対話
速報! 巷を騒がせていた連続殺人鬼の正体は、仲間にいた謎の塊の少女だった!
いやはや、それにしてもびっくりだ。まさかブラインドネスとやらがキラだったとは。
でも考えてみると意外と辻褄は合うんだよね。僕が勇者として旅立つ前夜に首都で殺しがあったのに、この街に来たその夜にも殺しがあったから。アレが模倣犯とかじゃないなら、その日の内にこの街に来た誰かが殺人鬼ってことになるし。そりゃキラは僕と一緒にこの街に来てたんだから、何もおかしくはないわな。一つだけどうにも解せないことはあるけど。
「はあっ……ストップ、キラ。僕だよ、僕」
「――っ!?」
真の仲間候補とあっては殺すわけにもいかないから、戦いを終わらせるために仮面を取って正体をバラす。
僕の正体はもちろんのこと、さすがに自分の正体を言い当てられたことも予想外だったみたいで、削岩機での工事中みたいな音がぴたりと止んだ。四方八方に飛び回るのを止めてくれたみたいだね。
「――スラッシュ」
「って、待て待て待て! 何で正体明かしたのに攻撃するの!?」
とか思ってたのは一瞬の事。次の瞬間には工事が再開されて、斜め後ろから首を刈り取るような一撃を入れてきやがった。仲間だと分かっても躊躇いなく首を落とそうとするとかマジのサイコパスじゃん。怖すぎる。
「あたしの秘密を知ったからには生かして返すわけがねぇだろ。とっとと死ね」
それでも一応まだ対話する気はあるのか、はたまた僕の遺言を聞くつもりなのか、僕の前に降り立って鉤爪を構えながら酷い言葉をかけてくる。
そうして首の動きだけでフードを外すと、下から表れたのはキラの反抗心と殺意強めな刺々しい顔と、返り血をたっぷり浴びたみたいに真っ赤な髪の毛。
あー、マジでキラじゃんコイツ――ていうか猫耳無いぞ? まさかそっちも切り落としたとか言うまいな……?
「そりゃ確かにブラインドネスとかいうこっぱずかしい名前で呼ばれてるのが恥ずかしいのは分かるよ? でもさ、お前は僕に興味あるんじゃなかったっけ? 殺しちゃうと何も分からなくなっちゃうぞ」
「そいつは確かに残念だが、捕まって拷問されたり処刑されるよりはマシさ。あたしはもっともっと殺しを楽しみたいんだ。ここで終わって堪るかよ」
「駄目だコイツ、マジの快楽殺人鬼だ……」
最優先されるのは殺人欲求と、人を殺すことによって得られる快楽。それを守るためなら親交を深めた仲間だろうと、息を吸うように殺す生粋の異常者。それがキラの正体だ。
うーん、何で僕はこんな奴と親友になれそうな気がしてたんだろうね? どう考えても僕とは似ても似つかないタイプじゃないか。
「つーわけだから、とっとと死ね。安心しろ、お前の目玉もしっかり保存しといてやるよ」
「目玉だけ保存されてもなぁ。ていうか、僕はお前を捕まえる気なんてさらさらないよ?」
「……あ? じゃあ何で追ってきた?」
バリバリ捕まえる気だと思ってたのか、ちょっと拍子抜けしたみたいで殺意が和らぐ。変わらず物騒な鉤爪を構えてるとはいえ、話を聞いてくれるだけまだマシだね。
「いや、何となく。強いて言えば死体から目玉抉り出す異常者の顔が見たかっただけだよ。それに僕も同じ穴のムジナだしね。ほら」
僕もまた殺人鬼だという証拠に、異空間の中から死体をその辺に幾つかばら撒く。
出し方に問題あったみたいでキラが作った岩の柱に顔面ぶつけたり、床に後頭部打ち付けたりしてるけど、まあ死体から文句は出ないでしょ。死人に口なしってやつだ。うん? 意味がちょっと違うかな?
