三人に勝てるわけないだろ!
⋇性的描写あり
「やあ、みんな。長い間本当にご苦労さ――」
「うわあああぁあぁぁぁぁっ!! 主いいいぃぃぃぃぃいぃぃぃっ!!」
「うげぇっ!?」
両種族の王様たちがほぼ同時にハーフの街に入る直前、僕は護衛任務を全うしてくれた仲間たちをその辺の原っぱに集めて労いの言葉をかけた。
正確にはかけようとしたんだけど、血走った目で突撃してきた犬と猫に押し倒されて無理やり遮られました。主人の言葉を遮るとかなってなくない?
「あぁああぁぁぁあぁぁっ!! クンクンクンクン! スーハースーハー! ああっ、これぞ主の生のフレグランスぅ~!!」
「………………」
「み、みんな、長い間本当に、ごく――おげぇっ!?」
犬は全身舐め回す勢いで匂いを嗅いでくるし、猫は無言で殴打に近い頭突きをそこかしこにかましてくる始末。あれだね、シベリアンハスキー二匹に甘えられてるって言えば惨状が分かりやすいと思う。傍から見てるとマジで襲われてるようにしか見えないんじゃなかろうか。
「主~! 会いたかったよ、主~っ! 私の事を抱き締めてナデナデしてくれ~っ!」
「み、みんな長い間、うぐっ、本当に、ご苦労さま、あぐっ……!」
「ご苦労さまはあんたの方じゃない……?」
「ご主人様、トゥーちゃんとキラちゃんに食べられてるみたい……」
もの凄い光景にさしものミニスちゃんも哀れみの目を向けてくる。リアなんかちょっと引いてる感じだ。お前はここ二ヵ月僕と二人きりだったから、ここまで激しい反応してる理由なんて分からんだろうけどな!
「あ、あたしも、クルスくんにすりすりしたいな……?」
「グルルルルルッ……!」
「シャーッ!」
「ひゃっ!?」
セレスがちょっと危ない表情でにじり寄ってくるけど、犬猫は途端にガチの威嚇をかますのでさすがに驚いたらしい。大丈夫? 僕に会えない期間が長すぎて、知能が低下してない?
「獣人を飛び越えて獣に回帰しているな、コイツらは……」
「こちらも似たようなものだがな……」
そんな風に呆れを零すのは魔将コンビ。バールは犬猫のガチ威嚇にドン引きし、ベルは近くで乳繰り合ってる別の男女にジト目を向ける。ちなみに今日はミラちゃんの2Pキャラっていう結構珍しい姿してます。元の方はクッソビビりの蚤の心臓なのに、2Pキャラの方はむしろ不遜で自信満々だから違和感が凄い。
ていうかオリジナルの方はどこ行った? ちょっと姿が見えないんですが。そんなに僕と再会するのは嫌ですか?
「んっ、ちゅ……ヴィオ……ヴィオぉ……!」
「会いたかったよ、リリィ……!」
なお乳繰り合ってる別の男女っていうのは、執事とメイドの猟奇カップルの事。リリアナがヴィオに正面から両手両足でしがみつき、キスの嵐で甘えてるよ。そしてそれを優しく抱きしめ、髪を梳く様に撫でながら応えるヴィオ。
おかしいな、どうして僕はあんな風にならないんだろう? あっちは真っ当な恋人同士の触れ合いに見えるのに、僕は二匹のハスキーに襲われてるような状況ぞ? あるいはゾンビに群がられた哀れな人間。
「……もう仕方ないからこのまま話すよ。それで、何だっけ……そうそう、みんなご苦労さま。この二か月よく頑張ってくれたね。おかげで両種族の王様たちは無事に街に辿り着けそうだ」
「勿体ないお言葉で――んっ、むぅ……!」
「あーはいはい、お前らはそのままイチャついてて良いから。話だけ聞いてりゃそれで良いよ」
というわけで、触れ合うバカップルが一組、居所不明が一人な状況でお話を続ける。話す奴が地面に押し倒されて群がられてるせいで全然絵にならないけどね。ていうか何で誰も助けてくれないんですかね? 遠巻きに見てないでちょっとはさぁ……。
「ここまで頑張ってもらって何だけど、できればあと少しの間頑張って欲しい。むしろこれからが本番ってところ――うぐっ! だ、だからね」
「えっ、まだ続くの!? あたしもそろそろクルスくん成分を味わわないと禁断症状が出ちゃう!」
「なるほど、中毒だからこんな男に惚れてしまっているんだね」
「ああ、そういう事……」
キラに抉り込むような頭突きをされながら護衛任務の続行を伝えると、途端にセレスが絶望の面持ちで声を上げる。それに対してレーンとミニスは納得したように頷く。
しかし禁断症状だの中毒だの酷い言われようだ。僕を常習性のある薬物か何かと勘違いしてません?
