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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第17章:勇者と勇者と勇者
471/527

生体兵器、勇者

⋇前半クルス視点

⋇後半三人称視点

⋇若干の胸糞

「邪神を倒せば、私は幸せになれる。痛みと苦しみから解放される。だから殺さなきゃ。殺して私は幸せになるんだ」


 死んだ目でイった感じの笑みを零し、ゆらりと長剣を構えるのは魔法陣の刺青だらけの女勇者。

 戦闘態勢を取った瞬間、その身体にバチバチと電気が迸るのが見えた。特に魔法を使った様子も、魔力が動いた様子も無い。つまりあの電気は魔力を使わずに発生したもの。たぶんコイツがカレイドさんことカレンの人生に影響を与えた、電気を操る雷光の勇者とやらかな。


「………………」


 そしてゆったりとファイティングポーズを取るのは、完全に瞳も表情も死んでる動く死体のような男勇者。

 こっちは確か不死の勇者だったかな。その割にはメンタルも自我も何もかも死んでるように見えるけど。

 ただ自我が死んでて契約魔術だって使えないのに、何で僕と戦わせることが出来るんだろうか。普通に考えて自発的に動く事はあり得ないし、外的要因で動かすならかなりの遠隔操作だ。正直この世界の奴らには難しくない?


「ふむ。人体改造を施した異界の戦士が二人、か……」


 解析(アナライズ)した感じ、二人共勇者で同郷なのは間違いなかった。

 もしかしたら髪の色と目の色がそっくりなだけかと思ったけど、名前が明らかに日本人だしね。女勇者の方は栗栖(くりす)十織(とおる)、男勇者の方は東昭(とうしょう)りゅうっていうらしい。『くりす』と『くるす』で名字と名前が似てるのがちょっとムカつくね。


「無理やりに呼び出された挙句、身体と心を弄り尽くされ戦士に仕立て上げられるとは何と哀れな。これ以上苦しまぬよう、一息に殺してやろう」


 余裕たっぷりの邪神こと僕は玉座から動かず、ただ右手を眼下の勇者二人に向ける。そこから全てを呑み込む黒炎の塊を放ち、纏めて二人を殺そうとした。

 別にやろうと思えば一瞬で片が付くけど、どうにもリュウの瞳がこっちをモニターするカメラみたいになってるっぽいからね。多少はまともに戦う姿を見せなきゃならん。


「………………」


 自我が存在しないからか僕が放った黒炎を全く恐れる事無く、リュウは真正面から突っ込んできた。その身体でトオルの盾になり全身を焼け爛れさせながら、構わず拳を振り被って僕へと殴りかかってくる。

 だが残念。僕は聖人族の攻撃を無効化する球状の結界を張って――あれ、待てよ? 厳密に言えばコイツら聖人族じゃ無くね?


「何っ!?」


 なんて事を考えたせいか――ガシャーンッ! リュウの拳によって、僕を覆っていた球状の結界が破壊される。

 思わずわりと素に近い驚きを示しちゃう僕。クソぅ、こんな事ばっかりあるからレーンに慢心が抜けないとか言われるんだよ。でもこの世界に僕を除いて二人、それも今まで全く姿を見せなかった奴も考慮して防御作るとかさすがに無いわ。だから今回は慢心じゃない。


「死ねえええぇぇぇぇぇっ!!」

「ぐおおおぉぉぉっ!?」


 そして無防備になった所に、トオルが稲妻もかくやという域の電撃を放ってくる。盾になってくれてたリュウを容赦なく巻き込んで。なんてひでぇ奴だ。

 わりと無防備に食らってしまった僕は堪らず悲鳴を上げる真似をしました。この身体、痛覚とかは鈍めに設定してあるからあんま痛くないが。

 全身を黒炎で焼かれた挙句、身体を稲妻で貫かれた可哀そうなリュウくんは、全く感情の伺えない死んだ表情で殴りかかってくるから始末に負えない。とりあえず風の魔法でぶっ飛ばして無理やりに距離を取りました。何か思ったより飛ばなかったせいで、トオルにブチ当てる事は出来なかったけど。見た目より重いんですかね、君?


