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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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<無明疾走せし迅雷餓狼>

⋇そろそろ異名を考えるのが面倒になってきました


「――我が名は栗栖(くりす)十織(とおる)! 稲妻を友とする<雷光の勇者>なり! しかしそれはかつての称号、邪神の祝福を賜った我はより素晴らしき存在へ新生した! 今の我は<無明疾走せし迅雷餓狼>!」


 無駄にキレのあるポーズを幾度も交えながら、トオルが実に濃厚な自己紹介を進める。

 昼時になって再度勇者二人を呼び出したら、今度は二人共生きてた。だから自己紹介を促したら途端にこれだよ。未知のノリと謎の動きに、ミニスちゃんがぽかんとしていらっしゃる。

 これはとりあえずお約束として引っ叩かないとな。凄い得意げな顔も腹立つし。


「我が名を畏れ、敬うが良い! ハーッハッハッ――させるか! フラッシュターイムっ!」


 タイミングを見計らって平手打ちを放った瞬間、トオルが妙な叫びを上げて余裕綽々で僕の平手打ちを回避した。何だお前、避けて良いと思ってるのか?

 凄いムカつく反応に即座に己の時間を加速すると、何やらトオルの身体からバチバチと周囲に稲妻が迸っているのが目に入るし、避けた平手をゆっくりとだが目で追ってるのが見受けられる。まるでフ●ッシュの動きを捉えるスーパー●ンみたいだぁ……。

 これは恐らく、電気を操る力で以て己の反応速度や動体視力などを極限までクロックアップしてるんだろうね。そんな超絶技巧を突っ込みのビンタ避けるために使うか? 本当にアホだなぁ……。


「――えふっ!!」


 まあ感心と呆れも一瞬で、容赦なく追撃のビンタを放ちトオルに膝をつかせました。

 やってる事は凄いんだろうけど、トオルの能力的に雷速が限界値だろうからね。こっちは時間を弄れるので速度勝負は無意味なんだわ。でも初撃を躱した事自体は褒めてやるよ。


「……何で当然みたいに私より速いの?」

「何でって言われてもなぁ。お前が遅いだけなんじゃない?」

「わたし、かみなりなのに……ぐすっ」


 そして安定の乙女みたいにくずおれた状態でのめそめそ。本当に躁鬱激しいよな、コイツ。もしかして凄惨な体験の影響が多少なりとも精神に出てるんだろうか。二重人格って言っても一つの脳に二つの人格が同居してるわけだし、可能性は結構ありそうだよね。


「えーっと……トオル、で良いのよね? 私はミニス。よろしく」


 変人や異常者に慣れてるミニスはすぐに自分を取り戻したみたいで、泣き濡れるアホにわざわざしゃがんで視線を合わせて挨拶してたよ。その気遣いの百分の一でも良いから僕に向けてくれない?


「うん、よろしく! ウサギ娘二人目だね。ちょっと目付き悪いけど、これもなかなか味があって良いかも。ぐへへ……」


 アホの子は即座に元気を取り戻し、ミニスと妙にぬるりとした握手を交わす。さっきまでめそめそしてたのにこれだよ。ニチャニチャとした笑みにさしものミニスちゃんも困ってるっていうか、ちょっと引いてる感じだ。


「あんた目付きが怖いんだけど? 何その気持ち悪い笑い……」

「コイツ男より女が好きっぽいから、食われないように気を付けてね」

「あっ、そういう……」


 その事実を教えてあげると、途端にミニスは得心がいったように頷く。

 でも蔑みとか侮蔑とかそういう感情を向けはしなかったよ。若干複雑な表情をしてはいるけど、別段性的マイノリティーに対する差別感情は無いみたいだね。まあ死体愛好に比べれば遥かにマシか。


「……で、こっちの人も勇者なわけ?」

「ああ、『元』だけどな。俺の名は東昭(とうしょう)(りゅう)。よろしくな」

「あ、うん……よろしく……」


 そして今度はリュウと握手。女へのトラウマをより強い恐怖で塗り潰されたおかげか、リュウは極めて普通の対応してるね。あまりにも普通過ぎるせいか逆にミニスちゃんが警戒してるよ。


「何か固いな。もしかして俺の事苦手なのか?」

「いや、これまでの経験からして、まともに見えても何かヤバい所あるんだろうなって……」

「コイツはお人形さんが性的に大好きな変態だぞ」

「うわっ……」


 こっそり教えてあげると、ミニスちゃんははっきりと嫌そうな顔をする。僕の言い方に問題があったような気がしないでもないが。


「……いや、でも死体とかに比べればマシじゃない?」

「そこで比較対象に死体愛好家を持ち出す時点で、君もだいぶ毒されてるよ」

「うげっ、最悪……」


 そして今度は自分の感性や思考が毒されている事を僕に指摘され、絶望の面持ちで沈む。

 しかし僕の屋敷もかつてないほど混沌としてきたよね。猟奇殺人鬼にSM両刀の変態、拷問大好きカップルに死体愛好家、果ては百合で二重人格と人形偏愛か。いつからこの屋敷は精神病院になったんだろうね?


