表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
424/527

護衛の道中3

⋇前半レーン視点、後半バール視点

「……やれやれ、ようやくドゥーベが見えて来たね」


 実に遅々とした歩みで進む聖王の護衛を続け二週間。遂に聖王一行は道中にある一つ目の街、夕焼けに染まるドゥーベを目前としていた。これまでにも散発的に襲撃があったものの、事前にスパイから情報を仕入れているので特に問題も無く乗り越える事が出来た。

 問題があるとすればここまでの時間か。普通の乗り合い馬車ならば七日弱で辿り着けるはずだというのに、その倍の日数がかかっている。反乱軍の奇襲を警戒し、なおかつ聖王に疲労や負担を与えないように頻繁に休憩をしているからなのだろうが、出来ればもう少しペースを上げて欲しい所だ。


「二週間かけて一つ目の街って……先はだいぶ長そうね……」

「こんなペースじゃ会談の場所に辿り着くまで一ヵ月以上かかるよ。ううっ、早くクルスくんに会いたいよぉ!」

「分かります。僕も早くリリアナに会いたいです。あの小さくて暖かい身体を、壊れるほどに激しく抱きしめたいです」


 あまりにも遅い行進に他の者たちもかなり不満そうだ。ミニスは遠い目をしているし、セレスは涙目で愛を叫んでいる。ヴィオは普段通りに微笑を浮かべていて一見まともに見えるが、言葉の内容がかなり過激で一番性質が悪い。

 そしてミラは……何かむしろ機嫌が良さそうだ。特に何も口にしていないが、不安を忘れたように柔らかい笑みを浮かべ佇んでいる。彼女に関してはこの護衛任務がずっと続けば良いと思っているかもしれないな……。


「で、これからどうするの? 街の中に入っても護衛が必要な感じ?」

「スパイから盗聴した情報によると、聖王が泊まる宿に対して襲撃の計画があるそうだ。深夜、宿の下を通る下水道で複数の爆発物を一斉に起爆。宿を崩落させた後に地上から魔法や火矢などで雨あられと攻撃を叩き込む、との事だ」

「随分派手な暗殺ね……」


 これにはミニスも少々苦い顔をしてウサミミを曲げる。

 暗殺と言うかもう普通に立派な戦争行為だと思うが、元より反乱軍は誇りと言う名の無価値な物に殉ずる者たちの集まり。例えどれほどの犠牲を払おうとも、魔獣族との同盟を阻止できればそれで良いのだろう。


「地上部隊の方はともかく、地下の爆発物は私たちが何とかしないといけないね。しかしあまり派手にやるとスパイから情報を入手している事実に気が付かれる可能性もある。今後の展開はひとまず仕掛けられている爆発物の確認をしてから考えよう」

「あ、うん……」

「何だい? 何か問題でもあったかな?」

「いや、問題は無いっていうか……理路整然としてて特に問題もおふざけも無いのが逆に問題みたいに思えるっていうか……」

「……しっかりしたまえ。異常な奴らに思考を侵食されているぞ」

「うわっ、最悪……」


 まともなのが異常のように感じている末期的な思考をしてしまっていたミニスだが、私がそれを指摘すると今にも吐きそうなくらいに顔を青くしていた。まあ自分の中の常識や倫理観が塗り潰されて行くなど、ある意味では身体を穢されるよりも酷い精神の凌辱だ。彼女の反応も仕方ない。


「あ、あの……私が、爆発物を確認してきますか……?」

「いや、それは私が確認してくる。君たちは王や反乱軍の様子を監視しておいてくれ。交代で休息を取っても構わないよ」

「わ、分かりました……」


 珍しくも自分から提案してくるミラに対し、そう伝えて肩を叩き労ってやる。

 いつもはよほどの事が無い限り自分から言葉を発する事など無い引っ込み思案な性格だというのに、自ら提案までしてくるとは……どうやらこの護衛任務、彼女にとっては息抜きどころか精神の療養になっている節があるな。屋敷に戻れば元通りになってしまうかもしれないが。


「了解しました。では聖王の監視はしばし私とミラが行いますので、ミニス奥様とセレステル奥様はどうぞ休息をお取りください」

「その呼び方やめてマジで」

「奥様……良い響きぃ……!」


 奥様と呼ばれて余計に顔を青くするミニスと、対照的に頬をバラ色に染めて嬉しそうに身体をくねらせるセレス。

 クルスの仲間という名の異常者の集団とは思えないほど、和気藹々とした光景である。正直私もこれが現実の光景なのか少し疑ってしまったくらいだ。


「……こちらは比較的平和だが、あちらはそうでもないだろうな」


 平和な現実という幸福を噛みしめつつ、私は貧乏くじを引いてしまった彼の行く末に思いを馳せるのであった。





「――ハハハハハハハッ! どうだ、魔王! 気持ち良く眠っている所を爆炎と衝撃で無理やりに目覚めさせられるのはっ! 大層素敵な目覚ましだろう!」


 ベルフェゴール(化物)の哄笑が轟き、空から隕石染みた無数の火球が降り注ぐ。それは護衛という言葉が欠片も当てはまらない、明らかな殺意のある攻撃だった。

 ついに最初の街へと辿り着き、しばしの休息を取る事となった魔王の一行。それ自体は別に何も不思議ではない。魔王が高級な宿を貸し切りにし、贅沢な休息を取る事も立場や権力を考えれば当然の事だ。

