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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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勇者たちの過去

⋇性的描写あり

⋇残酷描写あり

 僕の新しい魔法――記憶の書(ライフ・グリモア)。これは記憶を探り、消去や改ざんを可能にする素敵な魔法だ。

 とはいえ同じ魔法なら以前からすでにあったし、大いに悪用もしてた。だけどどうにも使い勝手がよろしくない。記憶と言う膨大なデータをそのまま映像や音に変換して見る形だったからね。長時間パソコンとにらめっこして編集作業とかやってりゃ誰でも疲れる。

 そんなわけで、使いやすいように一新したのがこの記憶の書(ライフ・グリモア)! 今でもたまにこっそり読んでるミニスちゃんの日記をヒントに生まれた魔法だ!


「ふむふむ……」


 というわけで、僕は記憶の書(ライフ・グリモア)によって生み出した書物を捲っていく。

 これは人間一人の記憶を一冊の書物に収めた、今までの人生の日記帳みたいなものを生み出す魔法だ。内容はわりと大雑把な概要くらいになるよう調整してあるから、目的の記憶の検索も実にらくちんだよ。

 目的の記憶を深く知りたいなら今度はその内容を書物に映し出すなり、深く描写させるなりすれば良いだけだしだね。感覚的にはタブレットで情報を検索してるような感じだ。

 えっ、じゃあ何でタブレットにしなかったのかって? いや、本の方が味があるから……。


「あー、うん。はい。なるほどなるほど」


 そうして二人の人生の日記を覗き見た事で、僕は全てを理解しました。こりゃあリアが攻撃されるのもしょーがねーや。いや、本人に非は全く無いけどさ。


「何か分かったのか、ご主人様?」

「まあね。結論から言うと、男の方は女――特にサキュバスに恐怖を抱いていて、女の方は男、あるいは魔獣族全般に殺意を抱いてる感じだよ。どっちも捕まってた時に色々あったみたいだから」

「なるほど。だからリアを見た途端に錯乱したわけか……」


 僕の答えに、ベルも納得して頷く。

 要するにトオルとリュウ、二人のトラウマを刺激する種族と性別にぴったり重なってたのがリアだったってわけ。まあ不幸な事故みたいなもんだ。


「えー? リア、とばっちり……」


 尤も不幸な事故でガチめの殺意を向けられたリアは、相変わらず僕にしがみついたまま悲しそうな声を零してたよ。マジでとばっちりだからどうしようもないな?






「――なるほど。トラウマで錯乱し、脇目も振らずに攻撃を加えて来るのか。それはまた実に厄介だね。まともに話も出来ないじゃないか」


 勇者共に関しての注意点を述べると、レーンが眉を寄せて小さくため息を零す。

 報連相は大事だし、まだ寝てなかったメンバーをリビングに集め、現在は情報を共有中。といってもすでに結構な夜更けって事もあって、セレスとキラはおねんねしてました。なので集まったメンバーはレーンとトゥーラ、それから勇者共の暴れ具合を目撃した張本人であるベルとリアだ。

 一応バールも起きてはいたけど、何かお楽しみ中の気配がしたので放っておきました。さすがに死体と乱交してる現場に踏み入る勇気は無いよ。


「男勇者の方は女全般、特にサキュバスが駄目で、女勇者の方は男全般と魔獣族が駄目なんだったか~い? これは二人一緒にしておくのも駄目そうだね~」

「そうそう。どっちも異性が駄目だからね。纏めてお話しするのも難しそうだよ。あとはリアなんかトラウマのほぼ全てに該当してるから論外だね」

「がーん……」


 僕の指摘に、リアはショックを受けたように肩を落とす。

 というかそもそもの話、何でコイツはこんな夜更けに起きてるんだろ? 肉体的にも精神的にも子供だし、コイツこそさっさと寝てるはずでは? そんなにあの勇者たちの事が気になってたんだろうか。そして見に行ったら襲われた、と……うーん、実に間が悪いね?


「男でも女でも駄目か。ふむ、ならば私の真の姿ならばどうだろうか?」

「駄目に決まってるだろ。目覚めてすぐ目の前に冒涜的な生物がいるとか、新鮮なトラウマが追加されるわ。下手すると廃人になるし」

「むぅ。駄目か……」


 何か『名案閃いた!』みたいな顔をしてるベル(ミラの姿)を容赦なく一喝。そしたらちょっと残念そうな顔をして唇尖らせてたよ。ミラの顔だからかなり新鮮な反応だな?