「まあとにもかくにも、これが新しい仲間たちだ。今のところ特に仕事らしい仕事も無いし、普段は冒険者として活動させてるよ。そこそこ強い方だしね」

「へー、コイツがそこまで言うって事は相当強そうね。だったら私とも会う事があるかもしれないわね。今私はコイツの魔法で別の姿――むぐっ!?」

「というわけで、二人共よろしくね。この子はちょっと仕事があってあまり屋敷にはいないけど」

「よろしくするのは別に良いんだが、お前何で口塞いでんだよ」

「まあまあ、そこは気にしない気にしない」


 ミニスがさり気なくニアに触れそうな話題を口にしかけたから、背後に回り羽交い絞めし、口を塞いで強引に黙らせる。足が宙に浮くせいかじたばたしてるけど、これくらい軽いスキンシップだよな!


「ふむふむ、おっぱいは控えめですなぁ? あ、でも太腿はすっごい良い感じ!」

「むーっ!? むーっ!!」


 あとこれ幸いとばかりにトオルが身体を撫で回すせいで、ミニスが余計にじたばた暴れ唸り声を上げる件。野郎がやってたなら即ぶっ殺す行為だけど、一応同性の女の子だし別にいっかな。必死に逃れようともがくミニスも可愛いしね。


「何かヤベェ絵面なんだけど、これ止めた方が良い感じか……?」


 人形偏愛である事以外はまともなリュウは、羽交い絞めにされて口を塞がれつつ身体中を愛撫されてるミニスの姿に、若干動揺しながらも止めに入ろうとしてたよ。自分で言うのも何だけど、どう見ても二人がかりでの凌辱一歩手前の光景だもんなぁ……。





「――邪神教団、か。君を崇める宗教が生まれるなど、世も末だね」


 皆で食卓を囲み、お昼の時間。僕が邪神教団についての事を話し終えると、最初にレーンが実に辛口な感想を投げつけてくれたよ。

 ちなみに基本的に昼ごはんは皆自由にさせてるけど、今回は邪神教団のお話があったから仲間を全員集めて一緒にお昼にしてる。席についてるのは僕を含めて合計十人。これでもメイドと執事を除いてる状態なんだから、随分と大所帯になったもんだ。賑やかで毎日の朝食と夕食はパーティみたいだぜ。


「酷い言われようだ。僕は世界を平和にするために身を粉にして働く救世主なんだぞ?」

「そうだよ、クルスくんは頑張ってるんだよ! だからそんなクルスくんを崇める人たちがいるなんて、むしろ感心すべき事じゃないかなぁ?」


 ショックを受けて泣き崩れそうになる僕をフォローするのはセレス。

 何か狂信者みたいな事言ってるけど、まあ実際コイツも信者みたいなものだからね。正体を明かしたら人類を裏切り僕についたわけだし。実はセレスこそ邪神の信徒だった……?


「そうかぁ? 宗教組織なんて絶対碌な物じゃないだろ。地球でもそんな感じだろ?」

「創作だと黒幕な事が多いよね! 後は狂信者の巣窟な事が多い感じ? あんまり良いイメージは湧かないかなぁ」


 などと僕と同じ感想を零すのは、すっかり馴染んでる勇者二人。

 本当は適当に宿で暮らして貰おうとしてたんだけど、屋敷では故郷の料理が出ると知ったら頑として抵抗してきてね。こっちが折れて仕方なく置いてやってるわけよ。今もおにぎりもぐもぐしつつ味噌汁啜ってます。

 日本人だからってそこまで故郷の味を求めるか? って疑問に思う人もいるかもだが、コイツらに関しては故郷の料理が久しぶりっていうか、まず人間的な暮らしが久しぶりだしねぇ……。


「安心しろ。邪神教団とやらがどのような異常者の巣窟であろうと、我らが屋敷の異常性には敵うまい」

「そりゃそうだ。ここよりイカれた奴らが集まった集団とか、逆にお目にかかりたいもんだぜ」


 バールの言葉にキラが同意してゲラゲラ笑う。

 ちなみに何かバールの言い草は自分は違うみたいに聞こえたね。お前もその異常者の一人なんですが? 


