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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第16章:マッチポンプの英雄譚
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勇者とは

⋇性的描写あり

「やれやれ、思った以上にお話が長引きましたね。大半は醜い利権争いのせいでしたが」


 とっぷりと夜も更けた頃、僕とミニスはこのサントゥアリオの宿で休息を取る事となった。

 もちろん部屋は大きなキングサイズのベッドが目立つ二人部屋だ。この宿を手配してくれたのはギルマス(女狐の方)だから、冒険者ニアは従者であるトルファトーレと肉体関係にある事をしっかり理解してくれたようで。


「………………」

「おや、どうしたミニスちゃん。電池切れか?」


 部屋に入って扉を閉めるなり、ミニスちゃんは僕に対して恨み言を零すでもなく、突如その場に膝から崩れ落ちた。そうしてぐったりと手足を投げ出し、死体みたいに床の上に転がってる。一体どうしたんだろうね?


「もう嫌……お家帰りたい……」


 気になって顔を覗き込んでみると、死んだ目で実に弱気な呟きを零してたよ。

 信じられるか? 幾ら見た目が別人になってるとはいえ、あのミニスちゃんが泣き言を零してるんだぜ?


「オリハルコンのメンタルはどうした。しかも初日で折れるってどういう事だ」

「しょうがないじゃない。私にこんな大役務まるわけ無いでしょ……世界を救う真なる勇者とか、私には役不足よ……」

「この場合は役者不足が正しい使い方だね。まあ僕としてはお前以上に相応しい役者はいないと思うけど」


 傍にしゃがんで指でつんつん頬を突いてみるけど、別段それに対して反応は見せない。どうやらマジで心労が祟っている様子。

 やっぱり普通の人にとって、別人を演じるっていうのは結構なストレスになるのかなぁ? でも勇者ニアのキャラはまんまミニスちゃんだしなぁ……。


「邪神を倒すまでこれがずっと続くとか絶対無理よ……お願い、どんなに屈辱的で恥ずかしい事でもするから、今からでも誰かに代わってくれない……?」

「相当重傷だな、これ……」


 挙句の果てに痛々しい笑みを浮かべて、プライドをかなぐり捨てたお願いをしてくる始末。ここまで精神的に弱ってるミニスちゃんを見たのって数えるくらいしか無いな?


「まあ安心しなよ。そもそも邪神を倒すまでやらせるつもりは無いし、そんなに長い期間でも無いはずだからさ」

「……えっ、そうなの?」

「うん。勇者ニアの役割は、聖人族と魔獣族が一つに纏まるための旗印となる事。逆に言えばある程度纏まる事が出来きてきたら、それで目標は達成だからね。お前の頑張りとかカリスマ性にもよるけど、長くても半年から一年くらいじゃないかな」

「長くて半年……まあ、それくらいなら……?」

「お、復活したな。良かった良かった」


 ちょっと希望が見えてきたみたいで、ミニスの目に光が戻ってきた。そしてちょっとよろつきながらも身体を起こして立ち上がる。

 しかし一年って結構な日数だと思うけど、そこは獣人も寿命が長いから時間間隔が違うんだろうか?


「それじゃあ心機一転するためにも、一緒にお風呂入ってさっぱりしようぜ!」

「いや、あんたは帰ってペットの世話をしなさいよ。何で私と二人きりで過ごす気満々なわけ?」

「良いだろ、別にぃ? 決してミニスとの二人旅に嫉妬したペットたちに会うのが怖いからじゃないぞ?」

「そうして先延ばしにすると余計酷い目に合うわよ」

「うるせぇ。分かってんだよ、そんなの……」


 哀れみの目を向けてくるミニスに対し、僕は吐き捨てるように返しながらも半ば無理やり浴室へと連れて行きました。だって怖いんだもん、アイツら……。






「はー、生き返る……」

「こんなクソ野郎と一緒に入浴してて、しかも抱き締められてて膝の上っていうのは解せないけど、生き返るって意見には賛成……はふぅ……」


 ミニスちゃんと二人、お部屋備え付けのお風呂に浸かって羽を休める。僕の屋敷の風呂に比べると犬小屋みたいに狭いけど、それでも一般的に考えると十分広いレベルだから問題無いね。

 しかしアレだ。今のミニスはニアの見た目と声してるから、何か浮気でもしてる気分だな? そんな子を膝に乗っけて一緒に入浴してるから、実に新鮮で堪らない。


「……それで? 今後の予定はどうなってるわけ?」

「明日からはこのサントゥアリオに存在する両国の冒険者ギルドでお仕事だ。まずはパーティの宣伝をしないと話にならないからね。華々しい活躍をしてたっぷり目立ってもらうぞ。とりあえず何か強そうな魔物でも討伐しとけばいいでしょ」


 昼のギルマス二人とのお話の結果、冒険者パーティ<救世の剣>(ヴェール・フルカ)は無事に設立された。それも両国の冒険者ギルドで。

 とはいえ今のところは構成員二名で、拠点も無ければ実績も無い。挙句の果てに設立者は最初からSランクとかいう怪しさ抜群の冒険者で、その見た目は兎獣人の幼い少女。しかもその目的は両種族で力を合わせて邪神を倒す事。傍目から見ると明らかに地雷みたいなパーティだし、何の宣伝も無しにメンバーが増えるとは思ってないよ。

