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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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暴走と鎮圧

「――というわけで、ここからは一人旅で頑張ってね?」


 夜も更けた頃。一旦ミニスちゃんの所に戻った僕は、しばらく一人旅を頑張るように心からのエールを送った。サボリ……じゃなくて勇者たちの方を優先しないといけないからね!

 ちなみにミニスちゃんは案の定宿屋に入れて貰えなかったようで、またしても街の外でテント張ってその中にいたよ。何かテントがやたらボロボロなのは気にしないでおこう。


「えぇー……」


 意外な事に、ミニスちゃんは僕の話を聞くなりどこか不満そうな顔をした。

 おかしいな? いつもは僕と離れられるっていうなら喜んでぴょんぴょん飛び跳ねるのに。


「何だその反応。僕と離れる事が出来るんだし、もっと喜ぶと思ったのに。はっ!? さては遂に僕に堕ちたか!? しょうがないなぁ別れる前に激しく愛してやんよ!」

「あ、それはないから心配しなくて良いわ。ていうか離せクソ野郎キモイ」


 グイっと抱き寄せ熱烈なキスを交わそうとした所、抱きあげた猫が突っ張るみたいに両手で顔を押し退けてくる。照れてるのかと思いきや心底冷めた目をしてらっしゃる。やれやれ、素直じゃないなぁ?


「じゃあ何でそんな微妙な反応してんの? むしろお前だってこの時を待ちわびてなかった?」

「最初はそうだったわよ? でもこの国での魔獣族への対応が酷すぎて、さすがに一人じゃ不安っていうか……さっきも矢が飛んで来てテントに刺さったし……」


 心細そうに縮こまり、視線を彷徨わせるミニス。どうやら聖人族による歓迎(控えめな表現)がお気に召さないみたいだね。アリオトでは最終的に受け入れられたから、その落差が余計に効いてるのかな?


「心配しなくても大丈夫だよ。困った時はハニエルの印籠でぶん殴れば全部解決するって」

「アレってそんな打撃武器だっけ……?」

「どうしても一人が嫌だって言うなら、適当にその辺で聖人族捕まえて殺して奴隷に仕立ててあげようか? なるべくお前と背格好が近い女の子の方が仲良くなれそうで良いよね?」

「そんなんするくらいなら一人で良いわ! あーもうっ、良いからあんたはとっとと同郷の奴らの所に行きなさいよ!」


 せっかく優しさを見せてあげたのに、逆に何故かドン引きされ怒られる始末。一人では寂しいって言うから仲間を増やしてあげようって提案したのに、それも嫌とかわがまま兎だなぁ?


「えー? 本当に一人で大丈夫な――おっと、電話だ」


 なんてミニスと話してると、不意に僕のポケットで電話が鳴り出す。本来ならば外に出て応対するのがエチケットだけど、ここはミニスちゃんしかいないテント内だし問題無し。

 そんなわけで一旦静かにするように手振りで示し、電話に出た。出てしまった。


『あー、あー! 聞こえるか、ご主人様! 聞こえているかー!?』

「んがあぁぁ!? 何じゃいこりゃあ!?」

「何やってんの……?」


 ミラのらしくない大声を主旋律に、至近距離に雷が落ち続けているような轟音、それから口汚い罵りや誰かの悲痛な悲鳴っていうコーラスが僕の耳を容赦なく貫いた。過剰な音はシャットアウトするように魔法で自分を守ってるけど、性質悪い事にギリギリその範囲外だったね。

 鼓膜への不意打ちダイレクトアタックに耐えられず、僕は思わず携帯を地面に叩きつける。反射的って感じにそれを直前でキャッチしたミニスちゃんだけど、携帯から聞こえてくる不協和音にウサミミを曲げて苦い顔してたよ。一瞬ミラが反逆起こして電話越しに音響兵器でもぶっ放してきたのかと思ったわ。まあたぶん声がミラなだけで本当は変身してるベルなんだろうけど。

 とりあえずベルの声以外をシャットアウトする魔法をかけてから、ミニスちゃんから携帯を受け取り恐る恐る耳を近付けました。


「もしもし? 邪神の鼓膜を破壊しようとした不届き者はお前か、ベル」

『すまん! そんな気は無かったのだ! ご主人様よ、出来れば今すぐ戻って来てはくれないだろうか! ご主人様が捕えてきた二人の勇者が、少々問題というか面倒を起こしてしまってな!』


