キャラメイク
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⋇前の章の最後のお話、その少し後
「――良し、見た目はこんな感じで良いかな?」
調整を終えた僕は、素晴らしい出来に満足しながら改めて目の前の少女を眺める。
そこにいるのは皆大好きミニスちゃん。でもその姿はいつもとはまるで異なる。白髪は鮮やかなエメラルドグリーンに変化していて、どこかふんわりした撫で心地良さそうな髪質になってる。真っ赤だった瞳はサファイアの如き深い青色で、なおかつ若干丸っこくなっててかなり愛らしい。
今現在の身長は百四十と少しくらいだけど、そこから更に十センチほど削減されてる。しかし控えめなお胸はあえて一回りくらい大きくなってて、最早家族が見てもミニスちゃんだとは思えないレベルの変貌だ。まあ変貌っていうか僕が弄って変えてるんだけどさ。
衣装もモフモフのコートじゃなくて、革鎧や赤いマントで実にカッコよく決めてるよ。ただし下はえぐいくらい短いミニスカートで太腿剥き出し。ちょっとでも動くとパンツが見えるレベルだ。
んー、でも少し短すぎて下品かな? 仕方ない、もう少しだけ丈を伸ばすか。
「いや、あの……ちょっと?」
「あ、声もちょっと弄っておくか。少し高めな感じにして、と……」
ミニスが困惑気味に声を出した事でそこに気付き、声の高さも弄っておく。意外と声は低めだからそれなりに女の子らしい高音にするべきだよね。あー、でも高すぎてもちょっとアレか。かろうじて耳に響かないくらいの高さにしておこう。
「いや、だから……」
「あとは武器も用意しないといけないよね。出来るだけインパクトがあるとなお良いから、馬鹿みたいにデカい大剣にしよっか」
次にこの格好に相応しい武器を作るため、スケッチブックを捲り新たなページに色々描き込んでいく。
やっぱロリが馬鹿でかい武器を振り回す姿はインパクトがあるし、分かりやすい強さがあるよね。でも機能とかは魔法で幾らでも盛れるけど、デザインは専門外だから無骨でシンプルな大剣しかイメージ出来ないや。ちょっと武器屋にでも行って色々見て参考にした方が良いかな?
「だからまずは説明しなさいよ!? どうして何の説明も無く私の身体を弄り回して別人に仕立ててんの!? あと私が勇者って何!?」
しかしここでミニスちゃんが唐突にブチ切れ、地団駄踏んで叫びを上げる。子供っぽい縞パンが諸に見えてるけど気付いてるんだろうか。うーん、まだスカート短すぎるな。もうちょっとだけ長くしよう。
「えー、説明しないと駄目なの? ワガママだなぁ?」
「いきなり訳分からない事されて説明求めるののどこがワガママなわけ!? いい加減にしないとはっ倒すわよ!?」
声も見た目も別人だけど、中身は紛れもなくミニスちゃん。その証拠に険しい目付きで僕を睨み、過激な事を口走ってたよ。
まあ目付きも若干柔らかく弄ったし、声も高めにしたから普段に比べると迫力は三割減ってとこかな。
「おお、怖い怖い。仕方ないなぁ、それじゃあ卑しいミニスちゃんのために説明してあげよう」
「卑しいのはあんたよ!」
「聖人族と魔獣族は同盟を結んで、お互いの国には元敵種族の姿が見受けられるようになった。でも過去の遺恨があるせいか積極的に仲間を募ったりする動きは見られないし、首都に踏み入るのは許さないって空気を醸し出してる。ここまでは良いかな?」
「……まあ、うん。そこまではね」
怒ってた癖に説明を始めるとちゃんと聞き始めるんだからとっても真面目だ。やっぱりどう考えても適役はミニスちゃんしかいないな?
「時間をかければ徐々に関係が進んでくかもしれないけど、寿命が長い奴らばっかりだから放っておくとそれこそ百年とかかかるかもしれない。でも僕、そんなじれったいのはちょっと我慢できない。だから両種族の関係とやる気を、僕らの自作自演で後押ししてやろうって思ったわけだよ」
「はあ……それで何で私が勇者とか、頭おかしい事言いだしたわけ?」
「両種族が消極的なのは先達がいないからだと思うんだよね。つまりは先に行動して自分たちを導いてくれる奴がいないから。協力したいって思ってる奴がいても、自分が敵種族と仲良くしたら同族に何を言われて何をされるかが恐ろしくて、怖くて踏み出せない腰抜けがいっぱいで二の足踏んでると思うんだ」
「言い方酷いけどまあそれはありそうね」
これにはミニスも素直に頷く。
今の世界情勢が停滞気味なのは、やっぱり過去の遺恨が尾を引いててこれ以上踏み出す事を躊躇ってるからだと思うんだ。踏み出した事で自分が排斥される事になったら、それが恐ろしくて行動できないんだよね。腰抜けどもめ。
「だからそんなチキン共には縋るべき指導者、あるいは道を切り開く英雄が必要な訳だ。そのために、お前には旗印たる勇者になって貰うわけだよ」
でも僕の世界には『赤信号、皆で渡れば怖くない』って言葉がある。たぶん『どんな物事も一気に大人数でやれば恐怖も倫理観も薄れる』って解釈で良いんだよね、これ? まあとりあえずこれを実行するわけだ。
そしてミニスには最初に赤信号を渡る人柱になって貰うつもりなわけ。実際赤信号でも一人渡るとチラホラ続く奴が見られるしね。
しかしああいう奴らってどういうつもりで渡ってるんだろ? 別に最初に渡った人がいたとしても、君が赤信号で渡ったアウトローなのに変わりはないし罪が軽くなるわけでも無いよ?
