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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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地下の礼拝堂

 三日後、遂に僕らは邪神教団の本拠地へと足を踏み入れた。

 冒険者ギルド所有の若干寂れた倉庫、その中にあった地下へと続く階段を下り、現れたのはまるで神殿みたいな荘厳かつ広大な地下空間。でも地下という事もあり窓が一切無く、灯りは主に燭台の灯のみ。そのせいで所々に影や闇が満ちてて、せっかくの神殿っぽい荘厳な雰囲気がちょっと邪悪に感じるね?

 まあ何はともあれ、僕らは無事に邪神教団の本拠地へと潜入。これで情報は調べ放題だ。とはいえちゃんと信徒の一人を演じないとね。わざわざ練習とかもしたんだし。

 そんなわけで、礼拝堂みたいな場所で行われる本日の祈りに参加したんだけど――


「あー、これは間違いなく邪教ですわ……」


 思わずそんな呟きが零れるくらいには、正に邪教って感じの光景が広がってたよ。

 いや、礼拝堂の雰囲気とかは意外と普通だったよ? 邪神を象った大きな石像や祭壇があるのは問題無いしね。数十人くらいいる信徒たちも、みんな普通の格好してて怪しい所は一切無い。

 ただ、祭壇の周りに集った八人、司祭以上の奴らがねぇ……皆フルフェイスの怪しい仮面を着けて顔を隠し、黒白のローブを身体に纏って個人情報を一切晒さないようにしてるんだわ。そのせいで一目で怪しい集団だって分かるね? そもそも信徒たちは専用のローブとかも無く、私服とか仕事着とかの至って普通の格好なのに。


「――皆さん、今日はとてもめでたい日です。邪神様を崇める同胞が新たに三人加わりました。さあ新たなる同胞たちよ、前へ出なさい」


 その中でも一番豪華なローブを身に着け、一番怪しい仮面を装着した人物が僕らに声をかける。明らかに人骨を使った感じの禍々しい錫杖的な物を手にしながらね。何かこれから生贄にされるみたいな空気でやだなぁ?

 とはいえここで逆らう意味も無いし、僕はセレスとリアを引き連れてソイツの下へ向かいました。脚の悪さを演出するため、これ見よがしに引きずりながらね。通してください、僕はとっても弱い魔獣族です。


「はじめまして、新たな同胞たちよ。私は邪神教団の教皇にして、邪神様より祝福を賜った使徒――フェブルアリオスと言います。以後、お見知りおきを」


 はえー、教皇様だったんだ。クソ怪しい邪教のトップが名乗って良い肩書きじゃなくない? 名前も絶対偽名だろうし。

 ていうか僕はこんな奴に祝福なんて授けた覚えは無いよ? 何で勝手に祝福を賜ったとか、邪神の使徒だとか名乗ってるわけ? 早速上の奴らの腐り加減が露呈して来たな?


「邪神様の祝福を……それは素晴らしいですね。教皇様は邪神様に多大なご期待を寄せられているのですね?」

「ええ、その通りです。私は邪神様に愛されているのです。そして邪神様はより強大な力を手に入れるため、忠実なる信徒を増やす事を命じられました。私は邪神様のため、この邪神教団を作り上げたのです」

「むぅ……」


 一応確認してみると、教皇は逆にこっちが恥ずかしくなるくらいの妄言で更に恥を上塗りする。この時点で教皇は私利私欲のために邪神の名を騙ってるのが確定なので、抹殺決定です。

 だからそんなちょっと妬いてるみたいな反応するのはやめようね、セレス。僕はこんな奴愛した覚えは無いから。それコイツが勝手に言ってるだけだから。今は邪神教団の信徒として振舞わないといけないから。


「ああ! 邪神様より祝福を賜ったお方に拝謁できるとは、光栄の至りでございます!」


 とりあえず若干おかしな様子のセレスを誤魔化すためにも、心からの感動を覚えたような反応を装う。本当は僕がその邪神様なんだけどね。今は仮面してないからおかしさに緩みそうになる表情を引き締めるのが大変だったよ。


