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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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礼服ニア(UR)


 一週間後、僕とミニスは魔獣族の国の首都――セントロ・アビスに辿り着いた。ミニスにとっては久方ぶりのホームって事で、あって無いような国境越えた辺りでわりかし安心した感じの表情してたよ。まあ向こうの国だと扱い最悪だったもんなぁ……。


「お、おい、見ろアレ!」

「なっ!? マジかよ、本物か!?」

「あれが、<翠の英雄>……!」


 だけどこっちの国は故郷な上に、力ある者は好意的に受け止められやすいお国柄。だから街を歩くミニスに対して、極めて友好的な視線の数々が投げかけられてたよ。尊敬、感激、崇拝、ほぼ全員が目を輝かせてそんな感情を表情に浮かべてる。


「すっごい見られてる……」

「当然です。ニア様はすでに一冒険者の器に収まるようなお方ではないのですから」

「うぅ……少し前まで蛇蝎の如く嫌われてたから、何か余計にむず痒いわ……」


 聖人族の国で敵意と憎悪に若干慣れちゃってたからか、純度百パーの好意を向けられるのがいまいち落ち着かないらしい。通りすがりの魔獣族たちが向けてくる視線を恥じらうように、ミニスちゃんは俯き伏し目がちになる。


「もっと胸を張って堂々としてください。あなたは彼らの希望の星となる存在なのですから」

「ど、努力はするわ……」


 とはいえ英雄ニアのイメージがそこまで初心で可愛らしいのはちょっぴりイメージダウンだ。いやイメージアップにも繋がるかもだけど、実はチョロいって思われて舐められるのも問題だからね。出来ればもっと肩をいからせて歩くくらいはして欲しい。

 ミニスも何となくイメージに合わないと思ってるのか、恥じらいを堪えつつもしっかり前を向いて堂々と歩き始めたよ。顔は赤いけどまあこれくらいなら許してやろう。


「……ていうか、何であんた普通に街に入れたわけ? 一応首都はまだ聖人族禁止じゃなかった?」

「そのようですが、私にはニア様の従者という肩書きがありますからね。ニア様のご威光もあり、特に問題も無く入る事が出来ましたよ。もしかすると魔王からも私は通すように指示が行っているのかもしれませんね」

「ああ、なるほどね……」


 聖人族、しかもフルフェイスの仮面被った不審人物って事で多少は検問で面倒があったけど、思ったほどじゃなかったよ。隣にニアがいる事も手伝って、少しウザめな職務質問を受けた程度の面倒で済んだ。


「それで、これからどうするわけ? このまま魔王の城に行くの?」

「いえ、曲がりなりにも魔王はこの国の支配者です。まずは先触れを出して予定を伝え、擦り合わせるのが賢いやり方でしょう。それに謁見に相応しい衣装を身に着けなければ、ニア様が侮られてしまいかねません。ひとまずは宿を取り、謁見のための準備を進めましょう」


 すっげぇ面倒だけど、そういう風にしないと英雄ニアが侮られちゃう。あと僕らがたった七日で首都入りしてる事、先方は絶対予想してないだろうからね。今すぐ行っても諸々準備とか出来てないと思われる。


「色々面倒な手続きがあるのね。分かった、その辺は任せたわ」

「はい。ニア様の御心のままに」


 さすがのミニスちゃんも知識量とかその辺りは村娘なので、全面的に僕を信頼して任せてくれた。

 というかこういう時のために従者として同行してるからね。全能感に酔い痴れて自分一人でやろうとしない辺り、ミニスちゃんは己の分というものを弁えていらっしゃる。やっぱ英雄の器なんよ。


「……それにしても、あんたが隣にいる事に安心する瞬間が来るとは思わなかったわ」


 なんて思ってたら、まさかのデレ!? 見れば表情も若干柔らかい感じだ。

 どうやら一人で魔王と謁見する事態になったら、緊張諸々でどうにかなりそうだった模様。メンタルが超合金な割には変なとこ小心者ですね。目上の者っていうか、バールの事はだいぶ粗雑に扱うようになったのに。まああれはがっかりイケメンだし仕方ないか。


「おやおや、何をおっしゃるのです。いつもベッドの上では私の腕の中で恍惚としていらっしゃるというのに」

「なっ!? だ、誰がそんな反応してるってのよ!? 調子乗んな!」


 とりあえずニアとの関係性を周囲に知らしめるため、あえてそんな事を口走る。途端にミニスは真っ赤な顔で噛みついてくるけど、抱かれてるのは事実だから咄嗟の反応でも否定自体はしてなかった。

 そして周りでチラチラこっち見てた奴らは、その言葉と反応を目の当たりにして絶望の面持ちを浮かべてたよ。何か好きだった人を寝取られたみたいな反応なのが笑える。いや、寝てないし告白だってしてないんだからBSSってやつか?


「や、やっぱり、ニアさんはあの男とそういう関係なのか……」

「クソッ、何であんな怪しい聖人族なんかに……!」

「きっと何か弱みを握られてるんだ。そうに違いない!」


 ニアに向けられてた羨望と尊敬の眼差しの大半が僕へ向き、どろどろした粘つく嫉妬と殺意に満ちる。

 んー、敗北者たちの屈辱に塗れた視線が実に気持ち良いねぇ? あまりにも愉快でどうにも頬が緩むのを抑えられない。しかしフルフェイスの仮面を被ってるから問題無し! やっぱ仮面を被ってるキャラに決めて良かった!





