雷光の勇者と仲間たち
⋇性的描写あり
リュウの方はともかく、トオルの方は諸事情によりトラウマが無くなったというか、元々無かった事になった。だから二重人格だって判明した翌日、満を持して僕の仲間たちと顔合わせをして、いざ自己紹介って流れになったんだけど……。
「――我こそは<雷光の勇者>! 聖人族の希望を背負いし輝ける者!」
リビングに仲間たちを集めていざ自己紹介を始めたら、トオルの第一声がこれだよ。何度も無駄にカッコつけたポーズを取り、高らかに馬鹿な事を叫び始めるっていう……芋臭いパジャマ姿でそんな事されてもなぁ?
「しかし邪神の祝福をその身に受け、我は生まれ変わった! 今の我は――<黒雷の邪狼>! <洗脳という鎖>から解き放たれし恐るべき<神を喰らう者>――栗栖十織! 煌めく水晶を想起させる我が高貴なる名を、とくとその耳に刻むが良い! ハ~ハッハッハッ――ハアッ!?」
無駄にハイテンションな高笑いに、気が付けば僕は歩み寄って頬を引っ叩いてた。『パァン!』って良い感じの音が鳴り響き、トオルは一瞬凍り付いた後に頬を抑えて涙目になってたよ。
「……何でぶったの?」
「ごめん、何かムカついたから」
「ひどい……」
どうやら頬に感情を抑えるスイッチがあるみたいで、途端にしゅんとしてぐすぐす泣き始めた。
つまりこれからはうるさくなったら頬を引っ叩けば大人しくなるんだな。便利だから覚えておこう。えっ、同郷の人間に厳しすぎる? これでもむしろ優しく接してる方じゃない?
「まあ、こういう病気持ちの奴だからよろしく。ほら、お前らも自己紹介」
「私はレーンカルナ。レーンでもカルナでも好きなように呼んでくれ」
「よろしく、レーンさん! クール系狐娘かぁ。クルスって良い趣味してるぅ!」
「……随分テンションが高いね、君は」
ぐすぐす泣いてた癖に、クール系狐娘が握手を求めれば途端に笑顔で応じるトオル。その笑顔がちょっとニチャってて気持ち悪いのは何でだろうね? まるで巨乳をガン見するエロ親父みたいなツラでレーンの狐耳とか狐尻尾見てるし。お前一応女だよね?
「リアはリアだよ! よろしくね!」
「よろしく、リアちゃん。ロリサキュバス! 素晴らしい! 凄くレア!」
「キャー!」
次いで声をかけたリアに目を輝かせ、高い高いしてぐるぐると回る。リアも満更でも無いみたいで、嬉しそうな悲鳴を上げてたよ。
うん。やっぱりもう一つの人格の説得に成功したから、トラウマ直撃の魔獣族の姿を見ても問題無くなってるな。リアとか角も翼も大きいから、獣人よりも一目で魔獣族って分かるし。これが大丈夫ならもう問題は無さそう。
「私はトルトゥーラだ~。トゥーラと気安く呼んでくれて構わないよ~。その代わり~、君の世界の事を色々教えてくれないかな~? 主に性的な方面に関しての情報を色々とね~……」
「朗らかワンちゃん……に見えて、何やら腹黒さを感じる……」
ニッコリ笑って手を差し出し、何か馬鹿な事を口走ってるトゥーラ。滲み出るアホさ加減をトオルも察してる模様。
ていうかトオルから何を聞き出す気だ、お前……そしてその聞き出した知識で一体何をするつもりだ?
