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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
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デスゲーム

⋇前半三人称視点、後半クルス視点

⋇残酷描写あり

⋇暴力描写あり

⋇性的描写あり

「なっ!? タナトスだって……!?」


 宿で休んでいると突如頭に響いてきた声に、ベリタスは慌てて飛び起き外へ出た。すでに夜も更けているとはいえ呑気に眠っている事など出来るわけもない。見れば周囲には自分と同じように外に出てきた人々がおり、不安げな顔で周囲に視線を向けていた。

 この村を拠点に活動している万年低ランク冒険者悪魔のベリタスでも、タナトスの名は聞いた事がある。邪神の下僕の一人であり、魔将バールと互角の戦いを繰り広げたらしい化物だ。そんな怪物がこんな辺鄙な村に一体何の用があるというのか。


『今からお前らには生き残りを賭けたゲームをやってもらう。内容は簡単だ。目についた奴を片っ端から殺せ。それでポイントゲットだ」

「……は?」


 そして告げられた言葉に、ベリタスは一瞬緊張も不安も忘れた。それほどに訳の分からない言葉だったのだ。


『知らねぇ奴なら1ポイント。ダチなら3ポイント。親兄弟、娘息子なら10ポイントだ。殺した奴がポイントを持ってたら、その半分のポイントも手に入る。なるべく近しい奴か、ポイント持ってる奴を殺した方がお得だぜ? それとなるべく拷問して痛めつけてから殺すか、散々犯してから殺すかでポイントは何倍にも跳ね上がるからな。よーく覚えとけよ』


 ベリタスが理解できずに固まっている間にも、タナトスによる説明は続く。

 人の命や倫理観、道徳といった概念を玩具か何かのように認識しているとしか思えない、あまりにも異常極まる言葉の数々。それを楽し気に語る精神性。タナトスの強さは魔将に引けを取らない化物だと知ってはいたが、精神の方がここまで人外だとは思ってもいなかった。


『この村の人口は――二百五十三人か。なら今から三時間後、ポイント上位十三人以外は全員殺す。死にたくねぇなら殺せ。犯して、痛めつけて、可能な限り嬲ってから殺せ。じゃなきゃあたしが直々にテメェらを殺す。コイツらはその見せしめだ』

「き――キャアアァァァっ!?」

「うわっ!? なんて、惨い……!」


 突如として街の上空に浮かび上がり夜空を彩ったのは、あまりにも凄惨な光景。首の無い死体が三つと、壁も天井も血だらけになった悍ましい部屋の中。しかも死体の内の一つは、身体の大きさから見て明らかに子供。

 恐らくはこの街に住む名も知らぬ一家なのだろう。運悪く見せしめとしてタナトスに命を奪われたに違いない。尤もこの後に始まるゲームとやらの残酷な内容を考えるに、始まる前に死ねた事はむしろ幸運だと言えるかもしれないが。


『――あ、何だって? おっと、いけね――そうだ、一つ言い忘れてた。さっき村のそこかしこにサキュバスを落としといた。そいつらはボーナスキャラだ。抵抗は出来ねぇようにしてあるから、好きに嬲ってポイントを稼ぎな。そんじゃ、ゲームスタートだ。十三人の生き残りの座を賭けて、精々醜く無様に足掻きな。じゃなきゃ――皆殺しだ』

「っ……!?」


 直接頭の中に注がれる言葉の中に、突如として混じる高濃度の殺気。狂暴な魔物や野盗が向けてくるものなど比較にもならない、体験した事など無い域の正真正銘の殺意。まるで心臓に刃を突き立てられたような悪寒と共に、ベリタスの全身を恐怖が縛り上げた。

 殺らなければ、殺られる。周囲の人々の考えは分からないが、恐らく全員が同じ事を考えたのは手に取るように分かった。


「な、何なんだよ、それ……そんな事、出来る訳ねぇだろ……!」


 しかし、何の躊躇もなくひたすらに人々を殺して回る事など出来る訳も無い。死への恐怖に震えながらも、ベリタスは絞り出すように呟き強く拳を握る。

 元々ベリタスはこの村の住人ではないが、ここで長く過ごした事で知り合いや友人がたくさん出来た。自分が生き残るためとはいえ、彼らを殺す事など出来る訳も無い。狂気に身を任せてしまえば、それこそタナトスの思うつぼだ。


「――ぐあああぁぁっ!? て、テメェ、何しやがるっ!?」

「っ!?」


 不意に近くで悲鳴が上がる。見ればそこでは胸から鮮血を迸らせ膝を付く獣人の男と、血塗られた長剣を手にした悪魔の男が揉み合っていた。

 一部始終を見ていなくとも分かる。長剣を手にした悪魔の男が、膝を付いている獣人の男を殺そうとしたのだ。


「うるせぇ、さっさと死ね! 俺には首都に家族がいるんだ! こんな所で死んでたまるかっ!」

「うぐっ、あ……!」

「ひっ……!?」


 悪魔の男は血走った目で叫ぶと、息も絶え絶えだった獣人の男の胸に剣を突き立て身体を貫く。弾ける血肉が周囲に広がり、胸を貫かれた獣人の男は身体から力を失ってガクリと崩れ落ちる。


