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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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男勇者リュウ

「さーて、次は男勇者だ。こっちもまともだったら嬉しいような悲しいような……」


 ちょっと穢されたマイボディに戻った僕は、満を持して男勇者――リュウの元へと向かった。

 部屋に入るとベッドにはぐっすり深い眠り(強制的な昏睡)に落ちてるリュウの姿。不死身だしもしかしたら昏睡状態も跳ねのけるんじゃないかと思ってたけど、どうやら要らぬ心配だったみたいだ。頭に何か刺さってると行動不能になる事も含めて、随分ショボい不死身だな? 少しはうちのベルを見習え。アイツは絶対零度でも数秒しか無力化出来ないぞ。


「ほら起きろー。じゃなきゃサキュバスにモーニングコールさせるぞー?」

「う……ここ、は……?」


 気付けの魔法で強制的に昏睡を解除し、爽やかな目覚めを演出する。幸せな夢を見てたかもだけど知ったこっちゃない。容赦なく醜い現実に引き戻してあげました。

 トオルの方は中二……じゃなくて中学校低学年くらいの見た目だったけど、リュウに関しては普通に僕と同じくらいかな。ただ身長も高く体付きも僕よりがっちりしてて、目付きもかなり鋭い感じだ。普通に黒髪だけどいわゆる不良みたいな見た目だね。


「やっほ。自分の名前とか分かる?」


 まだぼうっとしてる感じの瞳を覗き込み、とりあえず状態確認。トオルみたいに変な状態になってるかもしれないからね。全く、心っていうのは心底複雑だなぁ?


「ひいっ!?」


 ただコイツの場合はそこまで複雑でも無かったっぽい。僕の顔を認識するなり、恐怖に顔を引きつらせて身体を起こし後退ってたよ。でも一目でただの人間と分かるからか、攻撃仕掛けて来る事は無かったね。恐るべき敵を探す様に、がたがた震えながら周囲を見回すだけだ。


「や、奴らは!? 奴らはいるのか!?」

「奴らってのはサキュバスの事かな? 大丈夫、いないよ。ここは安全な場所だよ」


 本当はいるし、地下牢にも何十人かいるけど、今ここでそれを言う必要は無い。なので優しい嘘を吐いて安心させてあげました。

 ついでにここは世界で一番危険な場所な節もあるけど、それを知らないリュウは目に見えてほっとしてたよ。


「そ、そうか! 良かった……俺は、あの地獄から解放されたんだ……!」

「一部の男ならむしろ天国って言いそうだけどね」

「ふざけんな! あんなもんが天国なわけあるか! 食料も水も与えられないまま、来る日も来る日も犯されてんだぞ!? 生き地獄以外の何物でも無いだろうが!」

「気合の入ったマゾならあるいは……」


 安全な場所と分かった途端に食って掛かってくる血の気の多いリュウ。凄惨な過去があるって事は分かってるけど、男だからかどうにも同情できないね? まあ女の子が同じ目に合ってたら興奮は出来るけど、結局同情はしないし。


「ていうかお前誰だよ!? そもそもここどこだ!?」

「僕は(かがり)狂守(くるす)。ある意味では召喚された勇者の一人だね。ここは魔獣族の国の首都にある僕のホーム」

「何で勇者がそんな所に拠点作ってんだよ!? 馬鹿か!?」

「真っ当なツッコミだなぁ。何? 勇者ってツッコミに優れてるのかな?」


 混乱しつつも鋭いツッコミを入れてくるリュウ。

 うーん、ツッコミ役が増えてきた感じで嬉しい限りだね。それにトラウマはあるし記憶も思い出せる状態っぽいな。それでいてちゃんと話も出来るとは何ともありがたい。


「そんで? 自分の名前は覚えてる? 記憶に混濁とかは?」

「俺の名前は……東昭(とうしょう)(りゅう)だ。記憶は……全部、覚えてる。魔獣族の国に踏み入ってとある村に辿り着いた俺と仲間たちは、そこの奴らに敗北して……それで……」

「エロ同人的展開になった、と」

「ふざけんな! 俺の地獄の日々をそんなくだらない一言に纏めんじゃねぇ!」

「ああ、はいはいごめんごめん。それじゃあこっちも色々説明があるから話聞いてね?」


 何にせよお話が出来るなら万々歳。そんなわけで僕は女勇者にも話したような事を語り、丁寧に状況説明してあげました。


「――というわけで、君に人権は無い。オーケー?」

「ふざけんな! オーケーなわけあるか!」


 話をその言葉で締めると、当然のようにリュウは激昂。拳を握り、今にも殴り掛かって来そうなくらいに敵意バリバリだ。せっかく助けてあげたのに嫌になっちゃうね?


