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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
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同盟会談2

⋇前半クルス視点、後半ミニス視点




「よしよし。馬鹿みたいに集中砲火を受けてる事に全く気付いてない点を除けば、会談は極めて穏便かつ素早く進行してるね」


 二つの文書への調印は済んだけど、会談自体はまだ続く模様。

 あくまでも前提条件の合意なだけで、細かい内容はこれから決めるっぽいんだよね。普通そういうのも先に決めて文書に記しておくもんじゃないかな? いや、もしかしたらこれが正しい形なのかも。平和ボケした日本の一般人(元)には分からないや。


「何だか不安になるようなやりとりが見られるが、案外ああいった手合いの方が良いのかもしれないね。そこまでどちらかの種族に不利な協定を結んでいるわけでも無いし、上出来と言っても良い。少なくとも前の聖王ではここまで出来なかっただろう」

「だよねぇ。何か軽薄すぎて心配だけど、前の凝り固まった老害よりはマシかな?」


 何やら満足気に頷くレーンに僕も賛同する。

 停戦と同盟を提案したのは聖王側だから、てっきり聖王側が不利な内容になるかと思ったけど、意外にもほぼ平等で公平な感じになってる。文書に記された内容自体は無駄に多かったり長ったらしいから要約すると、『邪神討伐から一ヵ月経過するまで戦争行為を禁止とする』だの『お互いに力を尽くして邪神の討伐に臨む』だの、そういう内容だね。

 たぶんアレだ。確かに聖王側が提案したから本来なら魔王側が優位に立てるはずなんだけど、魔王の愛娘が邪神に拉致られて玩具にされてるから、差し引きお互いの立場は平等になったんだろうな。現聖王は妹は助かっても死んでもどっちでも良いって感じだし。


『――ご主人様よ、問題発生だ。聖人族側と魔獣族側の兵士たちの両方、共に最前列の兵士の何人かにも反乱軍としての反応があるぞ。どうやら爆弾を身体に巻き付けているようだ。死なば諸共というやつだろうか?』


 なんて事を考えてたら、ベルから実に困った内容の通信が入る。

 何でよりにもよって兵士たちの最前列にそんなのがいるの? しかも双方の国に。ちょっと人選ガバガバ過ぎて涙が出ますよ。どっかの冒険者ギルドのマスターは会場警備の冒険者を雇うにあたって、ちゃんと面接までしてヤバそうなのは排除してたのにねぇ? まあそいつの顔面にはドロップキックをお見舞いしたけど。


「ど、どう、しますか……?」


 自爆テロをどうするか額を押さえて悩んでると、ミラがびくびくしながらも尋ねてくる。

 んー、マジでどうしよう。最前列っていうのはさすがにやり辛いしなぁ。やれても周囲に気付かれて会談が中断とかになったら目も当てられない。一応停戦と同盟自体は締結してるけど、ここから反故にする可能性が無いとも言い切れないし。正直僅かでもその可能性を高くするような展開はごめんだなぁ。


「……最前列の奴らは殺さない。代わりに時を止めてそのまま残しておこう。それで会談が終わった直後に解除して、祝いの花火でも上げて貰おうかな」

「随分汚い花火になりそうです」


 僕が答えを返すと、リリアナがくすくす笑いながらそんな言葉を零す。

 確かに絵面的によろしくないけど、僕らが表立って綺麗な花火を上げる訳にもいかないしね。ちょっと血生臭い感じの光景になってもそこは我慢して貰おう。


「最前列の奴らは残しといて良いよ。お前らは他の奴らの排除を引き続きお願いね」

『うむ、了解だ。では私は仕事に戻るぞ』

『りょ~か~いっ! 不肖トルトゥーラ、愛する主のために粉骨砕身し――』

「――さ、会談の続きに戻ろうか。はてさて一体どうなるかな?」


 何かベルの後に変な声が聞こえて来たから、強制的に通信を打ち切ってさっさと問題の奴らの時間を停止させ動けなくする。こう見えて僕も度々魔法やら何やらで攻撃仕掛けてる奴らへの対処で忙しいからね。テンション爆上がりのハスキーみたいなクソ犬には構ってられないの。


