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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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女勇者トオル

⋇性的描写あり

「よし、始めるか」


 見た目はレーン、中身はクソ外道と化した僕は、満を持してトオルとの対話に臨む事にした。

 もちろんレーンの身体を借りておきながら狐耳や狐尻尾を消し忘れるなんて愚かな真似はしないぞ? ちゃんとその辺りもやって完全な聖人族の女性の見た目に戻ったよ。魔獣族でも駄目、男でも駄目とか注文多いよね、全く……。


「ほら起きろー。朝だぞー?」

「んっ、ううっ……」


 気付けの魔法で無理やり覚醒を促し、ベッドに横たわったトオルを目覚めさせる。どんな夢を見てたかは知らないけど、若干苦悶の表情を浮かべた後にトオルは瞼を開けた。

 多少ぼーっとしてる瞳は、当然ながら日本人らしい黒。元々かなり幼い顔つきだったのが、目が開いたせいで余計に幼さに拍車がかかってる。前に解析(アナライズ)した時の年齢は二十歳だったんだけど、ぶっちゃけ十三、十四くらいの顔つきだよ。見た目もそれ相応だから年齢と外見がいまいちちぐはぐだ。

 たぶん年齢に比べて発育が相当遅れてるように見えるのは、劣悪な環境だったのが原因だと思われる。結構な年月囚われていた事を考えると、拷問だの肉便器だので酷い目に合ってたのは思春期真っ盛りの時のはずだし。

 実は癖でスリーサイズとかも調べてたけど、正直今は肉も全然足りてないから数値はかなり疑問だ。ある程度肉付き良くなってから後でもう一度調べよっと。


「やあ、おはよう。良い夢見れた?」

「んん……あなた、は……?」


 しばらく宙を彷徨ってた視線が、最後に僕の顔を捉える。ちゃんとトラウマに配慮した結果、いきなり雷撃ぶっ放してきたりはせず大人しいもんだったよ。これなら話は出来そうだな?


「僕は――ごめん、ちょっと寝起きで理解できるとは思えないから、自己紹介は後にさせて? それよりも自分の名前とか分かる? というかどこまで覚えてる?」


 とりあえず精神は大丈夫か、記憶は大丈夫かを尋ねておく。正直自己紹介もだいぶ複雑だからね。『やあ! 僕は元勇者で世界を滅ぼす邪神をやってる女神様の使徒だよ! 今は君のトラウマに配慮して仲間の女の身体を借りてるんだ!』とか寝起きに言われても一ミリも理解出来なさそうだし。


「どこ、まで……?」


 ぼーっとした顔で己の記憶を振り返るように虚空を眺めるトオル。

 脳機能は元通りにしたし、身体も健康体にした。だから普通は何も問題無いはずだけど、いかんせん人の心が分からない鬼畜外道の冷血漢と呼ばれる僕だから、心までも治療できたかと言われると疑問が残るんだよね。

 というかそれを抜きにしてもトラウマの元となる記憶は消してないし、普通に考えて大丈夫なわけ無いか。


「……はっ!?」


 たっぷり十数秒は沈黙した後、トオルはハッした様子でガバっと身体を起こした。

 記憶が繋がり己の受けた仕打ちに気付いたのかな? きっと恐怖のあまり泣き叫びながら走り出し、部屋の隅にうずくまり――


「ククク。なるほど、そういう事か。魔王と刺し違え力尽きた我を、貴様が救い出してくれたという事だな?」

「……うん?」


 あれ、何か予想と違う。右手で自分の顔を覆い、指の隙間から無駄に鋭く細めた目で僕を見てくるぞ? しかも恐怖とかそういう感情は欠片も見当たらず、それどころかむしろ喜びとかそっち系の感情が窺えるような……?


「とうっ!」


 なんて思ってたら、トオルは身体にかかっていたシーツをバサッと翻し跳躍! 空中でくるりと一回転して、ベッドの上に無駄に仰々しいカッコいいポーズで降り立った!


「我が名は栗栖(くりす)十織(トオル)! 荒ぶる雷を支配する天空の神にして、世界を救う輝ける勇者!」


 バチバチと身体を帯電させつつ、まるで観客へ台詞を聞かせる役者みたいに痛々しい事を言い放つ。

 あー、うん。なるほどね。そういう性格なのね? お元気そうで何よりです。


「悪魔と獣人という魑魅魍魎の蔓延る地獄の底から我を救い出すとは……貴様、なかなか見どころがあるな! うむ、我が配下に加えてやっても良いぞ!」

「………………」

「この世界の救世主たる我の手足となれる事、光栄に思うが――ぶっ!?」


 僕は立ち上がり、渾身のドヤ顔を晒すトオルの横っ面を引っ叩いた。パァン! って無駄に良い音がして、ノリノリで何か言ってたトオルが急激に元気を無くしてベッドにへたり込みました。


「な……何で、叩いたの……?」

「何かちょっとイラっとしたから、つい」

「えぇ……酷い……」


 そして今度は涙の滲んだ瞳で肩を震わせるっていう……躁鬱具合が実に激しいな? トラウマのせいか? でも頬を引っ叩かれた痛みで過去の記憶がフラッシュバックしてるとかはないみたいだし、ちょっとウザかっただけでそれ以外は問題無い感じか?


