問題解決……?
勇者三人でパーティを組み、冒険者活動を始めてから一週間が経過した。
最初はちょっと心配だったけど戦力は過剰なくらいだし、強く賢い僕もいるから特に問題も無く日々を過ごせてたよ。勇者二人もトラウマを負ったとは思えないほどイキイキしてたね。
えっ、カレンの一件は問題じゃないのかって? アレはノーカウントだよ、ノーカウント。
「――で、ここ一週間の感想はどんなもん?」
「すっごい楽しい! 特にあのエロい人、堪んないよね! 私をあんなに持ち上げてくれるなんてもう最高だよ! お返しにあの重そうな胸を持ち上げて支えてあげようって、一体何度思った事か……フヘヘ!」
「コイツ本当に女か? もしかして中身はオッサンだったりしないよな?」
今日の仕事を終えて屋敷に戻りエントランスに入った所で、ひとまず感想を求める。するとトオルがヤベー顔で涎を拭きながら答えてくれた。これにはリュウもドン引きだ。正直僕も実はTSでもしたんじゃないかって疑ってくるよ。百合にしては何か欲求がドロドロしてるし……。
それはともかく、トオルとカレンについては比較的問題も無く片が付いた。やっぱりカレンがトオルの事を自分と同じファンだって勘違いしてるのが大きいね。今では二日に一回、稽古を付けてあげる間柄になってるよ。
「まあ、俺としてもかなり楽しかったぜ。植え付けられた使命とかも無く、自分のやりたい事がやりたいように出来るって最高だよな。それにやっぱり俺は故郷が恋しいし、話が合うお前らと過ごすのはマジで心地いい時間だったよ。いっそこのままずっと、三人で冒険者稼業をしていたいぜ」
「そうそう、私もそれが良いな! 二人よりも私に相応しいパーティメンバーなんて見つからないしね! 雷の姫君に不死身の怪物! そして全能の狂人! 最高のパーティじゃん!」
二人はここ一週間かなり楽しかったみたいで、実に地に足着いた細やかな願いを口にしてる。
僕も大体どんな話題を振っても話が合うのは助かるし、意外と居心地良いのは確かだ。何のしがらみなければ、それこそこのまま冒険者稼業やっててもいいかもしれない。しかし現実は非情である。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、生憎と僕は忙しい身なんだ。表向きはこの世界を滅ぼす邪神として行動しつつ、裏では世界を真の平和に導くっていう計画を進めないといけないし」
「何度聞いてもとんでもない事やってんな……」
「ダークヒーロー……!」
二人は僕の話を聞いて舌を巻き、あるいは目を輝かせる。
実際今の僕はニアの忠実な従者っていう仕事をほっぽり出して遊んでるようなものだからね。幾ら息抜きって言っても、そろそろ戻らないとヤバいかも。後々困った事態にならないように、ニアの近くには仮面の聖人族が控えてるっていう情報を拡散させるために従者やってるんだからね。ニアが世界的に高名になって仲間が数多く増えたら、そういう立場でも無いと隣にいるのはおかしいし。
「というわけで僕はそろそろ本業に戻らないといけないんだ。でもお前らには今のところ仕事は無いから、二人で冒険者稼業でも続けてなよ」
「良いの!? ありがとぉ!!」
更に瞳の輝きを強め、喜びのあまり諸手を上げて飛び跳ねるトオル。
何だかんだコイツはギルドで人気者になってるからね。それがいなくなったら少なからず冒険者たちの士気が下がりそう。やっぱアホの子は好かれるんだなって。男がアホだと特に好かれるわけでもないのにね?