「ふふっ、そこまで畏まる事はありませんよ。我々は皆等しく、邪神様を崇める家族なのですから」


 邪神の寵愛を受けてると豪語するだけあって自己承認欲求は強いみたいで、どこか満足気な答えを返してくる教皇様。

 皆等しく家族とか言ってるけど、お前らだけ仮面被って身分とか姿とか隠してるじゃんよ。それで家族とかちゃんちゃらおかしいわ。必死に耐えてるのに笑わそうとするのやめてくれない?


「さて。それでは次は私を補佐する司教の紹介と行きましょうか」


 僕の内心の動揺(必死に笑いを堪える事)には全く気付かず、教皇様は上の役職から紹介を始める。しかしもちろん名前や個人情報は明かさず、役職名だけ明かすという徹底ぶり。

 これあれだな? 邪神の名を騙り私腹を肥やす詐欺集団だな? トゥーラがさっさと抜けるのもやむなしだ。この僕を崇めるとてもお利口さんな宗教だと思ったのに、期待を裏切りやがって……。





「――さて、今回は新たな同胞たちがおりますので、邪神様に祈りを捧げる前に基本に立ち返る事としましょう。我らが邪神教団、その成り立ちと教義について」


 役職持ちの人たちの紹介が住んだ後、僕らは有象無象の信徒たちと同じ場所に戻された。そうして始まるのは邪神様へのお祈りだけど、今回は僕らっていう新入りがいるから成り立ちや教義も教えてくれるっぽい。調べる必要が無くなって助かるね? まあ嫌な予感しかしないんだが?


「皆さんもご存じの通り、およそ三年前のあの日、この世界に邪神クレイズ様が降臨なされました。あのお方はこの世界に生きとし生ける者たちを全て滅ぼすと仰っていましたが、実はそれは正確ではありません。あのお方は生きるに値しない者たちのみを滅ぼし、選ばれた者たちのみが生存を許される新世界を作るおつもりなのです。邪神様に選ばれた私は、その計画を直接ご教授いただきました」

「えっ?」


 またしても心当たりのない事をさも当然のように語られたせいで、思わず疑問の声が口から漏れちゃう。百歩譲って生きるに値しない者たちを滅ぼすっていうのが正しいとしても、それをお前に話した覚えは無いよ? よくもまあある事ない事をぺらぺら語れるもんだ。邪神、いっそ尊敬したくなるよ。


「おや、何かご質問がおありですか?」

「まさか教皇様は、直接邪神様にお会いした事があるのですか?」

「ええ、もちろんです。私は邪神様の下僕の一人ですからね。表で活動する下僕たちとはまた違いますが」

「おお、何て素晴らしい。邪神様の寵愛を頂けるなんて……!」


 そして嘘を嘘で塗り固めるっていう、クソ愚かしいムーブ。吹き出しそうになった僕は拝むように頭を下げ、笑いそうになるのを必死に隠しました。

 こんな怪しい詐欺集団を運営してる下僕は知らないなぁ? 確かに犯罪を働く下僕は大勢いるっていうか、ほぼ全員がアウトローって感じなんだけど、詐欺なんてみみっちい事する奴はいねぇんだわ。


「あなたも信仰に身を捧げれば、いずれ邪神様に目をかけて頂けますよ。さて、話を続けましょう。邪神様が認める者とは、すなわち己に従い敬う敬虔な魔獣族です。邪神様が聖人族だけではなく魔獣族をも虐殺するのは、我らの信仰を試しているのです。決して心乱さず、邪神様へ曇り無き忠誠を誓えるかどうかを」


 スゲェ……良くもそんな真っ赤な嘘がスラスラ出て来るな? 別に僕は魔獣族だけを助けるなんて気は微塵も無いよ? 種族問わず見込みある奴らだけだよ、助けるのは。

 それなのに伝え聞いたように嘘八百を並べ立てるこの厚顔無恥加減よ。邪神もマジで感心しちゃうね? 面の皮が厚すぎて実はその仮面が素顔なんじゃないかって思えるくらいだ。

