要介護の二人
⋇執筆してたらちょっと投稿時間遅れました。申し訳ない。
⋇性的描写あり
刻一刻と会談の時間が近付いてくる中、僕は問題児二人とその保護者――ではなく、暇になりそうな方々をもう一度野原に集めた。別に街中でも良いんだけど、今街中は僕ら以外にも厳戒態勢に入ってる奴らがいっぱいいて落ち着かないからね。冒険者ギルド側が雇った会場警備の冒険者とか、兵士たちによる哨戒とかで。
「さて、それじゃあお前らに託すもう一つの仕事だけど……」
「その前に二つ良い?」
「はい、なんざんしょ」
「そいつ役に立つの?」
などと話の腰を速攻で降り、胡乱気な目を向けてくるのはミニスちゃん。いや、正確に言えばそのジト目が向けられてるのは僕じゃない。リアを挟んでミニスちゃんとは反対側に立ってる、とある少女の方だ。
「えへへぇ……クルスくん可愛かったなぁ?」
それは夢心地の笑みを浮かべ、甘い記憶に浸る恋する乙女――もとい、セレスだった。
二ヵ月会えなくて物凄い寂しい想いをしてた所で、時間の流れを弄って満足するまで愛しあえたんだからちょっと壊れるのもやむなしだ。すっごいデレッデレな笑顔を浮かべて、ぽやぽやとハートマークが乱れ飛ぶ光景を幻視させてくる……新手の幻覚魔法か何か?
「まあ、会談始まる頃には元に戻ると思いたい。だからそれまではお前らがフォローお願いね」
「分かった! ご主人様がどんな風にエッチに乱れたのか聞いておくね!」
「それはやめて?」
元気いっぱいにとんでもねぇ返事をしてくるリアに対し、わりと切実な願いを零す。僕もそれなりにだらしない表情をしちゃったのは否めないからさ。
だって発情した獣二匹と、ヤバさに定評のある恋する乙女を同時に相手したんだよ? そりゃあ顔面の筋肉くらい歪むだろうよ。結局何日分ヤる事になったのかは自分でもいまいち分からんし。
「まあこの色ボケ女についての事は分かったわ。それじゃあもう一つの質問なんだけど……」
「言わなくても何となく分かるけど、何?」
「……ハニエル、何か前よりも壊れてない?」
「………………」
そこでミニスちゃんが目を向けたのは、僕の隣に立つ一人の女性。二対四枚の無垢な純白の翼と、エメラルドの如き煌びやかな髪を持ち、それらの美しさが台無しになる程死んだ目をしてる一人の大天使――みんなご存じ頭お花畑のハニエルだ。
うん、こんなのがいれば疑問に思うのは当然だよね。一言も発さずぼうっと突っ立ってるだけだし。まるでカカシですな?
「これね。うん、話せば長いんだけどね……」
「ご主人様が毎日苛めてたから、完全に壊れちゃっただけだよね?」
「は?」
「こら、リア。言わなくて良いんだよ、それは」
「あっ、ごめんなさーい」
「……待って? まさか、二ヵ月毎日いびってたって事?」
何やらゾッとした感じの表情で尋ねてくるミニスちゃん。おやおや、何か滅茶苦茶敵意を感じるぞ? 優しいミニスちゃん的には許せない仕打ちだった感じ?
「いびるなんて、そんな姑みたいで人聞きが悪いなぁ。僕はただ寂しくないように毎日お話して正論を投げかけてあげただけだよ。ハニエルが勝手に壊れただけし。ねぇ、ハニエル?」
「………………」
背後からハニエルに抱き着き、その見事な巨乳を鷲掴みにしながら問いかける。
でも完璧に壊れてしまったハニエルはピクリとも反応しない件。うーん、手の平に伝わってくる感触自体は素晴らしいんだが、無反応なせいで全く興奮しないな? これでも良いって人は死体に興奮するバールと同じレベルだぞ?