「死ね、死ねっ! 早く死ねっ!!」


 しかし悪魔の男はどうにも錯乱しているらしい。動かなくなった獣人の男を何度も何度も剣で突き刺し、返り血に塗れながら遺体の尊厳を徹底的に踏みにじる。

 周囲にはそれなりに多くの人々がいるものの、誰もがその狂気に当てられたかのように凍り付き動けなくなっていた。


「こ、こんなの狂ってるっ! 早くここから逃げ出さないと……!」


 いの一番に呪縛から解き放たれたベリタスは即座に駆け出し、その場から逃げた。あの悪魔の男のように、生きるために狂気に身を任せる者たちが出てくる前に、村の外を目指して。

 そうして妙な静寂が広がる村の中を走り抜け、遂にベリタスは村の外へ脱出を果たす事が――


「――ぐあっ!? な、何だ!? 見えない壁みたいなのがあって出れないぞ!? 嘘だろ!?」


 ――出来なかった。目の前には広大な大自然の風景が広がっているというのに、見えない壁のようなものに遮られ脱出を阻まれていた。全力で殴りつけてみてもびくともせず、むしろ拳が痛むだけ。

 魔法を使い全力で破壊しようとしても揺るぎもしない。どうやらタナトスがこの悪趣味なゲームを楽しむため、村全体を結界で覆い誰一人逃がさないようにしているらしい。これにはベリタスも絶望のあまり途方に暮れるしか無かった。


「――う、おおおぉぉっ!!」

「うぐっ!? な、何をするんだっ!?」


 だが不意にそんな叫び声を耳にして、同時に背中に鋭い痛みが走る。素早く身を翻して背後を見れば、そこにはただの一般住民と思しき獣人の男が立っていた。

 ベリタスは恐らくこの男に背中を斬りつけられたのだろう。断定できないのは男が明らかに不慣れに剣を構え、涙を零して震えていたからだ。どう見ても隙をついて殺そうとしてきた加害者ではなく、逆に襲われそうになっている被害者のような姿だった。

 しかし完璧に隙を突かれたにも拘わらず背中の傷は相当浅い辺り、躊躇いや罪悪感が無ければこうはならない。やはりこの男が襲ってきたのは間違いなかった。


「す、すまない……俺は、俺は妻と娘のために、どうしてもやらなきゃならないんだ……!」

「やめろっ! こんな事したら、邪神の下僕の思うつぼだ!」

「恨み事はあの世で幾らでも聞く。最後には俺も行くから、そこで好きなだけ俺に復讐して構わない。だから今は――死んでくれっ!!」


 罪の意識に苦しみながらも、男は紛れも無い殺意を滲ませて剣を振り被る。月の光を反射して煌めく刀身の悍ましさに、ベリタスは芯から恐怖に震え上がった。


「う、ウィンド・カッター!」

「ご、ぼっ……!?」


 そして気が付けば反射的に魔法を放ち、風の刃で男の喉を斬り裂いていた。

 男は自らの血に溺れて苦しみながらその場に崩れ落ち、やがてピクリとも動かなくなる。


「こ、殺した……殺して、しまった……!」


 しかし同時にベリタスも動く事が出来なかった。自らが犯した罪の大きさに。

 幾ら正当防衛とはいえ、人を殺してしまったのだ。それも恐らくは戦う力の無い一般人を。あまりの衝撃と罪の意識に吐きそうになり、ベリタスは背中の傷の痛みも忘れてその場に蹲った。


「――パパッ!? パパ、死んじゃやだぁ!」

「フロルっ! 駄目っ、家に入ってなさい!!」

「………………」


 不意にベリタスの前に、一人の可愛らしい獣人の少女が現れる。その少女はベリタスを襲った男の子供なのだろう。血の海に沈む男に縋りつき、ひたすらに泣きじゃくっていた。

 そして母親と思しき悪魔の女性がこちらを警戒しつつ、必死に娘に駆け寄り引き剥がそうとしている。この二人こそが、男が狂気に身をやつしても守りたかった家族に違いない。

 そんな愛し合う家族を引き裂いたのは、紛れもなくベリタス。正当防衛とはいえ、男を自らの手で殺してしまった。その罪からは逃れようもない。何をどう取り繕おうとも、ベリタスは立派な殺人鬼。自分の命を守るために他人の命を奪ったクズ。最早それは覆しようのない事実であった。


「だったら、もう……やるしか、ないよな?」

「な、何を――うぐっ!?」

「ママっ!?」


 自分の中で何かが吹っ切れたベリタスは、素早く距離を詰めて女性の鳩尾に拳を叩き込んだ。女性の身体はくの字に折れ曲がり、意識を失いその場に倒れ込む。父親が殺され、母親が殴られたこの状況に、小さな少女は恐怖に震えていた。


