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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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英雄ニアVS兵士たち



 魔王城で過ごす日々、その初日。僕らは、というかミニスは城の兵士たちと模擬戦を行いその力を見せつける事となった。そんなわけで広々とした屋内訓練場みたいな場所で兵士たちと顔合わせしたんだけど……。


「何だ、ただのガキじゃねぇか。脅かしやがって」

「どうせ噂に聞く強さってのもフカシだろ。俺らが真実を暴いてやるぜ」

「そんじゃあ街を救った強さってのを見せてくれや、英雄さんよぉ!」


 兵士にガラの悪いのが多すぎる件。こんなん冒険者ギルドで良く見かけるクズと変わらんわ。城門の所にいた奴らは普通にマシな奴らで、しかもニアのファンだったのにこの落差よ。

 まあ冷静に考えると城門って事はつまり魔王城の顔だからね。そこを任されるくらいだし、実力も人格も非の打ちどころのない上澄みの奴らだったのかもしれない。で、大多数は魔王城の兵士っていうエリートみたいな肩書きに酔った奴らって事か。これは強さを見せつけて欲しいっていうメルシレスのお願いにも頷けるな?


「――うわああぁぁぁぁぁっ!?」

「ごめんなさい生意気言いました! 許してください!」

「こ、こんなの夢だ! 悪夢に違いない……!」


 というわけで心が痛みそうに無い事もあり、ミニスは躊躇いなくその力を見せつけてたよ。

 初手で勢い良く地面に足を振り下ろして大激震を引き起こし、ほぼ全ての兵士たちを転ばせ気勢を挫く。そして腕を一振りして生じた風圧と衝撃波で、次から次へとぽんぽん吹き飛ばしてく。

 これをやってるのが身長百三十代のウサミミロリなんだから、兵士たちが絶望の面持ちで現実逃避するのも無理ないわ。正しく化物だもん。幾ら何でも強化し過ぎたか……?


「ねえ、まさかこれで終わりとか言わないわよね? 一応は国の兵士なのよね、あんたら」


 ぶるって腰を抜かしてる兵士たちの中で、ミニスは挑発を――いや、挑発じゃないなこれ。微妙に戸惑いがちの顔してるし、仮にも国の兵士がこれだけで戦意喪失するとは思わなかったんだろうね。もしかして鋼メンタルの自分基準で考えてらっしゃる?


「何とお強く、凛々しいお方……! どうか私と決闘して頂きたい!」

「お、俺とも頼む! いや、お願いします!」

「わ、私とも、お願いします!」


 とはいえクズの中にも少しはまともな奴がいるっぽい。約百人いる兵士の中で数人だけが、逆に戦意高揚させてたよ。心なしか瞳を輝かせてらっしゃる。

 あ、ちなみに城に兵士が百人しかいないわけじゃないよ。屋内訓練場に入る数でなおかつキリの良い数字だったから、百人で一グループってだけ。ちゃんと他にもグループがあって兵士たちもいるし、そいつらも順次締めていくからな!


「へぇ、意外とまともな奴もいるのね。ちょっとだけ見直したわ。でも決闘するには力不足よ。良いから全員でかかってきなさい」


 とはいえサービス精神旺盛なミニスは、ちょっとやる気があるだけの奴らに応えてあげるつもりみたい。棒立ちで堂々としながら、指をクイクイして挑発する。

 腹立つくらい余裕綽々だけど、さっきの理不尽な強さを見せられた後ではそれも相応しいって感じだね。戦意昂る三人だけは全く油断せず、三方向からミニスに襲い掛かった。


「はあっ!」

「とりゃあっ!」

「てぇいっ!」


 吸血鬼男の槍による刺突。悪魔男の剣による斬撃。獣人女のデカいハンマー……ハンマー!? とにかくハンマーによる打撃がミニスを襲う! うわー、絶体絶命だー!


「――悪いけど、そんなんじゃ私に掠り傷一つ負わせられないわね」


 しかしそこは過剰な強化魔法によって半ば化物と化してるミニスちゃん。

 刺突は迫る槍の穂先に馬鹿でかい大剣の切っ先を合わせるっていう、飛んでくる針の穴に糸を通すレベルの繊細な技で受け止める。斬撃は普通に剣を指で挟み止め、真上からの打撃はハンマーをウサミミでふわっと受け止める。


「な、何という……!」

「嘘だろぉ!?」

「す、すごい……!」


 この中の一つでもあり得んレベルの絶技を見せられて、やる気のある三人は絶望どころかむしろ高揚してる感じだった。もしかしてマゾなんですかね? 確かに百人いたら三人くらいはマゾがいそう。


「ふんっ!」


 生まれた一瞬の膠着で、ミニスちゃんは再び足を振り上げ床を思い切り踏みつけた。


「くあっ!?」

「うおおおおぉぉっ!?」

「きゃあっ!?」


 途方も無い衝撃が発生し、三人が吹き飛び訓練場の床が更に陥没し捲れ上がる。

 もうやめて! 訓練場の床のライフはゼロよ! マジでこれ以上それやったら屋内なのに更地になるからね!


