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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
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勇者を保護

「……これでよし、と」


 哀れな勇者二人を塵にして殺した僕は、一仕事終えた気分で玉座に腰を下ろした。

 僕が邪神として放った攻撃は単純明快。ただただ物質を原子レベルで分解して塵にしただけだ。まあこれだけだと男勇者の方は元に戻る可能性があったから、その力を封じた上で分解させて貰った。

 とはいえ原子レベルで分解して殺すだけならすでに別の魔法を作ってあるし、それで何度か不適格なウェーイ系の英雄(自称)を屠ってる。にも拘わらずあえて別の名前をつけて別種の魔法にしたのは、邪神としての権能(そういう設定)を見せつけるためだ。

 僕の愛する女神様はこの世界を作り上げた存在。いわば生と創造を司る神だ。そんな女神様の伴侶である邪神の権能は、真逆である死と破壊が相応しい。だから僕は邪神の権能はそういう感じのものにしようと決めてるし、本気の戦いをする時は死と破壊を撒き散らす破滅の権化になる予定なんだ。

 つまりさっきのはその片鱗を見せてあげたってわけ。原理が分からない人からすれば、破壊の概念とかを直接ぶつけられたとかそういう風に見えるだろうしね。ここそういう魔法も可能な異世界だし。


「しかし勇者二人を送って来るとは思わなかったな? 全然姿見ないと思ったら捕まって改造手術受けてたとか、エロ同人かよ」


 正直な所、いきなり現れた勇者二人にはなかなかびっくりした。だって今まで影も形も無かった奴らが突然現れて牙を剥いてくるんだもん。挙句何かちょっと悔しい思いをするような改造手術されてるしさぁ? そういうのは普通ゲスで外道な僕の専売特許じゃない?


「それにしても、うーん……どうしようかな、コイツら?」


 二人の勇者(塵)を風の魔法でグルグル弄びながら、しばし考える。

 この世界に僕を含め、たった三人しかいない同郷の人間! だから救わなきゃ! なんて甘っちょろい考えは微塵も無いよ? そんな同じ世界に住んでた程度で親近感や庇護欲が湧く理由は特に無いし。同じ国に住んでるからって、隣の県に住む見ず知らずのオッサンに親近感湧いたりする? しないよね?

 だけど貴重な戦力になり得るっていうのは、なかなか魅力的なんだよなぁ。同郷なのは確かだから話も合うかもだし……。


「……とりあえず勧誘くらいはしてみるか。邪神一派は人手不足だし、使えそうな奴が増えるに越した事は無いしね」


 そういうわけで、僕は塵になってる勇者二人の肉体を再構成した。ついでに身体を改造手術前の状態に戻したり、予め理不尽な契約で縛ったりしてから、最後に魂を戻して新品同然の状態にしました。


「目覚めたら色々お話をしないといけないけど、ひとまずその件は夜にするか。とりあえず屋敷に連れてって預けてこようっと」


 本当はニアの忠実な下僕として振舞うお仕事があるけど、まあ本人が大丈夫って言ってるししばらくは一人で頑張って貰おう。僕は勇者二人を仲間に引き込むという仕事を隠れ蓑にして、しばらく屋敷でまったりしようっと。何だかんだミニスちゃんに付き合ってえらいハードスケジュールでお仕事してたからね。つかの間の休息で羽を伸ばそうっと。

 え、今もミニスちゃんは頑張ってるのに酷いって? 別に良いんだよ。割と好きでやってる所もあるっぽいし、向こうもむしろ僕がいないからリラックスできてる節もあるしね。何かちょっと傷つくけど……。



 



「やっほ。ただいまー」

「あっ、クルスくんおかえりー!」


 適当な布でグルグル巻きにした勇者二人を抱え、僕は屋敷のエントランスへと転移で戻った。

 どうやらちょうど通りかかったみたいで、セレスがこれでもかと表情を輝かせて駆け寄ってきたよ。でも僕が両肩に乗っけてる物を見るなり足を止め、怪訝な視線を向けて来たね。


「って、その人たちは何……?」

「邪神の城に攻め込んできた勇者二人。せっかくだからお持ち帰りしてきたんだ」

「そ、そんな!? クルスくん、もう新しい女を!?」

「いや、違うから。あと片方は男だから」


 愕然とした表情でよろめくセレスに、何故か僕がツッコミを入れる役割になってしまう。

 そんなしょっちゅう女を作ってるみたいな言い方止めて欲しいなぁ。僕はもっと慎みある方だぞ?


「戦力になりそうだから、引き入れるために連れて来ただけだよ。あと一応同郷の人間だし、塵の欠片くらいの情も湧いたしね」

「そっか、良かった。後でトドメを刺さなきゃいけないと思ったよー?」


 ちゃんと説明をすると、セレスはほっと胸を撫で下ろした。何か滅茶苦茶物騒な事を口走った気がするけど聞かなかった事にしよう。この屋敷では物騒で血生臭いのは日常茶飯事だしね。うん。


「そうだよね。数少ない同郷の人間なら、クルスくんだって仕方ないよね。同郷の人間っていうアドバンテージは強いよね、うん。ライバルだよね」

「どうどう。剣を抜くな、剣を」


 納得したように何度も頷きつつ、当然のように獲物を取り出すセレス。顔は笑ってるのに目は笑ってないんだわ。何かヤンデレ化してない? ちょくちょく帰って顔を合わせてたけど、しばらくミニスちゃんと二人旅してたからかな? やっぱりこれはしばらく留まってご機嫌取りをした方が良さそう……。