「……ま、壊しちゃったものは仕方ないよね! だから暗い過去の事は水に流して、輝かしい未来の事を考えようぜ!」
「死ねっ!!」
「おぐうっ!?」
せっかく勇者(元)っぽい事を口にしたのに、ブチ切れたミニスちゃんが怒りの鉄拳を顔面に叩き込んできた。堪らず吹き飛び宙を舞い、無様に地面に転がる僕。
おかしいな、とっても前向きな事を口にしたはずなのに……。
「それでご主人様、リアたちに任せたいもう一つのお仕事ってなーに?」
ご主人様が殴り飛ばされたって言うのに、リアは全く気にしない。トコトコ近付いてきて僕の傍にしゃがんで、何事も無かったみたいに話の続きを促してくるよ。ミニスちゃんの暴力は今に始まった事じゃないとはいえ、もうちょっと何か反応とか無いんです? あっ、もう少しでリアのスカートの中が見えそう……。
「ああ、うん。それね。実はこの壊れた大天使に、同盟が結ばれる場面をしっかり見せてあげて欲しいんだ。僕の行動の全ては正しいもので、僕は唯一絶対の存在だって事が分かるようにね」
「そんなクソふざけた洗脳する気は無いけど、ちゃんと見せてあげるわよ。同盟はこの子がとっても見たかった景色だろうしね」
前半は刺々しく、後半は優しく口にするミニス。どうやらミニスにとってハニエルは庇護の対象みたいだね。見れば置物みたいになってるハニエルの手を握って、僕に向けた事の無い穏やかな表情浮かべてるよ。ちょっと嫉妬しちゃうね?
「でしょ? まあそのために何かしてたわけでもないから、ただの頭お花畑の理想論者でしかないんだけどね。ほら、僕はお前と違って同盟の実現にまで漕ぎつけてるんだぞ? お前は三千年も生きてて何やってたの? お前の一パーセントも生きてない青二才に全てにおいて後れを取ってるのはどんな気持ち?」
「だからそういうのやめろって言ってんでしょうが!」
「うげぇ!?」
仰向けにぶっ倒れた状態でハニエルに正論を投げかけると、何とミニスちゃんが天高く飛び上がり僕の鳩尾目掛けて落下してきた。全体重と重力による加速を加えた殺人的な一撃が、僕の身体をVの字に折り曲げるっ!
とはいえ防御魔法のおかげで別に効いてるわけじゃないけどね。でもこれが無かったらたぶん上と下から色々出てたんじゃい? それかVの字じゃなくてIIの字になってたかもしれん。
「……まあ、そういうわけだから。ハニエルの事よろしくね? あとセレスの事も」
「うん、分かった! リアたちに任せて!」
「だからあんたは大人しくくたばれ」
「相変わらず辛辣だなぁ? うごおっ!」
満面の笑みで頷くリアと、ゴミを見る目で追撃の蹴りを脇腹に叩き込んでくるミニスちゃん。
本当に何でこんな蛇蝎の如く嫌われてるんだろうね? 何度も何度もたっぷりと愛してあげてるんだから、薄い本とかならすぐに好き好き大好き愛してるってならない? まだ愛され足り無いのかな?
「ほら、行くわよ? 転ばないようにゆっくりで良いからね?」
「………………」
「セレスちゃんも手を繋いで歩こうね!」
「やだもう! クルスくんったら手繋ぎエッチが好きなの? でも、あたしもそういうの大好き……!」
そうして二人はそれぞれハニエル、セレスの両名と手を繋いで歩いて行く。片や廃人みたいにぼーっとしてて、片やハートマークを乱れ飛ばしながら妄想を繰り広げてる辺り、どっちも要介護なのは一目で分かるよね。
でもさ、顔面に鉄拳食らった挙句Vの字になる勢いで腹を踏みつけられ、挙句の果てに脇腹に鋭い蹴りまで食らった僕の事は良いわけ? こっちもわりと要介護レベルの事されてない……?
