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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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ファンとの遭遇

「ぐぬぬ……おのれぇ、我が華々しき英雄譚の一ページ目がぁ……!」


 予想外にお約束を体験できなかったトオルは、悔し気に歯ぎしりしながら恨みがましい呟きを零す。

 結局の所、冒険者ギルドでは特にトオルは持ち上げられなかった。『おめでとうございます。あなたは素晴らしい冒険者になれそうですね』っていう定型文みたいなお褒めの言葉を受付嬢から貰ってたけど、まあそういう事じゃないんだろうな。

 ちなみにトオルがクマさんを仕留めるために放った一撃、アレは結構な噂になってたよ。何せ街からでも見えるほどの光の柱が落ちたんだからね。天変地異か、あるいは邪神の攻撃かと勘違いされて兵士が動員もされてるっぽい。もちろんトオルは気付いてないし、言うとややこしくなりそうだから決して教える気は無いけど。


「<翠の英雄>だっけか? スゲェよな。両方の国のギルドで種族を問わないパーティを作って仲間を募り、邪神を倒そうって考えるなんてよ。挙句行く先々で差別や中傷にも負けず、種族関係無く困ってる人たちを助けて高ランクの討伐依頼も全部こなして、報酬はほとんど寄付してるんだろ? ガチの英雄じゃねぇか」

「ソウデスネー」


 実際は作り出した偽の英雄なんだけどね。でも面白いのでコイツらには秘密にする事にしました。実際正体は偽物でも、やってる事は正真正銘の英雄だし。


「認めぬ! 我は絶対に認めぬぞ! 現実にそのような清廉潔白を地で行く者など存在せぬのだ! 必ず何か薄汚い裏があるに違いない!」

「あーあー、思い通りに行かないからって疑心暗鬼になっちまってやがる……」

「………………」


 明らかな嫉妬なんだけど、トオルの指摘は的を射てるのが性質悪い。そうだよ、薄汚い裏があるよ。この世界の奴らがだらしねぇから、やる気を煽るために旗印になって貰ってるんだよ。悪いかよ。


「なあ、さっきからどうしたんだよ? まさか<翠の英雄>が身内とか言わねぇよな?」

「まっさかー。そんな善人が僕の身内にいると思う?」

「自分で言うのもどうかと思うが……それもそうだな。まだ最初の奴の方がそれっぽいぜ」

「まあそいつと二人目の奴はほぼ確実に身内なんだけどね」

「マジかよ!?」


 こそっとぶっちゃけると、途端にリュウは目の色を変える。二人目――トゥーラの方はともかく、一人目――キラの方は超ヤベー奴って評価だったからね。驚くのも無理はない。


「でも話すとトオルがうるさそうだから、これは秘密ね?」

「うるさそうって……」


 ここで一旦言葉を切り、ちらりとトオルに視線を向けるリュウ。その目の先では――


「<紅き女豹>、<†漆黒の魔狼†>、<翠の英雄>……首を洗って待っているが良い! いずれ我が力を思い知らせてくれるわ!」


 顔も知らない、しかも特に悪い事してない二人も巻き込み、虚空に挑戦状を叩きつけるトオルの姿。最後の一人以外はすでに顔合わせは済んでるし、何なら戦ってるんですけどね。それでも気付かないって、もしかして手加減されてた?


「……分かった。確かにうるさそうだしな」


 リュウもその様子を見て納得してくれたみたいで、静かに頷いてくれた。存在そのものがうるさい中二野郎がこれ以上うるさくなるのは面倒だもんね。自分で気付くまで黙ってるのが賢い選択だ。


「――何者だ!? 隠れているのは分かっているぞ!」

「うおっ、急にどうした? 妖精さんでも見えたか?」

「意外と酷い事言うじゃん、君……」


 とか考えてたら、トオルが唐突に僕らの背後に向けて鋭い声を投げかける。当然そこには誰もいないから、リュウも怪訝な瞳でかなり厳しい言葉を口にしてたよ。普段なら僕も賛同してただろなぁ。


「でも、今回は病気ではないみたいだね。隠れてるけどちゃんといるよ」

「え、マジか」

「姿を表せ、曲者め! 我が雷霆にて焼き尽くされたいか!」


 トオルが更に言葉を重ねると、やがて建物の陰から何者かが姿を現した――って、うわぁ!? 誰かつけてきてる事は知ってたけど、まさかコイツだとは思わなかった!


