邪教潜入メンバー
邪神教団への潜入――つまり邪悪な宗教団体へ入信して情報収集を行う事に決めた僕。しかし一人で行くのはさすがに寂しい。幸い僕には仲間がそれなりにいるから、一緒に行ってくれる人を募ったんだけど……。
『邪神の姿ならば毎日見ているのだから、興味など無いよ。そもそも君は崇めたくなるような存在でもない』
『あたしはパス。猫被らなきゃいけなさそうだから面倒くせぇ』
『我も遠慮しておく。別段興味も無いからな。それよりもトオルに死体の素晴らしさを伝えるためのプレゼンの資料を作らなければ……』
『そんな事より知ってる? 今この街に<翠の英雄>が来てるらしいんだよ。探し出して一勝負挑んでくるよ! 我が雷霆の前に沈むが良い……!』
『俺はこのアホの首輪を引く仕事があるからパスだ』
『私は周辺の街や村の依頼片付けてるから、諸々済んだら教えて』
『私はメイドの仕事があるから遠慮するぞ。庭の手入れもしないとせっかくの美しい景観が台無しだからな』
ものの見事に皆さんやる気なし! 一緒に行こうって誘ってもついてきやしねぇ!
しかもレーンとかなかなか酷い事言ってるし。救世主である僕を何故崇めたくならない? この点だけは邪神教団の方々は賢明っていうか、分かってる感じだよね。
あとさり気無くニアミスしてる勇者と英雄がいますね、これ。まあ出来れば僕の目がある時に遭遇して欲しいから、今はこの方が有難いか。
「イカれたメンバー……じゃなくて、教団潜入メンバーを紹介するぜ!」
というわけでほぼ全滅だったけど、奇跡的に二つ返事で引き受けてくれた奴が何人かいた。だから僕はそいつらと一緒に邪神教団に潜入する事にして、作戦会議のために部屋の広いベッドで車座になって膝を突き合わせたよ。ちょっとテンション高めなのは全員に拒否されなかった事が嬉しくてね……。
「一人目! 恋する気持ちは無限大! あなたと一緒なら地獄にも堕ちます! 恋する乙女、セレス!」
「もちろん一緒にならどこまでも堕ちるけど、出来れば二人きりが良かったなぁ……なんてね!」
一人目はセレス。何かヤンデレ風味な事口走ってるけど、二つ返事で引き受けてくれた良い子だ。こんな良い子がヤンデレなわけないよなぁ? えっ、ストーカーとかしてたやべぇ子? そんな事は忘れちゃったなー。
「二人目! ちっこい身体に大いなる闇! たまには一緒に行動したいから連れてって! ロリサキュバス、リア!」
「わーいっ! ご主人様といっしょー!」
二人目はリア。最近忙しくて一緒に行動する事が少なかったから、こっちも二つ返事で引き受けてくれたよ。嬉しさに舞い上がってベッドでポンポン跳ねてらっしゃる。
「そして三人目! 世界を平和に導く救世主! 超絶無敵で強く賢くカッコいい僕!」
「クルスくん最高!」
「ご主人様カッコいいー!」
そして潜入の要である僕。テンション上がってて変な事口走ったけど、セレスもリアもノリ良く褒め称えてくれました。二人の優しさにちょっと涙出そう。これがキラとかレーンなら絶対淡白な反応するだろ。あの裏切り者共め!
「以上、三名! この三人で邪神教団に潜入します! はい、拍手!」
「わー!」
「ぱちぱちぱちー!」
「いやいや! いやいやいや!? ちょっと待ってくれ主! 何故私がメンバーに含まれていないんだ~!?」
なんて二人と共に拍手喝采してたら、トゥーラが鬼気迫る表情で顔を寄せてくる。
そう、紹介が三人までな事から分かる通り、コイツはお留守番だ。本人は一緒に行きたいって言ってたけど、色々考えた結果連れてくのは止めにしたんだ。もしも同行者が一人もいなかったら涙を呑んで連れてく所だったが。リアとセレスがいてマジで良かった。
「いやそりゃそうでしょ。脱退しておきながら何で当然のような顔で戻る気満々なんだよ。司祭の一人を半殺しにしておいてよぉ……」
「リア知ってるよ! こういうのは厚顔無恥って言うんだよね!」
「リアちゃん賢いね? そうだよ、後は恥知らずでも正解かな?」
「教団の事なら良く知っているから、きっと主のお役に立てるよ~!? それに顔が割れてても主の魔法でどうとでもなるじゃないか~! 一緒に連れて行って欲しいんだよ~!」
その場でぐるぐると回った挙句、涙目で僕の服を掴んでグイグイ引っ張るトゥーラ。散歩に行きたがる犬かな?
