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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第16章:マッチポンプの英雄譚
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熱烈なシンパ

「ふーん。あんたたちは全員幼馴染の冒険者なのね」

「そうです! あたしたちはいつかビッグになって故郷に帰る事を誓った、深い絆で結ばれた最高のパーティなんです!」

「まあ、まだまだ低ランクの駆け出し冒険者パーティなんですけどね。ニアさんが助けに来てくれなかったら、私たちの冒険はあそこで終わってましたよ……」

「ほ、本当にありがとうございます! ニアさんのおかげで、助かりました!」


 僕の目の前で繰り広げられるのは、小さくて可愛らしい冒険者ニアを三人娘が囲っている光景。三人とも一様に感謝と感激、あとは憧れの眼差しを浮かべ、自分たちよりも小さく愛らしいニアに滅茶苦茶なついてる感じだ。何か僕だけ蚊帳の外って感じ?

 まあこうなるのもしょうがないか。だってこの三人娘にとって、冒険者ニアことミニスは正に救世主。命の危機から自分たちを救ってくれた大恩人なんだもんね。あの時のミニスちゃん、滅茶苦茶異世界物の主人公みたいだったなぁ。

 ところで異世界物と言えば、女の子が襲われてる現場に主人公が偶然遭遇し、それを助けて惚れられるっていうのが定番の展開だと思う。何か都合良く魔物や暴漢、野盗に襲われてる女の子、それもやんごとなき身分の子の危機に遭遇するっていう場面が良く見られるよね。物語上仕方ない事かもしれないけど、あれってちょっと出来過ぎじゃない?

 えっ、お前だって今正にそういう場面に遭遇した? セーラ一行のピンチにもの凄い都合良く駆け付けたろ、って? 残念ながらそれは違うよ。だってコイツらのピンチは僕が演出したマッチポンプだもん。

 実はSランクの魔物を討伐に来たら、たまたま三人娘が洞窟に入って行くのが見えたんだよね。だから趣味半分と実益半分で魔物を使って袋小路に押し込んでピンチを演出し、それをミニスに救わせる事で熱烈なシンパを作り出そうとしてみたわけ。ミニスちゃんにはめっちゃ『人でなし』だの『ゲス野郎』だの罵られたけど。


「どういたしまして。でもあんな幸運をまた期待しちゃ駄目よ?」

「もちろんです! あたしもいつかニアさんみたいに強くなって、あれくらい自力で乗り越えられるようになります!」

「その意気よ。三人とも頑張ってね?」

「はいっ!」

「頑張りますっ!」


 その甲斐あってか、三人娘は完全にニアに心酔してる感じ。瞳は憧れにキラキラ輝いてて眩しいくらいだ。特にオレンジ髪に紫目の女の子、セーラはちょっと憧れが行き過ぎてて変な雰囲気を感じるくらいだ。もしかして君もこっち側(異常者)かい?

 なんて風に和気あいあいと語る三人娘とミニスちゃんを後ろから眺めつつ、ちょっぴり疎外感を感じながら僕らは街へと向かいました。本当は街まで三人娘を送るだけだったんだけど、せっかくだからミニスは魔物の討伐を冒険者ギルドに報告する事にしたみたい。ミニスちゃんことニアの強さと輝きに魅せられた三人娘もついてきたがったので、僕らはそのまま仲良く冒険者ギルドに向かいました。何か僕だけ仲間外れの気分だなぁ……。


「――ん? おいおい、見ろよ。Sランク冒険者様のお帰りだぜ?」

「ハハッ、ほんの数十分で戻ってきやがった。Sランクの討伐依頼がこんな短時間で終わるわけねぇ。やっぱフカシだったか」

「違約金は払えまちゅかー!? 金が無いなら金貨一枚くれてやるぜ? 一晩相手してくれたらだけどな! ギャハハハハハッ!」


 そして冒険者ギルドに入ると、びっくりするくらい下品な言葉でお出迎えされる始末。

 まあこれに関してはミニスちゃんも悪いよね。Sランクの討伐依頼全部寄越せって言っておきながらすぐ戻ってきたんだし。新進気鋭の超大型新人の評判を下げられる情報を、昼間から酒浸りのクズ共が都合良く見逃すわけは無いか。


「あ、アイツら……!」

「言わせておきなさい。どうせアイツらの顔はすぐ悔しさに歪むだろうしね」


 ギリっと唇を噛みしめて一歩踏み出そうとしたセーラを、ミニスが軽く押しとどめる。

 本人は全く堪えてないけど、むしろ周囲の方が効いてる感じだ。うちのミニスちゃんはただでさえ強い精神が僕らとの生活で更に鍛え上げられてるから、この程度のお下品な言葉はそよ風みたいに受け流せるんですわ。


「でも、ニアさんが馬鹿にされるなんて耐えられないです! あんなに強くてカッコいいのに!」

「そうですよ! それもあんな昼間から酒浸りのクズ共なんかに!」


 ディアとノーチェも怒りと屈辱に顔を歪め、まるで憧れの人が貶められたみたいな反応をしてる。こんな簡単に熱烈なファンを作り上げられるとか、マッチポンプした甲斐があるってもんだ。

 それはそうと気弱眼鏡に見えるノーチェさん。意外と毒舌だし僕と似たような事考えてますね……。


「だったら馬鹿にされないよう、あんたたちが私の事を色んな人に広めてくれる? 私は邪神と戦うために、聖人族も魔獣族も関係無く優秀な人を集めてるの。優秀じゃなくても、種族関係無く手を取り合って助け合える人なら大歓迎よ。私の情報が広がって<救世の剣>(ヴェール・フルカ)に興味を持って貰えると、私としても大助かりだわ」


