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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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馬車の中で

「はぁ……心配ですねぇ。ティアちゃん、どこへ行ってしまったんでしょうか……」


 コトコト小さな揺れが伝わってくる馬車の中、隣に座ってるハニエルが心配そうにため息を零す。

 ロリサキュバスの奴隷買ったり、ガチの殺人鬼が仲間になったりと色々あったけど、それ以外は何事も無く奴隷の街ドゥーベを出発できた。宿の看板娘の死体は出発前に適当な路地裏に捨ててきたから、今頃見つかって大騒ぎなんじゃない? ハニエルに見せてあげられないのが悲しいですねぇ。

 というかさ、前に一緒に馬車に乗った時も思ったけど、コイツの翼マジで邪魔! 背中とか後頭部とかに羽先が当たってすっごいくすぐったい! こりゃクラウンも一緒の馬車を嫌がるわけだよ! 他のお客さんもさりげなく距離を取ってるからな!?


「きっと軽い家出だから心配ないよ。あの年頃の子は唐突に家族や社会に反逆したくなるものだからね。しばらくしたらひょっこり帰ってくるんじゃない?」

「それなら良いんですけど……」


 帰ってくるとしても変わり果てた姿になってることはあえて言わないでおいたよ。ここで泣きだされたりしたら困るしね。

 あとさも反逆の経験があるみたいに言ってみたけど、僕は生まれついての反社会性人格障害だから、正直普通の子の反逆どうこうなんて分かんないや。まああの年頃の子は無意味にルールとかに逆らいたくなるみたいだし、間違ってはいないのかな?


「そんなことより、これから行く街の事を教えてくれない? 三千年生きてるおばさんなんだから、少なくともこっちの国の事は誰よりも詳しいでしょ?」

「おばさんって言わないでください!」

「じゃあ自称二十代のピチピチさん?」

「どうしてわざわざ年齢を絡めるんですか!? もっと普通に! ハニエルって呼んでください!」


 事実と自称を指摘しただけなのに、ヒステリックだなぁ。あと翼でバタバタ背中打たれて座席から落ちそうなんですが。お前本当は分かっててやってない?


「全くもう……今私たちが向かっている街はアリオトと言います。特徴としては、主に軍事面が整っていることですね。兵士たちの宿舎や、兵士のための治療院、食料備蓄のための倉庫など。国境に一番近い街なので、少々物々しい感じが目立ちますよ」

「はーん。街っていうよりもアレだね、前線基地みたいな感じか」


 国境に一番近いから、いざという時はすぐに兵士を出せるように準備してあるってことだね。

 つまりその街を丸ごと消してしまえば、聖人族の国の戦力を大幅に削ぐことができるってことか。一応覚えとこう。


「はい、大体そんな認識であっていますよ。でもちゃんと普通の市民の方々も暮らしていますし、張り詰めた空気はありませんね。それにあの街は他の大天使が守護していますから」

「大天使ねぇ……」


 ちょっと気になるワードが出てきた。そういやハニエルの他にも最初に創られた天使たちがいるんだったね。みんながみんなコイツと同じ頭お花畑とは思えないし、警戒するに越したことは無さそうだ。


「ハニエル以外の大天使って、今何人くらいいるの?」

「私を除くと、今は三人しかいません。昔は十人もいたんですけど、長年続く戦争の末に……」


 そう言って、悲し気に目を伏せるハニエル。なるほど、死んだわけね。厄介そうなのが六人も死んでくれてるのはラッキーだから、危うく小躍りしそうになっちゃった。

 あっ、さすがの僕も悲しんでる人の横で喜んじゃいけないってことは分かるよ? 本当だよ!?


「……それで、残りの大天使たちは今どこにいるの?」

「えっと、一人は国境の砦に、もう一人はこれから行くアリオトの街に。最後の一人はテラディルーチェにいますよ。皆さんは貴重な戦力で、防衛の要でもあるので、基本的にはそこを動くことはないですね」


 ハニエルを除いて計三人か。戦闘能力低めな奴らを期待したいけど、長年の戦争で生き残ってるあたりだいぶ極まってそうだなぁ。防衛の要として扱われてるなら、ハニエルみたいに後ろでコソコソしてただけでもなさそうだし。

 というか首都にもハニエル以外にもう一人いたんだね。いや、たぶんコイツが防衛の要としてカウントされてないだけか。三千年間誰も殺してないなら戦力外通告もやむなしだ。


「なるほど。で、同じ大天使のハニエルはどうして魔王討伐の旅に同行できてるわけ?」

「私がいると士気が下がっちゃいますから。私が魔獣族と戦うことを嫌っているのも、全ての種族の間での平和を望んでいるのも、城の人たちや兵士さんたちは皆知っていますからね……」

「やっぱり体のいい厄介払いだったわけか。まあ戦争に士気は必要だし、年齢だけが取り柄のババアを城に置いといて無駄に食っちゃ寝させるよりはマシか」

「ババアじゃないです! というか私にだってお仕事はあったんですからね!?」


 でも年齢的にはババアっていうより化石とか石油レベル――いってぇ!! 翼で打つのをやめろ! 引き千切って夕食に並べるぞ、その手羽先!


「……ところで勇者様、お聞きしてもよろしいですか?」

「あん?」


 僕が背中を擦ってると、ハニエルは唐突に声のトーンを低くして真面目な声で尋ねてきた。

 でも僕が疑問の声を出したのはその言葉に対してじゃなくて、その言葉がやたら反響して聞こえたことに対して。何でかトンネルの中での話し声みたいに聞こえたんだよね。たぶんハニエルが遮音の結界を張ったんだと思う。僕と秘密のお話がしたいのね?


