お礼を言おう!
※某ゲームをプレイしていて投稿が遅れました。申し訳ありません……。
「――良し。これで怪我も治ったわね?」
「あ、ああ……」
いつものマッチポンプな人助けを終え、更には身体の傷まで治してあげる優しいミニスちゃん。勇者家業が板についてきましたね?
それはともかく、今回ばかりは思ったほどの好印象を与えられなかった感じだ。せっかく命を助けて治療までしてやったのに、男の方は明らかにミニスを警戒してるよ。聖人族だし魔獣族を警戒するのは仕方ないんだけど、さすがにSランクの魔物から助けてあげた後ならもうちょい態度を軟化させてもいいんじゃない?
「うわああぁぁぁっ! コルウス、良かった……良かったぁ!」
女の方は敵意や警戒を抱くよりも、まずはコルウスっていう男が助かった事の方を喜んでる。涙やら鼻水やらを零しながらコルウスの胸に顔を埋めて抱き着いてるよ。両想いだって事が分かったばっかりだし、当然の反応かな?
あ、もちろん僕らは助けるタイミングを図るためにこっそり見てたから、直前の甘酸っぱいやり取りもしっかり見てたよ?
「ニア様、フェンリルの討伐証明部位と死体の回収が終わりました」
「ん、ありがと。それじゃあ後はあんたらを街まで送ってってあげるわ。その様子だと道中も苦労しそうだしね」
「それは助かるが……一体何が狙いだ? 何故俺たちを助けた?」
せっかくミニスちゃんが道中護衛してあげるって言ってるのに、コルウスの方は相変わらず警戒しまくり。
敵種族とはいえ恩人に良くそんな態度取れるな? 僕ならその内面倒になって殺しちゃいそう。
「今にも死にそうになってた人を助けるのに理由が必要なわけ? 聖人族ってのは薄情な奴らなのね」
とはいえそこはミニスちゃん。面倒臭がらず実に誠実で高潔な台詞を口にして、むしろ蔑むような物言いで反撃する。まさかこんな返しをされるとは思ってなかったみたいで、コルウスは胸を突かれたように苦い顔をしてたよ。
「……俺たちは聖人族だぞ。お前は何故見殺しにしなかった? 一体何が目的だ?」
「だからそもそもそういう選択肢が無いんだってば……あー、もう良いわ。じゃあ目的はお金って事にしといてあげる。所持金の二割――いや、半分――四――三割、寄越しなさい。街に着いて、後日落ち着いた時で良いから」
あくまでも警戒の姿勢を崩さないコルウスにさすがに面倒になったのか、ミニスはお金目的という取ってつけたような理由を口にする。これなら向こうも多少は安心できると思ったんだろうけど、善性が邪魔してだいぶ比率に迷ってましたね。しかも今じゃなくて後で払ってくれれば良いとか言う親切対応。
「………………」
これにはコルウスも警戒しつつ、困惑を滲ませる始末。
まあ踏み倒すのも簡単な後払いだし仕方ない。そもそも本当にお金目的なら今全部奪って殺して処理しちゃえば済む話だしね。マジで『コイツ何が目的なんだ?』って訝し気な顔してるよ。
「安心しなさい。私みたいな奴と一緒に歩きたくはないだろうし、離れて護衛してあげるわ」
「……いや、近くで護衛してくれ。これ以上ヴィオラを危険な目にあわせたくない」
「分かったわ。道中の安全は絶対に保証してあげるから、あんたは精々そいつを慰めてやりなさい」
あんまり分かってない感じのミニスちゃんは気配りの出来る所を見せつけると、更にもう一人の精神状態までも気に掛ける始末。
やっぱアレだね。ミニスは邪神の下僕よりもこっちの方が嵌り役だわ。とはいえ人手が少ないし、例え役が似合って無くても場合によってはやって貰うしかないんだけどさ。世間からはミニス演じる邪神の下僕は邪神の右腕だと思われてるしね。さすがに無かった事にするのは難しい認識されちゃってるし……。
そんなこんなで、僕らは二人の護衛をしながら街に向けて歩みを進める。
当然の事だけど、道中で遭遇した魔物は全部ミニスが一撃で屠ったよ。Sランクの魔物だって一撃なんだから、そこらに出てくる有象無象の魔物が敵うわけないよなぁ?
ただちょっと触手系の魔物が出てきた時はミニスの動きがおかしかったね。地面を抉る程の過剰な一撃で粉微塵にして倒してたし。もしかして以前の触手によるおしおきがトラウマになってるんですかね?
