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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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無人島の村

 ちょっと不安だったけど、劇団邪神教団による演劇は無事成功を収めた。

 思ったよりも多くの兵士や冒険者が現場に駆けつけてくれたし、邪神教団がいかに腐った組織で吐き気がするほど悍ましい真似をしてたかはすぐに世間に広がりそうだ。邪神として世界に向けて忠告もしたし、これでもう邪神を崇めるカルト集団が出来上がる事は早々無いはず。

 劇団のメンバーは快く死すらも演技の一つとして全うしてくれたし(一部例外あり)、これで魔王からの依頼を果たす事も出来た。後始末とかで色々あったけど、事前の仕込みや入念な作戦立案のおかげで問題無し。僕らの冒険者としての評価も上がり、クソ犬のミスもカバー出来て、魔王の依頼を達成したから<救世の剣>(ヴェール・フルカ)の支援もして貰えるし、またしてもニアのファンが増えた。文句無し、百点満点の快挙だ。散って行った教皇たちの命に感謝だね。


「ここは、一体……?」

「ここは君らが住んでる大陸から遠く離れた場所にある別の大陸。君らにはしばらくここで生活して貰うぞ」


 そして諸々の後始末が済んだ数日後、僕は蘇生させた信徒たちを例の無人島に連れてきた。そう、セレスと痴話喧嘩(大災害レベル)した例の別大陸だ。

 何でここに連れて来たのかと言うと、やっぱり今は振るべき仕事が何もないから。かといって元の大陸で生活させるのもちょっと勿体ない気もするし、万が一の事があって手駒が減るのも嫌だから、ここで村でも作って暮らして貰う事にしたんだ。一応他にも理由はあるけどね。

 ちなみに信徒たちの大半は呆然としてます。そりゃあ死を勘定に入れた演技をして貰って、死んだと思ったら蘇生されて、挙句の果てに見知らぬ大陸に連れて来られてここで暮らせって言われたんだ。挙句の果てに吸血鬼は不思議な魔法で太陽を克服させられたし、ちょっと理解が追い付かず思考が停止してると思われる。ロッソだけはわりと早い段階で自分を取り戻した辺り、年の功って感じかな? 聞くところによると結構なお年みたいだし。


「邪神様のお考えに異を唱えるつもりはありませんが、それは一体どのような意図があるのですか?」

「君らみたいに邪神の言う事聞いて、聖人族との平和も素直に受け入れてくれる奴らは物凄い貴重なの。だから保護する必要があるんだよ。仮に世界平和が実現しても、残ってる奴らが数人くらいしかいなかったら意味ないでしょ?」

「……つまり、私たちは邪神様がもたらす新世界に住む事を許された……という事ですか?」

「言い方が邪教染みてるけど、有り体に言えばそうだね」


 コイツらを連れてきた理由の一つが、保険として残しておきたいからってのがある。

 実際の所は万が一あっちの大陸の住民を皆殺しにしちゃっても、蘇生する事は可能だ。だから保険っていうのは、計画が上手く行かず世界平和が実現しない場合のもの。この世界のクズ共が手を取り合い両種族で平和な世界を築く事を拒絶し、また戦争を始めた場合に必要になるわけ。

 だってそうなったら皆殺しにして、コイツらだけで新しい世界を作らせた方が早そうだし確実じゃん? 女神様が怒りそうだから今からそれを実行したりはしないけど、女神様本人が救いようがないと確信してくれたらその限りじゃない。コイツらはそのための保険ってとこ。


「ただここには後々聖人族も連れてくるから、仲良くできない奴は抹殺するんでそこんとこよろしく。品行方正で隣人を愛する素晴らしい日々を過ごしてくれると、邪神はとっても嬉しいな?」


 魔獣族だけの世界じゃ女神様も喜ばないし、ここに聖人族も連れて来て完璧な保険にする予定だ。実は聖人族の国にも邪神を崇める集団があるって情報を掴んだから、そこの信者たちを連れて来ようかなって。『邪教ダメ、絶対!』って宣言したのは実はセントロ・アビスでだけなんで、確保するならこの情報が聖人族の国に伝わって邪教が解散する前にやらないといけないし。

 しかしアレだ。ちゃんとした信仰を抱いてるのか、また潜入して確かめなきゃいけないのがちょっと面倒だな?


