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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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勇者同士の顔合わせ

 リュウの顔合わせはメイド&執事たちとも無事に終わった。ちょっとベルに対して死ぬほどビビって腰抜かしてたけど、まあ新しいトラウマだしアレは仕方ない。

 とにもかくにも、晴れて二人の勇者は屋敷内での自由行動を許される立場になった。でもその前に、もう一人自己紹介しなきゃいけない奴がいるね? そう、ハニエル――じゃなくて勇者たち自身だ。ハニエルはぶっちゃけ入院患者みたいな扱いだし、別に紹介しなくていいや。


「我こそは<雷光の勇者>! しかしそれは過ぎ去りし過去の名。邪神の祝福によって覚醒し新たなる力を得た我は、最早聖人族の手先にあらず! 新生した我こそ<電光雷轟の暗黒邪狼>――栗栖(くりす)十織(とおる)! 我が高貴なる名をしかとその耳に刻むが良い! ハーッハッハッハ――ぱあっ!?」


 そんなわけでリュウとトオルの顔合わせなんだけど、予定調和みたいにトオルが速攻で病気を発症。目まぐるしくポーズを変えながら大仰な台詞を口にしたから、高笑いの所で頬を引っ叩いてやりました。


「……だから何でぶつの?」

「いや、何か腹立ったから」

「ひどいよぉ……」


 そしてすんすんと泣き始めるトオル。何か段々お約束になってきた感じだな。じゃあこれからも引っ叩いてやらないとな!


「と、とりあえず自己紹介だな。俺は東昭(とうしょう)(りゅう)。異名とかそういうのは分からんけど、不死身の力を持った元勇者だ。お互い何か色々辛い事があったみたいだし、同郷の人間でもあるしな。仲良くしてくれると嬉しいぜ」


 人形偏愛である事を除けば特におかしな所の無いリュウは、ごく自然な自己紹介と共にしゃがんで握手を求める。女相手に自分から接触を求めるなんて、随分成長したなぁ? やっぱそれだけベルの姿が駄目だったんだろうなぁ……。


「辛い事って言われても、私は覚えてないんだけどなぁ……まあ良いや、よろしくね! 同じ勇者同士、仲良くしよ!」


 さっきまでめそめそしてた癖に、トオルはすぐに上機嫌に戻り握手に応える。

 握った手を笑顔でぶんぶんと振る様子は、とても肉奴隷&改造兵士のフルコースを味わった奴には見えない。この二人には相手の過去の事も話してあるから、リュウは物凄い困惑の表情をしてたよ。


「……なあ、覚えてないってむしろ余計にヤバくないか?」


 そして腕を振られつつ、顔だけ僕の方に寄せて内緒話。どうやらトオルのヤバさを理解してしまった様子。


「その辺は大丈夫。苦痛の日々に耐えられず生まれたもう一つの人格が、そういう記憶を全部持ってってるから」

「何も大丈夫じゃないだろ、それ!? 二重人格かよ!?」

「まあ本人――というか元の人格の方はそれを知らないから、適当に流してやってよ。あんまり変な事言うともう一つの人格が出て来るかもだけど」

「お、おう……」


 さすがに多重人格者相手にどう接すれば良いかは分からないみたいで、ちょっと戸惑いがちに頷くリュウ。

 まあ当然だよね。僕も初めての相手だし。というか戦った時以来、もう一つの人格が出てきた所を見た事無いんだよなぁ。消滅しちゃったとか無いよね?


「貴様ら、我を一人放って何をこそこそしている! 寂しいし傷つくからそういうのやめて!」

「あ、ああ、いや、何でも無い。その、えーと……凄い可愛い子だなって話してたんだよ。な?」

「え……」


 トオルが魅力的な少女に見えたとリュウが適当抜かし、それに対してトオルは虚を突かれた感じの驚き顔を晒した。

 リュウは認識できなかったみたいだけど、一瞬トオルの身体にバチッと電気が迸ったのを僕は見たぞ。それに表情も良く見ると驚きというより、表情が抜け落ちてる感じだ。何か嫌な予感。離れとこ……。


「ほら、お互い同郷の人間だし? もしかしたら相性も良いんじゃねぇかって思ってさ。そうだ、もし良かったら今度デートとか――」

「――ざけんじゃねぇぞこのクソ野郎があああぁぁぁぁっ!」

「うぎゃあああぁぁぁぁぁ!?」


 今回は危機意識が仕事したみたいで、次の瞬間トオルの第二人格ことツヴァイがこんにちは。挨拶代わりに怒りの雷撃をぶっ放し、情け容赦なくリュウを感電させた。


「同郷だから相性が良いだぁ!? トオルに手ぇ出そうとかクソふざけた事考えてんじゃねぇだろうなぁ!? あぁん!?」


 もちろん一発では済まず、二発三発とビリビリしていく。でも悲鳴が聞こえたのは一発目だけだし、もうデカいかりんとうみたいな黒ずんだ物体になってるからすでに事切れている模様。

 ツッコミにしてはちょっと過激じゃない? まあ生き返る奴相手だから問題無いか……?


