改めて自己紹介
「さて、そんなわけで新たな仲間が加わりました。じゃあ改めて自己紹介よろしくー」
「あたしはキラ。連続殺人鬼の猫人族。特技は殺し、趣味も殺し。最近は抉り出して瓶詰めにした目玉を眺める事が日課だな。改めてよろしくな、お前ら」
夜営の時の見張りの時間。ちょうどいいタイミングだったから真の仲間同士の顔合わせをすることにした。
かと思ったらキラのこのとんでもねー自己紹介である。でも何一つ嘘を言ってないから困るんだよなぁ。レーンでさえ眉を顰めてるし、リアに至っては恐怖に顔を歪めて尻尾をピンと立ててるよ。
「うわーん! カルナちゃん、この人怖いよー!」
「よしよし、落ち着きたまえ。仲間に加わったということは、彼女も私たちと同じく契約で縛られているはずだ。みだりに私たちを傷つけることはできないさ」
「何で仲間イコール契約で縛ってるっていう発想が出てくるのかなぁ。いや、その通りなんだけどさ……」
泣きながらレーンに抱き着くリアと、そんなリアを抱きとめて優しく頭を撫でながら、僕を乏しめる発言を零すレーンママ。
あ、ちなみに今この場は女子用テントの中だよ。女の子たちの良い匂いがして堪んないね。
ハニエルがいないのは火の番と見張りについてるから。今回は僕ら以外に冒険者のパーティも馬車に乗ってたから、その人たちから一人とこっちから一人っていうメンバーで見張りをやってるんだ。
まあぶっちゃけ魔物が寄り付かないように僕が結界を張ってるから、完全に意味のない警戒なんだけどね。いや、火の番だけは意味あるか。
え、クラウン? アイツならまた眠らせといたよ。起きてると筋トレしてて見苦しいしうるさかったし。
「私はレーンカルナ。世界の平和のため、この下劣畜生の奴隷となった哀れな魔術師さ」
「リアはフェリア! リアを苛めて苦しめたサキュバスたちに復讐する力を手に入れるために、頭のおかしいご主人様の奴隷になったサキュバスだよ!」
「何でお前らいちいち自己紹介で僕を乏しめるの? お約束か何かなの?」
文句を言っても良いんだろうけど、本音を言うと否定できないのが悲しいところだよね。自分の破綻ぶりは自分でもよく分かってるし。まあコイツらにだけはとやかく言われたくないがな!
「一つ聞いても良いだろうか。君は先ほど、自分が連続殺人鬼であり、瓶詰めの目玉を眺めるのが日課と言っていたね。もしや君が巷を騒がせているブラインドネスなのかな?」
「……その名前は嫌いだ」
レーンの質問に対して、心底嫌そうな顔をするキラ。
まあ連続殺人鬼の名称なんて基本的には自分で付けるものじゃないしね。気に入らない感じになる時は普通にありそう。
でも本当に嫌なら、改名を求める内容の手紙を新聞社とかに送れば良いんじゃないかな? 抉り出した目玉を添えてさ。それをしないってことは、実はそこまで気に入らないわけじゃないのかもね。あるいは目玉を手放すのが嫌なだけかもしれんが。
「へー! あなたがあのブラインドネスって呼ばれてる人なんだ! びっくりー!」
「……何かこのガキ、いつもと違わねぇ? 前はもっとこう、大人しくなかったか?」
「あれは演技だよ。真の仲間しかいない場所ならともかく、聖人族の国で生意気な奴隷とかいたら袋叩きにされかねないしね」
キラはおどおどしたリアの姿しか知らなかったからか、首を傾げてリアをじっと眺めてる。何か獲物を品定めするような目に見えるのは気のせいだよね? リアがすっごい怯えてるよ?
「えっと……気に入らないなら、大人しくするよ……?」
「いや、別に構わねぇよ。あたしたちはこの人間の屑の奴隷仲間なんだし、遠慮なんてすることねぇだろ?」
「お前もわざわざ僕を乏しめなくていいから。ていうかお前にだけは人間の屑とか言われたくないんですが……」
僕はまだそんなに人を殺してないし、まだ女の子の尊厳を踏みにじったりもしてない清廉潔白な人間だ。それなのに五百人以上も人を殺して目玉を抉ってきた真正の屑に、人間の屑呼ばわりはされたくないよ。
え? 五十歩百歩? うるせぇ、目玉をくりぬくぞ!
「そっか! 分かった! じゃあこれからよろしくね、えーっと……キラちゃん!」
「キラちゃん……」
とりあえず安心したみたいで、可愛い笑顔に戻るリア。
キラはちゃん付けで呼ばれてちょっと困惑気味の顔してるよ。幼女にそんな風に呼ばれたら気持ちは分からないでもないけどさ。
「別に不満があるわけではないが、君は年上をちゃん付けで呼ぶ癖でもあるのかな? ハニエルは呼び捨てだった気がするが……」
「んー? 二人ともリアより年上なの? リアは二十歳だよ?」
「あ? マジかよ?」
「それは初耳だね……」
実は幼女が自分より年上だということを知って、驚きの声を零すキラちゃんとカルナちゃん。
前世とか入れると一部ややこしい人がいるからそこは無視するけど、少なくとも今世でこの場においてはリアが一番の年長者なんだよなぁ。
まあ一番の年長者は今見張りをしてるであろうハニエルおばさんだがな!