 というわけで、ひとまずは名を売る事に専念するってわけ。まあ実際にそういう働きをするのはミニスちゃんことニアなんだが。


「それだけじゃ不十分よ。依頼の難度や報酬に拘らず、本当に困ってそうな依頼を優先的に引き受けないと。魔物倒すだけなら馬鹿でもイカれてても出来るわ」

「おお、それは気付かなかった。さすがは真なる勇者。善良な心の持ち主だね」


 しかしそんな僕の考えを、真っ当な人間らしい考えで窘めてくれるミニス。なるほど、確かにそれも必要かな? 僕は困ってる人を見ると幸せな気分になるから気付かなかったよ。


「ハッ、馬鹿言ってんじゃないわよ。邪神の下僕で、皆を騙す偽物の勇者が、善良な心の持ち主? おかしくってヘソで茶が湧かせそうね」

「ほう、この可愛らしいヘソで?」

「ひゃんっ!? ちょっ、やめっ、指突っ込むなこの変態っ!」

「ヒャハハッ」


 指先でミニスちゃんのへそを弄ってやると、途端に甘い声を上げて身を捩り肘鉄をかましてくる。何か衝撃波が発生してお湯が部分的に消し飛ぶレベルの一撃だったけど、残念ながら僕には効かないのだ。


「まあそう自分を卑下しなくても大丈夫だよ。罪の意識があるって事は、良心が残ってるって証拠だからね。お前は立派に善良な心を持ってるよ」

「たまにまともな事言うわね、このド屑は……」

「とりあえずお前は難しい事あまり考えず、ありのままの自分で頑張れば良いよ。それで理想の勇者って感じになるだろうしね」


 さっきの発言からも分かる通り、善人としての振る舞いはミニスに任せれば完璧だ。そしてSランクの魔物を討伐しまくればその強さを証明し、名を広める事も出来る。むしろ僕が表立って何かすると逆効果になるかもだし、ここは一歩引いてミニスの補助に徹するべきかな。まあ裏で色々仕込みとか演出はするけど。


「そんなわけないでしょ。私のどこが理想の勇者だっていうのよ」

「どこって言われても……そりゃあ全部としか」

「はあっ? 家族を守るためとはいえ、外道に従って身体を差し出してる村娘のどこが勇者? 精神だけじゃなくて、頭の中身まで馬鹿になった?」

「あー、自分を客観視できないタイプか……」


 どうやらミニスは自分がいかに勇者に相応しい存在か分かってないみたい。小さなお胸が見えちゃうにも拘らず、振り返って僕の正気を疑うような目を向けてくる。

 なるほどね、自分の身を犠牲にするような奴だからこそ、自分の事は良く分からないって事か。


「何言ってんのよ、出来るに決まってんでしょ。あんたみたいな異常者と違ってね」

「じゃあ聞くけど、どんな逆境にもめげず自分の信念を貫き、命を賭して自分の守りたいものを守り、弱きを助ける女の子の事どう思う?」

「それは……普通に勇者ね」

「そうだよね。そう思うよね。どんな酷い目に合っても心折れず、大切な家族を守るために僕に全てを捧げて従い、孤児院に寄付までしてるミニスさん?」

「………………」


 的確に指摘してやると、ミニスは言葉に詰まったように焦った顔になり、無言で前を向いてしまう。ここまで言われてようやく自分が勇者っぽい存在だって事を理解できたらしい。

 というか勇者って田舎の村出身とかいう出自は割と多いし、そういう意味でも適性はバッチリだよね。あと最近は寄付だけじゃなくて、炊き出しとかのボランティア活動までしてるっぽいからな。幾ら自己満足の罪滅ぼしのためとはいえ限度があるよ。僕が聖剣を授ける女神様だったなら、そりゃ迷いなくミニスに聖剣プレゼントするよ。二、三本くらい。


「おう、何か言えや」

「いや、それは……寄付とかは自己満足だし、私はそんな善良な人間じゃないし……」


 とはいえ当の本人は頑なに認めようとしない。縮こまってうじうじした感じで呟き、あくまでも自分は大層な人間じゃないと否定してくる。

 そんな事言われても、僕がこの世界で出会った中でも一位、二位を争うレベルで勇者に相応しい精神性を持ってると思うんよ。ちなみに対抗馬は今宇宙の果てにいる大天使ね。アレもアレで多少歪んでるけど勇者っぽいよね……。


「えぇい、うだうだ言ってんじゃねぇ! こうなったらお前の身体に直接、勇者だって事実を刻み込んでやんよ!」

「ひゃあっ!? け、結局そういう事がしたいだけじゃないのよ、このド変態っ!」


 何かもう言葉じゃいまいち伝わらないので、行動で示す事にしました。湯船で暴れるミニスを押さえつけ、強引に事に及んでね。見た目が別人だから新鮮でとっても興奮しました。はい。


 今更ですが主人公はボンド●ドみたいな恰好してると考えるとだいぶしっくりきます。

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