女神様との駆け引き
⋇性的描写あり
眼前に広がるは見渡す限り白一色の、猛烈に目が痛くなる世界。この手抜き背景と揶揄されそうな世界は皆ご存じ、僕の女神様との逢瀬の場だ。
今現在の女神様は僕の口車に乗せられ、世界を見守る事無く目を塞ぎ体育座りで引きこもってる状態。でも僕が強く願えば夢の中で会えるようにして貰ってるから、今日はそうやって会いにきました。停戦と同盟が成ったって事くらいは報告してあげないとだもんね。
「む? ここは……?」
今回はこっちが呼び出す側だったせいか、女神様は突然この世界に放り込まれたみたいな反応をしてた。きょろきょろと周囲を見回す可愛らしい仕草が、僕の目の前で繰り広げられる。しかもこっちに背を向けてるから長い金髪が尻尾みたいにゆーらゆら。
ああもう駄目だ、会うのが久しぶりと言う事もあって辛抱溜まらん! バックアタックだ!
「ヘーイ、僕の駄女神様! お久しぶりっ!」
「にょわあっ!?」
我慢できずに背後から飛びつき、その美味しそうな金髪に顔を埋めて匂いを堪能しつつ、同時にちっぱいを鷲掴みにする。いや、鷲掴みできるほどは無かったけどさ。何か妙に豪華なローブのせいで感触もほとんど無かったし。強いて言えばとても手触りの良い絨毯みたいな感触でした。良い布使ってますね。
「えぇい! どこを触っておるか、この変態めっ!」
「ぐげぇっ!! あー、これこれ! この理不尽な暴力!」
容赦の無い肘鉄を鳩尾に貰って呼吸が出来なくなりながらも、これぞ女神様って感じの対応に僕は大満足。振り向いた女神様が愛らしいお顔を真っ赤にしながら物騒なロッドを振り被り、追撃の構えを取ってるのもまた愛しいね? 初心で可愛いから僕の色に汚したい……。
「……して、わらわを呼び出した理由は何じゃ? くだらない用件じゃったら殴るぞ?」
「今さっき殴ったじゃん。短期記憶障害かな?」
ロッドを振り被っていつでも殴れる構えをした女神様は、そんなおかしな事を口にする。せっかく久しぶりの再会なんだから、もっと笑顔を見せて欲しいよね? まあ怒った顔も好きだから良いけどさ。
「実は女神様に朗報があります! この度、聖人族と魔獣族が停戦と同盟を結びました!」
「んなっ!? な、何じゃと!? それは本当か!? わらわを弄び反応を楽しむための嘘ではあるまいな!?」
その朗報を伝えると、女神様は途端にロッドを放り投げ、驚愕の面持ちで僕に縋りつき真偽を尋ねてくる。大いに疑ってるあたり、僕への信頼度の低さが見て取れるね。女神様のために日々頑張ってるのに、悲しい……。
「確かにそれは楽しそうだし心底やりたいとは思うけど、この話題ではしないよ。その証拠に、ほら」
「お? おおっ!? おおーっ……!」
僕が見た会談の光景の一部始終を空中に映し出すと、女神様の表情は驚愕から徐々に歓喜へと変わっていく。青い瞳も子供みたいに輝かせちゃってぇ……あー、その瞳の輝きを闇の底に沈めてぇなぁ?
「何と! これは凄い! 本当に同盟を締結しておる! それに握手までしておるじゃと!? これはもう世界平和は成ったも同然では無いか!」
「それはさすがにチョロい――じゃなくて甘い。これは邪神を倒すまでの期間限定の同盟だし、王様同士が無理やり結んだようなものだから、まだまだ愚かな民衆の意識は変化してないぞ」
「むぅ。じゃがここまでくればもう勝ったも同然ではないか?」
チョロくて見通しの甘い楽観的な駄女神様は、何かもう勝ったつもりで喜んでる。ようやく一歩を踏み出した程度でそこまで喜ぶとか頭お花畑過ぎん? そんなだからあんなゴミ溜めみたいな世界になったんじゃないですかね。
「いやいや、ここまで来るのに人口の五割を殺さざるを得なかったからね。ここから更に減って行くし、下手をすると世界平和が実現する前に世界滅亡しちゃうよ?」
「ご、五割じゃと!? 何と、そこまでの犠牲が……」
僕の発言で女神様の歓喜の笑みは絶望に上書きされた。喜びが大きかった分だけ衝撃が強かったみたいで、顔から血の気が失せて今にも倒れそうになってたよ。
だから僕はダンスのワンシーンみたいに女神様の腰に腕を回して身体を支え、綺麗な瞳を見つめながら慰めの言葉を口にしました。
「――ちなみにこれが女神様を騙し弄ぶための嘘ね。実際はまだ一割くらいしか減ってないかな? 多くても二割くらいじゃない?」
「貴様あああぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あはは、女神様が怒った! ごふうっ!!」
瞬間湯沸かし器みたいにブチ切れた女神様は、素晴らしく鋭い右ストレートを僕の顔面目掛けて叩き込んできた。
いやぁ、女神様が元気になったみたいで何よりだよね! あまりの威力に顎が外れたけど些細な問題だな! あ、おかしくって大笑いするって意味の『顎が外れる』じゃないよ。物理的なお話。
「……じゃが、例え一割と言えど数多くの犠牲が出たのは事実じゃな。すまないのう、我が子たちよ……」
外れた顎を無理やり戻す僕を尻目に、酷く悲し気に目を伏せる女神様。
そんな世界人口の十パーセントが減ったくらいで悲しまなくても良いじゃないか。人口百人ならまだ九十人もいるぞ? 十パーセントなんてそんな精々消費税くらい……あれ、結構な数値じゃね?
