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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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理想郷

 別大陸に邪神教団の信徒たちを連れて来てから、およそ一ヵ月が経過した。

 最初に最低限森を切り開き均した地面と、最低限の住居を用意してあげたけど、村――今更だけどこれ村かな? 村で良いか。ともかく、村はあんまり発展して無い。いや、一ヵ月しか経ってないから当然か。 

 でもこの村で確実に発展してる事がある。それは住人たちの人間関係だ。

 

「おーい、狩りに出かけるけど一緒に行く奴いるかー?」

「お、じゃあ俺も行くぜ。ひ弱な聖人族に任せてたら日が暮れちまうからな」

「抜かせ、この野郎。そっちこそ良い感じの木があったからってマーキングとかするんじゃねぇぞ?」


 聖人族の元冒険者が、魔獣族の元冒険者と共に狩りに出かける。まるで同族の男と駄弁るような下品なジョークを交え、お互いに笑いながら。

 こんなのあっちの大陸では早々見られない光景だ。万一似たような場面があっても、次の瞬間に殺し合いが始まってもおかしくない。

 そして村のとある民家の中では、聖人族と魔獣族が集まって一つのテーブルを囲んでる。テーブルの上にはデカい紙が広げられ、皆がそれと睨み合ってた。隣の敵種族ではなく、目の前の紙とだよ? 信じられる?

 

「お前たちが来る前に俺達が立てていた村の発展計画だ。これを見てお前たちの意見を聞かせてくれ」

「そうだな……建物も大事だけど、とりあえず畑を作らねぇか? 完全に自給自足が出来るようにしようぜ。住居とか最低限は用意して頂いてるし、いつまでも邪神様に頼り切るわけにもいかないからな」

「待って待って。それも大事だけど、魔物の侵入を阻む防壁とかも必要じゃない?」

「もちろんそれも最優先だ。けど範囲が問題なんだよなぁ。邪神様がまた住人を連れて来るかもしれない事を考えると、あまり狭い範囲にすると後々面倒だ」


 しかもそいつらは協力して村の発展計画を練ってる。畜生に頭脳労働は無理とか決めつける事も無く、貧弱な猿には力仕事など無理だと吐き捨てる事も無く。うーん、惚れ惚れするくらいにまともだ。さりげに僕の事も考えてるのポイント高い。


「ちょっと聞いてよ。うちの主人ったら最近物凄くお盛んでさ……」

「あー、私の所もそんな感じだよ。もう発情期の獣みたいなくらいがっついてくるよねぇ?」

「でも気持ちは分かるよねぇ。ここは安全でとっても穏やかで、凄く安心できるからさ。あたしも旦那襲って子供作ろうかな?」

「子供かぁ……そういえばうちの子が妹を欲しがってるんだよねぇ……」


 そして村の広場では奥様方が井戸端会議。井戸はねぇけど。

 この会議の面子も魔獣族、聖人族を問わない。明らかなおばさん聖人族の中に、本当に成人してるかも怪しいくらい小柄で幼い獣人奥さん混じってるのが草生える。それでいて悩みとかは大体同じなのがまた笑えるね? やっぱ男って種族問わずスケベなんすね。


「おにがきたー! みんなにげろー!」

「わー! 待て待てー!」

「鬼さんこちらー! キャー!」


 そして村の広場では子供たちが追いかけっこ。もちろんここにも種族による区別や差別、排斥は無い。種族による身体能力の差はあるけど、まあそれは仕方ない事だ。

 鬼役の獣人の子供が天使や悪魔の子を追いかけ、人族やサキュバスが鬼を挑発……ってよく見るとリアも混じってるじゃんか。適応力が高いというか、全く違和感が無かったぞ。


「すっごい平和だね。まさかこんな穏やかな光景がこの腐った世界で見られるとは思わなかったよ」


 どこを見ても争いが無く、敵種族とも善き隣人として協力し暮らしてる平和な村。女神様が夢に描く理想郷がここにあった。そんなユートピアを前に、僕は思わずそんな感想を零す。

 あの村が今どうなってるか皆で見に行こうぜ! くらいのノリで仲間を引き連れて見に来たらこれだよ。てっきりダークファンタジーみたいな光景が広がってるかと思ってたのに、実際はほのぼの日常系だったからね。予想を良い方向に上回って来たとはいえ、ちょっと肩透かしを食らった気分は否めないな?


