表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
511/527

身近な信徒

「むふふ~♪」


 僕の膝の上でごろごろしつつ、満足気な笑いを零すトゥーラ。

 邪神教団の情報を知ってるばかりか、実はその信者である事を暴露したのはお昼の事。今は夜も更け後は寝るだけって時間なのに、未だに僕はその情報を教えて貰ってない。何故かというと、コイツが情報を出汁にして色々と役得を求めてくるせい。だから嫌々膝枕して頭を撫でてやってんだよ。ちくしょうこの野郎、足元見やがって。


「……そろそろ良いだろ? 早く邪神教団について教えろ」

「しょうがないな~。た~だ~し、話が終わった後はよろしく頼むよ~?」

「チッ……」


 ようやく話すつもりになったトゥーラだけど、膝枕から離れる気は欠片も無いっぽい。挙句また後で色々する事を約束させられてるっていう……何かこのクソ犬の手玉に取られてるみたいで腹立つなぁ? かといってこの怒りをぶつけてもコイツが喜ぶだけだし、本当にマゾは無敵で困る。


「そんで? 何でお前が邪神教団とかいう怪しげな宗教の一員になってるわけ? ご神体がここにいるだろ」

「まあそれはそうなんだが、主を崇める宗教に私が入っていないというのは何だか不忠な気がしてさ~。後は何か悔しい気持ちがあったからね~」

「面倒臭いファンみたいな思考してるな、お前……」


 認めるのは癪だけど邪神の寵愛を得てる癖に、何故か下々の者が生み出した邪神教団に入ってるとか訳分からん。関連するグッズは全て集めなきゃ気が済まない過激派ファンか?


「そもそも何故にいち早く情報をゲットしてる? 魔王たちですら碌に情報掴めて無かったのに」

「これでも私は元敏腕ギルドマスターだよ~? その座を辞した後でも、それなりの情報網は残っているのさ~」

「それが何よりも信じ難い情報なんすけどね」


 コイツが敏腕ギルドマスターっていうのが最も信じられない事だけど、納得せざるを得ないのが悲しい所。実際実力を計ってある程度高いランクから冒険者を始める事が出来るギルドは、コイツの所と他に二、三個くらいしか無かったからね。

 何で知ってるのかというと、認めたくない気持ちで探してみたから。結果的には余計に有能さと柔軟さが際立つ事になって腹立ちました。


「まあ厳密に言うと、今回は向こうが接触してきたんだけどね~? 私が仰ぐべき主を探していた事は一部の者たちには公然の秘密だったから、一緒に邪神を崇めようと誘いをかけてきたのさ~。『あなたの今の主よりも素晴らしい、力に満ち溢れた輝かしいお方だから』と言われた時は、どう反応したものかさすがに悩んだよ~……」

「そりゃあどっちも僕だからなぁ……」


 トゥーラ的には主たる僕を貶されたのは怒髪天を突くって感じだったのかもしれないけど、新たな主としてオススメされたのも僕だから怒るに怒れなかったんだろう。これは反応に困るのも無理は無いな?

 ていうかそんな一緒に遊びに行く感覚で邪教に誘うとか、そいつ相当イカれてますね……。


「というわけで、友の紹介もあって無事邪神教団に入信する事が出来たわけさ~。あ、これが信者の証明だよ~」

「ふぅん……?」


 トゥーラはベッドに寝転がり僕の膝枕を堪能したまま、右手を宙に掲げる。その薬指には見慣れぬ指輪が嵌ってて、宝石の代わりに小さなエンブレムみたいな感じのものが飾られてるタイプだった。

 よくよく見るとその部分、複数の歯車で白い翼と黒い翼を象ったみたいなデザインだな? なるほど、邪神を崇めてるって印か。ギリギリオシャレで誤魔化せなくもない。


「まあ、事情は分かったよ。それで僕が仮面の従者として頑張ってる間、お前は邪神を崇める宗教で楽しくやってたわけだ」

「あ、私はもう抜けてきたよ~。思ったような高尚な団体じゃなかったからねぇ~……」

「そうなの? ていうかそんな簡単に抜けられるの?」

「ハッハッハ~ッ。最後に物を言うのは暴力さ~」

「円満退社じゃなさそうですね、これ……」


 簡単に抜けられなかったから拳で抵抗してきた感じかな、これは。正直暴れるコイツをどうにか出来る奴があんまり思い浮かばないぞ。まあ説得(物理)で平穏に脱退できたと思いたい。


「それで、他に何が聞きたいんだい主~?」

「そうだねぇ……僕がその邪神教団に潜入する事って出来るかな?」

「……主が、主を崇める教団に入信するのか~い?」


 さすがにこの問いには、トゥーラもお膝の上で目をぱちくりさせる。

 まあそれもそうか。ナルシストの極みみたいな事になってるもんな。別にそんなつもりは無いけど。


「うん、何か間違ってるよね。でも一応自分の目でも見ておきたくてさ。もしかしたら好き好んで邪神の手駒になってくれる奴らがいるかもしれないし、そういう奴らは確保したいなって」


