表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
495/527

三人の強者

「――未来のSランク冒険者たちの凱旋だ! さあ皆の者、喝采せよ!」


 満を持して冒険者ギルドに帰還した、勇者三人で結成したパーティ――何だっけ、名前忘れた。ともかく僕らは帰還し、トオルはギルドに足を踏み入れるなり自信満々に無い胸を張って言い放った。

 しかし漆黒の衣装に身を包み眼帯を装着し、シルバーアクセをじゃらじゃら言わせた見るだけで共感性羞恥で死にたくなってくる奴への反応など決まってる。


「……ヘッ」

「わ、笑われた! 鼻で笑われたよ、二人共!?」


 本部という事もありギルド内にはそれなりの人数の冒険者たちがいたけど、誰もがトオルを鼻で笑った。自信満々だった癖に涙目で僕らの所に戻ってくる辺り、あまりにもメンタルがクソザコすぎる。


「そりゃ笑われるでしょうよ。むしろ哀れみを向けられなかっただけマシじゃない?」

「俺もそう思う。どっからどう見ても世間知らずのガキにしか見えないしな」

「な、なにを~っ!?」


 当然僕らが慰める訳も無く、味方だと思っていた奴らに裏切られた(と思っている)トオルは怒りに顔を真っ赤にする。見てて面白いから良いけど、コイツこんなにテンション乱高下してて疲れないのかな?


「……ふん、まあ良い。我を侮っていられるのも今の内だ。我がこの討伐証明を差し出した暁には、あまりの驚愕に奴らの腰は砕け終生下半身不随となるだろう」

「それはもうテロなんだわ。何か怪しげな毒ガスでも撒こうとしてる?」


 自力で自信を取り戻したトオルは、一つ咳ばらいをして受付嬢の所へ向かう。あまり気が進まないけど、僕らもその後についていったよ。絶対トオルが望む展開になるとは思わないんだよなぁ。


「さあ、受付嬢よ。我が栄光への第一歩(とうばつしょうめい)を受け取るが良い」

「はい、かしこまりました。ご確認いたしますので、しばらくお待ちください」

「あ、はい」


 そうして差し出した袋詰めの討伐証明部位を、受付嬢は実にプロらしい流れるような確認作業で捌いていく。あまりにも淀みの無い動作に、トオルが一瞬素に戻っちゃってたよ。


「………………」


 受付嬢が特に驚きを示さないまま確認を続けてるからか、トオルは無言で戸惑いを示してる。

 実はクマさん倒した後にもしばらく強い魔物を探して、何とかAランクの魔物を三体くらい狩ったんだよね。だから今日登録したばかりの新人冒険者パーティが高ランクの魔物を見事に複数狩ってきたって状況なんだけど、逆にこっちがびっくりするくらいに受付嬢が淡白なんだわ。トオルとしてはギルド全体に響き渡るくらいの声量で驚いてくれると思ったんだろうなぁ。

 実際しばらくして、トオルはショックを受けたように涙目でこっちを振り返ってきたよ。コイツいつも泣いてんな?


「何か思った反応と違う! 普通は高ランクの魔物をいっぱい倒して来たら、ギルド中が大騒ぎで滅茶苦茶驚いてくれるはずだし、私をこれでもかと持ち上げてくれるはずだよね!?」

「いや、言うほど持ち上げられるか? むしろ本当に自分で倒したのか疑われるところじゃね?」

「夢と現実の区別がつかない……統合失調症かな? 大丈夫? アルミホイル被る?」


 わりと現実的な答えを返すリュウと、トオルの精神を案じる優しい僕。

 まあ普通に考えたらリュウの意見が正しいよね。討伐証明部位を高額で買い取り、それをギルドに提出したって疑われるのが妥当だ。とはいえ田舎者丸出しな奴と中二がいるから、そんな財力は無いと思われてるだろうが。


「嬢ちゃん、このギルド利用すんのは初めてか? 諦めな。ここじゃ早々目立てないぜ」


 なんて考えてたら、酒場で飲んだくれてたオッサン獣人冒険者が声をかけてきた。

 どうやらこのギルドでは目立つのは難しいご様子。確かにトオルが望むほどは無理だろうけど、結構高ランクの魔物の討伐証明部位を持ってきたのは事実なんだよね。大なり小なり驚いても不思議じゃないのに、何で受付嬢は平常運転なんだろう。