「勇者様は、世界に真の平和をもたらすと言いました。そのために私を導いてくれるとも。ですが、一体どのようにしてこの世界に平和をもたらすおつもりなんでしょうか? 何もしてこなかった私がこんなことを言うのも何ですが、それはきっととても難しいです。三千年近く争い合っている二つの種族の手を取り合わせるなんて、それこそ女神にもできなかったことですから。勇者様は一体どのような作戦を考えているんですか?」

「作戦、ね。フフフ……」


 キッと真面目な顔で聞いてくるハニエルに、僕はとりあえず意味ありげに笑って考える時間を稼ぐ。

 いや、もちろん作戦はあるよ? このクソ世界に生きる救いようのないゴミ共に、大さじ一杯の暴力と虐殺、それから小さじ一杯のエッチなことを加えて、悪逆非道っていう料理を完成させるのさ。さすがに滅亡の瀬戸際にまで追い込まれれば、仇敵同士でも手を取り合って協力するでしょうよ。しなきゃ滅ぼす。

 ただこの作戦をハニエルに伝えるべきかどうかはまだ決められないんだよね。どう考えてもコイツはその手のことに潔癖だし、未だ殺人を犯したことが無いのがその証拠だよ。一人エッチはめっちゃしてるみたいだから、そこは潔癖じゃなさそうだけどな!


「……実はまだ何も考えてなかったりする」

「えっ!? そうなんですか!?」


 だからあえて何も考えてない馬鹿を演じることにしたよ。

 大丈夫、演技をするのは得意だからね! 何と言っても普段から普通で正常な人間の振りをしてるし! ちょっと気合入れ過ぎて変なキャラが張り付いちゃってるけどな!


「うん。だから今の目的は魔王討伐の旅に乗じて、魔獣族の国を見て回ることだよ。女神様から色々聞いたけど、あの人ドジっ子だから情報が間違ってることもありそうだからね。とりあえず自分の目と耳で色々確かめようかなって」

「そ、そうだったんですか……」


 僕の演技力もあってか、ハニエルはあっさり信じてくれたみたい。まあコイツは頭がちょっとお花畑だし、正直誰でも騙せそう。何かこう、張り合いが無くてつまらんな。


「確かに女神の情報を鵜呑みにせず、自分で見て回ることは大切ですね。では、魔王を討伐する気はないんですか?」

「んー、今のところは無いよ。その魔王がよっぽど頭が固くて、種族間で手を取り合うなんてことは死んでもごめんだっていうタイプでもない限りはね」


 そんな奴だったら僕が作る新世界には相応しくないから殺さなきゃね。まあそれを言っちゃうとこの世界の大半の奴が相応しくないってことになるんだが、そこは一般人と国を統べる王との違いってことで。トップが過激派じゃ協力もクソもないでしょ?


「……ちなみに魔王ってどんな奴か知ってる?」

「うーん……今は、正直分からないですね。最近の大きな争いは三百年ほど前に一回ありましたが、元々私は後方支援が専門ですから、魔王の姿を見たことは無いんです。二千年ほど昔に一度ありましたが、さすがにもう代替わりしていてもおかしくないでしょうし……」

「時間のスケールがいちいちデカいなぁ……」


 三百年ほどとか二千年ほどとか多少曖昧なこと言ってるけど、これ絶対プラスマイナス百年くらいあるレベルだぞ。三百年前を最近って言っちゃう奴だし。三千年生きてる奴なら時間の感覚も僕みたいな純真な――違う、純粋な人間とは違うってことか。

 でもアレだ。ハニエルの言葉を信じるかはともかく、確かに三百年くらい前には大きな戦争があったと思うよ? そうじゃなきゃ二代目レーンが戦争で調子乗って敵に捕まってくっころ展開にならなかっただろうし。

 まあ魔王の情報は向こうの国に行ったら集まるだろうから、それほど心配しなくても良いかな。今はそれよりも重要なことがここにある。


「よし! それじゃあ内緒話も終わりにして、二人で仲良く居眠りといこう!」

「きゃっ!? ゆ、勇者様!?」


 第一に、眠い。第二に、隣に柔らかそうな太ももを持った可愛い女の子がいる。となれば膝枕でのお昼寝コース直行でしょ。それ以外に大切なことなんてないわ。そんなわけで遠慮なく枕にさせてもらいました。


「いやー、朝方変な時間に目が覚めてから寝れてなくてさ。できればハニエルの膝枕でしばらく寝たいんだけど……駄目?」

「もうっ、そんなに私の膝枕で寝たいんですか? 年齢だけが取り柄のおばさんの膝枕ですよ?」

「一体誰がそんな酷いことを……」

「あなたですっ! もうっ、勇者様は本当に意地悪です!」


 ぷりぷり怒ってそっぽを向くハニエル。でも何だかんだ言いつつ僕のこと退けたりはしなかったよ。本当人が良いというか、お人好しと言うか、壊したくなるというか……。

 まあそういうのはもっと後の話かな。今はこの太ももの柔らかな感触と、下から見上げるデカい膨らみという素晴らしい光景と、客の男たちの妬みの視線を楽しみながら休むとしよう。羨ましいだろ~っ!?

 




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