邪教の儀式
⋇性的描写あり
遂に訪れた儀式の夜。僕らは当然のように邪教の本拠地たる街の地下、集会所へと向かった。
邪神の石像が目立つ邪悪な礼拝堂にはすでに信徒たちが集まってる感じで、これから邪悪な儀式を始める悍ましい雰囲気がたっぷりと感じられる。儀式だからか信徒たちも灰色のローブを身に纏ってるし、司祭たちは黒白のローブに仮面だし、怪しげなカルト集団の空気がムンムンだ。何かワクワクしてきた。
「こんばんは、皆さん。随分お早いですね?」
「こんばんはー!」
「なっ……!?」
とりあえず信徒たちに挨拶をすると、途端にロッソがギョッとした様子でこっちに視線を向けてくる。
そういえば娘は連れて来るなって言ってたっけ? リアは元気よく挨拶してたし、大層驚いただろうなぁ。
「クレスくん、何故この子を連れて来てしまったんだ!? 止めた方が良いと言っただろう!?」
「そうだよ! この子の事が大切なんじゃないの!?」
予想通り、ロッソはレミッシュと共に凄い剣幕で僕を叱りつけてくる。この二人、邪神様に説教してるって知ったらどんな反応するかなぁ?
普段なら突然の説教にイラっと来るところだけど、凄いまともな事言ってるし悪意は無いから特に苛立ちはしなかったよ。
「大切だからこそ連れてきました。少しでも邪神様の目に映ればと思いまして……」
「ああ、何という事だ……こんな幼い子が……!」
「こうなったら、今からでも使われてない部屋に隠れさせて――」
「――ほう、指示通り家族全員で来たか。感心だな」
二人が何やらリアだけでも助けようとしてる感じの雰囲気を漂わせてると、最初に話を聞いた男司祭が僕らに近付いてきた。仮面で顔が見えないとはいえ、その目がセレスとリア――特にリアを舐めるように見てるのは何となく分かったよ。
ぶん殴りたい程度にはイラっと来たけど、僕は寛大な邪神様だからそれくらいは許してやろう。お前が舐めるように見る事しか出来ないリアを、僕は物理的に舐めたりしてるもんな!
「もちろんです。邪神様へ深い信仰を捧げる儀式、参加しない理由がありませんから」
「素晴らしい信仰だな。家族にもその信仰を抱き、苦難に耐え忍ぶことを良く言い聞かせておくが良い」
「分かりました、司祭様」
男司祭は満足気に頷き、他の司祭たちの下へと戻って行く。あの司祭だけかと思ったら、他の男司祭たちもこっちに妙な視線を向けてるな? マジで儀式の怪しさが天元突破してる件。
「もう、手遅れみたいだね……」
「すまない。私がしっかり説明出来ていれば……」
なお、ロッソとレミッシュは絶望顔で落ち込んでました。他人事なのによくそこまで感情移入できるなぁ……。
「ようこそお集まりいただきました、我が同胞たちよ。今宵、邪神様に大いなる信仰を捧げる儀式を開催します」
そうして、遂に儀式が始まった。全ての信徒と全ての司祭たちが集う仄暗い礼拝堂で、教皇が邪神像の前で両手を広げ宣言する。
一見すると普通の儀式というか、礼拝みたいな感じでおかしな所は何も無い。司祭たちが仮面被ってて怪しさ爆発してるのはこの際置いておくとしてね。
ただ残念な事に、司祭たちの仮面以外にこれがヤベー儀式だっていう証拠があるんだわ。それも極めて分かりやすくて、一目で分かるレベルのものが。
「……クレスくん。アレって、アレだよね?」
「まあアレだよね。予想通りでびっくりだぜ」
「いけにえー?」
小声でセレスとやり取りしてると、リアが答えそのものを口にする。
そう、実は明らかに生贄と分かる哀れな子羊がいるんだよ。もちろん子羊っていうのは比喩で、実際は幼い犬獣人の少女だね。それで祭壇に大の字で拘束されてるんだけど、全裸だし身体中傷だらけだしで完璧に生贄なんだわ。残念ながらこれのせいでどう控えめに見ても邪教の悍ましい儀式でしかない。
「新たな同胞もおりますので、適宜儀式の内容を説明しましょう。まずはこれについてですね」
「………………」
教皇は新たな同胞こと僕らに視線を向け、次いで哀れな子羊こと子犬の少女に視線を向ける。
ちなみに少女は何ら反応を示さない。何故かというと完全に目が死んでるから。小さな胸が微かに上下して呼吸してるのが分かるから、まだ生きてるとは判断できるよ? でもそれが無かったらマジで死体なんじゃないかと思うくらい動きも反応も無いんだわ。一体何されたんですかね?