「ハハッ、そうだよ。俺は邪神の下僕に命を握られて強制されてるから、これは俺の意志じゃないんだ。仕方ない事だから、何をやったって構わないんだ!」

「やっ!?」


 妙に高揚する心のまま、少女と母親の髪を乱暴に掴んで引きずって行く。目的地はこの二人が出てきた家の中。

 気付けば街の至る所から悲鳴や怒声が響いており、誰もが生き残るために倫理観を捨て去っているのがはっきりと理解できた。つまりこれからベリタスが行おうとしている事は、生き残るためにきっと誰もが行う事。ならばそれは悪ではない。真の悪はベリタスたちをこんな状況に追い込んだ邪神の下僕であり、ベリタスたちは何も悪くない。生き残るために最善を尽くす行為が、一体どうして悪と断じられようか。


「やだっ、痛い! 離してよぉ!」

「うるさい! 大人しくしろ!」

「あ、が……!?」


 暴れる少女の腹に蹴りを入れて大人しくさせたベリタスは、そのまま少女と女性を引きずって家の中へと入る。

 扉を閉めてしっかり鍵をかけると、まずは少女の方から取り掛かる事にした。その小さな体を押し倒しのしかかり、衣服を力ずくで破っていく。ぐったりとした少女はされるがままで、隣で気絶している女性に死んだ目を向けていた。


「これはポイントを得るため、ポイントを得るための事だから。生き残るために仕方なくだから。だからこの子を犯して殺しても、俺は何も悪くないんだ。ハハッ!」

「や……た、助けてぇ……パパ……ママぁ……!」


 そうして泣き言を零す少女に対し、ベリタスはポイントを得るためにあらゆる行為を働いた。身体を徹底的に穢し、尊厳を踏みにじった上で残酷な死を与えた。

 普段なら罪の意識や倫理観があっただろう。しかし今は不思議と、人生で最も強い興奮を覚えている。

 生き残るために仕方なく――そんな免罪符を得ているベリタスは次の標的の身体にのしかかると、再び衣服を力ずくで引き裂き蹂躙を始めた。





「最っ高に醜くて最高に愉快だ。酒の肴に良さそうな光景だねぇ……」


 村のあちこちで繰り広げられるゲスで醜い光景をモニターで眺めながら、僕は思わず恍惚の吐息を零す。

 実際の所、このデスゲームはポイントなんていちいち数えちゃいない。そもそも一人たりとも生存者を残すつもりも無いしね。


「だろぉ? 人間なんて一皮剥けば結局こんなもんよ。仕方ないだの生き残るためだの自分を正当化しながら、欲望のままに犯して嬲って殺してやがる。こんな奴らがあたしを追放したとか、出来の悪いジョークみてぇだな?」


 そんな風に言いながらさも愉快って言いた気に笑うのはキラ。僕の背に覆い被さり全身でしがみ付きながら、一緒にモニターを眺めてるよ。

 そう、この理不尽なデスゲームこそがキラの望みだ。何でも『故郷を滅ぼしたい』って願いと、『自分を村から追放した奴らの薄汚い本性を暴きたい』っていう理由から、こんな面白いゲームを考えたらしい。ボーナスキャラとしてサキュバスを放逐してるのもその一端で、なおかつリアも楽しめるようにっていう配慮だね。キラが他者に配慮するとか凄い意外だけど、別にリアとは仲悪くないしね。生粋の殺人鬼も嫌いじゃない相手なら配慮出来るんでしょ。


「見て見て! あそこでサキュバスがレイプされてるよ! 大好きなエッチな事されてるのに凄い悲鳴上げてる! アハハッ!」

「生き残るためとかいうおためごかしで欲望を正当化するなんて、心底醜いねぇ? あたしらみたいに欲望のままに生きてる人種を見習って欲しいんもんだぜ」


 その証拠と言うべきか、僕の背中に更にリアが覆い被さってきても上機嫌のまま。むしろ僕の背中を二人で分け合い、それぞれ僕の肩に顎を置く形で身を乗り出しモニターを眺めてるよ。仲が良いのは良い事だけど、ちょっと過剰積載じゃない? 僕の背中は二人乗りは想定されていません!


「楽しいと言えば楽しい光景なんだけど、さすがに何時間も眺めてるのは飽きるし、あと数十分くらいしたら纏めて殺して帰ろうか?」

「それよりはかはもっと面白いルールでも追加しね? こう、ボーナスとしてコイツを殺せばポイント二倍的なやつ」

「わー、楽しそう! ねぇねぇ、あそこに隠れてるサキュバスをボーナスキャラにしようよ! ちゃんと居場所が分かるようにしてね!」


 そんな風に三人で盛り上がりながら、僕らはキラの故郷をたっぷり蹂躙して滅ぼしました。

 子供だからとか躊躇ってないで、ちゃんとキラを処刑してればこんな事にはならなかったのに。後悔先に立たずってやつだよね。僕はそんなのやだし、後悔しないようにこれからは欲望のままに生きて行く事を決めました。

 えっ、もうすでに欲望の権化? 反論できないからそういう事言うの止めて貰える?

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