「すまんな。少し気になって様子を窺わせて貰った」


 あまり悪びれた様子も無く謝罪を口にするのは、抜群のスタイルを誇るとんでもねぇ美女。ウェーブがかかった煌めく銀髪に、美味しそうな褐色の肌が実に眩しい、大きな翼と立派な角を誇るサキュバス――っていうか、カレンさんなんよ。お前何で僕らを尾行してるんだ。


「アッ! 銀髪褐色巨乳美女! エッッッッ!!」


 そしてトオルは今にも涎を垂らさんばかりのヤベー顔するしよぉ!? 気持ちは分からないでもないけど、もうちょっと反応抑えような? 同性じゃなかったら犯罪、いや同性でもギリ犯罪っぽい反応だぞ、それ。


「お前本当に女か? 反応やべぇぞ――って、何だ!?」

「あ、あれ? 何か周りの音が聞こえないし、景色も止まって見えるような……?」


 しかしここでリュウとトオルは異変に気が付く。

 そう、突然周囲から一切の雑音が消え去り、あらゆる物の動きが停止してるから。もちろんそれはカレンも例外ではなく、凍り付いたように止まってる。もちろんそれらは全て僕の仕業だ。


「ちょっと僕が時を止めた。少し厄介な状況になったから、トオルとお話をする必要が出てきてね」

「当然のように時間停止使うのなんなんだ、お前……」

「時計壊してヒント残さなきゃ……」


 何か変な反応してるトオルはさておき、今現在僕らはドーム状の結界で囲って時間を弄った空間にいる。安定の秘密会議の場だね。リュウは問題無いんだけど、今回はトオルとカレンの事が問題なんだわ。


「で、話って何だよ? やっぱコイツについてか? 何かコイツ見てると鳥肌立ってくんだけど……」

「ああ、ソイツは一応サキュバスだからね」

「ひいっ!?」


 その事実を伝えてあげると、リュウは途端に青ざめて腰を抜かした。そして必死に後退り、結界の隅――はドーム状だから無いな。結界の縁でうずくまってぶるぶる震えてたよ。

 どうやらマジモンのサキュバスを前にすると塗り潰されたトラウマがぶり返す様子。まあ今話したいのはトオルだからアレは無視しておこう。


「この成りでサキュバスとかエッロ!! 一晩幾ら!? ホ別!?」

「残念ながら彼氏持ちです」

「ぐああああぁぁぁぁぁぁっ!?」


 相変わらずエロ親父みたいな反応してるけど、彼氏持ちである事を伝えると血を吐きながら倒れ伏した。あ、血を吐いたのはイメージね。倒れたのはマジ。


「ちなみに彼氏はクール系努力家ショタ犬獣人」

「……ほう」


 しかし彼氏の詳細を口にすると、興味深そうな顔してむくりと起き上がる。

 これは彼氏の方に興味を引かれたんじゃなくて、その属性持ちの彼氏ことラッセル君がカレンとイチャイチャする様子を妄想したんだろうなぁ。カレンが攻めか受けか、それを考えると確かに妄想が捗るのは否定しない。


「まあ今はそこは良いんだよ。重要なのは、コイツがお前――<雷光の勇者>に憧れを抱いてるって事」

「ほうっ!!」

「真面目に聞けやこのクソ中二。ぶちのめすぞ」

「あ、はい、すみませんでした……」


 自分が憧れの対象って事を知って途端に瞳を輝かせたトオルを、ほんの少しだけ強めに叱りつける。ほんの少しだよ?

