教団の処遇
「さて。これで役職持ちたちの信仰の形や、信仰を抱いた経緯を色々と確認したわけなんですが……」
儀式の日、前日の夜。儀式が終わったら速攻で潜入任務を完了できるよう、頑張って情報収集をした結果。遂に司祭たち全員から話を聞き出す事に成功しました。仮面の上からでも分かるくらい嫌そうな反応されたけどね。
それで、最終的な結果なんだが……。
「――ものの見事に全員クズばっかりだな!」
やはりこの答えに尽きる。
信徒たちと違って、司祭たちは全員駄目だった。信仰心は抱いてないし、皆話合わせてる感じの定型文で答えて来るし、呆れ顔しないように表情取り繕うのにも気合がいるくらいダメダメだったよ。元々期待はしてなかったけど、一人残らず腐ってるとさすがに失望しちゃうね?
「ねー。何かふわふわした事言ってたよねー。それにみんな同じ事ばっかり言ってた気がするー」
「うんうん。たぶん、ていうか間違いなく示し合わせてたんじゃないかな。そもそも邪神が目をかけてるだの選ばれただのがありえないよ」
「だよね。邪神たるこの僕にそんな覚えが無いし」
リアもセレスもアレは駄目だと同意見。
自分たちは邪神様に選ばれただの祝福を授かっただの、凄い得意げに言ってたもんね。本当に選ばれ祝福を受けてるような存在が目の前にいる事にも気付かず、それどころか邪神本人が目の前にいる事も分からずにね。
そんな厚顔無恥な奴ら、多少信仰心があっても手駒にはしたくないかな。まあその多少の信仰心すら無いから救えないって話。
「ご主人様、どういう事なの? どうしてあの人たちはあんなに中身のない事ばっかり言うのー? みんなご主人様をあがめてるんだよね?」
「いや、司祭以上の奴らに信仰心なんて無いよ。アイツら邪神の名を使って私腹を肥やしてるだけだから」
「えっ!? そうなの!?」
「やっぱりそうなんだ。あたしもおかしいと思ったよ」
その辺りは気が付いてなかったらしいリアは驚愕を露わにして、セレスは呆れと共に頷く。リアちょっと純真過ぎじゃない? 自分自身が闇の申し子みたいな心してる癖にねぇ……。
「本当の信仰心を抱いてるのはその下に集まった信徒たちだね。たぶん邪神の名を騙って信徒を集める計画を思いついた奴らが共犯者を集めて、出来上がったのが司祭以上のグループなんでしょ」
「じゃあ信徒たちは詐欺られてる被害者でもあるんだ……」
「うわー、可哀そー……」
この予想に関しては証拠は無い完全な推測。でも間違ってはいないと思われる。じゃなきゃ司祭と信徒の間にあそこまで明確な上下関係が生まれるとか無いでしょ。歴史ある由緒正しい宗教ならともかく、これは生まれたばかりの怪しい邪教ぞ?
「まあ幸運な事に、信徒たちは本当に邪神に目をつけて貰えたから大丈夫だよ。あっちはほぼ全員問題無い奴らだしね」
信徒たちは全員手駒に出来そうな感じの奴らだし、確保は決定コースだ。ちなみにほぼ全員っていうのは、若干聖人族への敵意に問題を抱えてる奴もいるからだね。それでも邪神への信仰は抱いてたし、恐らくは大丈夫なはず。大丈夫じゃなければ消すだけだし。
「それじゃあ信徒の人たちを手駒にするんだね。何かお仕事与えるのかな?」
「んー、実は与える仕事は特に無いんだよなぁ? それに魔王からのお願いもあるし、少なくともこの邪神教団は潰さないといけないんだわ。さすがに無人の教団を潰してもいまいち説得力が足らないし見せしめにもならないから、出来れば信徒たちがいる状態で潰したいんだけど……色々どうするかなぁ?」
手駒にしても与える仕事が今は無い。教団潰す時は派手にやりたいから、後で蘇生するし信徒たちには死んで欲しい。しかしそもそも教団の潰し方もまだ決まってない。色々考えなきゃいけない事が山積みだ。明日怪しげな儀式の日なのにねぇ?
「大丈夫だよ! クルスくんが正体を明かせば、清い信仰心のある信徒の人たちは何でも従ってくれるはずだから! きっと死ねって言えば笑顔で死んでくれるよ!」
「微笑んで殉教するような奴はもうただの狂信者なんだわ」
間違ってもそれは清い信仰心とは言えないんじゃなかろうか。ていうか身内に喜んで従い微笑んで死にそうなアホがいるのが悲しい。
「ま、とりあえず教団を掌握するのは明日の儀式を見てからだな。トゥーラが失望して教団を抜けるほどの儀式、一体何をするのか正直興味あるしね」
「絶対碌な事やらないよね、きっと。生贄でも捧げるんじゃないかな?」
「リア知ってるよ! 生贄は清らかな乙女の方が具合が良いんだよね!」
「どこでそういう知識仕入れてくるの、君……?」
純真無垢な笑顔で百点満点の猟奇的な回答をするリアに、さしもの僕もドン引きだ。もしかしてサキュバス魔将に教えられた範囲に入ってたんですかね? そうじゃないならリアに変な事教えてる奴が身内にいるっていうなかなか度し難い事になりますね。誰だ教えてんのは……。
「まあ確かに、どうせ生贄貰うなら野郎より未姦通の乙女の方が良いな?」
「それって……もうあたしたちに興味ないって事!?」
「そうなの、ご主人様!?」
ぽつりと個人の感想を呟くと、顔色を変えたセレスとリアが詰め寄ってくる。
男としてはわりと普通な感想だと思うけどなぁ。誰が触って何をしたか分からない中古品よりは、無垢で綺麗な新品の方が良いじゃん?