 ていうか普通に考えて真の姿を見せるとか駄目だろ。何でイケると思った? アレか? 不死身な方なら大丈夫って判断か? 廃人になってる辺りメンタル面までは不死身じゃないと思われるが……。

 

「君ならトラウマとなっている記憶を取り除く事だって出来るんじゃないかい? そうすれば楽に話をする事も出来ると思うが」


 なんて事を考えてたら、レーンが全ての問題を解決する素晴らしい策を口にした。

 確かに僕にとっては朝飯前の事だ。改良した魔法を使えば、ページを破り捨てるか文を塗り潰すかすれば記憶は楽に消す事が出来る。出来るんだけど、それはやらないぞ?


「何を言ってるんだ。そんな方法でトラウマを取り除いても、乗り越えた事にはならないぞ。ちゃんと自分の心の傷と向かい合って、それを受け入れ乗り越えるのが人間ってものだろ?」

「ふむ。綺麗事をほざいてるが、本音は?」

「やればやれるだろうけどちょっと面倒臭い。あとはトラウマに苦しんでる方が見てて面白いだろうなって」


 そう、やりたくないのはそういう理由。すでに命を救って身体も脳もまともに戻してあげたのに、これ以上何かしてあげる必要ある? トラウマの一つや二つ、血を吐きながら苦しんで乗り越えて貰いたいよ。


「君はつくづく……はあっ……」

「ご主人様は悪趣味だな」

「でも悪趣味じゃないご主人様なんてご主人様じゃないよねー」

「私は主の趣味が良かろうが悪かろうがこの気持ちに変わりはないよ~!」


 僕の実に人間賛歌な発言に対し、返って来たのは呆れが二人分。あと微妙な反応が一つと、全肯定が一つ。

 うーん、何か物足りない感じ。ここにミニスちゃんがいたら冷たい目で『ゲス野郎』って罵ってくれただろうなぁ……。


「まあ、君がそういう人間なのは知っているし諦めている。君がそう決めたのなら別に反対はしないさ。それよりも彼らが今の状況に陥った経緯、トラウマの根幹を教えてくれ」

「おっけ。じゃあまずは女勇者の方からね」


 レーンの求めに応じる形で、僕は再び記憶の書(ライフ・グリモア)を行使する。女勇者ことトオルの半生が刻まれた日記帳を呼び出し、後ろの方からぺらぺらと捲って該当の場面へ遡った。

 ちなみに物心ついた頃から勇者として召喚されるまでの記憶とかも載ってるけど、今のところ興味無いから読んでない。特に知らん人の過去とかクソどうでもいいしね。今必要なのは魔王に敗れた辺りの記憶だ。


「記憶を読む限りだと……魔王に負けた後は契約魔術で無理やり奴隷にさせられて、数年ほど拷問されたり魔王の部下たちの肉便器やってたみたいだね。ただ勇者は召喚される時、いらん情報をこれでもかと頭にぶちこまれるせいでその内壊れるらしいけど、苦痛やストレスが手伝ってそれが加速したみたい。この時点で結構壊れてたっぽい。だから完全に壊れるのを防ぐために、全身氷漬けで保存されてたんだって」


 良い感じの薄い本みたいな展開にちょっと愚息が反応するのはご愛敬。

 それはともかく、まあわりと予想通りの展開辿ってるよね、女勇者。ヤったのは当然魔獣族の男だろうし、そりゃあ魔獣族も男もトラウマになるわ。しかも僕は予め読んだから知ってるんだけど、これでも味わった苦痛の半分くらいでしかないんだよねぇ。


「聖人族の身勝手で呼び出され、命を削られ戦う兵器に仕立て上げられた挙句、その末路が尊厳すらも奪われた家畜か……浮かばれないね」

「魔王というのは相変わらずろくな事をせんな、全く」

「う~ん、私も主の肉便器になりたいな~……」


 どこか同情の浮かぶ瞳で呟いたレーンにベルも賛同し、クソ犬は何か馬鹿みたいな事を口走る。肉便器は押しかけ奴隷になって向こうから襲い掛かってきたりしないんだわ。


「えーっと……ご主人様も勇者だけど、その辺は大丈夫なんだよね?」

「僕は特別だから平気だよ。注がれる情報は全部シャットアウトしてたし。その気になれば自分で脳の情報整理も出来るしね」

「そっか、良かったー!」


 パアっと明るい笑顔を浮かべ、胸を撫で下ろすリア。心配してくれたのがコイツだけってマジ? いやまあ、冷静に考えれば僕がその程度でどうにかなるわけないと信用してるんだろうけどさ。ちょっとくらい心配してくれてもさぁ……。