「君は本当に彼女に対して辛辣だね……」


 レーンが何か言ってるけどそれも無視。これでも僕はだいぶ構ってあげてる方だ。それにあのクソ犬は放置プレイも大好きだし、痛いのも苦しいのも大好きなド変態だから、実質どんな対応をしても喜ぶ無敵キャラじゃん。辛辣な対応でも尻尾振って喜んでるよ。


『――さて。同盟にもある程度納得して貰った所で、こっからもっと煮詰めて行こうぜ。具体的にはお互いの種族の越境についてだな。いきなり首都にわんさか来られても困るだろ?』


 会談の場ではこちらとしても実に気になる話に入ってた。

 つまり今まで全然無かった両種族の往来だ。出来ればすぐにでも両方の国が全ての種族で溢れて欲しいけど、さすがにそれは難しいだろうなぁ……。


『そっちがやりたいってんなら構わねぇぜ? そん時はテメェのお膝元に血の気の多い奴らが大勢行くだろうな?』

『おー、怖っ。ま、さすがに首都は厳しいよな。許可するにしても追々って感じか。まずはこの街、ミザールから始めて行こうぜ』

『あ? 何言ってんだ、ここはピグロの街だ』


 おっと、何やら不穏な空気が……今川焼や大判焼きやらの醜い呼び方争い――じゃなくて、単純にこのハーフの街の呼び方が決まってないから、お互いに自分の国の方である街の名前を言い張ってるな。ハーフの街っていうのも、少し前に僕が便宜的に名付けただけだし。


『あー……そこも擦り合わせなきゃなんねぇか。じゃあもうこの街全体の新しい名前決めちまおうぜ?』

『まあ確かにその方が色々と面倒が省けそうだ。ならこれだな』


 魔王が取り出し指に摘まんで見せたのは、金色に輝くコイン。それを指で天高々に弾き飛ばす。

 どうやらコイントスで決めるらしい。街の名前の命名権をそんな方法で決めて良いんですかね? どっちも本当に雑過ぎじゃない?


『表。俺様は裏なんて無い清い性格してるからな』

『隠す気もねぇだけだろうが――チッ、表か』


 クルクル回転して煌めきながら落ちてきたコインは、机の上で表を晒す。

 というわけで命名権は聖王にある模様。女遊び大好きで十にも満たない頃に同年代の少女と初体験を終え、更にはメイドと乱交までし始めた生粋のプレイポーイの命名……不安だ!!


『ほんじゃあ、そうだな……この街は今日からサントゥアリオって名前に決定だ。そっちの国でもよーく知らしめとけよ?』

『フン。まあ悪くはねぇ名前だな』


 そうして決められた名前はサントゥアリオ。魔王の反応からして反対意見は無いっぽいし、これで正式に決定かな? だとすると便宜的に使ってただけのハーフという名前もお役御免だ。今日からこの街はサントゥアリオです。ここテストに出るから覚えておこうね!

 ていうか意外とまともな感じの名前で安心したよ。てっきりもっとヤバめな名前付けると思ったんだけどな。


『まずは数ヵ月、この街――サントゥアリオでお互いの種族の越境を禁止せず様子見で良いな?』

『それだとビビッて行こうとしない奴らもいそうだし、まずはこっちで良識ありそうな奴らを見繕って送り込んでみようや。あ、当然殺し合いとかは無しの方向でな? つっても勝手にやらかしそうな気もするが……』

『少なくとも碌な扱いはされねぇだろうな。ま、お互い良く言い聞かせるしかねぇな』

『できれば破瓜以外の血は見たくないねぇ……』

『コイツ……』


 そして脳筋と遊び人の割には、もの凄いスムーズに話が進んでく。

 どうやらまずはサントゥアリオの街で両種族の往来を解放するつもりみたいだ。その最初の段階として選ばれた良識ある人々を送り込み、体験留学みたいな事をするみたい。なるほどね。こういう事を決めなくちゃいけないし、何か問題があった場合にはすぐに変更できるよう、あえて書類じゃなくて口頭での取り決めにしてるわけか。でも兵士たちにすら自爆テロやるつもりの人々が紛れ込むガバガバ人選じゃ信用ならねぇなぁ……。