 そんなこんなで何とかセレスを宥めた僕は、勇者二人を適当な一室に投げ入れてしばしの間セレスに任せた後、仲間たちを招集しました。一応報告はしておいた方が良いと思ってね。知らん間に勇者たちが闇討ちされても面倒だし。


「というわけで、勇者二人を捕え――もとい、保護しました」


 リビングに集めた仲間たちに対して、とりあえずそう報告する。でも突然帰ってきた上にいきなりの招集だから、すぐに集められたのは四人だけだったよ。そもそも昼前の微妙な時間だしね。

 なので参加メンバーはクール系狐娘と化したレーンに、ご存じ変態クソ犬のトゥーラ。それから残念吸血鬼バールに、冒涜的なメイドのベル、この四人です。


「はあっ……聖人族の兵器として召喚された使い捨ての勇者が、今度は改造手術によって魔獣族の兵器と化したのか。どうにもこの世界の住人は異世界の人間に厳しいね」

「むしろ同族以外に厳しいんじゃないか~い? こっちの国では人間牧場とか作ってたりするんだからね~。わふわふ」


 僕の報告を耳にするなり、ソファーに腰掛けたレーンが大きなため息を零し独り言のように口を開く。そしてその内容を僕の膝の上でゴロゴロしてるトゥーラが補足する。

 まあ僕からすればこの世界の人間なんて等しくクズだから、クズレベルが多少上下しても印象は変わらないかな。えっ、お前がド級のクズ? またまたぁ。


「勇者を捕えて兵器に仕立て上げる、か。我も初めて聞いたな。どうやらよほど秘匿性の高い場所で進められていた計画なのだろう。だとすると同族にすら口外する事が憚られるような事をしていた可能性も高いな」


 などと真っ当な予測を口にするバールだけど、コイツは何故か床に這い蹲ってベルの椅子になってる。何か気にしたら負けっぽいから指摘はしないけど。マジで何やってんだ、コイツ……。


「実際そんな感じじゃない? 男の方はともかく、女の方はだいぶ酷かったよ。肌や骨、内臓に余すところなく魔法陣が刻まれてたしね。それでめちゃめちゃにブーストして強化してた感じ?」

「骨や内臓……剥がして刻んだのか。君に勝るとも劣らない鬼畜の所業だね――ひゃうっ!? や、やめ……尻尾を、掴むんじゃない……!」

「主、主~! 尻尾を掴みたいなら、私の尻尾は幾らでも掴んで良いよ~!」


 ちょっとイラッと来たから、レーンの狐尻尾をぎゅっと掴んでやる。途端に走った快楽に甘い声を上げるレーン。

 でもこれはどっちかというと自分へのイラつきからの八つ当たりなんだよなぁ。まだ僕だってやってないド外道な真似を、魔王なんかがすでにやってたとかさぁ? 自他共に認める人でなしとしては心底悔しいぜ。あ、ドMのおねだりは無視しました。


「しかし、そこまで負担のかかる真似をして大丈夫だったのか? 勇者というのは召喚の際に脳に注ぎ込まれる情報が多すぎるせいで、時間が経つと壊れて行くのだろう?」

「とりあえず邪神を倒せれば良かったんじゃない? 実際どっちもぶっ壊れてて、むしろ戦えた事が奇跡みたいな状態だったし。特に女の方は放っておけばそのまま死にそうなくらい壊れてたしね」

「では男の方は……ああ、不死身の勇者だったか。なるほど」


 バールが疑問を口にした通り、あの二人はだいぶ壊れかけだった。

 ただ男の方は不死身の力を持ってるから、あの状態でも脳機能はまともだった可能性があるね。廃人みたいになってたのは心の問題だと思われる。バール自身が不死身に近い再生能力を持っててもへし折れたメンタルを治せてないし。ベルの椅子になってる癖に何で平然と会話に入って来るんだ、コイツ……。


「それでご主人様は奴らをどうするのだ? わざわざ保護したと言う事は、何かしらの目的があるんだろう?」

「そこなんだよねぇ。戦力としてスカウトしたい気持ちが七割、同郷の人間だから情が湧いてるってのが三割くらいかな」

「ご主人様に三割もそんな気持ちがあるのか? 三パーセントの間違いではないのか?」

「僕だってお年頃なんだから、故郷を懐かしんで哀愁に浸る事だってあるわ」


 哀れなバールをケツに敷いてるベル(リアの姿)は、僕の情が湧いてる発言に正気を疑うような目を向けてくる。とりあえず反論したけど実際何も間違ってないのが悲しい所。やはり十倍はサバを読み過ぎただろうか……。


「とてもそうは思えないね。哀愁? 君が? 望郷の念で? 一体何の冗談だい?」

「どうせ体色や毛並みの違う動物に出会った程度の物珍しさで連れてきたのだろう。コレクション感覚ではないか?」

「ひどいよぉ……」


 ベルだけでなく、残りの奴らも情なんて無いって断じてくる。あまりにも優しさの無い発言に、僕のガラスハートは粉々だ。僕だって泣きたくなる事はあるんだぞ! カップ焼きそばをシンクにドバっと落としちゃった時とか!


「大丈夫だよ、主~。悲しいのなら私がこの身体を使って一生懸命慰めてあげるよ~」


 なお、トゥーラだけは唯一僕の繊細なガラスハートを肯定してくれました。まあかなり気持ちの悪い笑顔浮かべてハァハァ興奮してたから、あんまり嬉しくは無かったけどね……。

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