「全くだね。村の住人たちが邪神を崇拝する異常者とその家族だとは到底思えないよ」

「何ならこの世界で今一番平和な場所なんじゃないかな? 聖人族と魔獣族があんな当たり前みたいに協力してるなんて、あたしも初めて見たよ」


 レーンもセレスも、村の平和な空気に呆気に取られてる感じだ。

 ハーフ&ハーフの街であるサントゥアリオでも一応協力関係は見られるけど、それは一部の者たちのみ。ここみたいに住民全員が手を取り合い、平和に活動してるなんてありえないからね。 


「これがご主人様が目指す平和な世界の縮図といった所か。確かに信じられないほど穏やかな場所だな? 聖人族も魔獣族も嫌いだが、この村は……とても心地良い」

「だからって元の姿に戻ったりしないでね……?」


 これにはベルもご満悦といった感じに微笑んでる。大体どっちも滅ぼしたいくらいに嫌いなベルも太鼓判を押せるくらいには、この村の空気はとても素晴らしいものなんだろうね。

 しかし住民はほぼ全員が邪神を信仰する異常者たちである。邪教徒たちで築いてる村が世界で一番平和とか笑っちゃうんすよね。


「全てを与えず、ある程度自給自足の生活をさせるのは甘えが出る事を防ぐためか?」

「その通り。人間、与えられることに慣れちゃうと甘えが出てくるからね。最低限の施しはしてるけど、それ以外は全部自分たちでやって貰う事にしてるよ」

「それで自然と協力関係も生まれてくってわけね。人の心が無い癖に操るのは得意よね、コイツ……」


 バールの疑問に答えると、ミニスちゃんから手厳しい罵倒を受ける。

 人の心はちゃんとあるのになぁ? ただちょっと倫理観を母親のお腹の中に置いてきただけで……。

 

「貴様らに命ずる! この我、<雷鳴餓狼>の石像を村の中央に作るが良い! 我が凛々しさと気高さ、そして美しさをしっかり表現するのだぞ! 胸は特盛でお願い!」

「そんなものより、我が主の石像を村の中央に据えると良い感じじゃないか~い? その隣に私の石像があるとなお良いよね~」

「あたしの昼寝に良さげな場所作れ。日が当たる所な」

「りょ、了解です! 最優先で取り掛からせて頂きます!」


 ミニスちゃんの辛辣さに傷ついてると、村の発展計画を話し合ってる家の中から馬鹿共の声が聞こえてくる。中二のアホとクソ犬が無意味な石像の建造を求め、殺人猫が昼寝用の場所の作成を命じ、住民たちは抗えず全部引き受けてらっしゃる。

 そんなん別にやらなくて良いんだけど、すでにコイツらが僕の女(あるいは仲間)って紹介しちゃったしなぁ? 向こうからすれば邪神の寵愛を受けたマジモンの存在だし、そりゃあ下手に出ちゃうのも仕方が無いか。


「頑張ってる人たちの邪魔してんじゃねぇよ、お前ら! ていうか欲望に塗れすぎだろ!」


 とはいえそんな馬鹿共の暴走(平常運転)を、リュウが必死に諫めてる。人形偏愛に覚醒しちゃった事以外は比較的まともな奴だから、どうもツッコミに回る事が多いらしい。さすがは勇者、頼りになるぜ。君にツッコミの勇者の称号をあげよう。武器はハリセンだな。


「何にせよ、この様子なら問題は無さそうかな? むしろうちの屋敷の方が治安とかヤバそうだ」


 これなら保険として大いに期待できるし、面倒な真似をしてまで保護した甲斐があるってもんだ。この世界の人間たちのクズ加減を嫌ってほど知ったおかげで、何かもう感動で目頭が熱くなってくるくらいだよ。これが親心ってやつ?


「……ところで、一つ聞いても良いかい?」

「おん、何?」

「何故彼女をここに連れて来たんだい?」


 なんて僕が感傷に浸ってると、レーンは遂にその疑問を口にした。その胡乱気な瞳はミニスに支えられて立つとある人物――ご立派な白い翼を生やした大天使様に向けられてる。

 これは誰かって? 頭お花畑でおなじみ、皆大好きハニエルだよ! たぶんこの世界で唯一まともと言って良い博愛精神の持ち主だ!