「……お前ら、名前は?」
「私はニア。Sランクの冒険者で、冒険者パーティ<救世の剣>のリーダーよ。こっちの仮面はサブリーダーのトルファトーレ」
「よろしくお願い致します」
ミニスの数歩後ろを歩く僕は、ぺこりとコルウスに頭を下げる。
しかしミニスもすっかり自己紹介に慣れてきた感じだな? 前まではちょくちょく僕の事をクソ野郎呼ばわりしそうになってたのに。
「<救世の剣>……噂には聞いた事がある。こちらの国にもあちらの国にも存在する、史上初の国境を飛び越えた冒険者パーティだったか? 正直眉唾ものだと思っていたが……」
「紛れも無く本当の事よ。こっちの国にも私の国にも、<救世の剣>はそれぞれ存在するわ。サントゥアリオの街に本部が出来る予定よ」
どうやら<救世の剣>の知名度は聖人族の国にも広がってるらしい。ただ眉唾ものと称されてる辺り、都市伝説みたいなものと思われてそう。正直そんな認識だと困るから、これからの活動でしっかりしたものに塗り潰せると思いたいね。
それと本部に関しては今も建設中だよ。出来上がって運用できるようになったら、リーダーとその従者として一回は顔出ししないといけない感じだ。パーティ加入希望者とかも来てると思いたいし。
「……あんたたちは、何のためにそのパーティを作ったわけ?」
「そりゃあ世界を救うために決まってるでしょ。邪神とかいうクソふざけた最低最悪のゲス野郎がいるっていうのに、どいつもこいつも過去の事を引きずって手を結ぶのには消極的なのよ? だったら積極的に動ける私みたいな奴が立ち上がるしかないじゃない」
がっしりとコルウスに抱き着いてるヴィオラが、不審に満ちた目を向けて尋ねてくる。それに対し、ミニスは若干私怨の混じった真っ当な答えを返す。本人が後ろにいるのに、クソふざけた最低最悪のゲス野郎とかちょっと言い過ぎじゃない? 邪神傷つく。
「でも、私一人じゃ出来る事はたかが知れてる。だから今は仲間を集めるために、世界各地で活動してるのよ。きっと私と同じように、種族の垣根を越えて協力し合える人たちがいるはずだしね」
「本当にそんな理由で活動しているのか? 他に何か目的があるんじゃないか?」
「何? 私が何か企んでるとでも言いたいわけ? 国家転覆とか世界破滅とか? 笑わせないでくれる? それくらいなら誰かの手を借りなくても、私一人で出来るわよ」
「っ……!」
あくまで警戒を崩さないコルウスたちに対し、実に圧倒的な強者の台詞を返すミニス様。
さすがにちょっと過敏に反応しすぎじゃない? って思ったけど、考えてみると企みの真っ最中なのは事実だし、世界破滅はともかく国家転覆くらいは考えてる奴の命令に沿って動いてるわけだし、たぶん探られたくない事だから威圧して黙らせてるんじゃなかろうか。ミニスちゃんは演技得意な方じゃないしね。
「だけどそんな私でも、一人じゃ邪神には勝てない。だから仲間が必要なのよ。あんただって自分の力だけじゃどうにもならない瞬間に出くわしたばっかりなんだし、その気持ちは分かるはずでしょ?」
「それは……」
危うく愛しい女と共に死にかけたコルウスは、痛い所を突かれた感じに眉を寄せる。その腰に抱き着いてるヴィオラも同じ表情だ。
反射的に否定できてない辺り、やっぱり魔物に襲わせてそこを助けるっていうマッチポンプは効果絶大だね! 今後も可能な限りやっていこう!
「ま、信じて貰えなくたって良いわ。世界にはきっと、私の考えに賛同してくれる人がいる。そういう人たちを探し出す方が、あんたたちみたいな差別主義者の心を変えるよりも簡単そうだもの」
「さ、差別主義者だと!?」
「違うの? だってあんた、助けて貰っておいてお礼の一つも言わないばかりか、むしろ私を警戒してるじゃない。差別じゃないなら何でまともな人間らしい事も出来ないわけ?」
「お、お前が魔獣族だからに決まってるだろ!? 魔獣族は野蛮でゲスなクズの集団なんだぞ!」
「だからそれが差別だって言ってんのよ。確かに魔獣族と聖人族は今まで争ってきたけど、私個人があんた個人に何かした? してないわよね? なのに私に親の仇を見るみたいな目を向けるって、何かおかしいと思わない?」
「それは……いや、だがお前が魔獣族である事に変わりはないだろう!」
ウサミミロリに論破されかけ、タジタジになりながら必死に反論するコルウス。ヴィオラも愛しい男の発言に賛同するようにこくこくと頷いてる。
でもなぁ……言葉の端々から差別主義者の主張がこれでもかと見え隠れしてるんだわ。これにはミニスも呆れた感じにため息を零してたよ。
「あのねぇ……そんなデカい括りで考える事がそもそも間違ってんのよ。何? じゃあ私がそいつを殺したら、あんたは私を含めた魔獣族全体へ憎しみを覚えるわけ?」
「と、当然だろ! ふざけてるのか!?」
ミニスがヴィオラを指さしながら尋ねると、今までで一番の怒気と共に答えが返ってくる。がしっとヴィオラを庇うように抱き締めながらね。抱きしめられてる当人も顔がかなり青くなってるし、まさか実際にやりかねないと思われてる?
「別にふざけてなんかいないわ。じゃあコイツが殺したら、コイツを含めた聖人族全体に憎しみを覚えるの?」
「そんなの当たり前――ん? いや、あれ……?」
次いでミニスが後ろの僕を指差しながら尋ねると、反射的に答えたコルウスは途中で首を傾げる始末。うーん、自分の種族の話だとギリギリ何かおかしいと気付けるのか。
まあぶっちゃけ相当おかしいよね。魔獣族相手だと恨みの対象が個人だけでなく種族全体に向かうのに、どうして聖人族相手だと個人のみになるんですかね? やっぱ魔獣族憎しが先行してて論理的思考が破綻してそう。
「やっぱり根が深いわね……」
「無理もありません。洗脳教育を受けているようなものですからね」
この結果には僕もミニス共々深いため息を零すしか無かった。
そもそも頭のネジを何本か無くしてる僕だって、悪い事をした罪はその人にあって種族は関係ないって事は理解できるぞ? それが理解できないとか、本当にまともな頭してる? もう誰がまともで誰がイカれてんのか分からんね、この世界……。