仲間たちの様子4
⋇性的描写あり……?
「さてさて、アイツらはどんな感じかな?」
ちょっと数時間ほどキラに弄ばれた後、僕はふと思い立ってリュウの様子を見に行くことにした。
何かバールが自分に任せろとか言ってたし、もしかしたらトラウマも多少良くなってるかもしれないね。あるいは染められてリュウも死体愛好家になってるかもしれんが。感染するとかゾンビじゃねぇんだからさぁ……。
「――お前頭イカれてんじゃねぇのか!? 死体とヤり過ぎてアレも脳みそも腐ってんだろ、この吸血コウモリ!」
「それは貴様の方だ! 所詮は半世紀も生きていない赤子、我と話が合うはずも無かったな!」
バールの地下居城へ転移すると、いきなり二人の罵声が聞こえてきた。びっくりして思わず物陰に隠れると、バールとリュウが顔を突き合わせて何やら言い争ってたよ。二人の青筋の走った額を見るに、かなりガチで熱の入った喧嘩してますね、これ。
しかし一体何をこんなに言い争ってるんだ。最初は仲良さそうだったのに……。
「誰が赤子だ、吸血コウモリ! 死体にしか立たないお前よりはまともだわ!」
「ハッ、これは傑作だ! 生きた女に恐怖し縮み上がる奴が我よりまともとはな!」
「何でちょくちょく下ネタ混じってるん……?」
もの凄い剣幕で言い争ってるのに、地味に下世話な内容が含まれてるのが気になるね。そしてどっちの言い分も一理あるのが悲しい所。女性恐怖症のEDと、死体にしか立たない変態、果たしてどっちがまともかは意見が分かれるところだな。
なんて考えてたら、僕の呟きをバールが耳にしたっぽい。くわっと剣呑な目を僕に向けてきたから、思わず逃げようかと思ったほどだよ。何か面倒な話に巻き込まれそうだしね。
「良い所に来た、クルス! この分からず屋にお前からも言ってやるが良い!」
とはいえそこは腐っても魔将。僕が逃走体勢に入る前に一瞬で距離を詰め、無理やり騒ぎの渦中に引きずり込んできたよ。やだぁ、僕を変な喧嘩に巻き込まないでぇ……。
「何言ってんだ! コイツだって俺と同じ思いのはずだぜ! そうだよな!?」
二人だけでは埒が明かないと思ったみたいで、リュウも僕に詰め寄り同意を求めてくる。二人共目がマジだ。一体何をそんなに白熱してるんですかね? 面倒は面倒だけど、同時にちょっと好奇心も湧いてきたよ。
「ごめん。話を聞いてたのは途中からだし、何に同意を求められてるのかさっぱり分かんない。まずそこを教えてくれない?」
「簡単な事。クルスよ、選ぶが良い。お前は青ざめた美しい骸と――」
「――無機質ながらも綺麗で美しい人形! どっちが良い!?」
「あー、そういう……」
そして二人が堂々と答えた内容に、好奇心も消し飛んでただただ面倒な思いだけが残った。
見れば二人の傍らにあるベッドには裸の女――もとい、女の等身大人形が横たわってる。一体どこからどのように入手したのか、関節の部分とかを見ないと死体と間違いそうなくらいに精巧なやつだね。正直キモイ。
どうやらリュウくん、女性恐怖のトラウマを拗らせた結果、お人形遊びに目覚めちゃったらしい。何て言ったっけ? 人形偏愛だったかな?
