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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
422/527

護衛の道中

⋇前半レーン視点、後半バール視点

⋇残酷描写あり

「ふむ……」


 聖王を乗せた馬車と、その護衛の兵士たちが形成する長蛇の列が進む中、私達護衛チームは空を自在に飛び追従していた。

 無論これもクルスから渡された魔道具に秘められた魔法の一つ。自由自在に空を飛び回る事が出来る夢の魔法だ。使用魔力は全てクルスが負担しているので、何の気兼ねも不安も無く空を駆ける事が出来ている。ここが屋外で天気も快晴という事もあって、何物にも邪魔されず宙を舞う事が出来るのは実に気持ちの良い時間だった。腕輪の力を地下の闘技場で試した時には、少々熱が入り過ぎて天井に頭からぶつかってしまったのは苦い思い出だ。


「あの……ちょっといい?」

「ん、何だい?」


 そんな風に緩やかに風を切って飛翔していると、同じように私の隣を舞うミニスが声をかけてくる。視線を向けると、何故か呆れ気味の目を向けられた。


「さすがにこの状況で読書は無いんじゃない? 万が一何かあったらどうすんのよ」

「大丈夫さ、さすがにこんな場所で襲撃を図るような奴はいない。まだ王都が見える距離にある上、待ち伏せに使えるような構造物も自然物も見当たらない草原だ。しばらくは気を抜いていても問題無いよ」

「確かにそうかもしれないけど……」


 どうやら私が読書していたのがお気に召さなかったらしい。護衛任務の真っ最中だというのに護衛対象そっちのけで読書をしている者がいれば、確かに不安に思うのも仕方がないだろう。

 とはいえここまで気を抜ける理由もしっかりあるので、やめるつもりは毛頭無いが。


「安心してくれ、これでも真面目に任務は果たすさ。それともやはり聖人族である私は信用できないかい?」

「種族は正直どうでも良いわ。それにあんたの事は仲間内だと一番信頼してるし。ただあんたも魔法が絡むとおかしくなるから……」


 興味本位でそんな問いを投げかけると、初めて会った時の反応や言葉が信じられないような答えが返ってくる。

 あの時のミニスは国の命令で徴兵され無理やりこちらの国に送り込まれ、破壊活動や聖人族の殺害などを強いられていたんだったか。結局彼女だけが助かりクルスの支配下に置かれたのは、果たして不幸だったのか幸運だったのか。


「フッ。聖人族への敵意を剥き出しにしていた君が、随分丸くなったものだね」

「そりゃあ日々あんな奴らと接してたら、種族どうこうなんてどうでもよくなるわよ……」

「フフッ、尤もな話だ――おっと、通信が入ったようだね」


 若干死んだ目をするミニスに思わず苦笑を零すと、そのタイミングで腕輪が甲高い音を発してチカチカと光を放った。

 これは他の腕輪の着用者から通信が入った合図だ。恐らく先触れに出していた者たちからの通信だろう。

 しかし遠隔との通信に加え、飛行や転移の他にもあらん限りの便利かつ強力な魔法を込められたこの腕輪……是非欲しい。あまりそういう真似はしたくないが、煽情的な衣装を身に纏ってクルスに性的な奉仕でもすれば回収は免れるだろうか? うむ、いけるかもしれないな。これは候補に入れておこう。


「こちらレーンカルナ。何かあったかい?」

『レーンさんの読み通り、待ち伏せしてる人たちがいたよ! 森の中で罠を張って、王様が通るのを待ち構えてる感じ!』

『人数はおよそ五十人強といった所ですね。全員が武装していますし、爆弾や弓矢なども準備しているようです。森へ狩りに来たハンターや冒険者――という言い訳は通じませんね』


 通信機から返ってきたのは、セレスとヴィオによる罠と待ち伏せの報告。道中の安全確認のために先遣隊として送り込んだのが功を奏したようだ。人数とその本気度合からして、どうしても魔獣族と同盟など結ばせたくない輩は一定数いるらしい。全く、嘆かわしい事だ。


「まあそこを通るのは分かっているのだから、待ち伏せは当然だね。加えて罠を仕掛けないなどあり得ない」

『だよね! それでどうしよっか。みんな片付けちゃった方が良いかな? 殺人はさすがにちょっと気が引けるけど、クルスくんのためなら、あたし……!』

「ふむ……」


 嬉々として殺人への意気込みを放つ言葉に多少げんなりしつつも、私はしばし考える。

 彼ら待ち伏せの聖人族を片付ける事自体は非常に容易だ。クルスも良く使う自分の姿や気配などを完全に隠す魔法が腕輪のおかげで使えているので、彼らは私たちの事を認識できない。一人ずつ首を刎ねていく事すら可能だろう。