「これは邪神様へ捧げる生贄です。邪神様は人の悪感情をエネルギーとするお方、故に捧げるべきは人の悪感情。憤怒、恐怖、憎悪、絶望……この生贄は悪感情を邪神様に捧げるべく、様々な方法で感情の培養を行った搾りカスです」
「うわぁ……」
あまりの悍ましい行為にドン引きしてしまう僕。
どうやらあの少女は度重なる拷問やら何やらで精神が壊れちゃったらしい。うちの地下にいるお姫様たちだってギリギリ廃人になってないのにねぇ? どんだけ派手にやってるんだか。
それはともかく、やってる事が擁護できないレベルで邪教そのものだ。たぶん少女もその辺から攫ってきたんだろうし、この教団は拉致監禁拷問に躊躇いが無いくらいにヤバいな? 冷静に考えたらニアを暗殺しようとした奴らも邪神教団の信徒たちだし、これ放っておいたら世界平和を脅かすクソヤバ組織に成長しそう。その辺から子供攫ってきて洗脳教育して立派な信徒に育て上げるとか普通にやりそうだよね。
「すでに廃人と化してしまったので用済みなのですが、彼女には命の最後の輝きも邪神様に捧げて頂きましょう。そして邪神様に彼女の命を捧げる役目は、新たなる同胞たちにお任せします。さあ、どうぞ前へ」
邪神からクソヤバ組織に認定された教団のトップが、僕たちに前に出る事を促してくる。敬虔な信徒である僕たちはもちろん指示に従ったよ。わー、一体何をさせられるんだろうなー。
「さあ、この短剣で彼女の心臓を一刺ししてください。それであなた方は正式に我らの同胞となります」
そして教皇から差し出されたのは、豪華で美しい装飾の施された儀礼用の短剣。
んー、なるほど。これ邪神に捧げる生贄云々は建前な可能性があるな? 信徒が人殺しを働く現場を魔道具で記録しといて、絶対脱退出来ないようにしてるんじゃないか? これを広められたくなかったら、分かるよね? 的な?
まあトゥーラ並みの武力を持つ相手にはあんまり通用しなかっただろうけど。アイツは馬鹿でも馬鹿じゃないからこの程度は予想できるだろうし、何なら普通に正面から魔道具奪い取れるしね。
しかし不思議だ。生贄を殺せって言われた程度で、トゥーラが敬愛する邪神の名を冠する組織に失望して脱退するかなぁ……?
「たす……け……て……」
受け取った短剣を手に生贄の少女に近付くと、微かにその唇から声が漏れた。
どうやら完璧に自我が破壊されてたわけじゃなかったらしい。わりと強靭なメンタルしてますね、この子犬。あるいは最後の輝きか?
普通こういう場合、主人公なら哀れな生贄の少女を救い出すのが鉄板だよね。そして少女は主人公に熱烈な好意を抱き、以降は『素敵抱いて!』って感じに積極的にアタックするようになりハーレムの一員となる。普通の物語なら間違いなくそういうお約束だ。そう、普通の物語ならね!