「会談は三日後の午後一時から。それまでも妨害や襲撃があるだろうし、始まってからもきっとそういうのはある。だからこれまで以上に気を引き――おふっ!? ひ、引き締めて、護衛を全うして欲しい」
「うむ、了解した。つまりここからは二グループ合同だな」
「よしっ!! これで我はこのイカれたグループからようやく解き放たれ――ぐああぁっ!?」
静かに頷いたベルちゃんが、天を仰ぎ無駄に大声で喜びを露わにしたバールを蹴り飛ばす。何かすっごい勢いで飛んでったけど、あれでも真祖の吸血鬼だし再生能力も優れてるから問題無いでしょ。
ていうかバールってあんなキャラだっけ? くじ運悪くてヤベー面子ばかりのグループで二ヵ月過ごしたせいか、だいぶ崩壊してる気がするな……。
「とりあえず皆、もう少しだけ頑張ってね。ここからはさすがに僕も一緒に行動するし」
「やった! クルスくんと一緒!」
さっきまで絶望の面持ちだったセレスは、これを聞いて満面の笑みを浮かべる。どいつもこいつも単純だなぁ? まあモチベーションがあるなら何でもいいや。
「いや、その前に君にはやるべき事があるんじゃないかい?」
「えっ、やるべ――うぐっ! やるべき事?」
しかしレーンにそう指摘され、僕は頭突きされつつ首を傾げた。
やるべき事って何だろう。某ギルドマスターへのお礼参りも済ませたし、街とその周辺に仕掛けられた罠は無力化したが……?
「その発情してるアホ共の相手してやりなさいよ。あんたが飼い主なんだから」
「ああ、その通りだ。彼女らの欲求を解消してやらなければ、しばらく使い物にならなさそうだからね」
などとミニスちゃんとレーンはとんでもねぇ事を口走った。同時に僕に群がってた犬猫の瞳が妖しく輝く。獲物を見つけた空腹の獣みたいな感じに。
おいおい、冗談言うなよ。二ヵ月会えなかったせいで、元々あるかも怪しい理性がぶっ壊れたコイツらの相手をしろって? それ何て自殺?
「待って? そんなのさすがに搾り取られて死んじゃう」
「そんな間抜けな死に方したらお腹抱えて笑ってあげるわ」
「ひっどぉ……!」
慈悲を求めてミニスちゃんに縋ろうとしたら、百点満点の物凄い嘲笑を浮かべて見下ろしてくる始末。
クソぅ。二ヵ月会わなかったんだから少しは態度が軟化してるかも、とか思った僕が馬鹿だったよ。相変わらずキレッキレで好感度最底辺じゃないか。
「はあはあ……! 主~、私の身体の火照りを鎮めてくれ~……!」
「言ったよな? 絶対にブチ犯すってよぉ?」
「ちょっ!? だ、誰か助けてくれない!? このままだとマジでヤられそうなんだけど!?」
僕の服を破る勢いで脱がそうとしてくる犬猫に堪らず逃げようとする。幾ら消失で他人に認識されないようにしてるとはいえ、こんな真昼間にだだっ広い野原で乱交プレイとか高レベル過ぎでしょ。初めての時を思い出してちょっと微妙な気持ちになるし。
でも逃げられない! 見た目完全に発情してイっちゃってるのに、トゥーラのやつが不可思議な技術を使って僕の動きを妨害してる! 身体に力を込めてもそれを流され利用され、まるでビルの下敷きにされてるかの如く起き上がる事が出来ない! 何でそんな状態で体術とかは研ぎ澄まされてんの!? 性的興奮すると強くなる特異体質の家系のお方!?
「リアはずっとご主人様を独り占めしてたから、ここは譲ってあげないといけないよね!」
「まあご主人様のために頑張っていたのだから、それくらいの権利はあるのではないか?」
「………………」
リアはそんな事を言って正妻みたいなアピールするし、ベルもベルでそれくらい応えてやれ的な空気を感じる。あとよく見るとベルの背後にミラがいました。見えにくいから2Pキャラの後ろにぴったり重なるんじゃない!
こうなったらバカップルとか真祖の吸血鬼(笑)とかに頼ろうと思ったけど、何故かどっちの姿も見当たらない謎。ただ近くの草むらから妙にやらしい水音とリリアナの喘ぎ声が聞こえてくるから、バカップルは先におっぱじめてる感じですね。バールは知らね。さっきベルに蹴られて吹っ飛んでたから、大気との摩擦熱で塵になったんかな?
「くそっ、味方がいねぇ! そうだ、セレス! セレス助けて!」
「……快感に表情を歪めて悶えるクルスくん……見たいっ! あたしも混ぜて!」
こっちは助けを求めたのに、セレスは女の子がしちゃいけない感じのヤベー表情で飛び入り参加してきた! こういう時だけは犬猫も拒否せず、むしろ類稀なるコンビネーションを発揮する始末。一人が動きを封じてる間にどんどん脱がせてくるぅ!? そして気が付けば他の奴らがいない! さては逃げたな!?
「チクショウ! どいつもこいつも発情しやがってぇ!」
三人に勝てるわけもなく、僕はそのまま真昼間から野外での乱交プレイを強いられました。
これやっぱりちょくちょく顔を合わせてガス抜きしてた方が良かったよな、マジで……。