「ただし僕自身が姦通した場合は例外とする」
「そうなんだ、良かったぁ。あたしショックで泣いちゃうところだったよ」
「ほっとしたー」
例外を口にすると、途端に二人は胸を撫で下ろす。自分でヤった場合は中古品にしたっていうより、自分色に染め上げたって感じがしてむしろ興奮するよね。ちょっと下世話な事言うけど、長い事ヤってると相手の身体の中の形が、こっちに合わせて変わってくるって言うし? いや、下世話過ぎたか。すまぬ。
「……でもそれなら、ちゃんと証拠を見せて欲しいな?」
「リアもリアも-!」
なんて変な事考えてると、セレスが僕の胸にそっと指を這わせながら見上げてくる。実に艶めかしいメスの顔しながらね。リアは甘える感じに普通に抱き着いてきただけだけど。証拠って今ここでヤろうって事?
しかしセレスがヤバい。今は地味なメガネっ娘の見た目だから、その見た目でエロい顔して誘惑して来るとか破壊力が凄くてクラクラするよ。まるで素朴な眼鏡委員長が実は淫乱だったシチュエーションみたいだぁ……。
「マジかお前。すぐそこに信徒の人いるんですが?」
「大丈夫大丈夫、これは邪神様に身体を捧げる儀式だから。ねっ、リアちゃん?」
「うん! あ、そうだ。それなら信徒の人も一緒に――」
「それは駄目。邪魔させないでね?」
なお地味な見た目に変身していても中身は変わらないためか、リアの提案には真顔で拒否を返してました。普通にハーレムプレイも受け入れてくれるセレスだけど、さすがに見ず知らずの女を混ぜるのは許容できない様子。やっぱわりと独占欲強めな子ですね?
「さ、これから遂に儀式だ。準備は良いか、野郎共?」
「野郎じゃないけどバッチリだよ!」
「リアも大丈夫!」
翌日の夜、遂に僕らは邪教の儀式に向かう事になった。
セレスもリアも準備万端って感じだ。眼鏡を光らせ、あるいは身体をフラフラさせながら笑顔で頷いてきた。
さてさて、邪教の儀式は果たしてどんなもんかな? 碌なもんじゃないのは分かってるけど、何か遠足みたいな気分でテンション上がるなぁ。テーマパークに来たみたいだぜ。
「……で、お前は大丈夫なの?」
「は、はい! も、問題ありません!」
「その割には顔が猛烈に青いんですが……」
「大丈夫ー?」
僕が最後に声をかけたのは、下僕にして邪教潜入のために利用させて貰った信徒。司祭との仲介をさせた女だ。
本来ならわりとどうでも良い存在なんだけど、さすがの僕も心配になるくらい顔が青かったからね。リアもちょっと気になるらしい。
「何か問題あるなら今の内に言った方が良いよ? 後で言われても困るし、クルスくんなら立ちどころに解決しちゃうからね!」
「そうだね。僕らのために働いてくれたし、そのご褒美に少しくらいなら力になってやるよ」
「ほ、本当、ですか……?」
僕とセレスが優しく声をかけると、信徒の女は青い顔したまま尋ねてくる。
普段ならそんな真似をする意味なんて無いが、一応コイツも僕を崇める信徒で手駒として問題ない奴だからね。邪教潜入のためにお世話になったし、家にもお邪魔してるし、多少は優遇してやるのもやぶさかじゃない。
「もちろんだとも。僕は嘘を普通につくし普段から嘘に塗れた生活をしてるけど、今回ばかりは嘘じゃないぞ」
「クルスくん、さすがに説得力無いよそれ……」
「ご主人様は詐欺師だよね!」
頼れる信仰対象として胸を張ってみるものの、他ならぬ寵愛を与えている二人に裏切られる始末。特にリアの無邪気な一言が胸に突き刺さりました。せめて詐欺師とかいう直球の罵倒じゃなくて、遠回しに舌が回る奴って言え。
「わ、分かりました。それなら、一つお願いがあります……」
一応信徒の女は話す気になったみたいで、緊張と恐怖かぶるぶる震えながらゆっくりと口を開いた。
「ぎ、儀式で、私を……守って、ください……!」
そうして絞り出すように口にされたのは、儀式のヤバさに拍車がかかる台詞。どうやら守る必要があるような事をやるっぽい。
さてはやっぱり碌な儀式じゃないな? これだけヤバそうだと逆に楽しみになってきたぞ……。