「何? 死体愛好の仲間を作ろうとしたら、何か間違って人形愛好家になっちゃったわけ?」
「どうもそうらしい。全く、何故人形などという死体に劣る粗悪品に目覚めたのか……」
「人形の方が良いだろ! 死体になってようと元は生きてる女! もう俺は生きてる女じゃ立たねぇんだよ!」
「これが勇者の末路かぁ……」
あまりにも悲しく悍ましい事を堂々と叫ぶリュウに、哀れみを禁じ得ない僕。
たぶんアレだな、バールのせいだな。女性恐怖症に対して無理やり死体の女を勧めた結果、間を取って人形になっちゃったんだろうなぁ。これなら相手が生物であるだけ獣とかホモの方がまだマシかもしれん。
「全く、嘆かわしいものだな?」
「いや、日常的に死体とヤってるお前も大概だからね?」
何か常識人面してるバールだけど、僕に言わせればどっちもどっちだ。
いや、吸血鬼っていう種族を考えると、死体に興奮するのはさほどおかしくないのか? ファンタジーでは吸血鬼はアンデッドに分類される事もあるし、そうなると死者が死者を性的対象にしてるわけだから、別段おかしいことではないか?
となると普通に悪魔や獣人と結婚してる吸血鬼の方が性的倒錯者に……? うーん、何か頭こんがらがってきた。
「なあ、クルス! お前だって死体よりは人形の方が良いよな!?」
「そんなわけがあるまい。数多の女を抱いているクルスならば、冷めているとはいえ肉感的な死体を選ぶはずだ。そうだろう?」
ちょっと混乱してきた僕に、馬鹿二人が白目剥きたくなるような事を鬼気迫る表情で尋ねてくる。本気で言ってんのかな、コイツら?
まあ僕は特に忖度したり、どっちかの肩を持つつもりも無い。だから正直に答えました。
「ぶっちゃけどっちもごめんだね。僕はヤるなら生きてる女の子とヤりたいよ」
「クソが! 裏切り者め!」
「失望したぞ、クルスよ……」
「え? これ僕が裏切り者で失望される側なの?」
そしたら二人はゴミを見るみたいな目で見てくるっていう……僕、今回に限ってはまともな事しか言ってないんだけどなぁ? ていうか僕が終始置いてけぼりでツッコミに甘んじてるとかどういう状況?
「……まあ何はともあれ、性癖トークで盛り上がれるならだいぶ精神的に立ち直った感じかな?」
「あ? ああ、何とかな。今は、そうだな……普通の女と接するくらいなら大丈夫そうだ。サキュバスでなきゃな」
ちょっと何かヤバい性癖に目覚めて変な方向に突き抜けちゃった感じだけど、おかげでトラウマはだいぶ解消されたっぽい。サキュバス以外なら女と接する事も出来るっていう自信満々の言葉を頂いたよ。
そこまで言うなら試すべきだよなぁ? 決してアホみたいな言い争いに巻き込まれて気が立ってるわけじゃないぞ! 本当だぞ!
「分かった。じゃあ呼んでみよう」
「え。いや、ちょっと待てよ――」
「おーい、ベルー! ちょっと来てー!」
「待て!? 何故よりによってソイツを呼ぶ!?」
僕が大きな声を出してベルを呼ぶと、二人(主にバール)がギョッとして焦りを見せる。そりゃあ当然ベルを呼んだ方がバールに意趣返し出来るからですわ。お前に任せたせいで勇者がお人形遊びに目覚めちゃったんだぞ? 全く……。
「――ぐおっ!?」
「あっ」
「ひっ!?」
「呼んだか、ご主人様? 私に何か用か?」
そしてベルが天井からぬるりと現れた。ちょっと反応が渋滞したのは、真下にいたバールが踏ん付けられて地面に縫い付けられたせいと、現れたベルがよりにもよってリアの2Pキャラになってたのに気付いた僕と、見た目ロリサキュバスのメイドが現れた事にリュウがガチビビリしたのが原因だね。
「いやぁ、コイツが普通の女と接するくらいなら大丈夫になったって言うから、試しにベルを呼んだんだけど……ちょっとタイミングが悪かったね?」
「ああ、確かに。ちょうどリアに変身していたからな……」
「さ、サキュ……! ひいぃぃぃっ!?」
リュウは腰を抜かしてへたり込み、ずりずりと部屋の隅に後退りしていく。でも攻撃してこないだけ多少はマシになったかな。
しかしロリサキュバスでも駄目かぁ。これはリアにも顔を合わせられないな?