会談の開始時間まで残り一時間を切った。この頃になると動き出してるのは僕らだけじゃない。兵士たちも冒険者たちも反乱軍も一般市民も、誰もが緊張と共に思い思いの動きを取ってる。
何せ聖王と魔王が顔を突き合わせ、停戦と同盟を結ぶっていう歴史的な会談がこの街で始まるんだ。どんな馬鹿だって気になってしょうがないはずだ。
『――こちらベルフェゴール。空き家で武装を整えていた反乱軍数人を抹殺した。空き家が多いせいかそこらにうようよいるぞ』
『こちらバール。兵士たちに紛れていた反乱軍の一人を消した。会談の場に立ち会う兵士や人々の中にも紛れるだろうな。注意しろ』
『こちらヴィオです。冒険者の中にも反乱軍が紛れていました。こういった手合いは周囲に悟られずに消すのがなかなか骨ですね。まあ何とか消しました』
「了解。その調子でどんどん消して行ってね。邪魔だから」
そんな中、邪魔な反乱軍を着々と排除して行ってる有能な仲間たち。ちょっと民家の陰で腹ごしらえしてる間も、ひっきりなしに通信が届いてるよ。面子が面子だからこういう仕事は皆得意そうですね……。
『こちら主の下僕で正妻候補のトルトゥ~ラァ~! 主のためにすでに七人ものゴミを片付けたよ~! いっぱい褒めてくれ~!!』
「はいはい、凄い凄い」
そして事務的な内容の通信の数々に紛れて、これでもかと私的な内容の通信も届く。テンション最高潮で薬キメてるんじゃないかと疑うくらい、興奮しっぱなしのヤバい感じのやつがね。
一瞬うげぇと思ったけど、やる気が出てるのにそれを挫くわけにも行かないし、適当に頷いておきました。
『だったらあたしの方が褒められそうだな。あたしはもう三十五人殺ったからな』
『なに~っ!? 馬鹿な、どうやってそんなに~!?』
加えてキラが勝ち誇った感じの通信を入れてくるから困る。
ていうか三十五人ってさすがに殺り過ぎじゃない? 明らかに他のメンバーから頭一つか二つくらいキルカウント飛び出してるじゃん。
「キラさん、その人数って反乱軍じゃない奴も殺してない? 別にバレなきゃ構わないけど、お仕事は忘れないようにね?」
『このクソ犬より褒めて貰えんなら考えるぜ?』
『何を~っ!?』
やんわりと注意するも、気ままな猫らしい答えが返ってくる始末。
うーん、僕を絞り尽くした事で精神的に満たされて余裕が出てきたっぽいな? 真面目にやって貰うにはあの手しか無いか。
「じゃあ代わりにミニスちゃんを褒めて可愛がるね。お仕事真面目にやってくれてるし」
『……チッ! 真面目にやりゃあいいんだろ、やりゃあ!』
『クソ~ッ、私も負けないぞ~! 一番便利な女は私だ~!!』
秘奥義、ミニスちゃんを引き合いに出す。
効果はてきめんでキラも真面目にやる気を出してくれたし、ついでにクソ犬も火が付いた感じになった。後でミニスちゃんに八つ当たりが行くかもしれないけど、まあいつもの事だし問題無いよね。そんな事より会談を無事に成功させる事の方が大事だ!
「精々ウサギ娘に負けないように頑張りな。ま、不真面目な奴らには無理だろうけど?」
『言いやがったな!? 馬鹿にしやがって……あたしの本気を見せてやるぜっ!』
『は~!? 私はいつだって真面目だが~!? その証拠をこれから主に見せてあげよ~っ!』
『扱い方を心得ているな、お前は……』
ついでに煽ると、バッチリ反応してくれた二匹の犬猫がこれでもかと気合の叫びを上げた。あとバールが感心したというか、ちょっと呆れ気味の通信を入れてきたよ。
そっか、バールくんは扱い方を知らなかったからだいぶ苦労したんだろうなぁ……まあ知っててもコイツらの場合はたぶん無駄だろうけど。腐っても僕が飼い主だからねぇ……。