「あたしはセレステル。あたしの事もセレスで良いよ。その代わり……あたしもトゥーラと同じ事知りたいな。色々役立ちそうだし……」
「元気な悪魔っ子もそっち系? 何か偏ってるね、このメンバー……」
挙句セレスもアホ犬と同じ事聞くし、この時点でトオルは僕の仲間たちのイカれ具合を察した模様。まあ君も二重人格で大概イカれてるけどね。
「我が名はバール。真祖の吸血鬼にして、邪神の下僕。お前は同胞に苦渋を舐めさせられたようだな。我からも謝罪しよう。すまなかった」
しかし数少ない常識枠(ネクロフィリアである事は置いておく)であるバールが、自己紹介と共に己の種族が働いた暴挙を謝罪する。凄い、自分は全く関係ないのに謝るんだ。何てまともなんだ……。
「良いよ良いよ、気にしないで? 私そういうの覚えてないし。それよりも何か同じ病気の匂いがするから、仲良くしてね?」
「いや、我の場合は別に病気ではないのだが……」
しかしトオルは記憶が無いから適当に流し、あまつさえバールを中二仲間認定するっていう無礼の極み。そいつ一応ガチモンの吸血鬼なんすよ。病気とかじゃなくて正真正銘の。
「……よし、これで自己紹介その一は終わりかな? ミニスちゃんは今忙しいから顔合わせ出来ないし」
何にせよこれで自己紹介の半分は終わり。メイドと執事たちはこの後の予定だ。ミニスちゃんは……まあ、その内で良いか。また変なのが仲間に増えたって伝えたら心労増えるだけだろうしな。
とか思ってたら、トオルは驚いたように目をパチクリしてた。おや、どうしたんだろう。
「え? じゃあそっちの子は?」
「ん? あ、いけね忘れてた。ほら、お前も自己紹介するんだよ」
静かにソファーに座ってたから忘れてたキラに自己紹介を促すけど……あ、コイツ寝てるわ。道理で静かで大人しいはずだ。
とりあえずぺちぺちと頬を叩いて起こし、首の後ろ掴んで猫掴みにして無理やり立たせました。立たせるっていうか半ば宙吊りみたいな感じだけど。
「あぁ? 面倒くせぇなぁ……あたしはキラ。以上だ」
「ほうほう、ツンツンロリ猫獣人かぁ……これはデレた時の反応が楽しみだねぇ?」
「自己紹介とやらは終わったろ? あたしはこんな奴興味ねぇからもう部屋に戻るぞ」
トオルの方は興味津々だけど、キラの方はびっくりするくらい塩対応。僕に猫掴みされて身体をだらんとしたまま、眠そうにあくびを零してたよ。僕と同郷の人間でも全く興味ないのね。嬉しいような悲しいような……。
「うん、まあかなり雑だったけどオッケ――」
「――隙あり!」
なんて話してたら――むにゅり。何をとち狂ったのか、トオルはキラの両胸を鷲掴みにしやがったよ。突然のセクハラ行為に、一同困惑で固まってらっしゃる。マジで何やってんだコイツ。
「お、小柄なのに結構あるね。これは揉み心地良い感じ――おおっとぉ!?」
とはいえ揉まれてる本人は一番復帰が速かった。空間収納から愛用の爪を取り出すのと装着を同時に行い、トオルの首を狩る軌道で一切の躊躇なく振るった。スケベ行為の代償にしてはちょっと大きすぎない? そんなんじゃラブコメのヒロインにはなれないぞ。
閃く刃が首を刎ねようと迫るが、そこは腐っても勇者。寸での所で後ろに跳んで首狩りを躱しおった。
「あ、危ないなぁ。ツッコミにしてはちょっと過激すぎない?」
「何しやがる、テメェ。ブチ殺すぞ」
「何ぃ!? だったら殺される前に、出来る限り楽しんでやる!」
そう叫ぶと、トオルは今度はリアに目を向けた。そして――バシィン! 一瞬自分自身を雷と化して超高速でリアの背後に移動すると――
「ひゃあっ!? い、いきなり、なにー!?」
「おおっ!? これは、もの凄いロリなのにそれなりにある! さすがはサキュバスだね! グヘヘ……」
「あっ、ん……ふあぁ……!」
またも胸を揉み始めた。スケベ親父みたいなキモイ顔で。
なーにやってんすかね、この人。まあ女だから別に良いかって思ってるけど、これをやったのが男だったなら消し炭にしてるからな? 僕の女に手を出すってのはそういう事だ。
「自身を雷と化しての高速移動……なるほど、<雷光の勇者>の二つ名に偽り無しだね」
「あ、今やってる事は無視してそっち感心するんだ?」
女の子が女の子の胸を揉んでグヘヘしてる光景を前に、冷静に考察してるのはレーンさん。どうでもいいけど、たぶんお前も揉まれる対象だぞ?
「へへへっ、悪魔っ子も結構あるじゃーん? この中で一番大きいんじゃない?」
「きゃーっ! 助けてクルスくん、犯されちゃう!」
「いや、犯されはしないんじゃない?」
次いでセレスもその毒牙にかかってるんだけど……セレスはだいぶ余裕っていうか、むしろ揉まれる姿を見せて僕の気を引こうとしてる感じですね。すっごいわざとらしく嫌がる素振りを見せてらっしゃる。君って肩に触れようとした男の腕を斬り落とした人ですよね? そんな弱くないだろ知ってるぞ。
「よし、次は――ぶふっ!?」
雷速で好き勝手してたトオルだけど、次なるターゲットの背後に移動した瞬間――何故か鳩尾へ拳を叩き込まれて身体がくの字に折れ曲がった。
それをやったのは変態クソワンコことトゥーラ。トオルが雷となった瞬間、まるで来る位置が分かってたみたいに振り返り拳を放ったんだから恐れ入る。本人もまさか着地狩りされるとは思わなかったみたいで、膝をついて痛みに耐えつつ目を丸くしてたよ。
「すまないね~。私の身体は主の物だから、不用意に触らせるわけにはいかないんだ~?」
「ちょっとそこのクソワンコ。何か今当たり前みたいに迎撃しなかった?」
「先行放電が見えたからね~。来る場所が分かってれば迎撃くらい訳無いよ~」
あ、そういう感じ? 確かにトオルの雷速軌道は正に雷みたいにジグザグを描いてるから、原理的にもほぼ同じはずだ。先行放電を捉える事が出来れば落ちる場所も分かるっていうのも納得は出来る。出来るんだけど、確か先行放電でも秒速二百キロはあった気がするんだが……?
