるのかと思ったけど、その子が短剣を振り被ったからたぶん違うと思う。

 あー、敵襲ってそっちかぁ。確かに僕が張った結界は魔物用だったから、魔獣族は素通りしてもおかしくないわな。


「……死ねっ!」


 襲撃者は冷たい目をして短剣を振り下ろしてくる。

 狙いは首筋。腹に跨られてるから逃げられない。残念、勇者の冒険はここで終わってしまった!

 

「――っ!?」


 なんてことには当然ならない。僕の首筋に短剣が触れた途端――ガキィン! ご立派な短剣は半ばからへし折れてどっか飛んでった。僕には完璧な防御魔法があるから、たかが短剣の一撃じゃ掠り傷一つ負わないよ。

 いや、やっぱり完璧だって過信するのは良くないよね。今さっき野営中に張ってる結界の不備が明らかになったわけだし、初めは武装術が効果範囲外になってたし。それに大丈夫だって思ってても結構怖くて鳥肌立ったし、次からは無防備に受けるの止めようかな……。


「う、嘘っ、何で剣が……!?」


 あー、でも自信満々に仕掛けてきた女の子が、こんな風に動揺しておろおろする可愛い姿が見られるならやる価値はあるか。きっと立派なケモ耳も可愛い尻尾も逆立ってるんだろうなぁ。灯りのないテントの中じゃ何の獣人かはよくわかんないけどさ。


「僕を殺そうとしたってことは敵って認識でいいんだよね? 殺してもいいけど状況がまだよく分からないから、とりあえず眠ってね――睡眠(スリープ)

「あ、ぅ……!」


 強制的に眠りに落とす魔法を使って、襲撃者の獣っ娘の意識を落とす。

 僕に跨った状態で意識を失ったから、まるで別の意味で僕に襲い掛かるかのように覆い被さってきたよ。緊急事態だっていうのにムラムラしちゃうなぁ、もうっ!


「全く、盛りのついた雄のテントに夜這いをかけるなんて感心しないなぁ? お仕置きとして凌辱の限りを尽くしてやりたいところだけど、運が良かったね。僕の初めてを捧げる相手は君じゃないのさ」


 まあ幾ら僕でも優先順位くらいはしっかりつけられる。そして今は見知らぬ獣っ娘に構ってる暇はない。

 そんなわけで、ぐったりしてる獣っ娘を脇に蹴り飛ばしてさっと立ち上がった。耳と尻尾をモフりたくて堪らんかったがな!


「おい、クルス! 平気か!? そいつは殺したのか!?」


 この時点でやっとクラウンも目を覚ましたみたいで、起き上がって狭いテントの中で馬鹿でかい斧を異空間から取り出してた。

 ていうかお前も気づくの遅いよ。先に襲われたのが僕じゃなかったら死んでたよ?


「いや、まだ。眠らせただけだよ」

「そうか。ならトドメ刺しとくか」

「いやいや、ちょっと待って待って」


 獣っ娘にまだ息があることに気付くなり、いきなり首を刎ねようとしたからさすがに止めたよ。

 こんなとこで斬首なんてしたら血飛沫でとんでもないことになるだろ。せめてテントの外でやって。


「外の状況が分かんないから、殺すのはまだ駄目だよ。もしかしたら襲撃者に対する人質とかに使えるかもだし。別に殺すのはいつでもできる状態だから問題ないでしょ?」

「んー……そうだな。逃げたり抵抗したりできなけりゃ問題ねぇよ。大丈夫そうなら外に行こうぜ。せっかく向こうから俺たちのとこに来てくれたんだ。精々派手に歓迎してやろうぜ?」


 そう言って、むさ苦しい顔にむさ苦しい笑顔を浮かべてウッキウキのクラウン。魔獣族を殺せるのが嬉しくて堪らんみたいですね。理解に苦しむわぁ……。


「悪いけど、僕は先にレーンたちの安否を確認しに行くよ。心配で心配でいても立っても居られなくてね。だからゴミ掃除はお前に任せた」

「ちっ、そういうことなら仕方ねぇな。早く来ねぇと俺が全部狩っちまうからな!」


 脳筋で魔獣族に対する殺意マックスなクラウンは、それだけ言い残してテントの外へ駆けて行った。扱いやすいのは良いとしてもやっぱむさ苦しくて嫌だな。 


「さて、と。無事なのは分かってるけどぼちぼち探しに行こうかな。消失(バニッシュ)