 しかし裏で護衛をしているチームの一員であるベルフェゴールが、自らその宿に対して攻撃を仕掛けているのは、どう考えても異常な事態だった。


「いや~、何だか猛烈に私怨がこもっているね~?」

「夜の街に赤い炎が綺麗です」


 しかも一撃で済むわけでも無く、絶えず火球が宿に降り注ぐ。すでに建物は崩落し、周囲に火の手が上がり無関係の所で火事が広がっている始末。

 にも拘わらずこの惨状を引き起こした張本人は実に上機嫌に笑い、次なる火球を天より降らせていた。


「お、おい! あれは止めなくて良いのか!?」

「ん~? そう思うなら自分で止めれば良いんじゃないかい~?」

「我がアイツを止められると思っているのか!? 一睨みされただけで膝が笑ってしまうのだぞ!?」

「断言する事かい~? 君は随分情けない魔将だね~……」


 炸裂する火球と建造物が倒壊する音に負けぬよう声を荒げて問うが、トルトゥーラは月見でもしているような涼しい顔で立ち昇る火柱を眺めている。挙句の果てには膝が笑って立っているのもやっとな我に、哀れみの眼差しを向けてくる始末。


「心配しなくても別に止める必要は無いです。ちゃんと手加減されてますし、この程度なら魔王は死なないです」

「そ~そ~。それにこの街で魔王を襲撃する予定だった奴らは全て潰してしまったからね~。こうやって自作自演でも脅威を与えて危機感を煽った方が賢いと思うよ~?」


 リリアナも澄ました顔でそう加え、二人で夜闇を赤く染め上げる炎を眺めて一息吐く始末。

 とはいえ口にしている事は尤もだ。腐っても魔王なのだからこの程度で死ぬわけはないし、この街で襲撃を予定していた反乱軍は全て無残な死を遂げてしまったから脅威が存在しない。だから我らが脅威を与え、魔王の軍勢が決して油断しないよう刺激を与えているというのも分かる。


「私を幽閉した罪、今代の魔王である貴様が贖え! フハハハハハハッ!!」

「だからといってこれはどうかと思うが!?」


 しかしどう見ても過剰なのは一目瞭然だった。ミニスの姿形で憎悪と歓喜に満ちた表情を浮かべ、絶えず魔法を叩き込み続けるベルフェゴールの姿は単なる復讐に酔っているとしか思えない。いや、どちらかと言えば八つ当たりか。

 すでに宿が完全に瓦礫の山へと変貌し燃え上がっているというのに、未だ火球を執拗に叩き込み続けている。いかに反乱軍とてここまでの殺意は見せないだろう。


「クッ、コイツらと話していても埒が明かん! そうだ、キラ! キラ、お前はどう思う!?」

「キラならどこかその辺で寝てるよ~?」

「自由です」

「えぇい、どいつもこいつもっ……!」


 仲間たちがまるで役に立たず、我は苛立ちのあまり頭痛を覚え頭を抱えてしまう。

 こうなったらベルフェゴール本人に直談判するしか手は無いが、それを考えると膝どころか全身が震えて崩れ落ちそうになる。もしかすると一番の役立たずは我なのでは……?


「お? 何やら魔王が叫びながら這い出て来たぞ? あれが魔獣族たちを統べる王の姿とは、心底笑えるな? どれ、その情けない姿に免じて私が延焼を鎮めてやろう――グラン・キャスケイド」


 ベルフェゴールがそう口にした途端、火球の礫が途切れた。しかし代わりに降り注いだのは常軌を逸した量の水の塊。まるで広大な湖の水がいきなり上空に転移してきたかのように、一瞬で滝が形成され魔王の立っていた瓦礫の山を派手に打ち据えた。

 火事は鎮火したが代わりに大量の水が全てを押し流し、無関係の建物すら飲み込み破壊し広がって行く。


「ハハハハハッ! 見ろ、あの間抜けな顔で水に流されていく無様な王の姿を! あまりにも滑稽で腹が捩れそうだ! ハハハハハハハッ!」

「お見事~! ここまでやればきっと魔王も警戒を欠かさないはずさ~!」

「何かトイレを彷彿とする光景です」


 そんな天災染みた光景を作り出した張本人は上機嫌に笑っており、まるで護衛という使命を完全に忘れ去ったかのよう。見れば他の二人もこの惨状を咎めるどころか、拍手して盛り上がっている始末。残りの一人に関してはそもそもどこにいるのかすら分からない。


「……あちらのグループに……入りたかった……!」


 そんな終わり切ったグループの惨状に、我は思わず心の底からの願望を零してしまった。

 何故だか目頭が熱くなって視界が滲んでいるが、きっとこれは目にゴミが入ったのだろう。そういう事に、しておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