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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第18章:国に蔓延る悪意
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魔王からの招待状

「――さあ、どうぞお入り下さい」


 開かれた門のような巨大な扉の奥へ、一人のジジイが僕らを促す。

 僕は別に緊張してないけど、ミニスちゃんは結構固くなってるみたい。後ろにいるから表情が見えなくとも、ウサミミが凍り付いたように固まってたよ。さすがの鋼メンタルウサギでもこの状況は辛いか。まあ元はただの村娘だもんな。


「……行くわよ、トルファ」

「かしこまりました、ニア様」


 しかしそこはミニスちゃん。ほんの数秒で覚悟を決めたみたいで、毅然とした態度で足を踏み出した。さすがっすねぇ。

 まあニア状態だし恐れるものなど何もないって感じかな。とりあえず仮面の下で安定のメンタルに舌を巻きつつ、従者たるこの僕は後ろに続きました。

 部屋の中はかなり無機質で冷たい印象を受ける、広間みたいな場所だった。窓から月の光が入り込んでるけど、不気味さが増すだけで焼け石に水って感じ。正直もうちょっと華やかさを加えても良いと思うなぁ。とはいえ場所とお国を考えると雰囲気的にはこんなもんかな。

 そんな事を考えつつミニスがハイヒールの足音を響かせて歩くのについていくと、やがてその足がぴたりと止まった。静かに視線を上向けるミニスの正面にあるのは、十数段くらい高い位置に立つ一人の女。


「――ようこそおいで下さいました、冒険者ニア。並びに冒険者トルファトーレ。私の名はメルシレス。彼のお方を支える秘書のようなもの、とお考え下さい」


 その女の後ろ、更に数段高い場所にある玉座にふんぞり返る筋肉の塊。あの暑苦しさ、見間違えるなんてありえない。


「そしてこちらにおわすお方が我らが主。魔獣族を統べる頂点にして、最強の王。魔王ヘイナス様です。さあ、跪きなさい」


 あれこそ魔王ヘイナス。脳筋気味のクソ魔王だ。

 そう、魔王がいる事から分かる通りここは魔王城。そして今僕らが立っているのは謁見の間。実に面倒な事に、僕らは魔王と謁見してるわけだ。はてさて、一体何でこんな事になったのかな?


「……ふんっ!」


 なんて回想に入ろうとしたら、跪いたミニスちゃんに突如として魔王が襲い掛かる! 玉座から跳び、デカい大剣を振り下ろすっていう殺意に満ちた不意打ちだ! しかも跪いて頭を垂れてる幼女にだよ!? マジでコイツイカれてんな!? ていうか回想の邪魔すんな、はったおすぞ!





「――それで、緊急事態とは何ぞや?」


 危うく回想キャンセルを食らいそうになった十日ほど前。セレスとにゃんにゃんして十分に英気を養った僕は、朝一番でミニスちゃんの下に向かった。何か緊急事態で助けが欲しいって言ってたからね。脇目も振らずに向かうのは当然だよ、うん。


「来るの遅いわ、このクソ野郎。普通そういう報告したらすぐに来るでしょうが」


 しかしミニスちゃんは辛辣。テントの中に転移して挨拶するなり、ゴミでも見るような目を向けてきたよ。ニア状態だからいつもより瞳が鋭く、何だか余計にゾクゾクしちゃうね。


「だって緊急性は薄いって聞いたし。あとセレスと乳繰り合うのに忙しくって」

「本当クソ野郎」

「欲求に素直な裏表のない良い男って言って欲しいなぁ。ほんで? 何がどう緊急なん?」

「これよ、これ。昨晩私の所に魔獣族が届けに来たわ」

「あん? なんじゃい、こりゃ」


 ミニスちゃんが雑に差し出してきたのは一枚の紙――いや、便せんか? つまりは手紙だな。

 しかも手触りがかなり滑らかだし、良く見れば凄く凝った模様の入った便せんだ。蝋封なんていつの時代だよ。この格式ばった感じ、何かもう見るからに面倒事の塊って感じがするぅ……。


「ふむふむ……」


 手紙を開き、その内容を検める。

 まるでお貴族様みたいな比喩とお上品な言葉を盛大に使った遠回しな内容に目が滑ったけど、頑張れば何とか解読できそうだった。

 しかし何で偉い人っていちいちこんな迂遠な書き方するんだろうね? 大体『拝啓』から始まり『いかがお過ごしでしょうか』とかいうの、僕アレ嫌い。御託や挨拶は良いからさっさと用件を述べろって感じだよ。

 それはそうとこの手紙、厳密には手紙じゃない。これは言わば招待状だ。しかも昨晩危惧した通り、魔王がガッツリ拘わってる。つまるところ、魔王からの招待状だった。


「なるほどね。要約すると『お前最近随分ブイブイ言わせてるみてぇだな。誰の許可得てそんな事してんだ? ちょっとツラ貸せやボケ』ってところかな」

「もうちょっと上品に書いてあったはずだけど……まあそういう事なのかしらね?」


 ミニスも同意見みたいで、少し眉を顰めながらも頷く。

 A4換算で一枚分書いてあったけど、大半が無駄な内容だったよ。これもう三行に圧縮できるな? ていうか書いた奴絶対魔王じゃないだろ。あの筋肉に三行を一ページに増やす語彙力や教養あるわけない。


「わざわざ聖人族の国にいる時に届けに来るなんて、向こうはだいぶご立腹って感じだね。まあ僕らが国を跨ぐ巨大な冒険者パーティを作ろうとしてる事はさすがに知ってるだろうし、もう看過できない感じか」

「どうすんのよ? これってたぶん、従わないと<救世の剣(ヴェール・フルカ)>に圧力とかそういうのかけてくる感じじゃない?」

「圧力どころかむしろ普通に潰しに来るんじゃない? そもそもコイツのせいであっちの国では組織が運営できないって事もありそう」

「うわ、最悪……」


 これにはミニスも苦い顔をする。今まで頑張って来たのに、その成果が上からの圧力で潰されるとか最悪だもんね?

