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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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中二勇者、やりたい放題

「――これで我らは未知を切り開き、恐ろしき怪物を打ち倒す存在、冒険者(エクスプローラー)となった! フハハハハッ!」


 紆余曲折あったけど、勇者三人は晴れて冒険者となりました。僕は二度目――いや三度目か。すでに初めてじゃないからそこまで興奮しないが、他二人はかなり舞い上がってる感じだ。

 もちろん特にヤバいのはトオル。冒険者プレートを掲げて高笑いしながら、ギルド内を走り回ってる。恰好こそヤバいが中身は子供みたいなもので安全だと理解したっぽくて、他の冒険者たちのトオルを見る目がだいぶ優しくなってたよ。何か父親みたいな顔してる奴が多い辺り、他の冒険者に絡まれて返り討ちっていうお約束は難しそうですね……。


「トオル様、ギルド内を走り回るのは他の方々のご迷惑になりますのでお止め下さい」

「あ、はい……すみません……」


 そして受付嬢に注意され、途端にしゅんと落ち込むトオル。ますますただのガキにしか見えなくなり、余計に周囲からの好感度が上がっていく。何なら受付嬢ですら微笑ましいものを見る目をしてるぞ? さっきは僕に軽蔑の眼差しを向けてきた癖によぉ?


「ほーら、そこのお嬢さん。登録が済んだなら早速お仕事探してパパっと済ませるぞー」

「だな。この調子だと夜までかかっちまいそうだし」


 はしゃぎ回るトオルにやれやれしつつも、浮かれた気分をあまり隠せずソワソワしてるリュウ。お前ら揃いも揃って子供か? これはもう僕も纏めて田舎者って見られてるな、間違いない……。


「そうだ、パーティ登録! 三人でパーティを結成しよう!」


 なんてげんなりしてたら、大切な事を思い出したって感じの顔でトオルが戻ってくる。どうやらコイツ、冒険者登録だけでは飽き足らず早速パーティ登録までしたいらしい。こんな調子じゃマジで夜までかかりそうだな?


「俺は別に構わねぇけど、パーティ名はどうするんだ?」

「フフン、我に任せよ! 我が素晴らしい名を考えてやる!」

「酷く不安なんですが? どうせパーティ名に(ダガー)とかつけるんでしょ? 知ってる」


 中二の奴らは†で挟めば何でもカッコいいと思ってるからな。あとはやたら『ヴ』が付く言葉が好きとか、『闇』とか『黒』とかを好む生態だ。それはトオルのほぼ黒一色の姿を見れば容易に想像できるね。


「ど、ドンナナマエニシヨウカナー……」

「図星か、この中二百合女」

「これはコイツに任せてたら碌な名前にならないみてぇだな。俺らも知恵を絞ろうぜ」


 冷や汗を流して目を逸らすトオルに任せられないって事で、やむなく僕らはパーティ名を考えるために膝を突き合わせることになりました。冒険者登録して初めにやる事がパーティ名決定のための会議とか、予め決めておけって感じだよね。前途多難だな、このパーティ……。


「――良し! ではこれより、我らは<全能なる不撓(レジェンダリー)不屈の雷鳴帝(・ヒーローズ)>なり! 我らの剣で全てを斬り開き、冒険者の頂点に君臨するのだ!」


 そうしてしばらくギルド併設の酒場で相談したりぶん殴ったり恫喝した結果、最終的にパーティ名はこんな感じになりました。

 えっ、お前真面目にやったのかって? うるせぇな、これでも僕は頑張ったんだ。頭のおかしい候補を幾つも出すトオルを脅迫と暴力で押さえつけようと頑張ったんだ。でもコイツは無駄な場面なのにどうにも折れなかった。最終的には僕とリュウ二人がかりで『ルビは普通にした方が名前はより映えるんじゃね?』と誘導して、何とか耳にするだけならマシなこの形に持って行きました。ちくしょう、邪神たるこの僕が敗北するなんて……。


「さあ、我らの記念すべき初依頼を受諾しに向かうぞ! フハハハハハハッ!」


 パーティの申請もしたトオルはテンション最高潮。瞳を夢と期待に輝かせ、依頼の貼られた掲示板へと向かって走って行く。他の冒険者たちの娘でも見るような目には全く気が付かずにね。やっぱアホの子って愛されるんだなって。


「このノリずっと続くの? 何か面倒になって来た。帰って良い?」

「そ、そう言わずによぉ……せめて今回くらいは付き合ってやれよ……」


 とはいえ僕は別段愛する気持ちなんて湧いてこないから、依頼に向かう前から最高に面倒になって来てたよ。

 まあ初めてだから興奮してるって事で、その内落ち着くと思いたいね? 一生あんな調子だったら殴って黙らせたい欲求に抗えるとは思えない……。





 そんなわけで、僕は面倒になりながらも勇者三人で依頼を受けて冒険に向かいました。街の程近くにある森の中を三人仲良く歩くんだけど、意外な事にトオルのテンションは落ち込み気味。あれだけ舞い上がってたのに不思議だよねぇ? 何でそんなに落ち込んでると思う?


