仲間たちの様子
⋇性的描写あり
「うーん……良く寝た。やっぱ野宿よりベッドが一番だね」
クソデカベッドでぐっすり寝た僕は気分爽快。すでに身体も目覚め切ってるみたいだし、うだうだむにゃむにゃせず身体を起こして大きく伸びをする。
勇者周りの問題で屋敷に帰ってきて今日で二週間だけど、僕の身体は未だベッドの気持ち良さに抗えない。ここしばらくはミニスちゃんことニアとの二人旅で、寝床はずっといまいちだったからなぁ。特に野宿とか最悪なのに、聖人族の国じゃ宿に泊まれないからそれが当たり前だったし。やっぱ自室のふかふかのベッドが一番よ。
「けどあまりにも快適すぎてだいぶ早く起きちゃったなぁ。レーンもまだ寝てるし」
隣に視線を向ければ、裸の肩を晒したレーンが静かに寝息を立ててるのが目に入る。これはレーンがねぼすけなのではなく、久しぶりに快適なベッドで眠れた僕が妙に早く起きちゃっただけだ。
まだ身体が元の生活に慣れてないみたいで、どうにも最近は無駄に早く起きちゃうんだよね。今だって外は多少ぼんやりと明るい程度で、全然日も昇って無いし。
「………………」
「んっ……」
とりあえずレーンの頭に手を伸ばし、頬や髪を撫でる――ように見せかけ、ご立派な狐耳をこしょこしょする。
例え眠っていても、僕に触れられた時は感度ビンビンだ。安らかな寝顔に、明らかに快楽の色が滲み始めた。
「っ、あ……あっ……!」
そのまま狐耳を撫で擦り、耳の先端をくりくりと弄ぶ。レーンの口から寝息とは違う声が零れ、シーツの下の身体がもぞもぞと悶える。
うーん、エロい。睡眠中のクール系狐っ子の無防備な身体を攻めるのは堪らんぜ。
「――って、何をしているんだ君は……!」
「あ、起きた。おはよ、良い夢見れた?」
しばらく弄ってたらさすがにレーンも目が覚めたっぽい。僕の手をぺしっと払い除け、若干不愉快そうな顔で睨んできたよ。快楽のせいで頬は赤いけど。
「そうだね、途中までは良い夢を見ていたような気がするよ。途中から何故か全身に快楽が走り叫び出してしまう夢に変わったが」
「ふーん。不思議な事もあるもんだ」
「どの口で言うんだ、君は……」
呆れ果てたような顔で深いため息を零し、レーンは身体を起こす。その身体からシーツがずり落ちて白い肌が露わになる――と期待してたらしっかり手で押さえてたよ。でも逆に丸見えの時よりもエロい気がする不思議。
「ところでレーンにとっての幸せな夢って何? 魔石の山に埋もれてる夢とか?」
「そんなわけが無いだろう。<カドゥケウス>があれば最早魔石は不要だ。以前までならともかく、今は特に幸せな夢だとは思えないね」
「逆に以前までなら幸せな夢だったのね……」
まあ想像力の研鑽は可能でも魔力量の問題はいかんともし難いし、そんな夢を幸福に感じるのは無理も無いか。何度も転生して魔力量を鍛え続けるっていうのも時間がかかりすぎるしね。
となるとレーンにとっての幸せな夢って、今は何だろうな?
「うーん……じゃあ、何かすっごい画期的な理論や魔法が載ってる魔術書の山に囲まれてる夢とか?」
「………………」
「あ、図星か。随分とまあつまらない夢を見てるなぁ……」
「やかましい。他人の幸福を自分の尺度で図るのではない」
予想を口にしたら途端に無言になったので、それを肯定と受け取りました。全く実に分かりやすい奴だ。魔獣族の国で暮らし始めたレーンは、毎日のように書店に通ってたもんなぁ。ていうか今でも通ってるけど。
「まあいっか。起きたなら一緒にシャワー浴びに行こうぜ! その尻尾とお耳をたっぷり洗ってあげるよグヘヘ」
「ふあっ!? や、やめ……わ、分かったから尻尾を引っ張るんじゃない……!」
朝チュントークも済ませたので、今からすべきは朝の交わりと朝シャン。なので僕はレーンのデカい尻尾を掴み、ニギニギと刺激しながらバスルームに引きずって行きました。ご立派なこの尻尾も綺麗に洗ってあげないとな! 素手で!