 潜入したいのは、信者たちを都合の良い手駒に出来そうな可能性があるから。邪神を崇めてるんだから邪神の命令には従ってくれそうな気がするじゃん? とはいえそれはさすがに期待し過ぎな気もするし、仮にそういう奴らがいたとしても全員では無いと思う。だからこそ適当な手駒を見繕うためにも、自分で潜入して確かめに行きたいなって。


「ん~、確かに下っ端にはそういう奴らもいるかな~? 上の方は腐りきっていたが~……」


 トゥーラの口振りからすると、望みは意外とあるみたいだ。ただ上の方が腐りきってるって呟きはちょっと不安だね? どこの宗教でも似たようなものとまではさすがに言わなけど、まあ上が腐りやすいのは宗教に限らずどんな組織でも同じか。


「多少面倒かもだが、主が教団に入信する事は可能だよ~。今は紹介制だから、私が覚えている信者にあの手この手で言う事を聞かせれば良いのさ~」

「なるほどねぇ。じゃあ後で適当な信者の情報をよろしく」

「りょうか~い! 他に聞きたい事は無いか~い?」

「んー、それじゃあ――」


 僕は膝の上でゴロゴロするトゥーラから、とりあえず聞き出せるだけ邪神教団の情報を聞き出していった。とはいえネタバレは好きじゃないし、核心に迫るような情報はあえて聞かなかったけどね。どうせ潜入するなら自分の目で確かめたいじゃん?






「ふむふむ。大体の事は分かったな」


 十数分後、ある程度情報を引き出した僕は潜入に関しての事を考えながら頷いた。

 ネタバレが嫌だからうっすらとしか聞いてないが、どうにも邪教って表現が間違ってない組織っぽいですね。少なくとも真面目に邪神を崇め奉る高尚な組織では無さそう。邪神ちょっとがっかりだよ。

 しかし潜入するのは良いとしても、さすがに一人じゃ寂しいよなぁ。出来れば何人か連れて行きたい。邪教潜入とかいう怪しげなスパイ活動についてきてくれる奴はいるだろうか。


「後はこの目と耳で、実際にどんなもんか確かめに行くか。魔王のせいで疲れたから三日くらいしたらね」

「その時は私も一緒に行って良いか~い? 色々とその場で説明も出来るし、役に立つよ~?」


 同行者に悩んでた所、トゥーラが尻尾振って瞳を輝かせながら立候補する。

 でもなぁ……コイツを同行させるのはちょっと嫌かなぁ? 何かうるさそうだし、色々直前でネタバレ食らいそうな気もする。何より同行させたらさせたでまた何か変なご褒美を要求してきそうだ。


「それに関しては追々考えるよ。ていうかお前、教団に戻れるの?」

「ん~、まあこの姿では無理かな~。司祭の一人を半殺しにしたからね~」


 やっぱり説得(物理)してますね、この人……邪神教団の司祭も、まさかガチの狂信者に襲われるとは思わなかっただろうなぁ。見た目だけなら朗らかで天真爛漫な美少女だからな、コイツ。喋ると途端に台無しだが。


「それよりも主~? お話はしたんだから、そろそろ――」

「おっと、もうこんな時間じゃないか! じゃあそういう事で! バイビー!」

「お~っと! 逃がさないよ、主~? ちゃんと約束を果たしてくれないと駄目じゃないか~!」

「チッ! クソがぁ!」


 ねだるように甘えた声を出し始めたトゥーラに対し、僕は全力で身を翻し部屋から逃げようと試みる。しかし両脚でがっちりと胴をホールドされ、そのままフランケンシュタイナー染みた投げ技で以てベッドに戻されてしまう。ちくしょう、無駄に高度な技を使いやがって!


「さあさあ、主~? 早く早く~?」


 そしてトゥーラは四つん這いですり寄ってきて、尻尾をフリフリしながら期待に瞳を輝かせる。とんでもない投げ技かました後にこれですよ。温度差にゲロ吐きそう。まあ一番吐きそうなのはこれからしなきゃいけない事の方なんですが?


「……全く。わがままだなぁ、トゥーラは? でもそんな所も可愛くて、とっても愛おしいよ」

「くぅ~ん♪」


 心底嫌だが約束は約束なので、精一杯トゥーラを可愛い女子扱いして甘い言葉を投げかけた。顎をくいっと持ち上げて、瞳を覗き込む感じでね。

 お察しの通り、これが情報提供の見返りに求められた事だ。要するにたまには甘く優しく丁寧に愛して欲しいってさ。ミニスちゃんにやるみたいにね。マジで何やってんだろ、僕……。


「さあ、おいで。僕の愛しい子犬ちゃん。今夜は思いっきり可愛がってあげるよ」

「ワゥ~ン♡」


 喉元までせり上がる吐き気を堪えつつそう囁くと、途端にトゥーラはメロメロになり僕の胸に飛び込んできた。あー、チクショウ。気まぐれで自分からやるのは良いとしても、向こうからこういうのを求められるのは何かムカつく……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