「……ほら、残りの奴らもかかってきなさい。それともコイツら以外みんな腰抜けなわけ? 城の兵士って随分レベルが低いのね」


 その場から一歩も動かず強さを存分に見せつけたミニスは、周囲で腰を抜かしてるだけの兵士たちに発破をかける。

 だが悲しいかな。やる気十分の奴らですら敵わず気絶した結果、最早このグループには戦いを挑む勇気のある者は誰もいなかった。駄目だなこりゃ。よし、次のグループに期待しよう!





「ふん! 脳筋共を簡単に倒せても、私たちも同じように倒せると思うな!」

「我々は身体能力に優れているだけでなく、魔法も得意とするエリート中のエリート!」

「貴様のような脳筋など、我らの魔法で容易く屠ってくれるわ!」


 というわけで、次のグループ。順番の整理をしてる僕は、次は魔法が得意なグループを割り当ててみました。さっきの奴らは鎧とかを身に纏った兵士って感じだったけど、こっちはローブ的なのを身に着けた魔法使い的な見た目なのが多い。

 だから物理一辺倒よりはまともな戦いになるかなと期待したんだけど――


「――ば、馬鹿な! ありえないありえないありえない!」

「何故我らの魔法が通用しない!? まともに受けても微動だにしないとはどういう冗談だ!?」

「そうだ、アレはきっと幻影に違いない! だから魔法が通用しないんだ! 本体にさえ当たれば――ぷあぁっ!?」


 まあ結果は残当。百人が距離を取って攻撃魔法をバカスカ打ち込むものの、ミニスちゃんは掠り傷一つ負いません。むしろ淡々と虚空にデコピンを放ち、その風圧と衝撃波で魔法を消し飛ばしつつ遠距離攻撃を行い、十人くらいを同時に仕留めて行く始末。

 もう存在する次元が違うというか、生物としての格が違うというか、とにかく理不尽過ぎるよね。やっぱり大半が腰抜かして現実逃避しちゃってるし。


「<翠の英雄>、その強さに偽り無し! だが負けぬぞ! 食らえっ!」


 でもやっぱり相手が強者だからこそ挑みたい者はいるらしい。一人の魔獣族が両手をミニスに向けると、そこから波動にも似た何かが放たれた。

 すでにボロボロになって荒野の地面みたいになってる床の瓦礫が吹き飛んでる辺り、衝撃波か何かかな? ていうか瓦礫が周りの腰抜けに直撃してるのは良いんです?


「ん、これは珍しい攻撃ね……」


 この衝撃に飲み込まれたミニスは、珍しい事に眉を寄せてウサミミを畳む。まるで耳を塞ぐみたいにね。

 それで何となく理解した。これは衝撃波じゃなくて音波攻撃だな。瓦礫を吹き飛ばす程強烈な音波を照射してるんだ。かなり指向性が高いみたいで、他には一切影響を及ぼしてなかったよ。射線上の奥にいた魔獣族は耳から血を流して悶えてたけど。


「でも、この程度じゃ足りないわね。これくらいはデカい音を出しなさい――わっ!!」

「なっ!? 馬鹿な、雄叫びで俺の音波魔法を打ち破り――ぐああぁあぁあぁぁっ!?」


 とはいえ規格外のニアにはその程度の攻撃通用しない。放たれる音波に対し声を張り上げ叫ぶ事で吹き飛ばすっていう、馬鹿みたいな力技で捻じ伏せてたよ。

 ちなみに音波攻撃も物珍しかっただけで全然効いてないね。離れた奴らですら鼓膜破れて耳から血を流してたのに、ミニスはピンピンしてるし。


「何と言う化物……童女とて遠慮はしない! 殺すつもりで行く! 輝ける光よ、槍となりて我が敵を貫け――シャイニング・スピア!」


 また別のやる気がある奴が現れ、魔法によって形作られた光の槍を放つ。

 光だけあってその速度は凄まじいの一言。ただ実際に光速が出てるわけじゃないらしく、ぶっちゃけ雷よりも遅い。とはいえ一般目線から言えば必殺必中って感じの速度なんだろうな。ガッツリ強化してる僕らは余裕で目で追えちゃうけど。


「ていっ」

「弾いた!? 拳で!? 光だぞ!?」


 というわけでミニスは迫る光の槍を無慈悲に叩き落としました。拳でって驚かれてるけど、実際は平手だったからね。たぶん速すぎて拳で叩き落したと勘違いされたんだろう。

 これには周囲も完全にドン引きだ。最早人の形をした化物を見る目で恐れおののいてるよ。いやまあ何人かはむしろ目を輝かせてたけどさ。やっぱ君らマゾなの?