「……注意点は、それだけなのでしょうか?」

「うん、それだけ。もしかしたら人手がいる時は協力して貰うかもだけど、それを除けば世界が平和になるまではここで自由に暮らしてなよ。それがお前らの役目だ」


 賓客みたいな物凄い丁寧な扱いをされてるせいか、ロッソはかなり恐縮してる感じだ。

 でもこれは保険の他に平和が成った後の世界のシミュレーションみたいな所もあるから、これくらいの扱いは当然だね。コイツらでさえ両種族と平和に仲良く暮らす事が出来なかったら、もうそれこそ救いようがないもん。

 仮にダメだったらどうしようかなぁ……数百人くらいの聖人族と魔獣族を拉致して他は絶滅させて、記憶を弄り頭まっさらな状態で再教育して、そいつらに新しい世界を作らせるっていうのが無難かな? んー、それは女神様が難色を示しそうだ……。


「あ、あの、邪神様! ご質問、よろしいでしょうか!」


 なんて考えてると、ようやく状況に追いついたのかレミッシュが手を上げて許可を求めてくる。だから内容も一緒に言えや。


「良いよ、何が聞きたいの?」

「えっと……禁止事項は他にありますか? 例えば、その……恋愛、など……」

「あー……」


 頬を染め、ちらちらとロッソに視線を向けながら尋ねてくる。

 そういやコイツはロッソに惚れてるんだったな? それなのに聖人族と魔獣族の邪教徒たちで仲良くして平和に暮らせ的な事を言われたら、聖人族とくっついて子孫を作れって意味だと勘違いしても不思議じゃないか。


「無いよ、別に。好きなだけ恋愛して良いし、好きな相手と存分に産めよ増やせよして良いよ。僕の目的を考えると後々連れてくる聖人族と仲良くなってくれる方がありがたいとはいえ、そこまでの深い関係になるかどうかは個人の自由だ。だからコイツが好きなら告白して付き合えば良いさ」

「あっ!? ちょ、ちょっと待って下さい!」


 おっと、いけない。つい誰の事が好きかを暴露しちゃったよ。これにはレミッシュも顔を真っ赤にして止めようとするも、邪神様の口を塞ぐなんて事が許されるわけも無い。そもそも手遅れだしね。

 正直見てるとじれったいから、結果がどうなるにしてもさっさと告白して欲しい。まあ僕なら散々男たちに弄ばれた中古品の女は勘弁だけどね。奴隷時代だけじゃなくて邪教徒時代も色々ヤられてたっぽいし……。


「レミッシュ……? 君は、もしかして……」

「……っ!!」

「レミッシュ!? ちょ、ま、待ってくれ! 邪神様、御前失礼いたします!」

「はいはい、どうぞ。一応魔物とかはいるから気を付けてねー」


 さすがにロッソも想いに気付いたみたいで視線を向けるけど、レミッシュは真っ赤になっていずこかへと走り去って行った。わー、兎獣人だけあって足はやーい。

 とにかく全力で逃げたレミッシュと、それを追いかけて行ったロッソはフェードアウトしました。興味ないなら追いかけないだろうし、これはカップル成立か? リア充め……。


「……それで? 他に何か質問あったりする?」

「あ、あの……邪神様に対して畏れ多いですが、質問というよりお願いがありまして……」

「ふぅん? まあ内容によっては聞いてあげるよ。話してみ?」

「実は、その……私には家族がいまして……出来れば、家族もここに招きたいのですが……」

「あっ、お、俺――じゃなくて、私にも、両親がいまして……」


 ガチガチに萎縮しながら信徒たちが口にしたのは、親族もここに招きたいという願望。そしたら我も我もという感じに何人もが続く。中には婚約中の恋人招きたいとか言った奴もいたよ。何でそんな幸せ絶頂って時に邪教に入ってたんですかね?


「……連れて来てやってもいいけど、そいつらが問題行動を起こしたら連帯責任だよ。聖人族も暮らす事になるこの村に招いても大丈夫? 責任持てる?」

「はい、大丈夫だと思います。実は家族も邪神様を崇拝しているのですが、邪神教団がとても怪しかったので入信はさせていないだけなんです」

「私の所も同じです。まあ入ってから怪しさに気付いたんですが……」


 ああ、やっぱり皆怪しいと思ってたのね。でも入信の儀式でやっちゃって逃げられなくなったと……。

 まあ何にせよ、話を聞く限りだと類は友を呼ぶって感じ? 親族やら恋人やらも信者たちと同じく世界の状況に憂いを抱いてたり、あるいは邪神に対して並々ならぬ感情を抱いてるっぽい。

 今更だけど信徒たちでさえリスク管理をしてるってのに、家族総出で入信したんだからそりゃあ僕らはびっくりされますわ。


「そういう事ならしゃあないな。一人ずつ連れてあっちに戻るから、家族への説明と説得はなるはやでお願い。万一説明してもついてこない場合や、ここで問題を起こした場合は……分かるよね?」

「全力で説得致します!」

「邪神様の偉大さをお伝えします!」

「<デウス・ティメーレ!>」


 ニッコリ笑いながら脅すと、全員即座に跪いて大変良い返事を返してきました。これは良く訓練された邪教徒ですね……。





「……ふー、疲れたぁ」


 その日の夜、零時近く。何とか日付が変わる前に信徒たちの家族を無人島に連れて行く事が出来たけど、おかげでかなり過密スケジュールだったよ。そいつらにも問題起こしたら極刑だって念押ししたり、最低限暮らす事が出来る家を建てたり環境を整えてやったりで忙しかったからね。家とかは予め建てといた方が良かったかもしれんな?