「……うん、なるほどね。理由は分かったわ。でも一つだけ納得出来ない事があるんだけど」
「お、何かな?」
「何で私がその旗印とやらに選ばれたわけ? ただの村娘が勇者とかありえないでしょ」
何かと思えば、ミニスが訪ねてきたのは人選に関して。自分が旗印となる真なる勇者に選ばれた理由だった。でもそんなの決まってるよね?
「そりゃあお前以外に相応しい奴がいないからだけど? 実は本当に勇者の家系でしたって言われても、僕は驚かないよ?」
「は?」
「え?」
素直に答えると、何故かミニスは僕の正気を疑うような目で見てくる。
いつもとは外見も目付きも違うからそこまで傷つきはしないけど、何でこの答えでそんな目を向けられるのかは気になるね。僕何かおかしな事言った? ミニスちゃんって世が世ならどう考えても勇者じゃん。そのオリハルコンのメンタルでただの村娘と言い張るのはもう通じないぞ?
「……うん、頭イカれてる奴に聞いても無駄だったわね。もういいわ」
どうやら本人は自分がどれだけ勇者に相応しいか全く気付いてないみたいで、心底深い呆れのため息を零してたよ。今回ばかりは僕がイカれてるわけじゃないと思うんだが……。
「……まあ、納得してくれたならいいや。とりあえず僕が色々問題を起こしてあげるから、それをお前がどんどん解決していくマッチポンプ式の英雄譚になる予定だよ。もちろんお前にも人々が付いて行きたくなるようなロールプレイは頑張ってもらうけどね」
「いや、与えられた仕事はちゃんとやるわよ? でもそんな演技はさすがに自信無いんだけど? 何よ、人々がついて行きたくなるようなって……」
「えっ、それくらい簡単じゃない? ちょっと考えれば有象無象の人心掌握なんて楽勝じゃん? まさか出来ないの? うわぁ……」
これには僕もドン引きした感じの目をミニスに向ける。
血も涙も無いだの、人の心が無いだの罵ってくる癖に、そんな奴でも頑張れば出来るような事が出来ないってマジ? まともな心っていう貴重な物を持ってるのに、他人のそれを掌握する方法も分からないとか持ってる意味ある?
「あんたらみたいな異常者と一緒にしないでくれる? 私はあんた達と違って人を支配するんじゃなくて、人と手を取り合って生きて行くタイプだからね?」
「お、そうそう! 正にそんな感じの心にも無い言葉と演技が求められるわけだよ!」
「これ演技じゃなくて本心なんだけど……?」
せっかく手放しに誉めてあげたのに、今度は何故かミニスがドン引きする。
まあ本心でああいう言葉が出て来るなら適性はピッタリだよね。間違っても他の仲間たちの口から出てくるような言葉じゃないし。
「うーん……今のでミニスが適役なのは確信できたけど、やっぱりちょっと心配な所もあるなぁ……」
とはいえ善人でまともなミニスちゃんにとって、勇者として振舞う生活は厳しいものになるはずだ。ほとんど演技しなくても良いくらいに適役だけど、周囲の人々を欺き騙す事に耐えられず何らかのボロを出す可能性もある。
そこまでメンタル弱くないのは分かってるよ? でもこの作戦が上手く行けばミニスを慕ってついてくる奴らが大勢集まる事になるだろうし、そんな奴らが憧れと好意を向けて来るのに果たしてミニスは耐えられるのか……。
「……しゃあない。僕も茶番に参加するか。邪神を倒すために世界を巡って、人々の心を一つにしようぜ!」
やっぱり心配だし、一人でも活動できるかを確かめるために僕も同行する事にしました。しばらく見守って大丈夫そうなら、僕は良い感じにフェードアウトすれば良いでしょ。そしたらあとはミニスが人々を纏める旗印になってくれるわけだし。
だから僕は勇者らしい事を口にしてミニスちゃんを鼓舞しました。腐っても元勇者だしね。まあ使い捨て生体兵器扱いだけど。
「……人の脳みそをたくさん繋げて無理やり意識を一つにするとか、そういう意味?」
「はい、勇者ちゃんがそんな悍ましい事言っちゃいけませんよ。それは悪の科学者とかが言う台詞だからね?」
そしたらミニスちゃん、ジト目でとんでもねぇ事言いやがる。何で僕が『心を一つに』って言ったら、そんなぶっ飛んだディストピア染みた事考えるの? 僕でさえそんなの考えた事無かったぞ?
でも待てよ? 複数の脳みそを繋げる、か……この件には関係ないけど意外と使えるかもしれんな。良いヒントを貰ったぜ。後でちょっと試してみよう。
ということで、実はニアの正体はミニスちゃんだったのだ! もちろん後方訳知り仮面は主人公。
ちなみに何故「ニア」という名前になったのかというと、キーボードのひらがなで「み」「に」「す」に対応するローマ字が「N」「I」「R」だからという安直な理由。