 ベルは無駄に大きな声でそう答える。お話をした後は勇者たちの事をベルに任せてたんだけど、何やら面倒が起こってるらしい。

 別に口調に焦りは無い辺り、単純に周囲の雑音が酷過ぎるから声を張り上げてるらしい。まあさっきの爆音とか悲鳴や罵声の中では仕方ないか。しかし一体どういう状況なんだこれ……。


「そう言われて『分かった、すぐに戻る』って言いたくなると思う? めっちゃ戻りたくなくなったよ」

「何か分かんないけど、面倒を先延ばしにしようとしてるのは分かるわよ。とっとと帰れ馬鹿」


 などという冷めた声と共に、ミニスちゃんのローキックが僕の脛を捕える。今はニア状態だから身体能力もぶっ壊れてるせいで、音の壁を突き破ったローキックだったわ。足の骨が折れた……。


「あー、はいはい分かったよ。今すぐ帰るね。こっちの勇者様にも帰れって言われたし」

『了解だ! 待っているぞ、ご主人様よ!』


 耳をつんざくベルの大声に眉を寄せつつ、電話をプツリと切る。ミラの声だったからあとでミラに八つ当たりでもしようかな。


「――というわけで、僕はしばらく離脱するよ。一人で頑張ってね、ミニスちゃん」

「はいはい。いつも通りやりたい事をやってればいいんでしょ。差別は辛いけど、その辺りは楽だし頑張るわよ」

「良い返事だ。あと分かってるとは思うけど、浮気は駄目だよ? お前は僕のものなんだからね?」


 ニアという名前、そして<救世の剣>(ヴェール・フルカ)の名を知らしめるためには、真っ当な心を持ったミニスのやりたいようにさせた方が一番良い。だから特に口出しはしないけど、恋愛関係は別だ。

 何と言ってもミニスちゃんは心も体も僕の物。僕以外の男と恋愛関係になるとか浮気だし、許されないのは当然だよね。えっ、女の子となら良いのかって? うーん……アリよりのアリ!

 なんて考えてたら――バスッ! 突如としてテントを突き破り、鋭い矢じりがこんにちは。どうやらまたしても何者かがテントに矢を放ってきたらしい。他にやる事無いんですかね? 暇なの?


「……逆に聞きたいんだけど、浮気が出来るくらい好意的に受け入れられると思うわけ? あと仮に受け入れられたとして、こんなクソ野郎に散々穢された中古品を引き取ってくれる奴いると思う?」

「廃品回収業者とか?」

「くたばれ」


 ちょっと泣きそうな顔をしてるミニスを慰めるために軽いジョークを口にしたのに、返って来たのは吐き捨てるような冷たい罵声。

 まあこの調子ならたぶん大丈夫でしょ。僕はミニスちゃんのメンタルを信じてるぞ!





 そんなわけで、僕はさっさと屋敷に戻り勇者共を寝かせた部屋へ向かった。てっきり屋敷から脱走して街中でドンパチしてるんじゃないかと思ったけど、意外にもそういう事じゃなかったらしい。思ったよりは面倒そうじゃなくて安心したよ。

 で、僕が部屋に入って目の当たりにした光景なんだけど……。


「がああぁあぁぁぁっ!! 死ね、死ね、死ねっ!! くたばりやがれ悪魔どもがああぁぁぁ!!」

「ひいいいぃぃぃいいいっ!! 来るな来るな来るな! 俺の傍に近寄るなああぁぁぁあぁ!!」

「ぴゃあああぁぁぁぁ!? 何でそんなに怒ってるのー!?」

「うーむ、私にも良く分からん……」


 部屋の中心で四方八方に稲妻を放つ女勇者――トオルと、部屋の隅で蹲りどっかのボスみたいな事を叫びながら四方八方に魔法を放つ男勇者――リュウ。そして怯えて泣きじゃくってるリアと、そんなリアの前に立ち平然と稲妻や魔法を受け止め盾になってる困惑気味のベル(ミラの姿)。

 電話うるせぇと思ったらこんな状況でかけてきたのか。そりゃあうるさいわな。主に憤怒の形相で稲妻バリバリしてるトオルが諸悪の根源だね。

 しかし一体どういう状況だ、これ? 