「ぶっちゃけほんの一週間程度入信しただけの奴とか、あんまり役に立たないし別に良いかな。そもそも話はすでに色々聞いたし、自分の目で諸々確かめるつもりだからむしろ情報少ない方が楽しめそうなんだよ。あとお前を連れて行かないのは罰も兼ねてる」
「そ、そんな~っ!? 私が一体何をしたというんだ――んあぁっ!」
全く以てやらかしを自覚してないトゥーラに対し、僕は容赦なく平手打ちを放つ。パァンって小気味良い音が鳴ってベッドに倒れ伏すトゥーラだけど、トオルと違って表情は幸せそうで悲鳴も何かイった感じでしたよ。このクソドMがよぉ……。
「勝手に本名と素顔で怪しげな集団に入った癖に、何もしてねぇと抜かすかこのクソ犬は。邪教に個人情報握られてんだぞ? もしも向こうがお前の情報流したらどうすんだよ、このすっとこどっこい」
「あっ、あっ! あ~っ!」
喜ぶだけなのは分かってるけど、何度も顔を踏みつけたり尻を蹴り飛ばす。
実際これってわりと致命的だよね。名前も顔も住所も割れてるってだけでも散々なのに、邪教に入信したって事実まであるんだぜ? 下手するとこの屋敷にも邪教が攻めてくる危険性があるよ。邪神の本拠地なのにね?
あと邪教に入信したって事実をバラされたら、トゥーラは投獄か処刑待ったなしだ。まあこっちに関しては自爆技みたいなものだから、向こうも早々やらないだろう。
「トゥーちゃん、何か嬉しそう……」
「クルスくんに足蹴に……ちょっと羨ましいかも……」
案の定良い笑顔で喜悦の喘ぎを零すトゥーラに、リアはちょっと引き気味の反応だ。セレスに関しては……まあ、特に何もコメントはしないよ。強いて言うなら羨望の眼差しをやめろ。
「というわけで、お前の大馬鹿を隠蔽する必要もあるから、その手間だけで手いっぱいだ。お前は留守番、分かったな?」
「くぅ~ん……」
ひとしきりお仕置きした後、強く言い聞かせる。途端にトゥーラはベッドにうつ伏せに沈み、怒られた犬そのものの反応を示す。何だかんだ犬って自分が怒られてる事ちゃんと理解するんだよね。お利口さんだが、コイツにその言葉が相応しいかは意見が分かれる所だ。
「やーい、怒られてやんのー!」
「くあ~っ! 小娘ぇ~っ!」
「はーい、セレスも煽らない。まあ一応邪神教団の情報を知れた事は大きいから、失態と相殺してプラマイゼロって感じだしね。この話はここまでだ」
「あれ? それじゃあどうしてトゥーちゃんをけりけりしたの?」
「よし! それじゃあ邪神教団への潜入方法について説明するぞー!」
リアの素朴な疑問はスルーして、軽く手を打ち鳴らし作戦会議に移る。
えっ、マジでプラマイゼロなら何でトゥーラを蹴ったのかって? 良いじゃん、別に。アイツ喜んでたし。
「潜入方法は至って単純。僕らが適当な一般人に扮して入信するんだ。素の顔や名前だとちょっと調べれば簡単に分かっちゃうしね。この馬鹿との関係性とか」
「くぅ~ん……」
トゥーラの頭をポンポン叩いて示しつつ、その潜入方法を説明する。
色々考えたけど、やっぱり潜入方法はこれしかない。素の顔だと住んでる場所も特定できちゃうし、そこからトゥーラとの関連が疑われるのが一番大きな要因だ。あと僕ら一応冒険者だし、スパイか何かかと疑われて警戒されそうだからね。いや、実際スパイなんだけどさ。
ただこの方法だと存在しない人間として突然現れる事になるから、その辺をいかに誤魔化すかが大事だよね。まあすでに滅びた小さい集落出身って設定にするのが無難かな。幾つもエクス・マキナでぶっ潰したし使えそうな所はある。
「それじゃあクルスくんの魔法で別人に変身した状態で潜入するんだね。あ、関係性とかどうなるのかな? あたしたちは他人同士? それとも家族?」
「その辺まではまだ決めてないね。これから詰めて行こうって思ってる所」
「じゃああたしから提案! あたしとクルスくんは夫婦で、リアちゃんが一人娘っていう関係はどうかな!?」
「ぬぐあ~っ!?」
セレスが笑顔で提案し、トゥーラが血を吐いたみたいな悲鳴を上げる。
うーん、そう来たか。家族で邪教に入信ってマジ? いやでもアリっちゃアリか。貧しかったり差別されてて酷い暮らしをしてる家族って設定なら、家族丸ごとの入信もおかしくはない。それにその設定なら教団側も警戒は薄くなるはずだし良い事づくめだね。この方向で設定を詰めていくか?
「リアが娘なの? じゃあご主人様とセレスちゃんの事、パパとママって呼んだ方が良い?」
「ほう……」
「っ……!」
「ぐげぇ~っ!!」
キョトンとした様子でなかなか破壊力の高い言葉を口走るリア。僕ですら悪くないと感じたんだから、他の二人への破壊力は推して知るべし。セレスはキュンと来たように胸を抑え息を呑み、トゥーラは自分が呼ばれたわけじゃないからか脳が破壊されたような悲鳴を上げる。
「リアちゃん、リアちゃん! もう一回、もう一回あたしの事をママって呼んでみて!」
「ママ?」
「さ、最高っ……!」
「~~っ!!」
恍惚とした笑みを零しトリップするセレスと、精神崩壊でもしたのかって感じのヤベェ表情で悲鳴すら無く悶絶するトゥーラ。
見てる分には面白いが、マジでトゥーラの反応がちょっとヤバいな? いや、リアにママって呼ばせてうっとりしてるセレスも大概か。どっちもヤバくて嫌になっちゃうな? 何か今回立候補してくれたメンバー、そういう方向でヤバい奴しかいなくね?