「おいおい、勇者様が無辜の民を殺して良いって思ってんのか? しかも聖人族ばっかじゃねぇか。何人殺ってんだよ……」
「まだギリギリ二桁は殺してないよ。殺人幇助入れたら二桁行くけど。これで捕まえる気はないって信じてくれる?」
どっちも罪に塗れた殺人鬼な以上、お互いの立場は対等だ。少なくとも仲間として平和に話ができると思いたい。
キラは未だ僕をバリバリに警戒しつつ、死体を蹴ったり踏みつけたりして本当に死んでる人間なのかを確かめ――ひっ!? 今男として大事なところを踵で踏みつぶしやがった! お前っ、相手が幾ら死体でもやっていいことと悪いことがあるぞ!
「……一応信じてやるよ。それに本音を言えば、これ以上続けてもお前を殺せる気がしねぇし」
股間を踏みつぶされた男がピクリとも反応しないことで、これが本物の死体だってことも、僕も殺人鬼仲間だってことも分かったみたい。キラは物騒な鉤爪を袖の中に収めてくれた。何かその鋭い目がまだ僕を殺したいって語ってるように見えるのは、できれば気のせいだと思いたいね。
「だろうねぇ。ちなみに僕はその気になれば殺せたからね? 対話と修行が目的だったからやらなかっただけだし」
「……チッ」
僕の発言に対して不満そうに舌打ちを零すキラ。
負け惜しみとか言われるかと思ったけど、一応は理解できてるみたいだ。無限の魔力を持ってるってことを知らなくても、僕が未だ結界を余裕で維持してる以上、その分の魔力を攻撃に使えば勝てたことは誰でも予想できるだろうし当然か。
物分かりがいいからそのご褒美に身体の傷を治してあげよう。何故か身体中至る所に切り傷ができてるしね――治癒。
「よし。それじゃあお互い色々聞きたいことがあるだろうし、質問タイムに入ろうか。とりあえずそこに座ってよ」
「死体を椅子にさせるあたり、お前もなかなかイカれてんな。クルス」
とか言いつつしっかり死体の上に座るお前ほどじゃないんだよなぁ……いや、別に椅子を作って出してあげても良いけど面倒じゃん?
あ、ちなみに僕が座ったのは女の子の死体ね。今夜仕留めた中にいた胸のおっきい子の胸の部分。クッションみたいな感じでなかなか座り心地がいいよ。さっき男の象徴が踏み潰される光景を見たせいで僕の下半身は怖がって反応しないから、ムラムラせず普通に座ってられるし。
「じゃあまずはレディファーストってことで、そっちからどうぞ」
「……本当にあたしを捕まえる気はねぇのか?」
「疑り深いなぁ。そもそもお前が魔獣族だって知っても捕まえなかったじゃん? それに大前提として、僕はこの国の人間が幾ら死のうが知ったこっちゃないよ。捕まえて刑務所とかにぶち込んでも、僕は毛ほども得しないしね。それならまだ弱みとして利用して、欲望のままに性奴隷にする方がよっぽど……あ、それいいな。うん」
何か僕のイメージするケモミミっ子とは果てしなく違うんだけど、それでもケモミミっ子であることは確かだからね。縁側で膝に乗せて一緒に日向ぼっこしつつ、身体中を弄って楽しむとかしたい。
でも何かキラが快楽や羞恥によがる姿を想像できないんだよなぁ……まあだからこそ見たいわけだが?
「お前、想像以上の屑だな……」
「屑に屑って言われても痛くも痒くも無いね。じゃあ今度は僕の番。お前、まさか猫耳も切り落としたとか言わないよね?」
「は? 一番に聞くことがそれかよ? お前の中の優先順位どうなってんだ……」
僕の性奴隷発言に呆れ果ててたキラの表情が、更に深い呆れになる。
正直呆れられる理由が分からないな。男なら性奴隷を得たいと思うのは当然の欲求だし、猫耳があるかどうかは大切でしょ?