「ここで負けては我らエリートの名折れ! すまぬがお前たち、巻き込まれても文句は言うなよ!」


 ここまでされてもまだ折れなかった奴がいたみたいで、何やら危険な香りがする台詞を口にして杖を構えた。何だ、自爆でもするつもりか?


「来たれ、破滅の炎。森羅万象を蹂躙する暴虐の力よ、総てを破壊し滅びをもたらせ!」


 もうボロボロになってる訓練場の天井付近に、結構な熱量を持った大きな火球が生み出される。それは渦巻きながら更に熱量を上げていき、やがて火球ではなく光球と表現できるほど眩しく輝き始めた。

 その様子はまるで恒星。放たれる熱で天井が溶け始めてるほどの熱量だ。


「アレって……何?」

「圧縮された炎……それを解放する爆発染みた魔法ですかね。あれが炸裂すれば城は吹き飛ぶのではないでしょうか?」

「そんなのぶっ放すとか馬鹿なの? エリートはエリートでも頭の中はそんなでも無いわね……」


 うん。さすがに自爆するほど馬鹿では無かったみたいだけど、結果的には似たようなもんだ。少なくともアレが発動すれば訓練場の奴らは全員死ぬんじゃない? 僕とミニスがもちろん無事だが。

 実際その威力のほどを察してるのか、逃げ出そうとする奴らが大勢いる。とはいえニアの化物染みた強さにすっかり腰が抜けちゃってるのか、幼児の方が速いレベルのハイハイか匍匐前進でしか逃げられてなかったけど。


「食らえぇっ! フレア・バースト!」


 そして遂に破滅の光が解放される。光球が一瞬更に収縮し、エネルギーの全てを放ち滅びをもたらそうとしたその瞬間――


「――氷結地獄(ニブルヘイム)


 ミニスの放った魔法により、全てが凍り付いた。比喩的な意味じゃなくて、氷結の方の意味ね。

 魔力は僕持ちで使えるし、そもそもこの魔法も僕が考えて教えたやつだから、その威力は凄まじいの一言。田舎の村娘の貧弱な想像力でも、この訓練場全体が冷凍庫になるくらいには規模も飛び抜けてたよ。兵士たちが皆凍り付いて氷像と化してらっしゃる。

 あ、いや、待った。これ外も凍り付いてるな? 入場待ちしてた他グループは勿論、何ならこの階層のほぼ大半が纏めて凍り付いたかもしれん。


「……やりすぎだっつーの。氷河期になっちゃったじゃん」

「ごめん、ちょっと力入れすぎたわ。うっかりアレが発動したら周りが酷い事になってたし」


 一面の銀世界になった訓練場で、僕は思わず素でツッコミを入れる。どうせ誰も聞いちゃいないどころか、この状況下で氷結を免れた奴がいるとも思えんし。

 さすがにミニスもやり過ぎたのを自覚してるのか、ウサミミをしゅんと萎れさせてたよ。


「これ、死んでないわよね? 凍ってるだけよね……?」

「解凍でミスらなければ大丈夫だと思うよ。まあ不安だからそれは僕がやってあげるよ」

「うん、ちょっと自信無いし任せるわ……」


 氷像となった兵士たちを眺め、若干顔を青くするミニス。あの光球が炸裂した時とどっちがマシかって話だよね。凍ってるだけな分、こっちの方がマシだと思うけど。


「……というか、これを十日間も続けるわけ? この人たちの心は大丈夫かしらね?」

「大丈夫じゃない? ちょっとしたトラウマになるかもだけど、身の程を知って大人しくなるでしょ。もしかしたら兵士を止めて田舎に帰って農業始める奴が続出するかもだけど、そんな軟弱な奴らなんか僕は期待してないよ」

「辛辣ね。まあ邪神の恐ろしさを考えると、そういう暮らしの方が幸せかもしれないわね……」


 お優しいミニスちゃんは、これから十日間強大な力で蹂躙される兵士たちに哀れみの眼差しを向けてたよ。

 でもまあほら、魔獣族って肉体言語がお好きみたいなところあるし、きっと大丈夫だよ。これから毎日兵士たちを扱こうぜ?


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