「……なるほど、そういう事か。お前たちは異世界の住人。姿形こそ聖人族に近いが、その実態は聖人族でも魔獣族でも無い第三の種族というわけだな。道理で我が護りを貫く事が出来たわけだ」


 正直度肝を抜かれたけど、出来る限り冷静な反応を演じる。もしかしたらモニターされてるだけじゃなくて、音も拾われてるかもしれないからね。邪神ロールプレイを止めるわけには行かない。


「お前のせいだ! お前のせいだ! お前のせいで私は、私は! ああああぁああぁぁぁっ!!」

「………………」


 ひたすらに雷撃を放つトオルのせいで、玉座の間はまるで雷雲の中みたいな酷い有様になる。四方八方を稲妻が打ち据え、なおかつ結構な頻度でリュウを貫き同士討ちしてる。

 でもやられてる方は不死身の勇者。強力な再生能力と決して滅びない肉体のおかげで、全身の筋組織が丸見えの状態になろうとも平然としてる。ひっどい絵面の悪い戦いだな?


「魔力の消費が感じられない……魔法ではないのか。面白い力だな」


 普通に球状の結界を展開して、雷撃の嵐と殴打や蹴りを防ぐ。初撃は油断っていうか抜け穴を突かれただけだから、別に苦戦なんてするような相手じゃないよ。ただこの僕を玉座から立たせたのは褒めてやろう。


「死んでよ、死んで! お願い、死ね! 死ねって言ってるんだよ死ねええぇぇぇぇっ!!」

「………………」

「再生能力を持つこの男が私に接近戦を挑み、雷を操る女が男ごと私を攻撃する。何とも理に叶った戦法だ。実に面白い。しかし当の本人たちは戦法を巡らせる事が出来るほど自我や知能など残っていないように見えるがな」


 あえて口にした通り、この勇者二人の戦い方はかなりシンプル。というかいまいち幅が少ない。後ろでトオルがアホみたいに雷撃を放ちまくり、前でリュウが流れ弾を貰いつつ接近戦を挑んでくるというワンパターンなもの。

 これはそういう作戦っていうより、単純にこのくらいが限界なんじゃなかろうか。契約魔術が使えないからそれを使わずに何とか従わせようとした結果、代わりに自我がだいぶ侵食されて擦り切れてるみたいだし。

 あとトオルの方はかなり限界が近いっぽい。こっちは防いでるだけなのに、何故か鼻血や血涙を零して今にも壊れそうになってるし。まあ元々勇者ってその内脳みそ壊れるらしいし、そこに常軌を逸した拷問や薬物投与があれば長く持たないのは自明の理だ。むしろここまで良く持ってるよ。


「いずれにせよ、再生能力を持つお前は後回しだ。吹き飛ぶがいい」


 まずはリュウを吹き飛ばそうと、静かに手を向け嵐の如き風を放つ。それは人間なんて風に煽られるビニール袋みたいに宙を舞うはずの、途方も無い風速の暴風だ。実際遠くで雷撃を放ってたトオルも体勢を崩して転ぶほどだからね。


「………………」

「ほう。貴様、見た目に反して随分と重量があるな?」


 でも何故かリュウは吹き飛ばない。さっきは多少吹き飛んだはずなのに、今回は踏ん張ってるからか体勢を崩さず何とか持ちこたえてる。髪がバサバサと風に煽られてる辺り、間違いなく暴風をその身に浴びてるのに。

 これは魔法で抗ってるとかじゃなく、純粋に重いから吹き飛ばないだけって感じだ。でもおかしくない? ちょっと床が削れるほどの暴風ぞ? 見た感じ細身なのに何故そこまで重い?


「……まさか」


 ちょっと嫌な予感がした僕は、暴風を放ちつつリュウに対して更に深い解析(アナライズ)を行使する。

 経緯は知らんけど、コイツも魔獣族に取っ捕まって改造手術を受けた身のはず。とはいえ本人が抱える能力のせいで、魔法陣を刻んで強化しても治っちゃう。ならどのように改造して強化すべきか?

