第二人格、ツヴァイ
⋇暴力描写あり
⋇残酷描写あり
⋇拷問描写あり
「じゃあまずは自己紹介。知ってるかもだけど僕はクルスっていうんだ。よろしくね?」
地下闘技場の地面を整地し終えた僕は、アリーナの端っこではしたなく胡坐をかいてたトオル(第二人格)に自己紹介を始めた。
やっぱり殺意と憎悪を発散させてそれを正面から打ち破った事で、だいぶ大人しくなってくれたみたい。視線だけで人を殺せそうなくらいに睨みつけてきてるけど、攻撃を仕掛けて来る事は無かったよ。
「……俺の名はツヴァイ。テメェももう想像はついてるだろうが、苦痛の日々に耐えられなかったトオルが生み出した、もう一つの人格だ」
「やっぱりね。おかしいと思ったんだよ。色々された記憶はあるのに本人は全く覚えてないから」
どうやらこちらの人格はツヴァイっていう名前らしい。何で日本人なのに外国語、しかも数字を表す言葉なんだろうね? まあそれは良いか。
どうやらトオルこそが元の人格で、ツヴァイが新たに生まれたもう一つの人格みたいだ。でも見た感じだと支配権はツヴァイが握ってるように見えるな?
「そういう記憶は、全部俺の中にある。思い出したらアイツが壊れちまうからな」
「ということは、記憶は完全に共有してるわけじゃない感じ?」
「アイツの記憶は全部持ってるが、俺の記憶をアイツは知らねぇ。そもそも俺っていう存在すら知らねぇだろうな。別にそれで構わねぇがよ」
「へー、おもしろ……」
二重人格の人間を見るのは初めてで、思わず素直な感想が零れ出る。
この狂人の坩堝にも存在しないレアキャラだし、なかなか興味深い情報が出て来るね? トオルの記憶を一方的に共有してたり、一部だけ丸ごと自分に移してたり、何かメモリーカードが二つあるみたいな挙動してんな?
なんて興味深げに見てたら、トオル――じゃなくてツヴァイが不快そうに眉を寄せた。口調もそうだけど態度もキラちゃんに近いよね。キャラ被りじゃん。
「テメェ……もう一つの人格を作り出すほどひでぇ目に合ったアイツを、おもしれぇだと……?」
「うん。だって面白いは面白いし。うちは変態と変人の巣窟だけど、二重人格者はいなかったんだよねぇ。これでバリエーションが更に増えた感じだ。やったね!」
なんて飾らぬ本音を口にしたら、ツヴァイの手からバリバリと雷撃がぶっ放された。しかも顔狙いの反則だ。まあ顔面セーフだから僕には効かなかったけどな!
「こらこら、八つ当たりは良く無いぞ?」
「八つ当たりじゃねぇ! テメェにイラついてぶっ放してんだよ!」
「まあまあ落ち着いて。魔獣族や男に出会う度にそんな事してたら、せっかく自由になったトオルが浮かばれないよ? 好きなように、思うがままに日々を送る事も出来ないとか可哀そうじゃない?」
「グッ……!」
そこを指摘すると、途端にツヴァイは苦虫を噛み潰したような顔で凍り付く。
コイツはもう一つの人格っていう分類だけど、もう一人の自分って言うよりは何か保護者に近い感じだな? わざわざ苦痛の記憶を隔離したり、自分の存在を悟らせないようにしたり。だからこそトオルのためになるなら我慢しなきゃいけない事も分かってるみたいだ。
「見た感じ人格の切り替わりは君の意志一つって感じ? だったら大人しく引っ込んでてあげるのも優しさってやつじゃないかな?」
「あぁ? 俺に消えろって言ってんのか?」
「え? いや、別に。二重人格でも異常性癖でも好きにしてれば良いと思うよ? ただ僕の仲間や街の奴らに出会う度に激昂して雷ぶっぱされると色々面倒だから、そういうのは止めてくれると嬉しいなって」
ここは狂人の坩堝だけど精神病院じゃないから、別に治療しようとかそういう事は何一つ考えてない。むしろ治療されちゃったらせっかくのレアキャラがノーマルになっちゃうじゃん。そのままの君でいて欲しい。
「……お前、何が目的なんだ? そもそも俺に何をさせたいんだ?」
「今のところは特に無いかな。ただその内何かお仕事頼んだりするよ。基本血生臭い感じのやつだけど」
記憶はトオルから共有してるっぽいし、僕の正体とかの説明は省く。
実際それで不都合は無いみたいで、ツヴァイは特に疑問を見せる事は無かった。僕がどういう存在か、トオルが今どういう状況に置かれてるかも、ちゃんと理解してくれてるっぽい。僕を親の仇のように睨みながらも、怒りやその他の感情を収めてくれた。
「それさえやってりゃ、トオルを自由に生活させてくれんのか?」
「うん。使い古された薄汚い中古品には興味無いし、ベッドに呼んだりもしないよ。変な病気移されたら堪らないからね」
などと口にしたらまたしてもバリバリーッと雷撃が飛んできた。ツッコミにしてはちょっと過激じゃない? まあ鋼鉄の塊をひん曲げるような蹴りを叩き込んでくるどっかのウサギ娘も大概だけど。
「……分かった。どうも俺には選択肢は無いみてぇだしな。俺がそういう仕事を引き受けてやるから、トオルは自由に過ごさせてくれ。アイツに何か仕事を振るっていうなら、そういう類じゃねぇやつにしろ」
「オッケー。じゃあ交渉成立だね」
立ち上がったツヴァイが握手を求めて来たから握り返すと、今度はその手を起点にバリバリされる。まあ全く効かんけどな! 何これ、静電気マッサージ? ハハッ。
「あっ、そうだ。じゃあめでたく僕の配下に下った所で、ひとつ良い事を教えてあげるね」
「良い事だぁ……?」
「ここは闘技場だけど、実はこの上は地下牢になっててね。僕が私的に監禁してる哀れな子羊たちがいるんだ。気が向いた時とか、僕や仲間たちが拷問したり実験したりして楽しんでるんだよ」
「このクソ外道が……」
ある意味ではトオルと似たような末路を辿ってるせいか、ツヴァイはあまりお気に召さない様子。でも捕まってんのはほぼ全部魔獣族やぞ? ツヴァイ的にはぶち殺したい対象じゃない?