「さてさて。今日はせっかくだし、皆が何してるか確認でもしよっかな?」
レーンの身体を狐耳の先から尻尾の先まで綺麗に洗ってあげた後、僕はスッキリ爽快気分で屋敷の廊下を歩く。
仲間たちの日々の様子を確認しようと決めたは良いけど、まだ日も昇ってない時間帯。そもそも起きてる奴が少な過ぎる。でもこんな早朝にも拘らず外で活動してる奴の反応があったから、とりあえず近い方――裏庭へと向かった。
「ふっ、はっ! とあ~っ!」
こっそり裏庭を覗いてみると、そこでは何故かスポーツウェア的なラフな格好のトゥーラが一人舞い踊ってた。
いや、舞い踊ってるように見えただけで、実際は鍛錬してるんだな。まるで見えない何かを相手取るように蹴りや拳撃を虚空に叩き込み、時に宙返りなどの回避行動と思しき動きをしてる。その動きがあまりにも流麗で美し過ぎるが故に、舞い踊ってるように見えたわけだ。
んで、信じられない事にその表情が見た事無いくらい真剣なんだわ。別人かと思うほどに真面目な表情で、玉の汗を煌めかせながら舞い踊るような武踏を続けてるんだよ。僕がこっそり見てる事にも気付かないくらい集中してね。
クッソ悔しい事に、思わず食い入るように見つめちゃったよ。アレ誰? 綺麗なトゥーラ?
「……はっ、主!? い、いつの間にそこに~!?」
結局トゥーラがこっちに気付くのはしばらく時間が経ってからだった。どうやらマジで気付けないほど集中してたみたいで、驚愕のあまり体勢崩してスッ転びそうになってたよ。
「ついさっき。お前こんな朝早くから鍛錬してるのか」
「もちろんだよ~。日々の鍛練を欠かさず、常に己を磨き続ける――それこそが私の生き様さ~」
「そう……」
どうしよう。屈辱的な事に素直に褒めてやりたい自分がいる。
実際さっきはマジで別人かと思うくらい、真摯に朝練に打ち込んでたしな。今も汗びっしょりだしね。これはちょっとくらい褒めてやるべきか……?
「もちろんアッチの方の腕もしっかり磨いているよ~? 主との楽しい夜のためにね~。ウェヘヘヘ~」
とか思ってたら、トゥーラはキッショい笑みを浮かべた挙句、何かを握る真似をして上下に扱く。本当にこれさっきのと同一人物か? 実はトオルみたいに二重人格だったりしない? 真面目な人格の方が欲しいんだけどチェンジとか可能ですかね?
「……真摯に鍛錬してる姿はマジで凛々しくカッコよかったのに、何で本性はこうも残念なのかなぁ?」
「お? お~!? 今、私が鍛錬している姿は凛々しくカッコよくて、あまりにも美しくて惚れ直したと言ったか~い!?」
「そこまでは言ってないわ。あと言ってたとしても普段のお前の様子で差し引きマイナスだわ」
「そんな~っ!? 普段の私は可愛くて愛くるしいだろ~!? どうして文武両道で才色兼備な超絶完璧女である私の評価がマイナスになるんだ~!」
「何でそんな自己評価天元突破してんの、お前……?」
トゥーラは地面にバターンと仰向けに倒れたかと思えば、手足をバタバタさせて抗議する。文武両道で才色兼備な超絶完璧女っていうか、まるっきり欲しいおもちゃを買ってとねだるクソガキなんだわ。
自信に満ちてるのは良い事だけど、これほどの過剰極まる自信はどこから来るの? ミラに一欠けらでも良いから分けてあげて欲しいね。
「……それはそうと、今日は珍しく近寄ってこないな? いつもなら尻尾振ってすり寄って来るのに」
「あ~……さすがに汗だくのこの姿で主に近付くのは、ちょっと躊躇われるからね~。臭いとか色々あるじゃないか~」
「えっ、お前にそんなまともな情緒があったの!?」
そして今朝二回目の驚愕! 何と自分の汗の臭いが気になるから、あえて僕に近付かないようにしてるんだってさ! 嘘だろ、そんな女の子みたいな感覚がこのクソ犬にあったなんて……。
「そりゃあ私だって花の乙女なんだから、恥じらいの一つや二つあるに決まってるじゃないか~? やだな~、主は~」
「ヤってる最中の汗だくは気にしないの?」
「その時は主も汗をかいてるから問題無いよ~。むしろ私と主の汗にまみれた肢体が絡み合い混ざり合うのが……クゥ~ン、とても官能的だ~!」
「恥じらいはどうした、花の乙女」
今度は地面の上で身悶えし、おくすりでもキめたみたいな危ない表情を晒す。もう最初の鍛錬一筋の武術家みたいな空気は欠片も無いわ。ただの危ないメス犬だわ。その辺の泉に放り込んだら綺麗なトゥーラ貰えないかな?
「まあ良いや。鍛錬するのは良いけど、朝食にはちゃんと顔を出せよ」
「もちろんさ~。食は身体の資本、特に朝食は一日の動力源だ。疎かには出来ないからね~」
「ちょくちょくまともな部分が出るのが余計にサイコみあるんだよなぁ……」
身体の反動だけでぴょんと跳ね起きたトゥーラは、鍛錬の熱を冷ますためか軽いストレッチを始めた。
一人目でこれとか、何か段々仲間たちの様子を確かめるのが不安になってきたなぁ……。