「いや、良い。しばらくは放置していてくれ」

『えっ、良いの!?』


 しかし私はあえて彼らを見逃す事にした。これにはセレスも驚きの声を返してくる。

 とはいえ無論、哀れみの気持ちがあって見逃すわけではない。


「ああ。予め全ての脅威を排除してしまうと、彼らの危機感やそれを察知する能力が育たないからね。この旅はそれなりに長丁場になる。それで油断して王が死ぬような結末になっては元も子もない。待ち伏せは彼らに対処させ、私たちはそれを影ながらサポートするとしよう」


 何もかも私たちにおんぶに抱っこでは、彼らの成長が見られない。かなり面倒になるが可能な限り彼ら自身に対処させて成長を促し、ここぞという所で内密に介入するのが一番賢いやり方だろう。


『了解っ! それじゃああたしたちはここで監視してればいいかな?』

「そうだね。セレス、君はそのまま待ち伏せしている聖人族たちの監視を頼む。ヴィオは一旦こちらへ戻って来てくれ」

『了解しました。ではこの場はお任せしますね、セレステル奥様』

『奥様……! 良い響きぃ!』


 無駄に感極まった声が聞こえて来て、再度げんなりしたので通信を打ち切る。

 読書をしていてもきちんとやるべき事はやっている。それを分かってくれたのか、隣を見ればミニスが若干ホッとした表情で胸を撫で下ろしていた。


「これで真面目にやっている事は理解してくれたかい?」

「うん、良く分かったわ。でも、わざわざあの執事を呼び寄せたのは何で?」

「それはもちろん、私の代わりに下の彼らを監視してもらうためだが?」


 首を傾げるミニスに対し、率直な答えを返す。

 残りのチームメンバーであるミラは先遣隊とは逆に後ろの方を監視させているため、人手が少し足りないのだ。待ち伏せとは逆に背後から追いかけ仕掛けてくる集団がいないとは限らないのだから、背後の警戒もしなくてはならない。

 そのためヴィオがここに戻って来てくれれば、王の軍勢をミニスと二人がかりで監視してもらい、私はゆっくり読書に専念できるというわけである。今読んでいるのは魔獣族が作り上げた様々な魔法を記した魔術書、その最新版。是非ともこれは今日の内に読破したかった。


「あ、そう……」


 しかし何故か、ミニスの表情が呆れに曇る。

 おかしい。しっかりと護衛任務を全うしているというのに、何故そんな反応をする……?






「……これは悪夢か?」


 我は目の前の光景に思わずそんな呟きを零した。

 険しい山岳地帯で崖の上に立っているという現状は、まるでどこまでも続く荒野を前にしたような一種の寂寥感を感じる光景だ。しかし悪夢と言うほどではない。我が立ち眩みを覚えてしまうほどに悍ましい光景は、自然の風景ではなくもっと別の物が原因だった。


「ひいいぃぃっ!? 何だ、何が起きてるんだ!?」

「主の覇道を阻むゴミ共め~! くたばれ~っ!!」

「ごぱぁっ!?」


 訳も分からず右往左往する魔獣族の身体が、トルトゥーラの拳の一撃を受けて爆発四散し肉片へと変わる。飛び散る血肉の欠片を浴びた他の魔獣族たちはあまりにも凄惨な光景に恐慌をきたし、悲鳴を上げて逃げ惑う。


「た、助けてくれええぇぇぇぇっ!!」

「ハハハハッ! オラオラ、さっさと逃げねぇと芋虫になるぜぇ!?」

「あ、ぎっ!? アアアアァアァァァァッ!!」


 しかしそんな彼らにキラが疾風の如く迫り、鋭い鉤爪で手足を斬り落としていく。噴き出す鮮血、転がる手足。苦痛に絶叫を上げ、文字通り芋虫のように悶え苦しむ者たち。

 恐慌に更なる拍車がかかり、中には救いを求めて崖から飛び降りようとする者すら出てくる始末。


「こちらの姿が認識できないのでやりたい放題です。あ、一匹たりとも逃がさないですよ?」


 だがリリアナがそれを許さない。飛び降りようとする者たちに風の魔法を放ち無理やりこちらへ側へと引き戻す。悪夢へと行き摺り戻された哀れな者たちは、トルトゥーラたちにトドメを刺されて肉片と化す。