 自己治癒能力を持つ存在を外科的改造手術で強化する――その内容、僕にはちょうど思いつく事があったんだよね。いや、思いつくっていうか思い出すの方が正しいけど。


「……なるほど。人間と言うのは良くここまでの狂気を思いつくものだな? 骨格に金属を結合させたか」


 そして解析の結果が僕の予想を裏付けた。

 うん、間違いない。リュウの全身の骨格はオリハルコンと結合させられ、金属骨格になってる。アレだ、全身の骨格にアダマ●チウムを結合させたウルヴァ●ンみたいな感じ。まさかあんな馬鹿げた事を実際にやる奴がいるとは思わんかったわ。まだ僕だってやった事ないのに……。

 何にせよ全身の骨が最強の金属になったみたいなものだから、ドチャクソ重いのは当たり前。こりゃあ踏ん張られたら暴風程度じゃ吹き飛ばせないわな。

 ていうか、深く解析したら他にも面白い情報出て来たな? 道理で契約魔術も自我も無いのに動いてるのか。これってたぶんそういう事だよなぁ……まあネタバレになるから多くは触れないが。


「………………!」

「ほう……」


 なんて思ってたら、リュウの拳を突き破って鋭い爪が生え――あっ、ブレードでした。そっちかぁ! しかしマジで生体兵器だな? 倫理観とかどこに置いてきたの?


「――瞬間加速(アクセル・ブースト)


 ちょっと感心してたら、驚いた事にここでリュウが言葉を口にした。どうやらそれは武装術の名前だったみたいで、次の瞬間には暴風など知らんとばかりにあっさり懐に入ってきた。両腕から伸びたオリハルコンのブレードを交差させ、まるで僕をハサミで切ろうとしてるみたいに。

 さてはコイツ、最初に風で吹っ飛ばされたのはわざとだな。さっきもギリギリ耐えてるように見せてたのは油断させて懐に入り込み、この一撃で終わらせるための布石だったんだな。


死刑執行(エクセキューション)っ!」


 そして妙な高周波音と共に、交差させたブレードが振り抜かれる。邪神の肉体は頑健に作ってあるから、ただ斬られた程度じゃ深手なんて負わない。でも今回は別だ。

 何せ武器は世界最強の金属で作られた恐ろしい鋭さの剣。加えて高周波音で分かったけど、凶悪な事に刃を高速振動させて切れ味を極限まで高めてる。さすがの邪神もこんなえぐいハサミでチョッキンされたら、上半身と下半身が分離しちゃうよ。


「――褒めてやろう。我に剣を抜かせた事をな」


 だからそれを食らう前に、僕は邪神の剣を抜いて防いだ。闇より深い暗黒の刀身を持つ、空間にぽっかり穴が開いたように見える漆黒の剣だ。邪神の神々しさを表すため、随所に金色の彫刻を散りばめた実に美しい剣だよ。

 ぶっちゃけここで獲物を晒す予定は無かったけど、色々面白い物を見せて貰ったお礼って事で。


「痛いよ苦しいよ誰か助けて、助けてよおおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 鍔ぜり合う形になった僕らにトオルの雷撃が放たれ、僕だけは片手でそれを弾く。リュウはその隙に後ろへ飛び、ここからは隠さず魔法を行使し始めた。


「――膂力過剰強化(オーバー・フォース)速度過剰強化(オーバー・スピード)反応過剰強化オーバー・リフレックス

「あ、ああぁあ、ああああぁぁぁぁっ!!」


 すでに限界を超えているトオルに強化魔法を重ねがけ。もう今にも崩壊寸前って感じで、トオルは穴という穴から大量出血しながら痙攣してる。それでも邪神を倒せば幸せになれると洗脳されてるせいで、震える手で剣を構え襲い掛かってくる。リュウは背後に追従しつつ、今度は攻撃魔法で援護。

 非人道的な改造手術をその身に受けた哀れな勇者たちが、僕に対して苛烈な攻撃を仕掛けてくる。全く、実に酷い奴らだ。こういう事するのって普通は世界を滅ぼそうとする邪悪の極みである邪神側じゃない? 何で邪神を余裕で上回るほど外道で鬼畜な真似してんの? 邪神ひくわー。


「そいつの目を通して見ているのだろう? 良かろう。お前たちの悪辣極まる所業に敬意を表して、我が力の一端を見せてやろう。尤も、理解できるかどうかは知らんがな」


 ちょっとムカっとしたから、邪神としての凶悪な力を見せてあげる事にした。哀れな道化二人組じゃなくて、道化を通してこっちを見てるであろう魔王たちにね。決して鬼畜外道さで上回られて悔しい訳じゃないよ?


