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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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信徒たちの信仰

「それじゃあ次は私かな。実は私、少し前まで聖人族の国で奴隷にされてたんだ」


 次に話し始めたのは信徒たちのサブリーダーことレミッシュ。

 しかし初手で話が重すぎる件。奴隷って事はつまりアレだよ。拷問やら陵辱やらをされてたって事だよ。この世界の奴隷ってマジで人権無いしねぇ……。


「毎日辛い労働を強いられて、少しでも失敗すれば厳しい罰を与えられて、毎晩主人の慰み者にされる……そんな地獄の日々を過ごしてたよ」


 その仕打ちの数々、身体と心に刻み込まれた痛みを思い出してるのか、レミッシュは拳を握り眉間に皺を寄せて語る。

 やっぱ奴隷の扱いなんてどこでもそんな感じなんすねぇ。これだからこの世界の住人はクズばっかりで嫌なんだ。

 えっ、お前もクズ? 僕は良いんだよ、僕は。だって女神様に許可されてるもんね。


「でもある日、邪神様が私を救い出してくれた。理不尽な契約をぶち壊して、抗う術を与えてくれたの。だから私は、その力で聖人族に復讐を果たそうとした。だけど、ふと思ったんだ。聖人族だけじゃない、魔獣族だって同じ事をやってるんだって。そして私自身、聖人族の奴隷を苦しめた過去もある。だから復讐は止めて、脇目も振らずに故郷に逃げて来たってわけ」

「……凄いですね。そのような目に合いながら、復讐心を抑える事が出来るなんて」


 どこか乙女みたいなキラキラした表情で語る姿に、わりと本心からの驚きを示す。

 話の内容から考えるに、レミッシュは奴隷を解放するために使った魔法――奴隷の反乱(スレイブ・リベリオン)のおかげで自由を得た存在みたいだ。あの魔法はむしろ奴隷が勝手に潰れて消えてくれる事を願って、代償ありきの身体強化とかを色々積んだ魔法なんだけど……潰れなかったって事は、コイツマジで復讐はせずに逃げただけなんだな。やるじゃん。


「あはは。まあ私を散々苦しめてくれた元主人には一発キツイ蹴りを入れたけどね。でも結果的には私の判断は間違ってなかったよ。邪神様の力で解放された奴隷は、しばらく疲労を感じず限界以上の力を出せたみたいだから、無差別に暴れ回ってた元奴隷たちは皆死んじゃったみたいだしね……」


 とか思ってたらちゃんと復讐は果たしてた模様。馬鹿みたいに強化された獣人の蹴りなんて受けたら内臓が爆発しちゃうよ。

 とはいえ復讐がそれくらいなら邪神的にはオッケーだ。張本人に復讐を果たすだけなら正当な権利だよ。無駄に長時間痛めつけたり、他の聖人族にも怒りをぶつけてたりはしなかったからこそ、レミッシュは今生きてここにいるって事だしね。


「何はともあれ、私は邪神様のおかげであの悪夢の日々から帰って来る事が出来たんだ。だからそのお礼に信仰を捧げるのは当然の事だよ。私が邪神様を崇めるのは、つまりは感謝の念からだね」

「なるほど……」


 深い感謝を抱いてるのが一目で分かるくらい、幸せそうな笑顔を見せてくる。

 どうやらコイツは結構純粋に邪神を崇めてるらしい。本当に信徒はいまいち邪教徒っぽくないな? 嬉しい反面、司祭たちの邪教徒らしさが余計に際立つ感じだ。


「……では邪神様があなたに語り掛けてきたらどうしますか? あなたがとても受け入れ難い事――例を挙げるなら、あなたを助けたわけではないとか、聖人族と魔獣族が共に暮らす平和な世界を作れと命じられるとか、そういう事ですかね」

「えー? それはちょっとショックかなー。でも、邪神様のおかげで私が自由を手に入れたのは紛れも無い事実だからね。直接お声を聞かせて頂いたなら、それがどんなものでも受け入れるよ。恩返し……っていうには、邪神様から見て私は矮小すぎる存在かな?」


 どうやらサブリーダーも僕の手駒としての素質があるっぽいな? 多大なる恩があるから何でも受け入れるってさ。コイツの場合は信仰っていうよりも恩人への奉仕って感じだけど。


「なるほど……とても参考になりました。信仰心とは人の数だけあるのですね。良ければ他の方々の信仰も教えてくださいませんか? もっと邪神様の事を語り合いましょう!」

「おう、いいぞ! それじゃあ次は俺からだな!」


 これは他の信徒たちも期待出来そうだから、早速他の奴らの話を聞かせて貰う事にした。

 こんなにも都合の良い手駒をたくさん手に入れられる機会、早々無いぜ! ボーナスタイム突入だ!