 途端にしゅんとした辺り、最低限の聞き分けの良さはあるっぽいね。駄目ならマジでぶちのめす所だった。


「いいか? コイツ――カレンは魔王と戦う<雷光の勇者>の姿に憧れて、自分も同じようになりたいって己を磨き強くなってきた奴だ。そんな奴が、お前を尾行して話しかけてきた。この意味が分かるか?」

「もちろん! 私のサインが欲しいって事――ごめんなさい冗談です! 楽しい異世界ライフに舞い上がってただけなんですっ!」


 聞き分けがあるかと思ったら無かったクソ中二の胸倉を掴み上げ、ガクガクと揺さぶって圧力をかける。泣きながら謝るくらいなら最初からボケるんじゃねぇよ、全く。あー、ツッコミ役のミニスちゃんが恋しいなぁ……。


「うー、何て暴力的……さすがはサイコパス……」

「お前サイコパスって言いたいだけだろ。あとこれでも我慢してる方だからね?」

「これでぇ!?」


 本物ならたぶんこのくらいじゃ済まさないぞ? チャンスを与える事も無く、淡々とぶっ殺してると思うわれる。つまり僕はまだまだまともな人間って事だな!

 さすがにもうふざける事は無いだろうと思ったから、優しくてまともな僕はトオルを下ろし、乱れた襟首を整えてあげました。その細い首を鷲掴みにしてへし折りたくなったけど。


「えーっと、尾行して話しかけてきた意味だっけ? やっぱりアレかな? 私がその勇者本人だと気付かれちゃったとか?」

「その可能性が高そうだよね。もしかしたらさっきの戦いを見られてたのかもしれないな。これでもかってくらいに雷ぶっ放してたし、何なら雷になってたし」


 さすがにアレを見られてたら言い訳は無理かな。幾ら魔法が万能な世界でも、自分自身を現象に置き換えるなんて真似は見た事無いや。アレは雷を自在に操れる能力を持ち、なおかつ柔軟で高度な想像力を持ち魔法を扱う事が出来るトオルならではの技だろうし。


「……えーっと、ちょっと聞いても良い?」

「あ? 何だよ」


 なんて考えてたら、トオルは妙にバツが悪そうな顔でそう前置きしてきた。遠慮なんて知らないような奴がだぜ? 一体何を聞いてくるつもりなんですかね?


「さっきの言い方からして、この人は私の顔と能力を見た事があるんだよね? それであなたはさっきこの人の名前を言ってたし、出会った事に特に驚いた様子も無かったし、街に住んでる知り合いか何かなんだよね? じゃあ何で種族を偽装しても、私の顔はそのままにしておいたの? 何で雷をあんまり使うなって警告してくれなかったの? そこちょっと不思議に思ったんだけど……」

「………………」


 うーん……なるほど。思ったより馬鹿じゃなかったようだな? むしろ頭が悪いからこそ鋭いって感じ? 俺馬鹿だから良く分かんねぇけどよぉ、的な? いやぁ、これもある意味お約束ってやつ? アハハッ。


「もしかして、忘れてた……とか?」

「……君のような勘の良いガキは嫌いだよ」

「錬金術師……!?」


 痛い所を突かれた僕はとりあえずそう答えておきました。

 そうだよ、忘れてたんだよ。種族変えとけばままええやろ程度に思ってたんだよ。悪いかこんちくしょう。こちとら忙しいし考える事いっぱいなんだし、一つや二つ重要な事柄を忘れたって仕方が無いだろぉ? おぉん?

 とりあえずレーンに知られたらまた呆れられそうだから、これは秘密にしておこうっと。


「まあジョークはさておき、これは実に由々しき事態だ。どうしよう」

「どうしようって言われても、何か問題あるの?」

「あるだろ。魔王と戦って敗れた勇者が、何故か魔獣族になってて冒険者やってるんだぞ。おかしいだろ」

「あっ、そっかぁ」

「ついでに言うとその勇者、改造されて決戦兵器として邪神の城に送り込まれたからね。それを知ってるのは国の上の方のごく一部だろうけど、そいつらに知られたら面倒な事になるぞ」

「決戦兵器!? なんてカッコいい――あっ、やめてごめんなさいぶたないで! カッコいい響きにドキッとしちゃっただけなんです!」


 真面目な話をしてて割と切実な状況なのに、トオルは相変わらずふざけてやがる。

 でもさすがにポカやらかしたのは僕だって事は分かってるし、ちょっと怒るに怒れないのが悔しいな……。


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