「おやおや、そんな事言って良いのかな? 君もきっとお気に召す奴を監禁してるのに」
「あぁ? 俺をテメェらみてぇなクズと一緒にすんじゃねぇよ。嬲って楽しむ趣味なんて俺には――」
「――魔王の娘、いるよ? お前の大事なトオルに酷い事をした、魔王ヘイナスの一人娘がさ」
「………………」
その情報を口にすると、ツヴァイは無言で再び殺意と憎悪を漲らせ、それが溢れ出てるみたいに周囲に稲妻を迸らせた。
どうやら興味持って貰えたみたいだねぇ? いいよいいよぉ、君は一体魔王の娘に何をしたいのかなぁ?
「――アアアァアァァアァァアァッ!?」
殺意と憎悪に彩られた凄まじい雷撃が、哀れな小悪魔の身体を打ち据える。
実に綺麗で耳に心地良い苦痛の悲鳴を上げるのは、皆ご存じ魔王の娘アポカリピア。一糸纏わぬその身体は今、果てしなく強烈な雷撃に撃たれてガクガクと痙攣を続けてた。
「苦しいか!? 苦しいよなぁ!? けどトオルが味わった痛みはこんなもんじゃねぇぞ!」
原因はもちろんツヴァイ。
どうやらアポカリピアの姿は以前から知ってたみたい。VIP用の牢屋に案内してその姿を見せてあげたら、一瞬固まって直後にプッツン。鉄格子を雷速のパンチで粉砕して中に踏み入り、渾身の雷をぶっ放してアポカリピアを拷問し始めたんだよ。
ちなみに牢の片隅には膝を抱えて震えてる聖人族のお姫様、ジェニシィもいます。次は自分があんな目に合うのかって感じに青ざめてて、今にも死にそうな顔してたよ。とりあえず今夜辺り期待に応えてあげようかな。ちゃんと平等に苛めないと可哀そうだもんね。
「何とか言えやコラァ! 鯉みてぇに口パクパクさせやがって、ふざけてんのか!? あぁ!?」
「~~~~~~ッ!!」
あまりの電撃に声も出せなくなってるアポカリピアを、理不尽な罵声と更に出力を増した雷が襲う!
最早ビクビクするどころか背骨が折れそうなほどに身体がのけ反り、真っ白な肌が肉ごと徐々に焼け焦げて行く。常軌を逸した威力の雷に絶えず撃たれてるせいで、脳みそも血液も比喩ではなく沸騰してそう。
とはいえ僕がかけた魔法で身体は再生してるから、外と内から焼かれても死ぬにはだいぶ時間がかかるぞ。つまり楽になるのはまだ遠いって事だ。まあ死んでも蘇るようにしてあるから実質逃れられないけどな!
「テメェの親父の罪、娘のテメェが償いやがれッ! 絶対に消えない苦痛を、心と体に刻み付けてやる!」
「っ……ぁ……ッ……!」
「なに白目剥いてやがんだ! まだまだ終わんねぇぞ、クソ野郎っ!」
白目を向いて口から泡を吹きだし、身体から出せる色んな液体を零すアポカリピア。もちろんツヴァイがその程度で許すはずも無く、更に雷の出力を上げていく。もう牢の中は白光で何も見えなくなりそうなくらいだよ。
あ、良く見ると牢の隅にいるジェニシィが巻き添え食らってる……ま、いっか! どうせ後で同じような拷問するつもりだったし、結果は変わらんな!
「――はぁ……はぁ……!」
たっぷり三十分くらいやって、ようやくツヴァイは一旦の落ち着きを見せた。牢の中を覗き見ると、炭の塊どころか単なる灰の山と化した二人のお姫様が、徐々に形と色を取り戻していく所だったよ。そりゃあここまでやったらこれ以上やっても楽しくないわな。
「お疲れ。どうよ、クソ外道の仲間になった気分は?」
「うるせぇ、くたばれ。これは正当な復讐だ。テメェらみてぇな快楽目的の異常者と一緒にすんな」
牢から出てきたツヴァイに声をかけると、何故かそんな罵声を浴びせられる。
うーん。色々言いたい事はあったけど、とりあえずこれだけ言わせて貰おう。
「本人じゃなくて娘に復讐するのが正当とか、ちゃんちゃらおかしくてへそで茶が湧きますよ。単なる八つ当たりじゃん?」
なんて言ったら、またしても僕に対して雷撃をぶっ放してきました。そんなバカバカ雷放って大丈夫なの? エネルギー不足とかにならないわけ……?