「見た目幼女だから勘違いするのも仕方ないよね。で、それはそうと……キラさん、一ついい?」
「あ? 何だよ?」
「何かこう、僕との距離が妙に近くない? 仲間とか友達とかそういうレベルの距離じゃないと思うんですが?」
ここはテントの中。そして僕らは輪になるようにして集まってお話をしてる。だからお互いに近い位置にいるのもおかしくはない。
でもキラと僕の距離がさっきから、ていうか自己紹介を始めた時からおかしいんだよね。だってコイツ、ずっと僕の背中から抱き着くようにくっついてるんだもん。控えめなお胸の柔らかさが背中に感じられるせいで、テントの中でテント張りそうだよ。
まあたまーにキラの手が僕の目蓋とかを愛おしそうに撫でるせいで縮み上がっちゃってるから、その心配はなさそうだけどさ。いきなり目玉に指突っ込んできそうで怖いんですよ、コイツ……。
「それは私も思っていたね。まるで恋人同士のように触れ合っているじゃないか。まさか君たちはすでにそういう仲なのかい?」
「そういう仲……はっ!? エッチ!? エッチな関係!?」
「そりゃ一緒にシャワーは浴びたけど、そういうのはまだ……のはずなんだよねぇ……」
確かにシャワーの最中に好き放題身体とか猫耳とかを触りまくったことは否定しないよ? でもそれだけで、それより先に進んだことはまだしてない。
何なら一緒にお風呂とかシャワーで触りまくったのはレーンもリアも同じだし、キラだけこんな風になる理由もないはずなんだよなぁ。
あっ、一人でテンション上げて興味津々なリアは無視します。
「何だ? お前、あたしみたいなのにくっつかれるのは嫌いなのか?」
「そんなことありません、大好きです」
「じゃあ何だって良いだろ? 細かい事気にすんなよ、クルス?」
「うぐうっ!?」
そしてついに僕の目玉が抉られ――たわけじゃなくて、今度はすりすりと頬ずりされた。
でもこれ絶対頬ずりじゃないよ。こんな押し付けて抉りこむような頭突き染みた頬ずり、僕は知らない。
「ちょ、や、やめろ! 頭突きみたいに頬ずりしてくるのをやめろ!」
「固いこと言うなって。あたしとお前の仲じゃねぇか。一緒に夜の街を駆けまわって、手当たり次第に獲物を狩りまくって楽しんだだろ?」
「ドゥーベで一体何をやっていたんだ、君たちは……」
「夜の街……獲物……狩る……はっ!? エッチなこと!?」
へらへら笑いながら、変わらず頭突きとしか思えない頬ずりをしてくるキラ。良い匂いがするし髪の毛が凄いふかふかで感触自体は気持ち良いんだけどなぁ。
あっ、呆れ果ててる感じのレーンと変わらずテンション上げてるリアは無視。というかリア、もしかして発情してるんじゃないですかね? そろそろエッチ成分補給しないと駄目っていう危険信号かな?
「あっ、そういえば狩りで思い出した。はいこれ、プレゼント」
ふと思い出して、異空間からキラへのプレゼントを取り出して手渡す。
もちろんそれは眼球の瓶詰めっていう色気もへったくれも無いおぞましい代物だ。心なしかホルマリンの中に浮かんだ眼球が恨めしそうにこっちを見てる気がするぞ。正直僕でさえどこが良いのかはよく分かんないな、これ。
「きゃーっ!! なにそれー!?」
「いきなりそんなものを出さないでくれるかな。多少感情が擦り切れた私でも直視したくないものは存在するんだよ?」
そして僕でさえ理解できないものが、他の二人に理解できるわけがなかった。リアは悲鳴を上げて顔を両手で覆うし、レーンでさえちょっと強めに抗議してくる。もうキラに渡しちゃったからできないけど、眼球の瓶詰め近づけて追い回したらどんな反応するか気になる……気にならない?
「おっ、気が利くじゃねぇか! なんだよお前、こんなもんプレゼントしてくれるとかあたしのこと好きすぎるだろ?」
「うん、まあ、確かに好きと言えば好きなんだけど、こういう反応されると認めたくなくなる自分がいるね」
僕からのおぞましすぎるプレゼントに、珍しく嬉しそうな笑顔を浮かべてはしゃぐキラ。そしてまたしてもひっついてくる。
確かに見た目も好みだし、突き抜けた精神性も大いに好みだよ? でも女の子の方から積極的に寄ってくるのはあんまり好みじゃないんだよね。たぶん元いた世界でもそういう女の子がたまにいたからだと思う。そういうのに限って、僕の本性をちょっとでも匂わせると顔を青くして逃げて行ったし、積極的に迫ってくる女の子に良い思い出が無いんだよねぇ……。
「あぁ? 何だよ、照れてんのか? 正直にあたしのことが欲しいって言えよ? なぁ?」
「ぶふっ!? だから頭突きをやめろ……!」
でもコイツの場合、僕の本性を知った上でこの行動だからあんまり邪険にしたくないんだよなぁ。
ただ好かれてる理由が『自分の望む至高の殺人方法』を実現できるから、とかいうこれまた色気も何も無い理由なのが悲しい。あとやたら頭突きしてくるのがすっごい疑問。本当何なんだ一体。頬ずりってもっとこう、可愛いもんじゃないの?
「……そういえばキラの種族は猫人族と言っていたね。もしやそれは君が自分のものであると主張するためのマーキングではないのかな? 意図はどうあれ、君は彼女に気に入られているんだろう。おめでとう、クルス。両思いだね」
「毛ほども嬉しくないのは何でだろうなぁ……」
マーキングねぇ。レーンの言葉でキラのこの行動の意味が理解できたけど、気に入られてる理由がアレだから全然喜べないわ。僕が目指す誠実な関係と全然違うぞ、全く……。
まあ快楽殺人鬼のサイコパスに人並みの愛情とか情動は期待してないから、キラに関してはこんなもんでいいかな。愛の形は人それぞれで、僕は理解があるタイプだからね!