「何か物知りそうなおじさん! 何で目立てないの!?」

「そりゃあ他に飛び抜けた奴らがいるからだよ。良いか? 特にヤベーのがこのギルドには三人いる」

「ふんふん」


 意外とコミュ力は高いのか、トオルはオッサンの対面に座り話を聞く姿勢に入る。中二でコミュ力高いアホの子とか性質悪いな。

 それはともかく、どうやらこのギルド本部には飛び抜けて強い冒険者が三人いるようだ。だからあの程度の成果じゃ受付嬢も驚かなかったんだね、納得。僕がトオルのお願いに応えて勇者三人で冒険者する事にしたのも、そういう人材の調査をしたかったっていう事情もあるから、ここはさりげなく耳を傾けました。


「一人は通称<紅き女豹>。返り血みてぇな赤い髪した、小柄な猫獣人の女だ」

「ほうほう、<紅き女豹>。良い二つ名だね。しなやかで素早いっていうイメージが伝わって来るよ。凄く強そう」

「ああ、強いぜ。猫獣人は素早く体幹も優れているが、コイツは中でも別格だ。まばたきした瞬間に見失うほどの速度、床スレスレを走るイカれた体幹。あれぞ正に野生の獣って感じだな」

「……ん?」


 あれ、何だろう。何か聞いた事ある気がする。ちょうどうちにそんな奴がいたような……?


「どうした、クル――じゃなくてキョウ?」

「あ、いや。何でもないっすよ。うん」

「……?」


 リュウが若干首を傾げるも、僕はあえて何も言わない。だってきっと気のせいだからな! 


「ふーん。でも、戦えばあたしの方が強いし?」

「やめとけ。アイツは強いだけじゃなく頭の方もイっちまってる。以前Bランクの男パーティに強引なナンパをされた時、当たり前みてぇにそいつらを殺しやがったんだ。ほんの一瞬でそいつら四人の首を刎ねて、な」

「えっ、何それ。ナンパされただけで四人殺したの? 捕まらなかったの、それ?」

「まあかなり悪質な野郎共だったしなぁ。他の女にも四人で囲んで圧力かけるとかは日常茶飯事だった奴らだし、多少の罰則で済んだって感じだな」


 どうやら<深紅の女豹>とやらは実に過激で情け容赦の無い奴らしい。ナンパ男たちを皆殺しにするとか、まるで日頃から殺人欲求を抱えてる連続殺人鬼みたいだなぁ。何かますます思い当る節があるなぁ?


「うーん……」

「さっきからどうしたんだ、お前?」

「いや、何かそいつ身内にいる奴な気がしてね……」

「ハハッ、面白い冗談だな。さすがにそこまで世界は狭くねぇだろ?」

「まあ、うん。そうだよね、うん。そう思っておこう。ハハハ」


 とりあえず気のせい、他人の空似、シンクロニシティとかそういう類だと決めつける事にしました。マジでアイツだったら頭痛くなるわ。何当たり前のように衆人環視で人殺してんの? そういうのは証拠が残らないようにやりなよ……。


「二人目は通称<漆黒の魔狼>。黒髪に銀の瞳を持つ犬獣人の女だ」

「<†漆黒の魔狼†>!?」

「コイツも相当ヤベー奴だが、<紅き女豹>に比べればまだマシだ。しつこいナンパも殺さずボコボコにするだけで済ませたからな」

「ふぅん? 魔狼っていうわりには常識があるんだね。もっと恐ろしい手が付けられない狂犬的なのを想像してたけど」

「常識があっても強さは異常だぜ。特に技がヤバい。アレこそ正に武の極致。魔法無しでの徒手での戦いなら、奴は世界一かもな……」

「くっ! 神狼である我の方が強いもん……!」


 などと二人目の解説に入り、頭痛が酷くなった僕は頭を抱える。

 そいつもすっごい思い当る奴がいるんですが? やだなぁ。何で見果てぬ強者の情報が無いか期待してギルドに来てみたら、うちにいる変な奴らと思しき情報ばっか出てくるんです?