「あー……やっぱりこれよ、これ。この素朴な味わいが何だか胸に来るわぁ……!」

「おかわりならたくさんあるぞ。安心して貪り食うが良い」

「はい、ミニスちゃん。あーん」

「あーん」


 そしてミニスちゃんは我関せずとばかりに、皿に山盛りの焼きおにぎりを貪ってる。減ってきたらわんこそばみたいにベルが追加し、時々リアが肉とか野菜とかをあーんしてあげて、一心不乱に食事を進めてるよ。魔王城での暮らしがストレスだったのか、あるいはニアとしての日々が心労だったのか、いずれにせよ早々見られないくらいに頬を緩ませてるなぁ……。


「……まあそういうわけで、邪神教団を色々調べなきゃならんわけよ。潰すにしても利用するにしても、まずは情報を集めないと話にならんからね。誰か良い情報持ってたりしない?」


 邪神教団に関してはニアの出番は恐らく最後になるだろうし、焼きおにぎりを貪り食うウサギは放置して皆に情報を求める。元々このために全員を集めたのもあるしね。

 襲撃者の死体があれば色々情報を得られたんだろうけど、まさか邪神の信奉者とは思ってなかったから死体は全部魔王たちに処理を任せちゃったんだよ。一体くらい手元に残しておけば良かったかな。


「ふむ。残念ながら私は知らないね。バールはどうだい?」

「我はほぼ外出せぬし、情報に触れる機会が圧倒的に少ないからな。すまんが我も知らぬ」

「あたしも聞いた事無いや。力になれなくてごめんね、クルスくん」

「別に良いよ。面倒を省けたら良いなって思いで聞いただけだし」


 レーン、バール、セレスからは情報無し。そもそも期待はあんまりしてなかったしね。特にバールとか地下の屋敷に引きこもって死体と戯れてるだけだもんな。逆に知ってる方がおかしいわ。


「主、主~」

「勇者コンビは……まあ知らないよね」

「まだ活動し始めたばっかりだからな。コイツがそんな情報収集してるとも思えねぇし」

「もう少しでランク上がりそうだよ! 早くクルスも帰ってきて一緒に冒険出かけよう!」


 ここで暮らし始めたばっかりだし、冒険者生活とまともな異世界ライフを謳歌してる奴らだし、勇者コンビは怪しげな集団に拘わるとかまず無いだろうなぁ。ちょっとした病気を患ってるトオルは多少不安だけど、そこはリュウがストッパーになってるはずだし。


「あ~る~じ~」

「キラは……聞くだけ無駄か」

「何も知らね」


 我が道を行く、ってタイプのキラも当然知らない。昔は聖人族の首都に溶け込み暮らしてたのに、今はコミュニケーション能力がだいぶ怪しいからなぁ。無理して溶け込む必要が無くなったからなんだろうけど、邪教徒も抜き身のナイフみたいな奴を誘いたいとは思わないよね。


「はぐはぐ! 次、味噌焼きおにぎりお願い!」

「ミニスちゃん、野菜も食べなきゃダメだよー? はい、あーん」


 リアとミニスは最早聞くまでも無い。やっぱり情報は無いか。いや、もしかしたら執事とメイドたちの誰かが知ってる可能性があるか? それでも情報が無かったらどうしよっかなぁ……。


「あ~る~じ~っ!」

「えぇい、さっきからうっせぇな。何だ、構って欲しいのか? よしよし」

「わふ~……」


 何かさっきからうるさかったトゥーラが遂に耳元で叫んだので、頭をナデナデして煙に巻く。単純で扱いやすいトゥーラはこれだけでうっとりとした表情で尻尾振ってたよ。


「あ、違う! そうじゃないんだよ、主~!」


 しかし不意に自分を取り戻し、自らナデナデから離れる。

 珍しいな、コイツがこういう機会を自分から手放すなんて。もしかして結構真面目な話か?


「主~、私は邪神教団の事を知っているよ~?」

「えっ、嘘ぉ?」


 なんて思ってたらわりとクリティカルな驚きの情報を口にしてきた。これにはちょっと目を丸くしちゃうね?

 嘘だろ、何でお前知ってんだよ。もしかして僕の興味を誘うための駆け引きか? その手には乗らんぞ。


「何ならどこで集会開いてるかも知っているよ~。私も信者の一人だったからね~」

「……マジ?」


 そして二度目の衝撃! オイオイオイ、まさかの信者かよお前。邪神本人がここにいるのに何でそんな怪しい邪教に入ってんだ、この馬鹿は……。


 クソ犬、まさかの発言。

 あとフラッシュタイムと電気を操る力には実は何の関連も無い。そもそも原理が違うので完全にトオルが言い張ってるだけです。

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中二病キャラは話し方も無駄に難しいし、技名のルピも難しそう…
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