「どうどう、落ち着け。どうせコイツはもう生身の女には立たない役立たずだから、お前が心配するような事は無いよ。能力的にもただ死なないってだけだし、襲われたってどうにでもなるでしょ」

「チッ!」


 すっげぇ嫌そうな顔で舌打ちした後、ツヴァイは人格交代のためか虚無の表情に切り替わる。どうやら防衛本能みたいな感じで出て来ただけらしい。完全に恋人を護るオラオラ系彼氏みたいなムーブだったな? ていうか僕が頬を引っ叩く時出て来ないのは何でなんですかね?


「……あれ!? いつの間にかリュウがこんがり焦げてる!? 何で!?」

「さあ? テンションでも上がったんじゃない?」

「テンション上がると物理的に燃えるの!? どういう体質!?」


 やっぱり人格交代中の記憶は無いみたいで、トオルは切り替わった瞬間リュウの惨状に目を見開いてたよ。笑顔でデートに誘おうとしてきた相手が、次の瞬間には焼け焦げた死体になってたら無理も無いか。


「あ、でも段々治ってく……」

「そこは腐っても不死身の勇者か。まあ脳みそ刺されると行動不能になるっぽいけど」


 幸いな事にリュウは不死身っていう能力の持ち主だから、見る見る内に炭の塊から肌の色を取り戻してく。

 そこまで時間もかからず完治したけど、何か膝を抱えて蹲ってる姿で再生完了してたよ。服も焼け焦げちゃったから隠してる感じか?


「おーい、生きてるかー?」

「やっぱり……三次元の女なんて、こりごりだ……!」


 違った。女に幻滅し絶望してるだけだったわ。ますます人形にのめり込んじゃうな、これ……。

 頑張って良い方に考えるなら、僕やバールと趣味が被らないってとこかな? 住み分けが出来てるのは良い事だけど、何で男連中は総じて性癖が噛み合わないのか果てしなく疑問。寝取られもいけるっぽいヴィオくんとも、僕は微妙に噛み合わないしね……。


「しかし、アレだ。数多の苦難と時を超え、元勇者が三人揃ったか……ふむ。これは我らで冒険に出向かなければなるまいっ!」


 とりあえずリュウに適当な衣服を与えてると、突如トオルが意味不明な事を叫ぶ。

 確かに元勇者が奇跡的に三人揃ったわけだが、冒険って何だ? 一体どこに向かうつもり?

 いや、待てよ? 召喚された勇者と来て、冒険か。となると、もしかして……?


「……もしかして冒険者として働きたいとかそういう感じ?」

「然り! どのみち我らに与える仕事が今は存在せぬのだろう? ならば表の世界に潜入し冒険者たちに紛れ、武力を持つ者たちの情報を集める間諜を生業にするのが賢い選択と言える!」

「ふむ。本音は?」

「同郷の三人で異世界のお約束やりたい! 私そういうのやれなかったし!」


 なるほどね。同郷の三人で冒険者になって異世界ファンタジーのお約束やろうぜ! って事らしい。僕もお約束は基本だと考えて何度か経験したし、気持ちは分からないでも無いな。


「……考えてみれば俺もそういう事してなかったな。召喚されてちょっと勉強させられた後、すぐさま魔王退治に送り込まれたし。しかもそれを不思議とも理不尽とも思わないようにされてたしなぁ」

「だよね! だから私、三人で冒険者のお仕事したい! お約束が分かってる三人で、楽しく冒険者してみたい! 私達ツエーをして他の冒険者たちから持ち上げられたい!」


 これにはリュウもさり気なく同意し、トオルは浅ましい欲望を露わにする。

 そうか、コイツらは僕と違って女神様の加護を受けて無いから、バッチリ洗脳されて魔王退治が使命だと思わされてたんだな。洗脳されてなかった僕でさえ冒険者とかやる暇も無く旅を続けてたし。


「まあ気持ちは分からないでもないよ。僕だってお約束に理解はあるし、何度か経験済みだしね。でも僕は虐殺や破壊や裏工作で忙しいんだよね。今だって哀れな白ウサギを地獄に一人残してきてるし」

「白ウサギ……?」


 まだミニスちゃんの紹介はしてないから誰か分からず、リュウは首を傾げる。

 あ、今は緑ウサギか。まあどっちでも良いか。ミニスちゃんがコイツらと会う事はしばらく無いだろうし、会ってもニア状態だろうしな。


「分かってるよ! だからちょっとだけ! 少しの間だけで良いから! あとは気が向いた時とかで良いから!」

「はいはい、分かったから落ち着け。電気出てる」


 興奮した面持ちでちょっとバチバチ電気を放ちながら迫ってくるトオルに、僕はやむなく許可を出しました。

 ちょっと面倒だけど、お約束と言われたら仕方ないよね? それが実現可能かどうかは別として。


「……意外だな。てっきりお前なら断るかと思ったんだが」

「まあ僕にも気晴らしは必要だしね。あとどのみち冒険者ギルドで確かめたい事もあるし」


 もちろん慈愛の塊である僕でも優しさだけで許可したわけじゃない。最近はニアの従者として控えてるだけであんまりお仕事してる実感が無かったし、冒険者ギルドに多少の用事もある。だからここはトオルの提案に乗っかるのも悪くないかなって。


「よし、じゃあ早速冒険者ギルドに行こう! 目指せ最速でSランク冒険者!」


 なお、トオルは物凄い上機嫌で今すぐにでもギルドに繰り出そうって勢いだったよ。その前に君らやる事あるでしょ。まだ魔獣族への偽装もしてないし、そもそも格好は芋臭いパジャマだぞ?


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