 さっきから外で剣戟の音だの爆発音だの悲鳴だの聞こえてるし、巻き込まれるのが嫌だからいつもの隠密行動専用の魔法を使って外に出る。

 外は予想通り、殺し合いの真っ只中だったよ。そりゃ聖人族を敵視する魔獣族が攻めてきて、魔獣族を敵視する聖人族が応戦するんだから、子供の喧嘩とか兵士の模擬戦闘レベルとかで済むわけがないわな。


「おらああぁぁぁぁぁぁぁっ! パワー・スラアアァァァァッシュ!!」


 一番近くでやりあってるのは当然ながらクラウン。振り上げた馬鹿でかい斧を勢いよく振り下ろしたと思えば、地面にぶつかった瞬間とんでもない破壊が撒き散らされたよ。五十センチくらいの深さのクレーターできてるし。

 ただまあ、威力は凄いんだけど動作が遅すぎて全然当たってないんだよね。やっぱ脳筋だわ、アイツ。


「くっ、人間風情がぁ……!」

「皆で囲め! 細切れにしてやれ!」


 そんなクラウンに対するは、やっぱり頭にケモ耳生やした男女達。三人くらいでクラウンを囲んでじりじりと距離を測ってるけど、破壊力を目の当たりにしてちょっと及び腰だね。何なら足が震えてる奴もいるし。

 まあクラウンの勝負の行く末なんて毛ほども興味ないし、さっさとレーンたちを探そう。テント自体はすぐ隣とはいえ、まさかこの緊急事態に呑気にテントの中にいるわけもないしね。適当に歩いて戦闘を眺めつつ探そうっと。


「くそっ、畜生の分際でちょこまかと! アロー・レイン!」


 途中で見つけたのは馬車に乗ってた他の冒険者の戦い。弓を持った男が矢筒から三本くらい同時に矢を取り出して天に向かって放つと、それが五倍くらいの本数になって勢いよく降ってきた。

 矢は三本だけちゃんとした実体があるみたいだから、矢を分身させたとかじゃなくて魔力そのもので創った矢を加えた感じなのかな?


「はっ! その畜生に矢の一本も当てられねぇお前は何なんだよ!? そらっ、お返しだ!」

「ぐうっ!?」


 ただ身体能力の高い獣人にとっては単なる手品か何かだったみたいで、犬耳の野郎にあっさり矢の雨を避けられた上で、苦無みたいな投具で攻撃を受けてる。

 すっごい回転がかけられた上に高速で飛ぶ苦無は正に銃弾みたいだね。弓の人、避けるのに失敗して右肩貫通されてるし。


「風の刃よ、我が敵を切り刻め! エア・カッター!」

「今のが魔法? 魔法ってのはこうやるのよ――ブレイド・ストーム!」

「きゃあぁぁああぁぁぁぁっ!!?」


 別の場所で繰り広げられてたのは魔法戦。詠唱ありで一発の風の刃を飛ばした獣っ娘に対して、人間の女魔術師が詠唱無しで無数の風の刃を飛ばして、打ち消しつつ押し返して獣人を切り刻んでた。服がボロボロになってエロい!

 でもこの勝敗に関しては単なる個々人の想像力の違いじゃないかなぁ。獣人の方は詠唱してイメージを補完しないと駄目だったみたいだしね。基本は身体能力の獣人、想像力の人間ってとこなのかな? 