「うぐぐ……何で記念すべき初仕事が薬草採取とかいう地味なやつなのぉ……?」

「そりゃあ俺らは冒険者登録したばかりで最低ランクだしなぁ。そんな奴らに任される仕事なんてそりゃ地味に決まってるだろ」


 理由は簡単。受けた依頼が原因だ。

 今回引き受けた依頼は良くある薬草採取。これだってお約束と言えばお約束だけど、トオルとしてはもっと派手なお約束をこなしたいらしい。ぶーぶー言ってるのをリュウに慰められてたよ。


「じゃあ戻ってクソザコ魔物の討伐依頼にする? 正直僕らからするとあまりにも難易度低すぎて薬草採取の方が楽しいまであるよ?」

「うがーっ! 何でわざわざ最低ランクから始めないといけないわけ!? こういうのは登録の時に実力を調べて最初から高ランクとかじゃないの!?」

「お役所仕事なんてこんなもんじゃね? さすがに夢見すぎだろ」


 せっかく討伐依頼を提案してあげたのに、トオルは奇声を上げて頭を掻きむしる始末。リュウが言う通り、ちょっと夢見すぎですね。お役所がそんな面倒な事するわけないじゃん?

 いや、でも待てよ? そういえばトゥーラが治めてた冒険者ギルドは普通にそれをやってたな? 新規登録者に模擬戦させて実力を確かめ、その結果によってはある程度高いランクから始められるってやつ。クズ野郎に対しては趣味と実益も兼ねてボコってたみたいだけど、もしかしてトゥーラが治めてたあのギルドってかなり柔軟な……いや、考えるのはやめよう。あのクソ犬が治めてた所が一番マシなんて信じたくない。


「まあ自分より高ランクの魔物を仕留めて持って行けば評価はされるし、それを狙っても良いんじゃない?」

「うーん……それはそれで死亡フラグみたいな気がする……」

「わがままだな、このクソアマ」


 せっかく新たな提案をしても、今度は死亡フラグとかで消極的な反応。さてはコイツ、この異世界をアニメかゲームとしてしか認識してないのでは? 薄い本が辞書並みに厚くなる目にあったというのにこの認識……やっぱりトラウマの記憶を丸ごと持っていくのは逆効果だったんじゃない? ツヴァイさんよぉ?


「そんなもんコイツがいれば何とかなるだろ。死んでも何とかして貰ったしな」

「そうそう。女神様より寵愛を授かった僕にかかれば、多少の無理無茶無謀は強引にどうにか出来るよ。何ならSランクの魔物よりヤベーのを何十体も出してやろうか」

「おいやめろ馬鹿!」


 リュウもリュウで実にノリが悪いというか、せっかく期待に応えてあげようとしたのに血相変えて止めにくる。最近はエクス・マキナみたいな無機物系の怪物にも飽きて来たし、ちょっと生物系の怪物作りにも嵌り出してるからクオリティも強さも文句無しなのに……。


「そういえばギルドの依頼ざっと見たけど、高ランクの魔物の討伐依頼は全然無かったんだよねぇ。何でだろ? 冬眠でもしてるのかな?」

「サー、ナンデダロウナー」

「何だそのわざとらしい言い方……」


 もの凄い思い当る節がある僕は、明後日の方向を向いてすっとぼけるしかない。

 高ランクの討伐依頼がほぼ全て無くなってるのは、以前ミニスちゃんが頑張ってくれたおかげだね。ニアとして遠慮なく善行を積めるからか、訪れた街の近辺にいる危険な魔物は絶滅させる勢いで倒しまくるもん。ある意味では高ランク冒険者の営業妨害なんだよなぁ。


「えぇい! 疾く現れよ、下賤なる魔物共! この<神雷黒狼>が成敗してくれる!」

「二つ名が出る度に変わってるんですが?」

「我は常に進化する! 一秒たりとも止まりはしないのだ!」

「いつか絶対悶える事になるってのになぁ……」


 次々と痛い二つ名を量産するトオルに、僕もリュウも呆れ果てる他に無い。

 とりあえずコイツの中二病が治ったら、毎日黒歴史を語って聞かせて悶えさせてやろう。きっと物凄く面白い反応をしてくれるに違いない。

 うん、そう思ったらこの面倒な時間も悪くない気がしてきた。後で精神的に嬲り殺すためにも、トオルが積み重ねる黒歴史はしっかり覚えておかないとね。

 なんて思ってたら――シャキィン! トオルは剣を抜き、天高く掲げた。ちなみに空間収納があるのにわざわざ帯剣してる上、剣までも切っ先から柄頭に至るまで漆黒なんだから恐れ入るよ。


「さあ、来るが良い魔物共! 我が雷光で貴様らの悪しき魂を滅してくれるわ!」

「おいおい、そんなんで来たら世話ねぇだろ――」

「――ゴアアアァアアァァッ!!」

「来たっ!!」

「来るんかい!」


 タイミングが良いのか悪いのか、剣を掲げて高らかに叫んだトオルに引かれたように、デカい筋肉質のクマさんご一行が登場。森の中でクマさんに出会うとかメルヘンだねぇ。筋肉ミチミチでゴリラみたいに見えるのは全然メルヘンじゃないが。

 とはいえ一目で雑魚じゃないと分かる魔物が来て、トオルは目を輝かせてたよ。まあ雑魚じゃないだけで特別強いってわけでもなさそうだけど。


「記念すべき我らの初陣だ! さあ、我に続け! オシリス! ヤハウェ!」

「今俺らを変な名前で呼ばなかったか!?」

「確かオシリスが死と再生の神だっけ。じゃあ僕がヤハウェか……?」


 再びテンションが最高潮になったトオルの号令により、遂に僕ら――何だっけ? 何か恥ずかしい名前のパーティ初戦闘が始まりました。

 実際にはここに来るまでに何度か魔物と戦ってるけど、トオルの中ではそれは初戦闘に含まれないようです。都合の良い頭してるな?


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