「そして、お主はよく頑張ってくれた。わらわの期待以上の働きじゃ。最初は少々不安になったし、正直今も不安は消えんが、お主を選んだ事は間違いではなかったぞ。たぶん」
「ありがとう、女神様。でもできればもうちょっと素直に褒めて欲しいな?」
「そこはお主の所業や性格を考えれば仕方なかろう」
「ですよねー」
ジトっとした目で見られて、思わず同意するしかない。
でもぶっちゃけ僕は相当頑張ってるし結果も出してると思うんだ。少なくとも真っ当な方法じゃ僕と同じ期間で同様の結果を出す事は誰にも出来ないでしょ……出来ないよね? どうだろう? 意外と寄り道とかおかしな遊びをしてたのは否めないからなぁ……。
「じゃが、まあ……お主の功績は真実じゃ。じゃから、その……褒美に、お主の望み通りの事をしてやろう。純潔はまだやれんが、それ以外なら……何でも、構わんぞ……?」
世界平和RTAチャートを振り返る僕に、そんな非常に魅力的な事を口にする女神様。しかも恥じらい俯きながらという、実に堪らない反応をしながら。
これには僕の息子も大興奮で、しきりに部屋から出ようと扉を叩いてる。純潔以外なら何でもって事は、それこそマジでスケベな事色々出来るんだから当然だよね。
「あ、いいよ別に」
「……へ?」
だけど僕は、ここであえて女神様の提案を一蹴した。『ガム食べる?』って聞かれたのに対して『いらない』って返すくらい、興味無さげに。
この返答は予想外だったみたいで、女神様はぽかんとした表情で凍り付いてたよ。
「それよりここからも虐殺とかは続けていく予定だから、女神様は引き続き目を逸らしててね。正直僕にとっても見るに堪えない光景とかありそうだし」
「え? あ、うむ……え?」
「じゃ、そういう事で。更に世界平和に向けて前進したら報告に来るね」
「お、おう……?」
そのまま流れるように事務的な言葉を口にしていくと、いまいち現状が理解出来てない感じの反応を返してくる。そんな困惑してる女神様を尻目に、僕はさっさと夢の世界から抜け出しました。
よし、これで布石は蒔いた。次に会う時が楽しみだぜ……!
「――凄いチャンスだったのに、どうして何もしなかったのー?」
「えっ、あれ、デュアリィ様? それってどういう――うぐっ!?」
現実の世界に戻った――と思ったら何故か綺麗なお花畑にいて、目の前に立ってたのはロリ巨乳で露出度激高の超絶美少女である敏腕女神、デュアリィ様。そんなうちの駄女神様なんて足元にも及ばない真なる女神様が、何故か気軽な挨拶みたいな感じで僕の頭に指を突き入れてきた。いや、いきなり何これ!? どういう状況!?
「あっあっあっ……あ、思い出した。脳クチュ大好きのイカれ女神様だ」
しばらく脳みそをかき回され、記憶を頭に戻されて思い出す。
このタイミングで接触してきたのはちょっと意外だけど、僕の駄女神様への対応が気になって居ても立っても居られなかったんだと思う。確かにそんな反応も仕方ないような対応してたしね。
「せっかくナーちゃんが何でもしてくれそうだったのに、そんなチャンスを棒に振るだなんてー。もしかしてもう下半身の棒が機能しなくなっちゃたのかなぁ?」
「いや、そこはいつも通り絶好調だよ。フルスイングだって余裕だね」
「じゃあどうしてぇ?」
不思議そうに首を傾げるデュアリィ様。一見可愛らしくあざとい仕草だけど、指先が僕の血と脳漿で汚れてるからいまいちそそられないね?
それはともかく本当に僕の対応の理由が分からないらしい。やれやれしょうがない、答えてやるか。脳みそちょっと零れたせいか、言葉に纏めるのに少し時間がかかったけど。
「ここであえて興味を無くしたように振舞ったら、次に会う時はどんな反応してくれるか気になってね。幸い、って言って良いのか性欲自体はもう勘弁して欲しいくらいに満たせる生活してるから、今回は趣向を変えてみた感じだよ」
「なるほどねー。もしかしたら自分に興味が無くなって、世界平和を目指すモチベーションも無くなるんじゃ……何ていう風にナーちゃんを不安にさせて弄ぶ気なんだぁ?」
「そういうの好きでしょ?」
「うん、大好きっ!」
などとあまりにも眩しい満面の笑みで頷くデュアリィ様。駄女神様って一応同業っていうか友達なんだよね? その友達が不安と恐怖に駆られて心をすり減らす様を、実に良い笑顔で『大好き』とか言うって……本当に良い性格してるよね、デュアリィ様……。
「そういうわけで、出来れば女神様がどんな反応したか定期的に報告してくれると嬉しいな。あと脳みそ突き刺さないでくれると嬉し――いいっ!?」
「うん、分かったー。でもこれはダーメ」
気付けばデュアリィ様はまたしても僕の脳みそに指を突っ込み、かき回す様にグチュグチュしてくる。人畜無害そうなニコニコ笑顔でね。
正直会う度に脳みそかき回すとかマジでやめて欲しいなぁ。僕の脳みそはぬか漬けじゃないんだわ。こんな何度も何度も突き刺されたら脳がどんどん減って馬鹿になっちゃう……。
「あっあっあっ……異常性癖者めぇ……!」
「君にだけは言われたくないでーす」
あー、デュアリィ様の本性に関する記憶がまた奪われていくぅ……! 今回は出会いと別れが早すぎたから全く対応できなかったけど、次こそは……次こそは必ず抗って見せるぅ……!
久しぶりに女神様と触れ合う。なお、この章はもう1話あります。