「……一体何があったの?」

「おお、来たかご主人様! それが私にも良く分からなくてだな!」

「助けてご主人様ー! 何かリアを苛めてくるのー!」


 僕に気付いたベルとリアは、轟く雷鳴に負けないよう声を張り上げて叫ぶ。ベルの方は単純に声を大きくしてるだけだけど、リアは本気で助けを求めてる感じの切羽詰まった声音だ。まあリアはサキュバス相手にはほぼ無敵だけど、それ以外相手だとからっきしだからねぇ。


「どう見ても苛めじゃなくてガチの殺意なんだよなぁ。あとこっちに関してはむしろ苛められてる側みたいな感じだし……」

「消え失せろおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ひいいいぃぃいぃいぃいっ!?」


 ガチの殺意こと稲妻を周囲に振りまくテスラコイルみたいなトオルと、苛められてるようにしか見えないドチャクソビビリ怯えてるリュウ。

 面白い事にこの二人はお互いを見てない感じだ。二人のイカれた目はベルの方に向いてるし、稲妻も魔法もほぼ全部そっちに向いてる。


「とりあえず! 殺して黙らせても良いだろうか!?」

「ああ、許可出してないから大人しくされるがままだったのね。うん、良いよ。どうせまた蘇生するだけだし」

「分かった! では――」


 僕が許可を出すとベルは稲妻を掴み――掴み!? 掴める物なのアレ!? 


「うわああぁあぁ――ごあっ!?」


 と、とにかく掴んだ稲妻をリュウに向けてぶん投げ、一時的に黙らせた。そうして片方が行動不能になってる内に、今度は軽く床を蹴り一瞬でトオルとの距離を詰める。何か稲妻より速かった気がするけど気にしない。


「死ねえええぇぇ――」

「ふんっ!」


 そして短い気合の声と共に、拳を顔面に一発。哀れトオルは断末魔の悲鳴を上げる事も出来ず、首から上が消し飛んだ。トゥーラみたいな衝撃操作で頭をパーンとしたわけではなく、純粋な破壊力だけで頭吹っ飛ばしたんだから恐ろしい。


「うぐ、あぁ……あぎっ!?」


 最後にリュウの所へ悠々と歩いて行くと、破壊されたベッドの木片をその頭に突き刺して完全に黙らせた。

 不死身って言っても色んなパターンがあって、リュウの場合は傷口を塞がれてると再生しないんだわ。だから脳みそに何か突き刺した状態だと行動不能になるってわけ。意外と弱い不死身っすね。


「ふうっ。これで大人しくなったな?」

「勇者二人をあっさり無力化するとか、やっぱバグキャラなんよ」

「ご主人様ーっ!」


 一仕事終えた顔でメイド服の汚れを払うベルを尻目に、半泣きのリアが僕に駆け寄ってくる。鼻水も出てるから汚いと思って一歩下がったんだけど、それを見たリアは一旦立ち止まってハンカチを出し、鼻水拭いてから僕に飛びついてきたよ。君、意外と余裕あるんじゃない?


「それで? 一体何があったわけ?」

「うむ、先程も言ったが良く分からんのだ。目覚めるなり突然暴れ出してな」

「二人ともリアを見た途端に攻撃してきたよー。怖かったー……」

「リアを見た途端に、か……」


 ぎゅっと抱きつき両手両足でしがみ付いてくるリアを尻目に、ちょっと色々考える。

 今の勇者二人は僕の甲斐甲斐しい治療により、脳機能も正常に戻ってるし植え付けられた魔獣族への敵意も消えてる。つまりリアを見た途端に攻撃を仕掛けたっていうのは、恐らく囚われてた頃に受けた凄惨な記憶によるトラウマが原因と思われる。さすがに幼女に挨拶代わりの攻撃を仕掛けるほど人間性終わってるとは思いたくないしね。


「どれ、ちょっと記憶を読んでみるか。新しく改良した魔法の出番だぜ!」


 と言う事で原因を探るために、またどんなトラウマを抱えてるかを把握するために、魔法で勇者たちの記憶を読んでみる事にしました。

 あっ、でもその前に頭吹っ飛んでる方はまず治さないとな……。

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