 魔獣族たちが恐慌をきたしている最大の理由は、リリアナの言う通りこちらの姿が認識できないせいだ。クルスから渡された腕輪によって強力な魔法を際限なく使用できるため、我らはそれによって完全に姿や気配、匂いに至るまでを隠蔽しているのだ。

 そのため彼らから見れば、透明な化物が自分たちを襲っているように見えるだろう。何の前触れもなく手足が斬り裂かれ、隣に立っていた者が突然爆発四散して千切れ飛ぶなど悪夢でしかない。

 崖の上は鮮やかな赤に染め上げられ、所々に肉片や死体が転がった極めて悍ましい場と化していた。さながら血の海で鼻を衝く血臭に眩暈がするほどであり、血を啜る吸血鬼であるはずの我が忌避感を覚えてしまうほどに。


「吐き気がしてきた……」

「おい、貴様何を休んでいる。やる気が無いならせめて死体の処理でもしろ。死体をしまうのは得意だろう?」


 膝を付き吐き気に悶える我に対し、情け容赦の無い言葉を浴びせるのは本物の化物、ベルフェゴール。足元で悶える魔獣族の頭部を踏み潰し脳みそをぶちまけながら、我に対して絶対零度の視線を向けてきている。


「その……殲滅してしまっていいのか? もっとこう、他にすべき事もあったのではないか?」

「あ? 私の決定に口答えするつもりか? しかも実行段階に移ってからだと? ふざけているのか?」

「いや、そうではない……ないです……」


 明確な殺意と敵意を向けられ、震え上がりながら必死に否定する。

 とはいえ言い出せなかっただけで、心の中ではずっと疑問を感じていた。今奴らが行っているのは、魔王の乗る馬車が通る道の安全確保。この渓谷を通る魔王を狙うためか、崖の上に同盟反対派の魔獣族が大勢集っていたのだ。武装し、罠を張り、武力行使を前面に押し出して。

 幾ら話し合いの余地がなさそうだとしても、さすがに一人も残さず排除するのは、それもここまで惨いやり方なのはどうかと思うのだが……。


「……ふん、まあ良い。貴様が何を心配しているのかは知らんが、捕虜なら数人すでに確保している。故にコイツらを生かしておく理由はどこにもない。停戦や同盟に反対し革命を起こそうとしている事はもちろん、ご主人様の目的を妨害するなど許されるものではないからな」


 縮こまって震え上がる我を冷たく見つめ吐き捨てたかと思えば、クルスへの揺るぎない忠誠心を見せつけるベルフェゴール。

 そもそもの話、コイツが素直に魔王を護衛している事がおかしいのだ。今代の魔王ではないとはいえ、ベルフェゴールを地下に幽閉し魔力を絞り上げていたのは他ならぬ魔王。にも拘わらずその恨みと憤りを抑え込み、ただクルスの命令というだけで魔王を護衛するとは……。


「……随分とクルスに入れ込んでいるのだな。まさかお前ほどの存在が、たった一人の人間に嬉々として従い尽くすとは思いもしなかったぞ」

「貴様もご主人様より恩恵を賜っておきながら、どの口でそのような事を抜かすか。貴様のメイドらを皆食い殺してやろうか? 私は死肉であろうが何でも喰らえるぞ?」

「……すまん」


 この話題ならまともに会話できるかと期待したのだが、どうやら考えが甘かったらしい。蛇蝎の如く嫌われている我はただただ縮こまって謝罪する他に無く、恐怖と自分への情けなさに涙が零れそうだった。


「罰として、魔王がここを通る際には貴様が罠を起動し攻撃を仕掛けろ。安全な旅だと油断して貰っては困るからな。たっぷり危機感を煽ってやれ」

「ああ……」


 そうして我に仕事を押し付けたベルフェゴールは、周囲に落ちていた魔獣族の頭部を拾うと大口で食らい付き貪り始めた。頭蓋骨を菓子のような気安さで噛み砕き、まるで我に感じた怒りを発散するように。

 百歩譲ってその辺の死体をやけ食いするのも、我に仕事を押し付けるのも構わない。けれどミニスの外見で死体を貪るのは、彼女を見る目が変わってしまいそうだからやめてくれ……。

 分かりやすい天国と地獄。バールのストレスと心労がマッハで加速する……!

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