「まさか別の大陸に信徒たちの村を作るとは驚きだ。君は無駄に壮大な事をするね?」


 リビングのソファーでぐったりしてると、こんな時間まで読書をしてたらしいレーンがえっちぃネグリジェ姿で現れる。相変わらずご立派な尻尾がモフモフだぜ。

 隣に座って来たら遠慮なく尻尾をモフる所だったけど、向こうもそれを察したのか対面のソファーに座りました。くそぅ。


「意外と無駄じゃないよ。だってこれでうっかり殺したりする事も無いし、安心してクズ共を滅ぼす一歩手前まで追い詰める事が出来るってもんだ。例え皆殺しにしちゃっても保険が残ってるから人類復興は可能だしね」

「リスク管理が出来ている事に感心すれば良いのか、滅亡を視野に入れている事を叱れば良いのか、判断に迷うところだね……」


 代替プランを考えてる賢い僕に対し、レーンは呆れたような半目でジトっと睨みつけてくる。そこは素直に褒めてくれると嬉しいな?


「しかしまさか聖人族の国にも邪神教団的な存在があるとは驚きだなぁ。どいつもこいつもどうして世界の破壊者に縋ろうとするんだろ?」

「魔獣族は元々強者に従う傾向があるが……聖人族の場合は、力への渇望といった所かな? 魔獣族に比べると聖人族は種として脆弱だ。力も弱く、強大な存在の庇護を求める気持ちも強いのだろう。大天使ミカエルという最強の存在を失った今は特にね」

「あー、そういえばファイナルウェポンが宇宙旅行中かぁ……」


 あの怪物大天使が敗北したっていう事実は、聖人族には良くも悪くも強い衝撃だったらしい。だからこそ『両種族の』最終兵器は滅びたって邪神として世界中に言い放ったんだけど、魔獣族の方は元々存在すら抹消されてたというか、意図的に隠されてたからあんまり一般人たちは堪えてないんだよなぁ。その辺ちょっと見誤ってた。


「ま、邪神である僕を信仰して従順な手駒になってくれるなら何でもいいや。面倒はさっさと片付けたいし、明日は早速聖人族の邪教徒を探してこようかな。誰か一緒に行ってくれると嬉しいなぁ?」

「そうか。まあ精々頑張りたまえ。私はそろそろ休むとするよ」


 チラチラと視線を向けながら露骨にアピールして口にしたのに、レーンは総スルーして席を立った。コイツ、さては一緒に行ってくれる気が欠片もねぇな!?


「頼むよぉ! 一人は寂しいしつまんないじゃん! お前は僕の正妻なんだから、一緒に行ってくれたって良いだろぉ!?」


 必死に追いすがり、足にしがみついて恥も外聞もなくお願いする。

 寂しいしつまんないのも事実だけど、潜入するならやっぱ女の子と一緒に入信した方が警戒されなくて助かるんだわ。かといって僕自身が女の子になるのはさすがに嫌だし、トゥーラ連れてくのもそれはそれで何か嫌。キラは行く気欠片も無いしね? だからといってまたセレスとリア連れてこうとするとキラは怒るんだわ。ワガママすぎでしょ、あの猫。

 つまり一緒に連れて行くのは正妻であるレーンしかいない!


「それは押し付けられた座であって、私自身は別にそんなつもりは無いよ。それよりも私は読書で忙しいし、君のような破綻者を信奉する狂人の集団に潜入するのはごめんだね」

「いつになく手厳しい! 僕が面倒な事を頑張ってるのに、お前だけ悠々と過ごしてるとか許さんぞ! ずるい!」

「ふあっ!? や、やめ……尻尾を、掴むんじゃない……!」


 どうにもレーンは乗らない感じだから、丹念で嫌らしい手付きの説得(物理)を試みました。誠意が通じたのか、最終的にはレーンもビクビク――じゃなくて渋々って感じに受け入れてくれたよ。三十分間誠心誠意、尻尾と耳を弄んでやった甲斐があったな!

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