「――ふうっ、なかなか有意義な時間だったな?」


 日付が変わった頃、僕らは下僕にした信徒の家へと戻って来た。ソファーに腰掛けた僕は、実に有意義な時間を過ごせて大変ご機嫌だよ。


「もっとおかしな人でいっぱいなのかと思ったけど、意外と普通の人ばっかりだったね? あたし、ちょっと拍子抜けしちゃった」

「ねー。トゥーちゃんみたいな人ばっかりだと思ったのに、皆優しくて普通の良い人たちだったよねー」


 僕を背後から抱きしめるセレスも、膝の上に乗ってるリアも大体同じ気持ちらしい。信徒たちがびっくりするくらいまともな連中ばっかりで肩透かしを食らった気分だ。

 実際の所、信徒の大半が普通の人だった。これぞ邪教徒って感じのヤベー奴もいたにはいたけど、精々数人くらい。そしてそいつらも含め、全員信仰も精神性もまともなごく普通の信徒たちだったよ。それでいて邪神への忠誠心もありそうなのがまた嬉しい。


「まあ信徒は純粋に邪神を信仰するために入信してるんだろうし、司祭以上の詐欺師共とは違うんだろうねぇ。にしたってまともな奴が多いなとは感じたけど」

「司祭以上は詐欺師なんだ……」


 僕の言葉にげんなりするセレス。まだ詳細を調べたわけじゃないけどどうにも詐欺師臭いじゃん? だって勝手に教義とか考えて邪神に祝福された事にして教団を運営してる奴らだぞ? 詐欺師以外の表現が無くない?


「あ、あの、邪神様! お、お夜食は、ご必要でしょうか!?」


 なんてまったりしてると、下僕にした信徒の女がびくびくしながら声をかけてくる。

 正直教団の司祭に渡りを付けるために言う事聞かせただけだから、下僕っていう評価もまた違う気がするけどね。ていうか操るのに都合良さそうだから邪神姿も見せてあげたのに、何故か死ぬほどビビってる件。何でだろうなぁ? 跪いて僕の足に縋ろうとしたのを、セレスがニッコリ笑顔で威圧したからか?


「そうだね、適当に何か作ってくれるとありがたいな」

「わ、分かりました! 誠心誠意、心を込めて作らせて頂きます!」

「はい、よろしくぅ」


 そう声をかけると、信徒はキッチンに走り何やら軽い食事を作り始める。

 正直頼んでから別に要らないかもって思ったけど、まあ頼んじゃった以上は食うか。要らないって言ったら絶望して泣き崩れそうだし。別にそういう反応も嫌いじゃないが、寝る前に楽しむものではないな?


「……それでクルスくん、手駒に出来そうな人たちはいた?」

「信徒には結構いたね。ざっと聖人族への敵意とかも覗いてみたけど、大体は許容範囲レベルだったし。これは良い感じの拾い物が大量にできそうだよ」

「じゃあ司祭の人たちはー?」

「それはこれからの日々で探っていくよ。ただ司祭以上は期待できそうにないってのが本音かな……」


 セレスとリアの疑問に答えて行くけど、司祭以上の役職持ちに対して聞かれると若干頭が痛くなってくる。

 司祭以上の奴らは素顔を隠し本名を隠蔽し、徹底的に個人情報を隠してる。信徒たちには仮面を着けさせてないし本名を使わせてるのに何なんだろうね? 同胞とか家族とか言ってる癖に顔も名前も分からんとかおかしいだろ。この時点で完全に怪しさが凄いよ。

 まあ百歩譲って信仰と邪神への忠誠があればそれでいい。でもそれもちゃんとあるかは怪しいものだね。びっくりするくらいにホラ吹きまくってたし。


「教皇の人とか物凄い嘘ついてたもんね。クルスくんに目をかけられてるとか、力を授かったとか色々。あたし、思わず『この嘘つき!』って叫びながら斬りかかりそうになる所だったよ」

「リアも色々おかしくて聞き返したくなる所だったよー。あの人、ご主人様と同じくらい嘘が上手だよね」


 頬を膨らませるセレスと、ちょっと感心した様子のリア。二人共地味にヤバい事しかけてたな?

 まあアレは仕方ないか。明らかに真っ赤な嘘しか言って無いし、何なら一つでも本当の事を言ってるかどうか怪しい所だったしね。邪神の祝福を受けただの何だの言ってたけど、天罰受けるかもしれないとかそういう考えは無いんですかね? いや、天罰って概念がそもそもこの世界に無いのか?


「そうかそうか、二人共良く耐えてくれたね。よしよし」

「うふふー」

「えへへー」


 頑張って自分を押し殺した二人の頭をナデナデ。途端に二人は頬を緩めて嬉しそうに笑う。まだ演技の日々は続くから頑張って貰わないとだからね。労いも大事だ。


「よし。今日は休んで、明日の夜――いや、今日の夜から司祭たちとお話だな!」


 すでに日付が変わってる事を思い出し、言い直しつつ意気込みを新たにする。

 もしかしたら司祭以上の奴らにもまともな信仰を抱いてる奴がいるかもしれないしね。一応は話を聞いて判断しようと思う。まあ望みはかなり薄そうだが。

 あ、それと夜食は食べ忘れました。作らせといて食べないとか最低だな、全く……。



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