「………………」


 とはいえ今は博愛精神どころか、精神があるかどうかすら怪しい。完全にぶっ壊れちゃってて、目が死んでるもん。ちょっとでも心が残ってたら、この理想郷そのものな光景に何か反応を示しそうなものだけどねぇ? 一体誰がここまでハニエルを壊したんだ……。


「メンタルセラピーみたいな感じかな。聖人族と魔獣族が手を取り合い平和に暮らす村の光景を眺めてたら、そろそろ心が戻らないかなって。同盟会談の時は多少反応してたのになぁ? やっぱりそこからまた壊しちゃったせいかな?」

「君は面白がってかさぶたを幾度も剥がすタイプだね。それはともかく、発想は悪くない。しかし少し見せた程度で精神が回復するほど症状は軽くないだろう。どうしても彼女の心を元に戻したいなら、君が脳や心を弄れば済む話じゃないかい?」

「嫌だ、面倒くさい。戻してもすぐに駄目になりそうだし」


 レーンの提案に僕は即座にそう返す。

 確かに廃人になってるハニエルもやれば戻せるよ? でも原因となる記憶やら何やらを取り除くのはわりと面倒だし、ハニエルの場合それが異様に多すぎる。取り除いても頭お花畑だからすぐに壊れそうだしね。

 心や性格を捻じ曲げれば簡単には壊れなくなるかもしれないけど、それやっちゃったらもうハニエルじゃないしなぁ……僕は公式で貞淑設定なヒロインが、同人で快楽堕ちして淫語連発して乱れまくるのは許せないタイプだ。キャラはちゃんと保って欲しいよね? あ、ヤられまくる展開自体はオッケーです。


「それなら、しばらくこの村に住まわせてみたらどうだい? 心も元通りになるかもしれないし、聖人族と魔獣族が手を取り合い平和に共存する光景を見れば、少しは考え方も変わるかもしれないよ」

「そんな簡単に心変わりしたら苦労しないんだよなぁ。まあナイスアイデアではあるし、しばらくここに住ませてみるか。世話は女連中に任せよう」


 どのみち今のハニエルは何の役にも立ってないし、失敗しても失うものは何も無い。そんなわけで物は試しという事で、ハニエルをこの村で養って貰う事にしました。

 ちなみに世話を女連中に任せるのは、男連中に任せるのはちょっと心配だから。だって今のハニエル完璧に壊れてて、胸を揉んだって何の反応もしないんだもん。健康な男ならそりゃ色々やるでしょ。マグロが好きって奴もいるだろうし。


「僕の偉大さを理解しろとまでは言わないけど、せめて平和の実現には犠牲がつきものだって事は理解して受け入れて欲しいなぁ?」

「彼女の性格や思想を考えるに難しいだろうね……」


 頭お花畑なハニエルは犠牲とか生贄とかを殊更嫌ってる。トロッコ問題でどちらも選ばず、全員を救いたがるような面倒な奴だ。理想のために何かしら行動を起こすならまだ良い。でも実際はお花畑な理想を口にするだけで行動出来ないチキンハート。

 平和が成就した新世界にはこれ以上ないほど相応しい存在だし、新世界で人々を導く役目を任せるつもりなんだけど、それがなかったらゴミ箱にポイしてる所だよ。ぶっちゃけ両種族のお姫様を調教しまくればハニエルは必要無いかなって思ってきてるし。


「ま、すでに壊れてるしこれ以上悪くなりようはない。駄目で元々って感じで、あまり期待せずに待ってみようか」

「酷い言い草だが、それが良いだろう。運が良ければ心を取り戻すくらいの変化はあるかもしれない」


 そんなわけで、ハニエルの面倒を信徒たちに見て貰う事にしました。もうどうでも良いかなってくらい投げやり気味にね。

 これで駄目だったらもうハニエルは廃棄処分かな? まあただ捨てるのは勿体ないし、その時は例えマグロでも最後に一発ヤってから捨てるか。何だかんだ胸デカくて色々楽しめそうだしねぇ。ぐへへ……。


 ちなみにこの時、僕は全く気付いてませんでした。まさかこれが原因でハニエルがあんな事になるなんて……。


 最後に何か凄く不穏な事を言っていますが、これで18章は終了です。果たしてハニエルはどうなるのか……。

 そしてまたいつも通りにしばらく更新停止期間に入ります。再開は……2026年1月1日、つまりは来年ですかね。ただ間にMF文庫J新人賞に応募した作品を投稿するつもりなので、良ければそちらをどうぞ。まあ一次の結果発表が四日後くらいのはずなので、まずはそれの結果待ちです。

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