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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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勇者たちの表裏

 ツヴァイが魔王の娘への拷問を終えた後、僕らは一旦闘技場へ戻った。トオルへ身体を明け渡すにあたって、立ってた場所とかを調整しないと不審に思われるそうだからね。

 でも別に二重人格者だって事自体はバレても良いんじゃないかなぁ? 分かってもどうしようもない事だし。


「……ん、あれ? 今何か……?」


 そうしてツヴァイの人格が引っ込むと、トオルの人格が戻ってくる。ぼけっとしてた所で肩を叩かれたような感覚なのか、少し意識が飛んでたような反応してるね。

 こんな調子だとすぐバレそうな気もするけど、まあここは真実を隠すのに協力してやるか。また雷ぶっぱされても困るし。効きはしないけど眩しいしうるさいんだこれが。


「ん? どうかした?」

「ううん、何かちょっとぼーっとしちゃってた感じ? ていうか……あれ!? 姿が変わってる!?」

「そうだよ、これが僕の本当の僕。同郷の人間だってちゃんと分かるでしょ?」

「ほう、これは……」


 両手を広げ、落ちぶれた盗賊みたいな姿を存分に見せつける。恐らくこの世界で初めて出会った同郷の人間の姿に、トオルは興味津々だ。僕の姿をじろじろと舐めるように見つめてくる。やだ、エッチ!

 しかしこの盗賊ルックにも段々飽きて来たなぁ? そろそろイメチェンの時期か?


「……ヒロインを護るため、自らの身を犠牲にする自己犠牲精神に溢れた面差しだな!」

「そう! 分かってくれてるぅ!」


 やはり同郷の人間だけあって、トオルは僕のツラにそんな感想を抱いてくれた。やったね、もう人の皮を被ったクソ外道なんて言わせないぞ! これだけでもトオルを助けた甲斐があったってもんだぜ!


「しかしてその実態はゲス外道、と……詐欺だな!」

「うーん! それかつての友人たちにも言われたぁ!」


 とか思ってたら結局言われた件。

 何だよもう。新人にすらこんな事言われるとか、もうどんな奴が仲間になってもこの評価は覆りそうにないな? 


「まあ何にせよ、この様子なら大丈夫そうだね。後で僕の仲間たちに挨拶よろしく」

「うむ、把握した――が! その前に一つ、貴様に問うべき事がある!」

「おん? 何?」


 無駄に仰々しいポーズを取り、突然何事かを口にするトオル。中二の雰囲気を纏っている事を覗けば、酷く真面目な表情だ。一体何が知りたいんだろうね? 僕の経験人数(殺しとエッチ)か?


「貴様の仲間……美少女は、いるのか?」


 なんて身構えてたら、アホな事を聞いてきたから拍子抜けだよ。ていうかお前も女だろ。何故他にも女、しかも美少女がいるかを聞いてくる? もしかしてそっち系?


「いる……………………よ? うん」


 正直に答えようと思ったけど、どうしても変に間が開いてしまう。だって美少女いっぱいなのは確かなんだけど、どいつもこいつも中身がねぇ? 正直で誠実な僕としてはどうしてもそこが頭を掠めて、言葉に詰まっちゃったんだよ。


「何故妙に間があったのか少々気になるが……まあいい。楽しみにしておこう。ククク」

「やっぱそっち系か、お前……?」


 僕の答えに、妙に気持ち悪い笑みを零すトオル。若いJKの裸でも眺めてるオヤジみてぇなキモさがあるね? やはりそういう性癖が……?






「よーっす。邪魔するぞー」

「ひっ!? あ……な、何だ。お前か……」


 トオルの問題が予想外に早く片付いたので、今度は男勇者――リュウの様子を見に行ってみた。

 こっちは普通にトラウマを抱えてるせいか、僕が扉を開けて部屋の中に入ると一瞬怯えた様子を見せたよ。とはいえ女でもサキュバスでも無いからか、すぐに胸を撫で下ろしてたけど。

 ちなみにリュウは机で本を読んでたみたいで、周囲には色んな本が散らばってる。見た感じでは歴史書とかそういう感じのやつばっかりだな。僕の言い分だけを信じず、自分で色々調べてるのかな? それは良い事なんだけど、魔獣族が書いた歴史書なんて自分たちに都合のいい事しか書かれないだろうし当てにならんぞ。まあ聖人族でも同じだろうけど。


「それでどうよ。とりあえず自分の立場は分かったかな?」

「ああ、分かってるよ。お前が蘇らせてくれなかったら、俺は散々サキュバスの玩具にされたまま人生を終える所だった。それに比べればお前の配下としてでも蘇らせてもらっただけマシだ。別に休みなしのブラック企業ってわけじゃないんだろ?」

「もちろんだ。まあ法的にブラックな事しまくってるのは否めないけど。拉致に監禁、拷問、殺人、強姦、虐殺、通貨偽造、何でもござれだぞ」


 他にも罪状はあるだろうけど、パッと思い浮かぶのはこれくらいかな?

 あ、わいせつ物陳列罪とかはやってないからな! 野外でヤられた事はあるがアレはノーカウントって事で!