「とりあえず精神的に問題は無さそうだね。自分の名前も覚えてるみたいだし。ただ素っ裸なのには気付いてる?」

「えっ――ひゃああぁあぁぁっ!? な、なななな、なん、何で裸なの!?」


 どうやら全く気付いてなかったみたいで、トオルは自分の身体を見下ろし、途端に顔を真っ赤にして要所を隠す。ベッドのシーツを求めて手を右往左往させるけど、それはさっきあんたが変な演出のために吹っ飛ばしたよ。


「まあ落ち着きなって。その辺りも説明するからさ」

「ま、まさか、貴様が我の身体を弄んだのか!? おのれぇ、意識の無い婦女子を弄ぶ痴れ者めぇ!」

「レーンへの熱い風評被害。ていうか見た目は――じゃなくて女同士なんだし、何でそんな事考えるの? もしかして百合の人?」

「へ? あれ、そういえば……何でこんな反応しちゃったんだろ。恥ずかしいな……」


 今にも噛みついてきそうな感じの反応をしてたのに、女同士(見た目は)っていう事実を伝えるとすぐに大人しくなった。何か自分でもどうしてあそこまで過剰反応をしてたのかは分からないっぽい。しかも未だに身体を隠してもじもじしてるし、もしや中身が男だって事に気付いてるのか? いや、それなら雷ぶっぱしてくるか。


「ていうか随分余裕あるね? 魔獣族にエロエログログロな事されまくったんでしょ? 僕としてはもっとこう、情緒不安定になってるのを想像してたんだけど」


 とはいえ肉便器経由の強化改造兵器化を体験したにしては、あまりにも普通でまともな反応だ。てっきり突然泣き喚いたりいきなり笑いだしたり不意に怒りだしたりっていう、感情の制御が効かない感じの反応すると思ってたのに。


「エロエログログロ……えっ、何の事?」

「……ん?」

「えっ?」


 あれ、マジかコイツ。何も覚えてない? 魔獣族の心の醜さと男の薄汚い欲望をこれでもかと己の身体で味わったはずなのに、すっごい無垢な瞳で見つめ返してくるぞ? これマジで何の事か分かってない目だわ。

 これはアレか? あまりにも酷い体験をしたから脳がその記憶を忘れさせてるって事か? いやでも、記憶の書(ライフ・グリモア)で読んだから記憶そのものがちゃんと残ってる事は確実なんだよな……。


「……まあ、大丈夫そうならひとまず置いておこうか。話さなきゃいけない事は山ほどあるしね」

「待って? 私としてはエロエログログロの方が気になるんだけど? 知らない内に私何されてるの? もうユニコーンに会えない身体なの?」

「まず君がこの場に至った経緯だけど、君は魔王と刺し違えるどころか敗北して囚われの身になってたんだよ。そして薄い本みたいな展開になってたわけ」

「待って!? もしかして私、本当に綺麗な身体じゃなくなってるの!?」


 トオルはギョッとして問いをぶん投げて来るけど、それは無視して話を続ける。もしかしたらこの話の途中で自分が受けた拷問とか思い出して、泣き叫んでくれるかもしれないからね!


「ただ召喚された勇者って寿命がアホほど短いんだよね。召喚する時に脳に馬鹿みたいな負荷をかける情報をこれでもかと注ぎ込むから、知識や強さを得られる代わりにね。この辺は君も薄々気付いてるかもしれないけど」

「それは……まあ、うん。何となく気付いてたよ。何だかんだ仲間たちは妙によそよそしい所があったし、私が壊れてきた頃にはそれとなくいなくなってたから……」

「だから君は勝手に死なないよう、魔獣族に氷漬けにされて封印されてたんだ。そんでこの世界に邪神っていう強くてカッコいい敵が現れたから、ソイツを倒すために解凍されてド外道な改造手術をされたんだ。全身魔法陣の刺青塗れで凄かったよ」

「何それ、酷すぎない!? 乙女の柔肌に無理やり刺青するなんて!」


 トオルは乙女の柔肌とやらが露わになるのにも気付かず、憤慨して僕に身を乗り出してくる。僕がやったわけじゃないのにそんな目で見られてもなぁ……あとマジで胸小さいなコイツ。そりゃあリアとかミニスちゃんの方が小さいけど、身長比から考えるとコイツが一番小さくないか?


「ついでに言うと柔肌どころか肉や骨、内臓にもだからね。麻酔無しで焼き印したりガリガリ削ったりして」

「人の心とか無いの!?」

「勇者なんて所詮使い捨ての兵器扱いだし……」


 聖人族からも魔獣族からも碌な扱いをされない、勇者とかいう悲しい奴ら。まあ所詮は異なる世界から来た異分子って事を考えれば当然の扱いかな?

 ていうか考えてみると僕の勇者時代のかつての仲間(筋肉ダルマ)って、特に僕に対してよそよそしい所は無かったし、意外とまともな方だったんだろうか? まあそれが分かっても対応を変えたりはしなかったけど。


「ゴホン……しかし、摩訶不思議だな。我にそのような極悪非道極まる体験をした記憶は一切無いぞ。貴様の言い分は真実なのか?」

「君の記憶を直接読んだから間違いないよ。でも僕も不思議だな、これ……」


 明らかにトラウマを刺激する内容のお話をしたのに、当のトオルは首を傾げて中二的な発言をする余裕まである始末。

 これ本当に思い出せないだけか? 記憶はともかく、心は僕にとってもブラックボックスだからなぁ……。


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