「うーん……」

「おいおい、まさかそっちも覚えがあるとか言わねぇよな? さすがに笑えねぇぞ?」

「アハハ、そんなわけないじゃないか。ハハハ」


 うん! やっぱ気のせい! きっと物凄く良く似た別人だ! そう決めつけよう! 二人までならギリギリ偶然って事もあるしな! 偶然が三回重なったらさすがに認めるしかないけど!


「そして三人目――<翠の英雄>だ」

「<翠の英雄>? 何か前二人と二つ名の感じがちょっと違うね?」

「コイツに関しては巷での二つ名がそのままギルド内でも使われてる感じだな。最初は<詐欺ウサギ>だの<イカれウサギ>だの、酷いもんだったぜ?」


 あっ、ヤバい。何か偶然が三つ重なりそうな気がする……ていうかそっちの二つ名は聞いた事あるわ。


「ウサギ? ってことはウサギの獣人なの? ぴょんぴょん」

「ああ、そうだ。こんくらいしかない、緑の髪のお嬢ちゃんだ。いつも仮面被った変な聖人族の従者を連れてるのが特徴だな」


 はい、ダウト! それニア(ミニスちゃん)です! そして仮面は僕です!

 偶然が三つ重なったので認めます! 他二名もうちにいる犬猫だろ、どうせ! 知らぬところで何暴れてんだ、アイツら!


「ふーん。じゃあその子も常識無い感じ?」

「いや、この嬢ちゃんに限っては逆だ。暴行も殺人もしねぇし、絡んできた奴らも優しく撫でる程度で済ませてやってたぜ」

「えっ、そうなんだ。じゃあどの辺がヤバいの?」

「強さの次元が違う。俺は直に見たわけじゃねぇが、天を突くほど大きなエクス・マキナの攻撃を何度も弾き返し、たった一刀の下に斬り捨てたそうだぜ」

「えぇー、ウッソだぁ?」


 さすがに盛りがデカすぎると思ったのか、トオルはケラケラと笑う。でもそれマジなんだわ。ていうかお前もたぶん本気出せばそれくらいやれるんじゃない? あのクソデカ雷にはそれくらいのポテンシャルはあったよ?


「どうもマジらしいんだよなぁ。ていうかSランクとAランクの魔物を一日に何十体も仕留めて、ギルドの依頼掲示板から高ランクの討伐依頼を消滅させるっていう偉業を成したくらいの強さだ。それくらい出来てもおかしくはねぇだろうな」

「なっ!? わ、私より主人公っぽい……!」


 どうやらミニスちゃんが主人公っぽいと考えたのは僕だけじゃないみたいで、まだ会った事も無いトオルですら同じ事を考えてたよ。偉業の一部分だけ聞いてこの反応とか、ミニスちゃんのくそ強メンタルも含めて全部知ったらどうなるんだ、これ……。


「じゃあきっと、すっごい性格悪い子なんだね!? 高ランクと強さを鼻にかけてるような生意気なメスガキなんだ!」

「それが近年稀に見るレベルの善人なんだよなぁ。高ランクの依頼だけじゃなくて、誰も受けない割に合わない依頼や、高い報酬が出せない奴らの依頼も全部片付けちまう。挙句に報酬の大半を寄付しちまってるし、今は邪神に対抗するために両国で啓蒙活動を続けながら、困ってる奴らを助けてやがる。非の打ちどころのない、正に英雄だよ。あの嬢ちゃんは」

「ぐぬぬ……!」


 これは勝てないと悟ったみたいで、トオルは屈辱に唇を噛み締める。

 しかしこんな冴えないオッサンでもニアの事を認めてくれてる辺り、活動の成果は順調みたいだね。そこは喜ばしい限りだ。

 でもなぁ、その割にはギルドに<救世の剣>(ヴェール・フルカ)メンバー募集の貼り紙とか無いんだよなぁ。その辺りの事を見に来たのに、全然見当たらないのが不思議。聖人族の国の方にはちゃんと張り紙あったのに。民度低い奴らに剥がされてたけど。

 一応はあっちにも張り紙は為されてた辺り、こっちには無いってのは意図的なものを感じるな? 後で詳しく調べてみるか。何か嫌な予感がするし……。


 異名を持った者たち……一体何者なんだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