「申し訳ありませんが、あなたの命は邪神様に捧げさせて頂きます」
「ごめんね? でも大丈夫だよ。あなたの命は無駄にはならないから」
「レア、死は救済って聞いた事あるよ! おやすみなさい!」
「あ……」
しかし生憎、これは普通の物語じゃない。だから僕はセレスたちと共に一本の短剣を握りしめ、哀れな生贄の少女の胸に振り下ろした。肉を貫く感触と共に少女の身体が僅かに跳ね、元々光の薄かった瞳が完全に濁り闇に満ちる。
ぶっちゃけ無辜の民を虐殺しまくってる僕からすれば、哀れな少女の命を奪っても特に何も感じないしね。そりゃあ未使用の新品なら多少は勿体ないと思うけど、どう見ても散々使用された中古品だったしね。ゴミ箱に紙くずを入れるくらいの気安さで殺りました。
邪神に心も身体も捧げた正真正銘の邪教徒であるセレスも、多少申し訳なさそうな顔しながらも特に躊躇ってなかったよ。リアに関してはにっこり笑いながらっていう一番ヤバい様子でした。
ていうかやってから気付いたけど、他者に傷を負わせられない戒律を持つリアでも普通に殺れてるな? まああくまで手を添える感じで、実際に短剣を振り下ろしたのは僕だから戒律の範囲外だったんだろうか。何か微妙な抜け道を見つけた気分だ。
「お見事です。これであなた方は完全に我らの同胞となりました。皆さん、新たな家族に祝福の喝采を」
僕らが何の躊躇いもなく生贄を殺した事で、若干ご機嫌な様子の教皇が皆に拍手を促す。
ただ拍手は微妙にまばらでしたね。仮面被ってる司祭たちの表情は分からないけど、信徒たちはドン引きしてる感じの表情してたよ。
「あ、あんなにも、躊躇いなく……」
「やっぱり、分かり合えない人なのかな……」
特にロッソとレミッシュには衝撃が大きかったっぽい。顔を青くして分かりやすい動揺を示してたよ。たぶんコイツらは葛藤しつつ通った道なんだろうなぁ。僕らももうちょっと躊躇いを演じれば良かったか?
「それでは、次なる儀式に移りましょう。信徒の皆さん、準備をよろしくお願いします。その間に私たちは新たな家族に儀式の内容を説明させて頂きましょう」
ひとしきり祝福した後、教皇は信徒たちにそう命じた。信徒たちはそれに従い、いずこかへと去っていく。哀れな生贄の死体を担ぎながらね。
そして礼拝堂に残ったのは、僕ら一家と教皇を含む司祭以上の役職持ち。だけど何やら雰囲気が悪いな? 司祭たちの様子がどうにも粘着質というか薄気味悪い。まるで女目当ての盗賊に囲まれてる気分だよ。僕がそう感じるって事はセレスたちの方が不快感凄そう。
「それで次なる儀式とは何でしょうか? 邪神様に認めて頂くため、僕たちは何でも致します」
「良い心掛けですね。次に行うべきは、あなた方が邪神様に悪感情を捧げる儀式です。そのために信徒の皆さんには肉体的、そして精神的苦痛を味わっていただきます」
おっと? 何か雲行きが怪しくなってきたな?
要するに信徒たちは自ら拷問を受け入れ、苦痛によって生じた悪感情を邪神に捧げるって事? 言い分からすると司祭以上の奴らはやらない感じ? ずるくない?