「が、ガードが固い……だったら!」
トオルはめげずに再び雷化。次なるターゲットに狙いを定め、雷速で背後に回ろうとするが――
「あ、あれ? 何で?」
今度は何故か背後に回れず、ちょっと離れた場所に雷として落ちる。これには本人も再び目を丸くしてたよ。
「私の周囲の電位差を操作し、電気が通りにくい空間を形成した。基本的に大気は絶縁体だ。意識的か無意識的かはともかく、先行放電が発生しているという事は電気の通りやすい道を選んで移動しているのだろう? ならば少し大気の性質を変化させれば、君という雷が落ちる場所を操作する事も出来る」
「何で当たり前のように対処してくる人が二人もいるの……?」
長い説明で分かる通り、これを成したのはレーン。どうやら雷化したトオルの性質を即座に見抜き、すぐさま対抗策を講じたらしい。初見で対処してくる化物が二人もいたせいか、トオルはちょっと引き気味だ。
普通雷速で移動できるとか強能力なんだけどなぁ。この場に限っては相手が悪かったか。
「へぇ? なかなか面白れぇ力持ってるじゃねぇか。あたしの胸を揉んだ事は水に流してやるから、ちょっと下で楽しもうぜ?」
「えっ、何? どういう事? ホテルへのお誘い……じゃない、感じ?」
そして雷速軌道によって興味を持ったらしいキラちゃんが、舌なめずりしながらトオルに目を向ける。まるで獲物を狙う狩人のような鋭い瞳に、やりたい放題やってたトオルも怯えを見せたよ。
「コイツはバトルジャンキーだから、今のは一緒に殺し合おうぜってお誘いだよ。おもしれー奴認定されて良かったね」
「つーわけだ。オラ、とっとと行くぞ」
「君は揉むのが好きなんだろ~? 私も揉んであげるから、一緒に行こうじゃないか~」
「あー……」
トゥーラもキラに便乗し、飲みに誘うようなノリで殺し合いに引き込もうとする。まさかここまでヤベー奴らだとは思ってなかったようで、トオルは完全に引いてて逃げ道を探すように視線を彷徨わせてたよ。
そして次の瞬間、今度は雷と化して逃げるんだけど――
「――ここだっ!」
「うげぇ!? な、何でぇ……」
二度目の着地狩りを受け、苦悶の表情で悶絶しながら膝をつく。しかも今回はキラによる容赦の無い蹴りだ。どうやらキラもキラですぐさま性質を見抜いたらしい。本当に何なのコイツら。
「ちなみに今のは何で分かったの?」
「空気の感じが何か変わった」
「あ、そうですか」
ちょっと良く分からない答えが返って来たけど、まあキラだし感覚的な物でもおかしくないか。頑張って理論的にするなら、先行放電によって高温になった空間や電位差の変化を感じ取ったとかその辺かな? いや、理論的にしても良く分かんねぇや。
「さあ、行くぞ~! 皆で仲良くしのぎを削って強くなろ~!」
「まさかこれしか出来ないとか言わねぇよな? 退屈させやがったらマジでぶっ殺す」
「た、助けてぇ……」
鳩尾に二発食らったせいで復帰には時間がかかるみたいで、トオルは犬猫に両腕を掴まれた状態で地下に連行されて行きました。何か凄く切ない顔と声で助けを求めて来たけど、まあラッキースケベには制裁がつきものって事で。
「……うん! 仲が良いのは良い事だよね!」
「どう見ても出荷される家畜のようにしか見えなかったが?」
とにかく上手く纏めようとした僕だけど、それをレーンが台無しにしてくれた。でも確かにそういう風に見えたのは否定しない。それか両腕掴まれて拘束されてる宇宙人的な?
「うーん……でもここで暮らすならあの二人に慣れないといけないし、仕方ないんじゃないかな」
「す、凄いテクニックだった……!」
なお、セレスは若干の哀れみの表情で以てトオルを送り出してたよ、あとリアは何かこう、胸を押さえて驚愕の表情してますね。お前は何か揉まれて感じてたもんね。ちょっと寝取られた気分だったよ、僕……。