「何かみんな盛り上がってるなぁ。ちょっと楽しそう……」


 周りで繰り広げられる血沸き肉躍る戦いを眺めてると、戦ってる人たちがちょっと羨ましくなってくる。僕は防御魔法張ってるからあんな風に生死をかけた極限の戦いにはならないしね。かといって極限のスリルを味わうために防御魔法を解除しようとは思わないし。

 でも一回くらい、マジに生死をかけた極限の緊張感に溢れた殺し合いをしてみたいかも。僕も男の子だからそういうのに興味がないわけじゃないし。


「お、いたいた。ちょうど始まるところかな? しかし何だってこんな遠く離れた所でやりあおうとしてるんだ、コイツら……」


 若干バトルジャンキーなことを考えつつ歩いてると、野営地の外周から更に離れた所にレーンとキラを見つけた。

 二人の前には四人の獣人の野郎たちが、今にも襲い掛からんばかりにピリピリとした様子で立ってる。女の子二人に男四人で一体何をするつもりなんですかね? 言っとくけどコイツらの初めては僕のモノだからね?

 というかリアとハニエルの姿がないぞ。まさかもうやられちゃったの?


「……お前は何故そいつらと行動を共にしている? 隠していても匂いで分かるぞ、俺たちの同胞だろう?」


 四人の中のリーダーと思しき、犬耳のイケメン野郎がキラに対してセクハラ染みた言葉を投げかける。どんな匂いなのかその辺もうちょっと詳しく教えて欲しいな?


「やっぱ分かっちまうか。ったく、鼻が良い奴はこれだから困るぜ……」

「やはり他の人々から離れて正解だったか。万が一君の正体を聖人族に聞かれてしまっていたら、口封じの必要が出てくるところだったからね」


 面倒くさそうに頭を掻くキラと、どこかホッとした様子のレーン。

 なるほど。キラの正体が魔獣族だってことが、馬車の乗客たちにバレないよう配慮したわけだな。そりゃ向こうさんが黙っててくれるとは限らないしね。


「それの何が問題なんだ? 口封じならあたしは喜んでやってやるぞ?」

「無駄なやり取りになりそうだから答えはしないよ。それより、彼らは君との対話を求めているようだが?」

「はあ? やだよ、アイツら。話通じねぇもん」


 おっと。せっかくの同胞との出会いなのに、キラはまさかの対話拒否だ。

 でも何となく気持ちは分かる。僕らみたいな頭のネジの外れた奴と普通の人って、絶対価値観とか諸々違うしね。ましてやキラは敵種族に対する敵意は持ってないのに、襲撃者は夜襲をかけてくるくらいに憎悪に塗れてる。これで話が通じるわけがないでしょ。どっちも異常とはいえベクトルが違う。


「そうか、分かったぞ! そこの女に契約魔術で縛られているんだな! 待っていろ、今俺たちが聖人族の穢れた魔の手から解放してやる!」

「ほらな? 勝手に自己完結してるだろ?」


 キラの言い分は一切聞こうともせず、契約で縛られてると決めつけて武器を構える獣人たち。

 絶対これキラが自分の意志でここにいるとは欠片も考えちゃいないね。キラの疲れた感じの表情も納得だよ。


「しかし施術者は私ではないとはいえ、契約で縛られているという点は正解だろう? それから穢れた魔の手という部分もあながち間違ってはいないんじゃないかい?」

「ははっ。確かにその通りだな」


 おっと? 何か罵られた気がするぞ? 言っとくけど僕、手はちゃんと洗ってるからね?

 というかコイツら、殺気立った人たちを前にしてるのに全然危機感ないな。ほんわかする会話しやがって。僕が防御魔法かけてるから安全とはいえ、もうちょっと焦った顔とか怖がる顔とか見せて僕を楽しませてくれても良いんじゃない?


「まあ何にせよ、降りかかる火の粉は払うまでだ。君たちに恨みは無いが、私は立ち止まることなどできないんだ。許せとは言わない、あの世で存分に私を恨むと良い」

「あたしも恨みなんてねぇけど、あたしのご主人様は邪魔する者は全て殺せって性質だからな。それに、久々に同族を殺せるチャンスだ。こんなおいしい機会を逃すわけねぇだろ?」


 そんな風に思ってる僕に二人が見せてくれたのは、全てが凍り付きそうな冷たい瞳と、狂気と歓喜に満ちた心底ヤベー瞳。これ僕が望んだのとは百八十度どころか、五百四十度くらい違うんじゃない?

 あー、でもこんなゾクゾクする目ができるコイツらが愛しくて堪らん。やっぱ僕、性癖が捻じ曲がってるのかなぁ……?





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