「滅びよ――抹消(アナイアレイト)


 静かに手を向け、それを放つ。広がるのは黒い波動のようなもの。派手な音や演出は無い。無駄な破壊も起こさない。


「――――」

「ああぁああぁぁぁ――」


 だけどその波動に触れた瞬間、哀れな道化共は触れた場所から一瞬にして塵に変わった。





「――何だ!? 映像が消えちまったぞ!?」


 邪神城から遠く離れた魔獣族の国、その首都にある魔王城の奥深く。魔王ヘイナスの私室に驚愕の声が響いた。

 声の主はもちろんヘイナス。憎き邪神が死に絶える様を拝めると思っていたのに、用意したモニターが突如として何も映さなくなったのだから無理も無かった。


「……惜しい所まで行きましたが、やられてしまったようですね。戻されてしまいました。不死の力の持ち主を殺すとは、実に恐ろしい相手です」


 そんなヘイナスの傍らで、意識を失っていた悪魔の女性――メルシレスが目を覚ます。まるで実際にその場を見て来たかのような口振りだが、ヘイナスがそれを疑う様子は無い。ただただ悔し気に握った拳を振り被り、モニターを粉砕し八つ当たりをかましていた。


「チッ! 改造手術で限界まで強化した勇者二匹を使ったってのに、この様かよ! クソがっ!」


 捕えていた女勇者と、奇跡的に手に入った男勇者に強化改造手術を重ね、邪神を討つ為の兵器として再誕させたまでは良かった。

 雷を自在に操る力と、吸血鬼の真祖染みた不死の力を持つ最強の兵器。加えて異界の存在であり魔獣族でも聖人族でも無いため、エクス・マキナの煩わしい防御能力を無視出来るという強み。これならば邪神を討伐できる、そう息巻いていたのはほんの少し前の事。

 結果的には特に深手を負わせる事も出来ず、貴重な兵器を無駄にしただけ。改造手術に費やした労力も、類を見ない強力な兵器も無駄になるという大失敗に終わってしまった。


「だから私は反対したのですよ。幾ら何でも機能的に問題のある勇者二匹のみで攻めるなど。業腹ですが、やはり聖人族との全面的な共闘を考えなければいけませんね」

「クソッ! やっぱそれしかねぇのかよ……!」

「すでに同盟を結んでしまっているのですから、これ以上悪い結果にはならないはずです。それに娘を救い出す事が最優先なのでしょう? そのためならば屈辱も恥辱も、全て押し殺すしかありませんよ」

「分かってんだよ、そんなの! クソォ! いつになったらアポカリピアを救い出せるんだ……!」


 未だ邪神に囚われている愛娘を想い、ヘイナスは歯を食いしばって怒りを堪える。

 アポカリピアがまだ生きている事は分かっているのだ。何故なら殺してしまっては邪神の力の源である悪意を搾り取れないから。生かさず殺さずの常軌を逸した拷問にかけられる日々を過ごし、悲哀や絶望といった感情を啜り取られているであろう事は想像に難くなかった。


「今回の事で理解できたでしょう? 生半可な作戦や戦力では邪神に敵いません。今は耐えてください。双方の種族で戦力が充実するその時まで」

「いつになんだよ、それは!? もうアイツは三年近くも囚われてんだぞ!? また何年も待てってのか!?」


 メルシレスの言葉に、思わず食って掛かりそうになるヘイナス。

 大切な愛娘はおよそ三年もの間、邪神に囚われ慰み者と化している。最早娘の精神がボロボロで半ば廃人と化しているであろう事は疑いようも無かった。この上更に何年も待てなどと、憤怒のあまりヘイナスの方がおかしくなりそうである。


「いえ、それほど長くはかからないと思います。というのも、実は最近この国で面白い組織が結成されつつあるという話がありまして……」


 しかしメルシレスの話に、ヘイナスは僅かばかり溜飲が下がる。

 彼女の話が真実ならば、勇者よりも期待できそうな強力な兵器が手に入るかもしれないのだから。


 第17章開始、そして速攻で片付く勇者二人。よわよわなのはコンディションの問題です。

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