 

「私はそんな敬虔な者たちを集めるために、この邪神教団を作り上げました。ここに集う皆さんは、邪神様が作り出す新世界の住人に相応しい者たちです。しかし未だ信仰が足りません。より深く、邪神様に全てを捧げ、認めて頂けるように切磋琢磨していきましょう」


 何か恥ずかしくなってくるくらいの事を言い放ってから、教皇はこちらに背を向け祭壇に向き直る。そうして跪き錫杖を掲げ、まるで祈りを捧げるみたいに頭を垂れる。見れば周囲の信徒たちや司祭以上の役職持ちも同じように跪いてたから、僕らも慌てて続きました。


「一つ。邪神様は偉大なり。邪神様を崇め、祈りを捧げよ」

「一つ。邪神様は偉大なり。邪神様を崇め、祈りを捧げよ」


 教皇が呟いた途端、その場の全員が復唱する。当然僕らも続いたよ。何かそういうノリだったしね。これクソ寒いとか言っちゃいけない感じ?


「二つ。邪神様の力の源たる、悪感情を捧げよ」

「二つ。邪神様の力の源たる、悪感情を捧げよ」

「三つ。邪神様がもたらす新世界を受け入れよ」

「三つ。邪神様がもたらす新世界を受け入れよ」


 そうして並べ立てられるのは、一見本当に邪神を崇めてるみたいな言葉の数々。

 でも最初に嘘が多すぎたせいで全然駄目だな、これ。真実を知ってる僕には完全に詐欺集団にしか思えないよ。まあ無知な奴らを引っかけるには十分って感じか?


「これこそが我ら邪神教団の掲げる教義です。とてもシンプルでしょう? さあ、あなた方も邪神様に祈りを捧げてください。<デウス・ティメーレ>」

「<デウス・ティメーレ>」


 そして祈りの最後を謎の聖句で締める。

 うーん、やっぱこの邪教は滅ぼさないと駄目だな? 邪神の名前を使って好き勝手するとか絶対許せんしね。あと見せしめとしてなるべく派手に滅ぼさないと、同じような事する奴らが大勢出て来そうだ。


「さあ、これで今回の祈りは終了です。ここからは信徒の皆さんで親交を深めあうとよろしいでしょう。それでは私たちはこれで」

「お疲れさまでした、教皇様」


 信徒たちに見送られ、教皇以下の役職持ちが退場していく。

 信徒の皆さんで親交を深めあう、かぁ。だったらまずは信徒の方から使えそうな奴がいないか探っていくかな。上の奴らは何か期待できなさそうだし……。


「――ああ、そうだ。忘れる所でした。五日後に儀式を執り行いますので、新たな同胞の皆さんは是非ともご参加くださいね?」

「儀式、ですか?」


 なんて考えてたら、途中で足を止めた教皇が念を押すようにそう口にしてきた。

 邪教の儀式、か。話を聞く限りだとトゥーラはこの儀式で教団を完全に見限ったっぽいんだよね。ネタバレが嫌だから詳しくは聞かなかったけど、何となくどんな儀式かは想像つく。邪神に悪感情を捧げる事を教義にしてるってところからもうね……。


「ええ。簡易な祈りではない、邪神様へ供物を捧げるための大切な儀式です。それに今回は活きの良い供物が手に入った上、新たな同胞たちまで迎えられたのです。普段よりも盛大に執り行いますよ」


 教皇は仮面越しの声でも分かるくらい上機嫌に語る。

 活きの良い供物、ね。これはヤベェ事しそうな儀式だなぁ。もう今すぐ教団滅ぼして乗っ取った方が良いかもしれないな? でもどれだけヤベェ儀式なのかちょっと好奇心出てきた自分がいる……。


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