 色々不安はあるけど、とりあえず会談が大成功を収めそうな事に喜ぼうかな。もっと血生臭い感じのを想定してたから、個人的にこの結果は嬉しい誤算だよ。こんな事ならもっと早く魔王の娘を拉致って、さっさと前の聖王を殺しておけば良かったな?






「わっ、凄い凄い! 魔王と聖王が握手してる! こんな光景、本当に現実に起こるんだ!」

「ご主人様だけじゃなくて、皆で色々頑張ったもんね! やっと報われてリアも嬉しい!」

「ここまで滅茶苦茶長かったわよねぇ。感慨深いものがあって、ちょっと涙が出そうよ……」


 信じられない光景を前にしてはしゃぐセレスとリアを横目に、私も胸に込み上げる感動を必死に堪える。

 女神様が望む世界平和への、大きな一歩。それが正に現実の物になった瞬間。永遠に歴史に残りそうな記念すべき一瞬。それが目の前で繰り広げられてるのが本当に夢みたいだった。

 だけど、これを一番喜ぶべきなのは私じゃない。この光景を一番見たかったのは、私の隣に立ってる心の壊れた天使だから。

 

「ほら、分かる? あんたが望んでる平和な世界への第一歩が、今正に踏み出されたところなのよ?」

「……へ、い……わ……」


 背中にそっと触れて優しく撫でながら声をかけると、その唇から僅かな言葉が零れた。

 それは反射的なものだったみたいで、目は死んでるし表情は変わらず抜け落ちてる。でも壊れた心にも響く何かがあった事は、漏れ出たほんの僅かな言葉が証明してた。


「そうよ。まだその一歩でしかないけど、紛れも無くこの世界は平和に向けて前進してるの。それがあのクソ野郎の手で実現させられてるっていうのは、生理的に凄く不快だけどね……」

「もうっ、またクソ野郎って言ってる。ミニスちゃんったらクルスくんの事嫌いすぎだよ? いっぱい愛して貰ってるのにそんな事言って、その内罰が当たるよ?」

「別に愛してとか頼んで無いし。ていうか世界で一番憎い奴に愛されてもただただ不快でしかないないわよ? あんたがあのクソ野郎に惚れてるのは勝手だけど、そのイカれた好意を私に押し付けないでくれる?」


 せっかくハニエルが喋った事に喜んでたのに、セレスが不快な内容で話に割り込んできて気分が沈む。

 本当に何でコイツはあのクソ野郎にベタ惚れなのかしらね。惚れるような所なんてある? 正直私はあのクソ野郎か盛りの付いた獣、どっちかに犯されろって言われたら本気で悩むくらいには嫌いなんだけど?


「リア、知ってるよ! これがツンデレってやつだよね!」

「なるほど、これがクルスくんに愛される秘訣ってやつなんだね。あたしも見習わなきゃ……」


 それなのに、何故かリアとセレスはツンデレとか言う始末。いや、別に恥ずかしがってツンツンしてるわけじゃないけど? 出来る事ならツンツンどころか刃物でザクザクしてやりたいくらいなんだけど?


「ねぇ、早く心を取り戻してくれない? 前みたいに明るくてちょっと抜けた所のある感じにさ。正直まともなのが私だけじゃ辛いわ……」


 キリキリと胃が痛むのを感じながら、私はハニエルに縋るように語り掛ける。この子が完全に心を取り戻して以前までのハニエルに戻ってくれれば、今の生活も少しはマシになるのに。

 私もこの子みたいに壊れる事が出来たら楽になれたんだろうけど、何でかこうはならないのよねぇ……。


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