「落ち着け、勇者よ。これは魔法によって変身しているだけの仮初の姿だ。今真の姿を見せてやろう」
「あ、おい待てぃ」
ベルがとんでもねぇ事を口走ったので止めようとしたけど、残念ながら一瞬遅かった。
何を思ったかベルはリアの2Pキャラという愛らしい姿を捨て、醜く悍ましい真の姿を現しやがりました。途端に身体の体積が何百倍にも膨れ上がり、数千数万にも上るであろう触手の生えた芋虫みたいな身体がこんにちは。
当然ながら室内でその巨体を露わにすれば大惨事になるのは自明の理。多少大きさは調整してるみたいだから壁や天井こそ破壊されなかったものの、ベルの身体が部屋中ギッチギチに広がり、僕もリュウも壁に押し付けられて半ば潰されそうになってたよ。ちくせう。
「な、あ、あぁっ……!?」
『どうだ? 醜く悍ましいが、トラウマのあるサキュバスの姿よりはマシだろう?』
押し潰されそうになっているリュウに対し、妙に自己評価が高い事を口走るベルさん。
リュウからすれば突然目の前に常軌を逸した域で醜い化け物が現れ、先端に目玉があるキッショイ触手で自分を押し潰そうとしてるようなもの。ベルのデカい身体で壁に押し付けられてるから良く見えないけど、どうにもリュウはSANチェックに失敗してそうな雰囲気だった。
「ごぼ、ぼ……!」
『……むぅ。泡を吹いて失神しているぞ。軟弱な奴だ』
「わりと仕方ない事だと思うんですが、それは……」
ベルの姿を目の当たりにして精神が壊れちゃったのか、あるいは精神を護るためか、リュウは失神しちゃったらしい。
まあ見た者の精神をダイレクトに蝕む呪われた見た目だけでも大概なのに、こんなキッショイ触手に身体を這い回られるんだもん。無理も無いわ。
「というか何故に真の姿を解放した? デカすぎて僕潰れそうなんですが?」
『トラウマのあるサキュバスの姿よりは、私の本当の姿の方が受け入れて貰えるのではないかと思ってな。無駄な期待だったようだが』
「これ逆に新しいトラウマを植え付けてるんじゃねえかなぁ……」
ベルはピカッと光って一瞬でリアの姿に戻ると、酷く残念そうな顔でリュウに視線を向けてたよ。確かに勇者とかいう大層な肩書きを持ってるし、もしかしたら耐えられるんじゃないかと思っても仕方ないか。実際は泡吹いて倒れてるけど。
ていうかこれ、やっぱミニスちゃんは滅茶苦茶凄かったんじゃねぇかなぁ? 見た目と声によるダブルSANチェックでも、恐怖に錯乱して僕に助けを求めたり吐いたりするくらいで、気を失ったりはしなかったんだし。
「……まあ良い。用事がこれだけなら私は仕事に戻るぞ」
「お疲れー」
最終的にはリュウに興味を失ったみたいで、ベルはぴょーんとジャンプして天井をすり抜けるようにして帰って行った。地味に何か面白い移動方法してるな、アイツ……。
「……あっ、潰されてる」
とかちょっと感心してたら、バールが床にめり込み動かなくなってるのを発見した。
そっか、そういやベルが上から現れた時に潰されたままだったか。しかそもその状態で変身して元に戻るもんだから、巨体に圧し潰されて床にめり込んでたのか。可哀そう。
「大丈夫、バール?」
「う、うぅ……我が一体、何をしたというのだ……!」
「泣いてるぅ……」
さすがに不憫になって声をかけると、バールはうつ伏せに床にめり込んだまますすり泣いてたよ。
不死身の勇者は泡を吹いて失神してるし、真祖の吸血鬼は床にめり込んで泣いてるし……何だこれ? ここが地獄か?
というわけで、勇者コンビは二重人格の百合中二&人形偏愛という業の深いコンビになりました。勇者も変なのしかいなくない……?