「そっか。じゃあ元の状態に戻してあげようか? ここ地下牢に何十人もサキュバスがいるし、君を玩具にしてた奴らもいるはずだから、そこに放り込んであげても良いよ?」

「ひいっ!? や、やめてくれ! それだけは、やめてくれ……!」


 とはいえトラウマがちゃんと残ってる分扱いやすい。サキュバス集団に放り込んでやると提案すると、リュウは子犬のように震えて命乞いし始めた。普通の男なら泣いて喜ぶような状況なはずなのに、血の気の失せた顔で歯の根もあわない感じだね。ぶっちゃけトオルにはこういう反応を期待してたんだけどなぁ……。


「あ、そうだ。せっかくだしサキュバスたちにたっぷり復讐すれば良いんじゃない? うちには拷問好きがそれなりにいるから、きっと手取り足取りやり方を教えてくれるよ?」

「いらねぇよ! もうあんな奴らに拘わりたくも無い!」

「何だ、復讐しないの? だらしねぇな……」


 優しい僕がトラウマを乗り越える方法を提案してあげたのに、即座に拒絶される始末。

 おかしいな? 復讐心を抱いて然るべき事をされたはずなのに、一ミリもそういう事したくないの? しかもその理由が拘わりたくないから? 終始復讐を見据えて生きて来て、最終的にはきっちり完遂して今でも拷問を楽しんでるリアを見習え。


「まあ君も落ち着く時間が必要だろうし、しばらくはここで大人しくしてなよ。あ、女が欲しいなら適当に連れてきてあげてるけど?」

「いらねぇ! 女なんか見たくも無い!」

「何かホモ臭い発言になってるなぁ……」


 長年サキュバスの肉奴隷にされてたせいか、最早女であるってだけで恐怖の対象になるらしい。別にそれは構わないんだけど、その内男色に目覚めたりしないよね、これ……?





「――というわけで、勇者二人はしばらく療養させます。諸々考える時間は必要だろうしね」


 勇者二人との話を終えた僕は、真面目な奴らをリビングに集めて今後の対応を語った。といっても三人しか集めてないけどね。ぶっちゃけキラとかはいても無意味だろうし。レーンとベル、あとはヴィオがいればオッケー。


「二人のお世話はベルとヴィオにお願いするよ。ていうかお前らじゃないと難しそうだし」

「という事は、私は聖人族の女に変身して女勇者の方を担当すれば良いのだな?」

「では僕が男勇者の方ですね」


 察しの良い二人は自分たちの分担をすぐに察して頷いてくれた。

 それぞれ異性にトラウマ持ってる上、女勇者は魔獣族が駄目だからなぁ。分担は自然とこうなる。一応バールでも男勇者の世話は可能だろうけど、仮にも魔将で元偉い奴が人の世話できるとは思えないし。

 

「うん、よろしく。できれば一緒の部屋にいてお話とかもしてあげてよ。知りたい事とか色々あるだろうしね」

「うむ、了解した。せっかくだからご主人様の悪行を語って聞かせてやろう」

「お任せください。では僕はご主人様の華々しい活躍の数々を語ろうと思います」


 にこりと微笑み、全く正反対の事を口にするベルとヴィオ。

 でも何故だろう。内容はあんまり変わらない気がする……。


「……それで、二人と話した感想はどうだい? 同郷の人間同士、友達になれそうな感じだったかい?」


 早速二人がそれぞれの勇者の元へ向かいリビングからいなくなると、対面のソファーに座るレーンが口を開いた。二人きりでリラックスしてるのか、珍しい事にちょっと皮肉っぽい表情してるよ。

 さては僕に友達なんて作れないと思ってるな? これでもこっちの世界に来る前は友達結構いたんだぞ! 深い仲の友はいないけどな!


「いや別に? 出身が同じだからって親しみ感じるほど単純じゃないし」

「だろうね。君にそんなまともな情緒などあるわけもないか」

「じゃあ何で聞いたし……」

「君がどうにも物思いに耽っているように見えたからね。まさかと思って尋ねてみたまでさ。しかしそうなると君は何をそんなに思案しているんだい?」

「んー、実はちょっと女勇者がねぇ――」


 特に隠しておく理由も無いし、とりあえずトオルの不思議についてレーンに語る。あっ、中二の事じゃなくて記憶が全く繋がってない事の方ね? そっちは不思議じゃなくてただの病気だし。

 好奇心強めなレーンさんはこの情報にちょっと興味をそそられたのか、僅かに身を乗り出して僕の話に聞き入ってたよ。


「なるほど。記憶は間違いなく存在しているというのに、全く覚えていない、か。確かに不思議だね。思い出さないようにしているという訳でも無いのだろう?」

「その辺もちょっと分かんないんだよね。テンションが激し過ぎて空元気なのか何なのか分からん」


 普通の性格の人間なら分かったかもしれないけど、まさか中二病に罹患してる末期患者とは思わなかったからなぁ。本当に覚えて無いのか魔法で真偽判定もこっそりやったんだけど、本人が本気で覚えてないって思い込んでるのか何の反応も無かったし。


「良し、こうなったら地下で色々検証実験でもするか。レーンも来る?」

「ふむ。多少興味を惹かれる内容だからね。私も同行しよう」


 考えてても分からないし、僕らは学術的好奇心から検証実験をする事に決めました。トオルの記憶と心が今どんな状態にあるのか、地下のモルモットたちを使ってね。さあ、どいつを使って実験しようかなー?

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