「……むしろお前が魔王だろ、それ」

「残念ながらこの世界には別に魔王がいるからなぁ。いなかったら魔王を名乗ったんだけどね」


 僕の答えにリュウは完全にドン引きだ。でも僕もそう思う。どう考えても勇者とか光寄りの奴の所業じゃないよね。


「で? これを聞いて僕の事軽蔑した?」

「嬉々としてやってそうな所に軽蔑はしたが……それだけだ。俺だって何も悪い事して無いとは言わねぇよ」


 おや、意外にも反応は薄い。もっとゲス外道って罵られると思ったのに。

 それに何やら後ろ暗い所がある様子。そうだよね、異世界に来たんだから君もやる事やってるよね。


「そっかぁ。君も行き摺りの女の子を捕まえて犯して拷問して殺した事があるんだね……」

「いや、そこまでの事はやってねぇよ! このクソ野郎!」


 どうやら違った様子。ギョッとした様子でツッコミを入れてきたよ。

 何だ、やってないのか。てっきりお仲間かと思ったのになぁ……。


「……聖人族に勇者として操られてたとはいえ、罪も無い魔獣族を殺した。それも一人や二人じゃない。子供だって手にかけた。そんな俺が、今更お前みたいな奴を責める事は出来ないだろ」


 あ、何だ。その程度で罪の意識感じてるのか。随分まともな精神してんな? ちょっと大勢殺った程度で、そんな悲しい過去を背負ってるみたいな雰囲気するとか軟弱すぎん? いちいち数えてはいないけど、僕なんかキルカウントは四桁くらいは軽く突破してるよ? それに女子供老若男女、分け隔てなく殺ってるし。


「ふむ……意外と常識的だね? もっとこう、信じられない極悪人として糾弾されるかと思ってたよ」

「お前の仲間から色々話を聞いたしな。この世界の連中はクズばっかりで、死んで当然の奴らだって事をな。大体俺は聖人族に無理やり召喚されて、洗脳染みた方法で勇者に仕立て上げられたんだぞ? その上サキュバスの玩具にされた挙句、魔獣族には改造されて生物兵器にされたんだぞ? むしろざまぁくらいに思うわ」


 なんてかなりやさぐれた目で言うリュウは、親指で部屋の壁際に控えてる僕の仲間――執事のヴィオを指差す。特に何も発言してなかったけど、僕が来た時からそこにいたよ。どうやらちゃんと己の職務を全うしてくれてる様子。

 

「それにお前はこの救いようの無い世界の平和を目指して活動してるんだろ? だったら必要経費としてそれくらいやっても罰は当たらないんじゃねぇか?」

「うーん……物分かりが良いのは嬉しいんだけど、何か物足りなさを感じる……」


 あまりにも拍子抜けする結果に、何だかちょっと満たされない気持ちを感じる僕。

 もっとこう、蛇蝎の如く嫌ってくれたり、歴史に残る大犯罪者を前にしたくらいに軽蔑して欲しい所だよね。

 いや、でも男にそんな反応されても嬉しくないな? そういう反応は可愛い女の子がしてくれるから良いのであって、野郎にされても微妙だな。


「……まあ良いか。助けたのが無駄な労力にならなくて何よりだよ」

「そこはマジでお礼言っとく。ありがとな。これで俺も、自由に生きる事が出来るぜ」


 どうやら心の底からそこは感謝してるみたいで、リュウはニッと嬉しそうに笑った。まあ野郎に笑顔向けられたところで何か感じるものは無いんですけどね。女の子っぽい顔の造形してたならともかく、僕の方が遥かにそういう造形してるし。


「よし。それじゃあ話変わるけど、女恐怖症はどうなった?」


 何にせよ自分の立場を受け入れてくれたのは朗報。だから今度は精神的問題についてのお話だ。

 だから満を持してそれを尋ねると――


「………………」


 リュウは笑みを凍り付かせて無言で視線を逸らした。

 うーん、どうやら進捗ダメダメな様子。そんなんじゃ自由に生きていけないでしょ? 野郎しかいない場所で生きていくつもりか? 


「トゥーラ、おいでー! ご主人様がお呼びだぞー!」

「はっ!?」


 こういうのは荒療治が一番だよね!

 というわけで、僕は呼べばすぐにでも来そうな女――いや、メス犬に呼びかけました。突然の出来事にリュウは目を丸くして抗議の声を出そうとしたけど――


「――うおおおぉぉぉ~っ! 私を呼んだかい主~!?」


 数秒も経たずに、床をぶち抜いてトゥーラが現れた。一体どうやったのか床がくり抜かれたみたいに綺麗に破壊され、出来た四角い穴からぴょーんと出てきたよ。そしてすぐさま僕に駆け寄り、尻尾を振りながら命令待ち。うーん、挙動だけ見るとどう見てもワンコだ。

 

「ひ、ひいいいぃぃぃっ!?」


 だけどまあ、見た目は紛れも無く美少女。だから即座にリュウは拒絶反応を示し、椅子から転げ落ちて壁際まで後退って行ったよ。腰抜かしてるからか、這いずるみたいにね。


「……駄目っぽいな。まあ一朝一夕で何とかなるもんじゃないか」

「わふわふっ! あ~、主ぃ~……!」


 ただの確認作業で呼び出しただけっていうのもアレだし、とりあえずトゥーラの頭を撫でながらリュウの無様な姿を眺める。

 どう見ても頭撫でられてトリップしてるメス犬なのに、リュウったら顔を青くしてガタガタ震えてらっしゃる。これならまだトオルの方がマシだったな……。


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― 新着の感想 ―
更新楽しみにしながら読んでますよ! ぜひ完走頑張ってください!
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