「そりゃあ嬉しいんだけど、コイツと二人きりかぁ……」
なお、リュウの方は眉を寄せて渋い顔してました。
まあ僕無しで二人きりって事は、トオルが何かやらかした時とかに割を喰うのはリュウだもんね。しかも相方がクソ中二とかそりゃあ素直に喜べないのも分かる。
「何その微妙な反応!? こんな可憐な乙女と二人きりで冒険できるんだよ!? 嬉しくないの!?」
「いや、全然」
「な、何だとぉ~!?」
「うおあっ!? ちょっ、やめろ! コイツ電気漏らしやがった!」
「そんなおしっこ漏らしたみたいに言うなあっ!」
「だーっ!? やめろ馬鹿! 痺れるっ!」
怒りのあまり身体から電気を漏らすトオルが、それを粗相したみたいに指摘されて更にキレる。そのままリュウに飛び掛かり取っ組み合いを始め、髪や頬を引っ張るという実に幼稚な争いを始める。
とはいえ電気で身体が麻痺させられてるリュウが一方的にやられてるっぽいが。
「楽しんでる所申し訳ないけど、色々気を付けないといけない事があるからそれだけは肝に銘じておいてね。まあ注意事項は後で書面で渡すよ。とりあえずリュウはそこの中二の舵取りを頑張ってね」
「それ責任重すぎねぇか!?」
「ウラーッ!!」
せっかくなので全てを押し付ける事にして、中二の舵取りっていう大役を与えてあげました。だって絶対コイツ一人にしたら碌な事しないもん。首輪付けないと不安だよ。
「やれやれ、また屋敷が賑やかになったなぁ……」
そんなこんなで夜。勇者たちの問題も一応片付いてスッキリした僕は、ベッドに転がり概ね満足な結果に浸って独り言ちる。
奴らのトラウマ関連に予想外に早く片が付いたのは良いけど、そのおかげでまた屋敷に騒がしい住人(主にトオル)が増えたのがどうにも困りものだねぇ。最近じゃリアが変な影響受けて、中二チックな発言や真似をする事が増えて来たのが特に問題だ。この前なんかトオルと揃って変なポーズの練習とかやってたよ。やっぱ教育に悪いな、アイツ……。
「いきなり二人も住人が増えたもんね。だいぶ人も多くなってきたし、もうこの屋敷でも手狭に感じるくらいじゃないかな?」
なんて僕の独り言に答えるのは、隣に寝そべるセレス。ボディラインが見えるのが実に堪らない透け透けネグリジェ姿だ。もちろんそんな恰好で僕のベッドにいる辺り、これからやる事は当然アレです。
「この屋敷を買った当初は、まさかここまで大人数になるとは思ってなかったからなぁ。人材もそれなりに増えて来たし、嬉しい誤算ってやつかな?」
「もっと広い場所に引っ越すとか、そういう事は考えてないの? きっとこれからも人はいっぱい増えるよ? あたしは、その……村を再興できるくらい欲しいなぁ……」
などとセレスはぽっと頬を染め、意味深に呟く。
君が欲しいのは仲間じゃなくて子供じゃない? ていうか村を再興できるくらいって何人? 数百人? 規模がデカすぎる。
「引っ越しはしないかな。何だかんだでここに愛着が出来てきたしね。最悪の場合は地下を横に広げて対処する事にするよ」
「クルスくんが望むなら、街を興せるくらいでも、良いよ……?」
「そんなに生むのはさすがに無理じゃね……?」
村の方はスルーしたけど、街レベルだとさすがにツッコミを入れちゃう僕。
街を興すって数千人くらいか? 一人産むのにもろもろ合わせて一年かかるとして、休みなくやっても数千年かかる計算ぞ? 悪魔の寿命って千年くらいじゃなかったっけ?
「大丈夫、あたし悪魔だし寿命は長いよ! でも街を作るくらいとなると今から始めないと難しいよね! というわけで、とりゃー!」
「罠だったか! 謀ったな、コイツぅ!」
どうやら僕の意識を自分に向けるための罠だったみたいで、見事引っかかってしまった僕はセレスに襲われ馬乗りになられてしまう。マウントポジションを取られ、わりと大きめのお胸を下から見上げる形になったは抵抗出来ない! ていうか眺めが良いからあんまり逃げる気もしない! チクショウ、何て策士なんだ!