「話を続けるね。邪神を討伐する兵器に仕立て上げるため、数年ほど前に解凍されて強化改造手術の日々が始まったんだ。僕のせいで契約魔術の効果は無力化されてるから、最初に暴れたり抵抗したりするととんでもない激痛が走る効力のある魔法陣を刻まれてね。そこからは全身に色んな効果のある魔法陣を刻む方式でドーピング始めたみたいだよ。前も言ったけど、ここで言う全身っていうのは肌や骨、内臓とかも含めた全身ね。苦痛を与えてそれが邪神のせいだって方向付けるために、麻酔とかそういうのは無しでやったってさ。頭イカれてるよね」


 詳細を検索すると地獄のような責め苦の数々が出るわ出るわ。生皮を剥がしてその裏に焼き印状の魔法陣を刻んだり、骨をガリガリと削って魔法陣を刻んだり……こんなゲス外道な事を実行できる奴、絶対まともじゃないね。友達になりたいわ。うちの地下牢の拷問官として引き抜きたい。


「何度聞いてもおぞましいね。そんな悪夢のような拷問の日々で、良く生きていたものだ……」

「偏見かもしれんが、絶対にご主人様のような趣味が入っているだろうな」

「私も全身に主を刻まれたいな~?」

「うわー、痛そー……」


 さすがにこれには四人も眉を寄せて――いや、一匹変なのがいるな? まあそんな変態は置いといて、大体皆渋い顔をしてる。施術完了後の姿を見たのは僕だけとはいえ、どれだけ惨たらしい真似をされたかは容易に想像できたらしい。


「とはいえその無理も祟って、僕との戦いの最中に勝手に死にそうな感じだったけどね。でもすでに後が無い分、強かったような気がしないでもないよ。まあまともな思考力が残って無かったから、魔法も能力もかなり雑だったのは否めないけど」

「なるほどね。では、男の勇者の方はどのような経緯があったんだい?」

「あー、うん。それね……」


 レーンにちょっと困った事を聞かれ、僕は少々視線を彷徨わせ考える。

 どうしよう、言っちゃってもいいかなこれ? いやでも知らない方がお互い幸せかな? 少なくとも今言うような事じゃないか。よし。


「……結構喋ったから喉が渇いたな? リア、ちょっとキッチン行って紅茶でも淹れて来てくれない?」

「えー? 別に良いけど、ベルちゃんたちほど上手くは出来ないよー?」

「ついでにリアの好きなおやつも持ってきて良いよ」

「こ、こんな時間におやつ食べていいの!? 分かった、紅茶淹れて来るね!」

「はい、行ってらっしゃーい」


 ガタッと席を立ちそうになってたメイド長をさり気なく手で制して、あえてリアにキッチンへ向かわせる。幼女なリアは深夜のおやつタイムとかいう背徳の極みに抗えず、目を輝かせて走ってったよ。ちょろい。

 皆もうっすらと僕の意図を察してるのか、リアがリビングを出てパタパタ駆けてく足音が聞こえなくなるまで沈黙してたよ。


「……何だか露骨だね~? もしかしてリアには聞かせたくない類の話なのか~い?」

「馬鹿な。クルスにそんな気遣いが出来る心などあるわけがないだろう」

「いや、ご主人様にも優しさはあるだろう。機嫌が良いから雑魚を見逃すくらいのな」

「僕を何だと思ってるんですかね、そこの二人は……」


 どうやら意図を察してたのはクソ犬だけだったらしい。レーンもベルも僕を妙に冷血漢の鬼畜外道に見てやがる。僕にだって優しさとか気遣いとかあるんだからな? 深い絆で結ばれた子たちを仲良く殺してあげたり、苦しまないように一瞬で殺してあげたりとか。


「まあリアに聞かせたくないのは事実かな。万一あの男勇者を慕って僕より優先し始めたら困るし」

「慕う? 何故そうなるんだい?」

「だってあの男勇者、リアの父親だもん。だから意外とそういう展開もあるんじゃないかなって」


 僕がその情報を投下すると、さすがにこれにはクソ犬含め一同驚いたらしい。皆びっくりして目を丸くしてたよ。肝が太い奴らばっかりだから、ちょっとしてやったりな感じだ。やったぜ。


 冗談とかではなく本当に血縁上の父親です。まあ血はだいぶ濃いが……。

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