 そんなこんなで、僕らはお高い宿へ泊まる事になった。周囲に関係性を知らしめるため、もちろん部屋は一つだ。宿の受付してたニアのファン的な野郎は今にも死にそうなくらいにショック受けた顔してたよ。人が絶望する姿ってどうしてこんなに美しいんだろうね?

 中身邪神としては更なる絶望をもたらすため、ミニスちゃんを組み敷いてヒィヒィ言わせて喘ぎ声を聞かせてあげたいところだったけど、残念ながら今は忙しいので別の事をしなきゃいけないんだわ。それは夜にやるよ。


「ニア様の格好はこんな感じでよろしいでしょう」


 というわけで魔王城にお手紙出してきた僕は、お返事待ちつつ宿のお部屋でニア様ファッションショーの真っ最中。要するに魔王城を訪れるに相応しい、ニアの礼服のコーディネイトだ。


「いや、ちょっと……何これ……?」

「礼服ですが? 何かお気に召さない事でも?」

「お気に召さないっていうか、その……スリット、深すぎない? 脚が見えるとかそういうレベルじゃないんだけど……」


 腰元まである深いスリットを押さえ、恥ずかしそうにもじもじするミニス。

 色々考えた結果、ニアの礼服はチャイナドレスみたいな深いスリットのあるドレスに決定した。色はニアの髪の色より薄めの緑。スカート部分こそ足首を隠す程に長いけど、袖無しだし片側に深いスリットが刻まれてるから、腕も脚もほぼ丸見えだ。これには散々僕に抱かれ恥ずかしい所を見られているミニスも頬を染めちゃってるよ。


「何をおっしゃいます。ニア様の幼いながらも健康的で肉付きの良い太腿、見せなければむしろ失礼というものですよ。加えて歩くたびに裾が捲れ、際どい角度の下着が今にも見えそうなこの危うさ。大変眼福でございます」

「口調は丁寧なんだけど普段の数割増しでキモイわ。今はせめて普通に喋ってくれない?」

「太腿見えるスリットエロい。歩くだけでパンツ見えそうでスケベ」

「まあ、うん。多少はマシになったわ。多少……」


 本音をぶっちゃけると、何故かミニスの恥じらいが若干沈まる。しかも別に嫌ってわけではないようで、裾と太腿を気にしつつも軽くポーズを取ったり歩いてみたり、色々確かめてる感じだ。

 もしかして意外と気に入ったのかな? ティアラやネックレス、イヤリングとかの装飾品も身に着けさせたし。靴もガラスの靴っぽいしハイヒールで高級感あるしね。


「とはいえ本音を言うと、このエロさを他の男になんて見せたくないんだよなぁ。これは僕だけのものであって欲しい」

「じゃあ何でこんなの着せたのよ。まさか知らない奴に見られて恥ずかしがる私を楽しんでる?」

「いや、さっきも言ったけど舐められないようにしないといけないからね。あとは見た目若干変えてるしギリギリノーカウントかなって」

「……そういえば私の見た目はニアのものだったわね。じゃあ恥ずかしいのもギリギリ何とかなりそう」


 どうにも開き直ったみたいで、ミニスは恥じらいを収めると姿見の前でくるりと回る。裾がふわりと浮き上がり、小柄な身長に反してムチムチとした太腿が露わに……うーん、セクシー。エロい!


「ていうか、あんたの服装はどうするのよ? まさか私にこんな格好させておきながら自分はそのままで行くわけ?」

「僕? 僕は、えっとね……」


 半目でじっと睨みつけてくるミニスちゃんに合わせるように、僕も自分の服装を礼服へと変化させた。

 僕のは普通の黒の燕尾服って感じかな。野郎の服装なんか拘るところ特に無いし。露出したって誰も喜ばないし下品なだけだ。まあ一部変な所はあるが、それは都合上仕方ないって事で……。


「こんな感じ。別に僕は舐められても構わないんだけど、僕を通して聖人族全体を舐め腐りそうだから、一応ね?」

「だったら私だけが浮くわけじゃないし、幾分気が楽ね」


 目に見えてホッとした様子になったミニスちゃんは、再び姿見に向き直り自分の服装を眺める。こっちに背を向けてるけど鏡に反射してるから、ミニスちゃんがちょっと嬉しそうな顔してるのが見えたよ。やっぱオシャレを楽しんでるな?


「でも、仮面はどうするわけ? 衣装はしっかりしてるのに仮面付けてるとか、それだけ滅茶苦茶不自然よ?」


 とか思ってたら、僕の格好の一部変な所を指摘されちゃう。

 そう、僕ことトルファトーレはフルフェイスの黒の仮面を身に着けた怪しい奴だ。当然礼服を身に着けても仮面は外さない。だから全身黒づくめのフルフェイス仮面野郎っていう、怪しさ爆発の不審人物が誕生しちゃってるんだよ。礼服なのに無礼になってるってわけわからんね?


「もちろん着けたままだよ。これが無いと隠れてほくそ笑む事が出来ないじゃんか」

「先にそういう理由が来る辺り、本当クソ野郎ね……」

「まあ外せって注意されたら素直に外そうと思ってるけどね。ていうか出来れば言って欲しいくらいだよ」

「悪趣味ね……でも、あんたの素顔を見た魔王が腰を抜かすところは見たい気もするわ」


 オシャレしてるおかげかちょっと機嫌が良いミニスちゃんは、珍しく僕の意見に賛同してくれた。

 ちなみに今の発言から分かる通り、実は仮面の下には結構面白い秘密を隠してるんだ。今のところそれを披露した場面が無いから、出来れば魔王にでも見せつけてやりたい所だね。あの筋肉魔王が無様に腰抜かすとこ、確かに見てぇなぁ……。

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