「……おや、電話だ。ちょっとタイム」
「ちぇーっ」
なんての下を伸ばしてたら、頭の中に着信音。空間収納から携帯を取り出し、セレスに断りを入れつつマウントポジションから抜け出る。この辺は物分かり良くて、唇を尖らせつつも素直にタイムを認めてくれたよ。
ひとまずベッドに腰掛け、携帯の発信者を確認してから電話に出ました。
「どうしたミニスちゃん。僕が恋しくなって眠れず、疼く身体を持て余してるのか?」
『なわけないでしょこのド変態。むしろすこぶる快眠よ』
発信者は聖人族の国で孤軍奮闘してるミニスちゃん。てっきり僕の声が聞きたかったのかと思いきやそういうわけじゃないらしい。第一声が罵声で涙が出ますよ。
「じゃあどうしたの? こんな時間に電話かけて来るなんてさ」
『ちょっと緊急事態が起きてね……一旦こっちに戻って来てくれない? これはさすがに私だけじゃ厳しそうだわ』
「緊急事態とな? ふむ……」
なかなか面倒そうな響きの答え、それもミニスがわざわざ僕に応援を求めるような内容と来たか。非常に癪だけど、これはすぐに向かわないとマズいか……?
「クルスくん、クルスくん」
「ん?」
なんて悩んでると、セレスに声をかけられる。反射的にそっちに視線を向けると――
「ほう……」
にんまりと笑うセレスがうっすいネグリジェをゆっくりとたくし上げ、肉付きの良い太腿を晒していく所だった。これには僕の目も釘付けだし昂るってもんだ。ミニスの方も緊急事態かもだが、僕の下半身なんか暴発寸前だよ。
「……それって今すぐどうこうしないといけない類の問題?」
『えっ? いや、そうでもないけど……』
「分かった。じゃあそっちに戻るよ。明日な」
『は?』
とりあえず股間……じゃなくて目先の緊急事態を優先する事に決めた僕は、ミニスちゃんの方は後回しにする事に決めた。途端にミニスは軽蔑にも似た声を返してきて、電話を邪魔しないように静かにしてるセレスはパアッと嬉しそうな笑みを零す。
「今はちょっとお楽しみの時間だからさ。女の子を待たせるのは良く無いでしょ?」
『いや、私も一応女なんだけど? ていうか普通こっちの方を優先するべきじゃない?』
「じゃあそう言う事だから、また明日ー」
『このクソ野郎。せめて熱中できないように内容だけ言ってやる。実は魔王――』
やっぱりそこまでの緊急性は無いみたいで、ミニスは慌てる事無く感情のこもった罵声を浴びせてくるだけだった。嫌がらせに緊急事態の内容だけ先に教えようとしてきたから、慌てて電話を切ったよ。
これなら本当に明日に回しても大したことは無さそうかな。精々ただでさえ最底辺のミニスちゃんからの好感度が更に下がるくらいか。いや、それってわりとヤバい事態か……?
「……さあクルスくん、一緒に街を興せるくらい子供を作ろ?」
なんてちょっと選択を後悔し始めた僕だけど、セレスが真っ白な肌を晒しつつ迎え入れるように両腕を広げてたので、まあいっかという事に決めました。どうせ今からミニスちゃんの好感度をプラス側に傾かせるなんて無理だもんな! そんな不可能な事象に想いを馳せるより、目の前のセレスを貪るぜ!
でも、ミニスちゃんの目論見通りちょっと不安があるな? 何だよ『魔王』って。もしかして魔王から招待状でも来た? いやまさかな、ハハッ。
これで17章は終了です。仲間が二人増えたけど、どっちもヤベー奴でいまいちまともな奴が増えませんね。
18章は明後日から投稿予定です。ミニスちゃんの出番が多めだぞ!