 全く堪えてないタフなミニスちゃんは、むしろこれ幸いとばかりに宣伝をお願いする。まあこの三人を広告塔というかチラシみたいな扱いにするのは、予め僕が提案してたんだけどね。

 でも『オリハルコンの身体を持つゴーレムを一刀で切り伏せ、コアを素手で抉りました!』なんて広めても『薬やってる?』くらいにしか思われんだろうが。


「えっ!? あの、ニアさんのパーティって、もしかしてあたしたちでも入れたりしますか!?」

「聖人族とも手を取り合って戦えるならね。もしかして興味ある?」

「は、はいっ! もの凄く興味ありますっ!」

「ほら! あたし達、聖人族とも手を取り合えます!」


 三人は<救世の剣>(ヴェール・フルカ)に入れるかもしれないという事実に目の色を変え、大いに食いつく。セーラが率先して実際に僕の手を取り、他二人もそれに続く。うんうん、これはメンバー入りしそうな感じかな? 


「おやおや、両手に花ですね。目移りしてしまいそうですよ」

「いや、そういう物理的な話じゃないんだけど……」


 勇者役でもツッコミ役なのは変わらず、僕の手を握る三人娘にちょっと苦い顔をするミニス。

 とはいえ物理的にでも手を取れる辺りは進歩的な子たちだと思うよ?


「あ、もしかして加入試験とかってあったりしますか……?」

「んー、実はその辺の事はまだ決まってないのよね。とりあえず<救世の剣>(ヴェール・フルカ)の名前を広めるために活動してる所だから」

「詳細が決まった暁にはギルドから発表される手筈です。いましばらくお待ちくださいね」


 今現在はサントゥアリオの街で<救世の剣>(ヴェール・フルカ)の本部となる建物が建設中だ。メンバーの募集とかは建設が終わって内装も仕上がり、いつでも本部として運用可能になってからだろうなぁ。この辺りは冒険者ギルドがやってくれてるので全部任せてる。

 ちょっと狸女と女狐の思い通りになるのは癪だったけど、元を辿ると全部こっちの掌の上みたいなところがあるので我慢してます。


「分かりました! それまで鍛錬して腕を磨きます!」

「楽しみに待ってます!」

「その意気よ。じゃあ私はアイツらの鼻を明かしてくるわ」

「行ってらっしゃい、ニアさん!」


 そうして興奮する三人娘をその場に置き、僕とミニスは受付へと向かう。何だかんだでミニスちゃんもノリノリじゃない? 気のせい? まあ僕と違ってほとんど素のままのキャラだしなぁ……。


「冒険者ギルド、ジェロシア第一支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「討伐依頼達成の報告に来たわ。オリハルコンゴーレムの討伐証明部位なんだけど……真っ二つになってても大丈夫?」

「……はい? あ、はい、大丈夫です……はい?」


 澄ました顔で対応してた受付嬢だけど、ミニスがおっかなびっくり差し出したゴーレムのコア(真っ二つ)を見て目を丸くしてたよ。コアも固体によって相当固いらしいからね。オリハルコンゴーレムのコアならオリハルコンにやや劣るくらいかな? それを綺麗に真っ二つにしてたらそりゃ驚くのも無理はない。


「なあ、今オリハルコンゴーレムの討伐証明って聞こえなかったか?」

「幻聴だろ、幻聴。あのガキがそんな化物倒せるわけねぇだろ」

「どうせ下等なゴーレムのコアで詐欺ろうとしてんだよ。ヘヘッ、バレた時が見ものだぜ」


 さり気なく聞き耳を立ててた魔獣族たちが、下卑た笑いを零しながらこっちに視線を向ける。

 ふざけんな、ゴーレム自体は詐欺じゃないぞ! ゴーレム自体はな! 僕らの存在とかはだいぶ詐欺のマッチポンプだけど!


「えーっと……ほんの数十分前に依頼を受託なさったばかり、ですよね?」

「うん。本当はそのまま他の討伐依頼も片付けようと思ったけど、あの子たちを街に送るために戻ってきたから、ついでに報告しようかなって。あ、オリハルコンゴーレムの全身もあるんだけど、これもギルドに渡した方が良い? あー、でもデカすぎてここじゃ出せないわね……」

「え? えーっと、そうですね。お売り頂けるならこちらで高く買い取らせて頂きます。とりあえず状態を確認させて頂きたいので、解体場――いえ、ギルドの裏庭にお越しください」


 受付嬢は意外と目利きが出来るっぽくて、コアを偽物と断じる事は無かった。それでもしかしたら本当に討伐したかもしれないって判断したみたいで、ちょっと怯えた顔で後退って受付の奥に引っ込んでったよ。本当にオリハルコンゴーレムの残骸を全部持ってきてるなら、こんな所で出したら床が抜けそうだしね。ここ木製だし。


「……来たい奴は一緒に来ても良いわよ。フカシかどうか、その目で確かめると良いわ」


 最後にミニスはこっちをせせら笑ってた魔獣族たちにそう言い残すと、当然のようについてくる三人娘を引き連れてギルドの裏庭へと向かった。

 しかし、アレだ。何で僕よりもミニスちゃんの方が異世界転生主人公みたいなムーブしてるんだろうね? 羨ましくは無いんだけど、ちょっと納得できない気持ちはあるかな……。


 もう主人公ミニスちゃんで良いんじゃない、これ?

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