「優先順位の一位は欲望に決まってんでしょ。で、どうなの?」
「こっちは別に何にもしてねぇよ。耳を伏せたまま固定してるだけだ。ほら」
キラは自分の頭に手をやると、何かを摘まんで頭から外した。見た感じカチューシャかな? 髪と同じ色だったから気づかなかった。なるほど、これで猫耳を押さえてたってわけか。
つまりそれが外された今、キラの頭には――
「おおっ! 猫耳だ!」
ぴょこっと立ち上がった、それはもう可愛らしい猫耳が二つ!
いやぁ、ふわふわしてそうで堪らんね。耳の先っぽにもちょろっと毛があるのがまた可愛い。何よりこんなヤベー殺人鬼の頭に可愛い猫耳が生えてるのってのが良いよね。ギャップ萌えってやつ? あー、フニフニと弄りながらハムハムしたい……って、ああっ!? 何故また隠す!?
「次はあたしの番だ。お前は仮にも聖人族の勇者だろ? 魔王を倒す気も無ければ、あたしを捕まえる気も無いってんなら、お前の目的はそもそも何なんだよ?」
「よくぞ聞いてくれました。僕の目的は、真の意味での世界平和の実現だよ。そう、聖人族と魔獣族が手を取り合って、平和に暮らしていく新世界を創ることさ」
死体の上に立って、両手を広げて仰々しく答える。特に意味は無いけど大きな秘密の暴露にはそれ相応の雰囲気が必要だからね。真上に綺麗なお月様も輝いてるし、演出としてはそこそこでしょ。漫画なら集中線がたっぷり描かれそう。
でも実際は世界の平和なんてどうでもいいんだよね。女神様を僕のモノにするのが最終目標で、世界の平和なんてただの過程と手段に過ぎないし。むしろ許されるなら全て焼き払いたいくらいだよ。こんな腐った世界は一旦全部消毒した方が早そう。
「嘘つけ。戦争に導くとか、破滅させるの間違いじゃねぇのか?」
「嘘じゃないぞ。確かにそっちの方が魅力的で簡単なのは認めるけど、それじゃあ女神様を僕のモノにできないからね」
「女神……?」
あ、やっぱりキラも知らないのか。まあ知ってるのは三千歳くらいサバ読んでたハニエルおばさんとか、その辺りの人たちだけだろうしね。
ていうかキラさん、首を傾げてる姿が結構可愛らしいですね……。
「女神様は女神様。この世界を創り上げたとっても偉い人で、かなりおバカでドジなところがある幼女だよ。女神様のドジのせいでこの世界が争い塗れになってるから、それを止めるために僕が送りこまれたってわけ。僕がこの世界を平和にしたら、女神様は僕のモノになってくれるのさ。フフフ」
「やっぱお前、勇者なんかじゃないじゃねぇか。つーかこの世界がクソなのってそんなアホらしい理由なのかよ……」
やっぱりキラ自身もこの世界がクソだって思ってたみたい。呆れたように重いため息をついてる。
僕もクソだって思ってるからそれほど驚きはしないけど、実はクソだって思えること自体が凄いことなんだよね。大概の奴らは特に理由も無く敵種族に敵意抱いているから。
あ、そうだ。世界がクソってことで聞きたいことを思い出したぞ。どうにも解せなかったことをね。
「じゃあ次は僕の番。僕は魔法で人が種族に抱いてる敵意とかも見られるんだけど、お前の敵意を見た時はどの種族にも敵意は欠片も抱いてなかったんだよね。なのに何でこの国で聖人族殺しまくってんの?」
そう。僕が気になってたのはこれ。殺人そのものが目的なら別に聖人族じゃなくて同族でも構わないわけだし、わざわざ聖人族の国で殺しをしてたのには何か理由があるんだと思う。いやまあ、何となく予想はつくんだけどさ……。
「そんなの決まってんだろ。向こう――魔獣族の国で殺り過ぎて活動しにくくなったから、こっちで殺ってんだよ。それに聖人族の人間は他の種族と比べりゃ非力だから殺しやすいしな」
「ああ、うん。ですよねー」
返ってきたのは予想通りの答え。清々しいくらいにゲスな答えにさすがの僕もドン引きだよ。やっぱコイツ、殺しのことしか頭に詰まってない快楽殺人鬼だわ……。