 ていうかこれ、もしかしてもうすでに圧力かかってるんじゃないか? 魔獣族の国の冒険者ギルドで<救世の剣(ヴェール・フルカ)>の人員募集の張り紙を見なかった辺り、魔王が圧力かけて情報規制してる可能性あるな?


「娘が人質になってるってのに、何で足を引っ張るような真似すんのよ……」

「うーん、それがちょっと疑問なんだよね。勇者二人を放ってもう魔王の手札は尽きたはずだし、新たな戦力になり得る<救世の剣>を妨害するなんて得にはならないはずなんだけど……」


 圧力かけてるとして、いまいち分からないのはそこだ。

 現状この世界で最も邪神を倒せる可能性が高いのは、チート染みた強化でバグキャラの域に引き上げたニア、そしてニアが設立した<救世の剣>だ。

 大事な大事な愛娘が囚われてる魔王としては、むしろ<救世の剣>に援助し手助けするのが一番賢いやり方だと思うんだが、何故に圧力をかけるんだろうね? それじゃあむしろ娘を救い出させる日は遠のくのに。


「……ま、いずれにせよご招待を受けるしかないね。という事でこっちの国での活動は一時中断だ」


 良く分からないけど、<救世の剣>設立の邪魔をされてる以上は行くしかない。もしかすると情報規制の解除を条件に、何か命じてくるのかもしれないな? コンディション最悪な勇者二人を送り込んできた辺り、どうにも魔王は堪え性が無いっぽいし。


「やっぱ行くしかないのね。はあっ、魔王に謁見とか気が重いわ……」

「魔王よりもヤバい奴に会った事あるんだし大丈夫でしょ。何ならベルの真の姿を見て精神鍛える?」

「死んでも嫌」


 メンタルトレーニングを提案すると、ミニスは真顔で首を横にふるふる。

 鋼メンタルのミニスちゃんを以てして『死んでも嫌』と言わせる辺り、やっぱベルの真の姿はヤバいっすね……。


「まあそんなに難しく考えなくて良いよ。幸い魔王は聖王と違って世襲制じゃない上に、国全体が力こそ全てって感じのルールだ。何か面倒な事になったら、魔王をぶっ殺してお前が次の魔王になれば良いだけの話さ」

「冗談でしょ!? 英雄だけでも手一杯なのに、更に魔王までやらせる気!? あんたはただの村娘にどこまで期待してるわけ!?」


 困ったら力で解決しようって提案すると、途端にミニスは顔を青くして逃げ腰になる。

 勇者やれてるんだし、魔王だっていけると思うんだけどなぁ……。


「ただの村娘とは思えないから期待してるんだよ。まあさすがに英雄と魔王両方やらせるのはちょっと厳しいか……?」

「ちょっとじゃない! 絶対無理!」


 基本的に僕に対してガチの反抗や拒否をする事は無いミニスも、今回ばかりは駄目なご様子。

 んー、良い考えだと思ったんだけどなぁ。魔王やりつつ勇者やるの。とはいえ僕だったらそんなクソ面倒な立場は絶対ごめんだね。ともかくミニスちゃんがここまで嫌がるならこの選択は無しか。


「そこまで嫌がるなら別の方法を考えるか。ひとまず首都を目指して走ろう。謁見諸々の礼儀作法とか、その辺は向こうについてから叩き込んであげるよ。冒険者とかいう野蛮な奴らに礼儀を求めるとは思えないけど」

「どうかしらね。手紙は滅茶苦茶丁寧だったし、最低限は求められるんじゃない?」

「それもそうか。まああの筋肉ダルマが書いたとは思えない手紙だったけ――どぉ!?」


 言葉の途中で変な声を上げて驚く僕。何でかって? そりゃあテント突き破っていきなり槍がダイレクトインしてきたら誰だって驚くでしょうよ。矢ならともかく投槍って殺意高すぎだろ。


「――くたばれ、薄汚い魔獣族! とっとと自分の国に帰りやがれ!」


 ちょっと外に出てみると、そんな事を叫びながら走り去っていく聖人族たちの姿。

 槍はおみやげにくれたのかな? やっさしー。

 

「……相変わらず嫌われてんなぁ?」

「もう何か慣れて来たわ、私……」


 テントに戻ってみると、ミニスちゃんは若干死んだ目でテントに刺さった槍を引き抜き、隅の方に転がした。どうやらそこをおみやげスペースにしてるみたいで、槍以外にも矢や金槌、苦無やら短剣やら色々落ちてる。どんだけ攻撃されてるんだよ。ていうか何で纏めてるの? もしかして後でわざわざ返しに行くつもり? あ、お礼参りか?


「そっかぁ。ところでびっくりさせられてムカついたから、追いかけて八つ裂きにしてきて良い?」

「ダメに決まってんでしょうが。何で許可出すと思ったわけ?」


 残念ながら復讐のために取っておいてるわけじゃなかったみたい。ミニスちゃんは僕の提案を当然の如く蹴ってきたよ。

 じゃあ何で投げられた武器を取っておいてるの? もしかしてマジで善意で返しに行くつもりか……?

 というわけでここから18章です。面倒な展開になりそうな始まり。

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