「貴様の娘は私が相手をしてやろう。私は未成熟な少女が大好物でな?」
「それじゃあ俺は嫁さん貰うぜ。ああいう地味な奴が泣き叫ぶ姿を見るの堪らねぇんだわ」
「あー、そういう……」
とか思ってたら、司祭たちが実に分かりやすく儀式の全貌を語ってくれた。
なるほどなるほど、エログロな事でもするのかと思ったらそういう事か。これは正に悍ましいカルト集団ですわ。
「逃げる事は出来んぞ? お前たちが生贄を殺した姿は撮影させて貰った。これを広められたくなければ、我らの命に大人しく従う事だ」
「ふふっ。あなたは私がたっぷり痛めつけてあげる。まずは爪を剥ぐ所から始めましょうね?」
予想通り撮影してたらしい事実をゲロり、更に薄汚い本性を露わにしてくる司祭たち。
うーん、やっぱりそういう事らしい。儀式ってのは司祭以上の奴らが信徒たちを拷問陵辱するお楽しみタイムって事みたいだ。女の信徒は男司祭たちに犯され、男の信徒は女司祭たちに痛めつけられる。邪神へ信仰と悪感情を捧げる儀式として、信徒たちに進んでその苦痛を受けさせるって事ね。
道理でロッソとレミッシュは僕らの事、特に小さな子供のリアを気遣ってたわけだ。あと下僕として働かせてる女信徒の反応も納得だね。たぶん他の信徒たちも生贄を殺すっていう洗礼を通過してるはずから、殺人現場を撮影されて弱みを握られてるだろうし、どれだけ凌辱や拷問が恐ろしかろうと逃げられない、と。いっそ感心するくらいゲスだなぁ?
「……もしや邪神教団とは名ばかりで、あなた方が欲望を満たすためだけの組織だったのですか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。これは信徒の皆さんへの試練です。拷問や凌辱を受ける事により自ら悪感情を生み出し、邪神様へ信仰を捧げるのです。我らは皆通った道なのですよ」
などと純度百パーセントの嘘をほざく教皇。今までは何か丁寧で常識人ぶった口調だったけど、明らかに今の口調は嘲笑う感じの愉悦を感じたよ。魔法で見破らなくても嘘だと分かるね?
そしてこの瞬間、信徒たちが帰って来た。見れば色んな拷問道具を持ってきてる。三角木馬とかアイアンメイデンとかのデカいやつから、ノコギリとか焼きごてとか苦悩の梨とかの小さめな拷問道具もね。何かシャレにならないものも混じってるけど、治癒魔法があるから問題無いって事かな? あっ、ロッソとレミッシュ、僕らを見て酷く心配そうに眉を寄せてるぅ。きゃー、たすけてー。
「さあ、こっちに来るが良い小娘。お前を立派な女にしてやろう」
「お前はこっちだ。娘ちゃんに弟か妹作ってやろうぜ?」
なんて事考えてると、司祭たちが実に気持ち悪い事を口走りながらにじり寄ってくる。もうセレスとリアを犯す事しか考えてませんね、これ。嘘でも良いからほんの少しくらいは邪神への信仰を見せろよ……。
「クレスくーん……」
「パパー……」
仮面をしてても分かる司祭たちの気持ち悪さに、二人は凄い切ない顔を向けてくる。
幾ら演技だろうが潜入だろうが、こんな奴らに身体を許すのは絶対嫌みたい。逆の立場なら僕だってごめんだし気持ちは分かる。
でもそれ以上に僕自身が不快で堪らない。舐めるように見る程度ならともかく、僕の女を犯すつもりだって? それはさすがにライン越えだ。無限の大宇宙の如き広い心を持つ僕にも我慢の限界ってものがある。
「はあ……これはトゥーラが即脱退するのも納得だな?」
合点がいって思わずぽつりと呟く。
認めるのは癪だけどあのクソ犬は僕への愛と忠誠心がクソ深いし、そりゃあ他の男に身体を許すとか我慢ならんだろう。教団に見切りをつけるのも当然だ。すでに邪神に抱いて貰ってるのに、何が悲しくて邪神の下僕を騙る詐欺師に抱かれなきゃいけないんだって話だよ。僕以外に対しては地味に貞操観念が固い所にちょっと好感度上がったぞ、全く……帰ったら少し撫でてやるか。
それはともかく、最早この邪教に存在価値は無いしこれ以上探る意味も無い。むしろ存在そのものが心底不愉快だ。だから僕は遂に方針を決めました。儀式はここで終了、この教団は今からぶっ潰しまーす。他ならぬ邪神の手で引導を渡してやる。覚悟しろよ、詐欺師共ぉ?