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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談
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幸福と不幸

⋇レーン視点

⋇聖人族の国側

「ここに来るのは久しぶりだね……」


 聖人族の国の首都、その見た目だけは荘厳な王城の威容を遠目に眺め、私は思わず感慨に耽る。

 私達聖人族の王――聖王を護衛するチームは、首都を囲む外壁の上で眼下の街並みを見下ろしていた。この場に辿り着いたのはもちろん、クルス謹製の魔道具の力だ。今回の任務を遂行するにあたって魔道具の腕輪を持っていない者は新規に渡され、すでに持っている者はアップグレードされ様々な魔法を扱えるようになったのだ。その一つが転移の魔法だ。

 無論他にも様々な魔法を扱えるようになっており、受け取ってから数時間は練習と称して使ってみたほどだ。護衛任務が終わったら回収すると言っていたので、何とかしてこの腕輪を保持できないか悩みものである。

 

「へー、ここが聖人族の国かぁ。あっちと違って何か凄くのどかな感じだね?」

「そうですね。人間と天使は獣人よりも身体能力や生存能力に劣るので、安全に過ごせるように環境の改善にも力を入れているのでしょう」


 そんな風に頭を悩ませる私の傍らで、明るく朗らかな声と丁寧な口調の声が上がる。

 無論それらは私と同じ、聖王を護衛するチームの一員。少し前に二重の意味でクルスの虜となった、セレステルという悪魔の少女。そして執事兼地下牢の看守として働く犬獣人のヴィオだ。

 二人は初めて見るであろう聖人族の首都の街並みを眺め、感嘆と驚愕の吐息を零していた。特にセレスは熱い視線で街並みを観察している。意外と種族の文化などに興味があるのだろうか?


「そっかぁ。クルスくんのために頑張るつもりだけど、これだけ平和で緑溢れた感じの光景だと、ちょっとピクニック気分になっちゃうなぁ。あーあ、あたしもクルスくんとお屋敷で二人きりの甘い日々を過ごしたかったなぁ……」


 違った。どうやらクルスとの逢瀬を妄想しているだけだったらしい。未知の文化を前にして男の事しか頭に無いとは、相当彼に熱を上げているな……。


「あんなクズと二人きりで過ごしたいとか、とんでもないド変態ね……」


 などとげんなりした声を零すのは、つい先ほどまでは上機嫌だったミニス。蛇蝎の如くクルスを嫌っている彼女としては、彼を心の底から愛している女性の事が理解できず不気味なのだろう。実際私も理解できない。


「まあ趣味嗜好は人ぞれぞれだ。それに他の者たちに比べれば可愛い方じゃないかい?」

「それもそうね。クソ猫とかクソ犬に比べれば微笑ましいくらいよ」


 とりあえずそんな風に言葉をかけると、ミニスははたと気付いたように表情を明るくした。そうして改めてこちらの班のメンバーに目をやり、その異常性の少なさを再認識したのだろう。早々見たことが無いほどに頬を緩め、弾けんばかりの笑顔を浮かべた。


「それにしても、本っ当に良かった! 比較的まともな奴が集まったグループで! 女神様に感謝! ありがとうございますっ!」

「どうやらくじ運だけは良かったようだね、君は」


 喜びのあまり飛び跳ねたかと思えば、どことも知れぬ方向へ祈りを捧げ始めるミニス。出会った事も無い女神に祈るとは、何だか最近彼女もだいぶおかしくなってきたような気がする。あるいは信仰と依存の対象を見つけなければ狂気に陥ってしまいそうなほどに追い詰められているのか……。


「しかし、逆にとりわけ危ない連中が集中したあっちのグループは酷い事になっていそうだね」

「それは……まあ、うん……冥福を祈るしか無いわね……」


 狂人が集中したグループに放り込まれた可哀そうな彼の事を哀れに思い、せめて幸福が訪れる事を二人で祈る。

 こちらにも負けず劣らず狂気に陥っている執事がいるものの、彼は意外と外面が良くあまり自身の狂気を見せないのであちらとは比べるべくも無かった。


「ともかく、こちらはこちらの仕事を果たそう。そろそろ聖王たちの馬車も出発するようだし、私たちも出発だ。全員、準備は良いかい?」

「もちろん! クルスくんのために頑張るよ! 終わったらいっぱい褒めて貰うんだから!」

「はい、ご主人様のために身命を賭して尽くします」

「まあ私も頑張るわ。世界が平和な方が、レキたちも安心して暮らせるしね」

「が、頑張り、ます……」


 声をかけると全員無意味に反発する事も無く、程度の差はあれ意気込みを見せてくれた。私がリーダーのように声掛けした事に不満を示す事も無い。極めて普通で狂気を感じられない反応だった。

 いや、というか一人足りないと思ったらミラもいたんだったね。返答が一人分多いと思ったら、どうやら認識の外にいたようだ。彼女もクルスがいない場所に来れたせいか、比較的明るめな表情をしているな。おどおどとした雰囲気は消えていないが。


「結構。全員の意志が統一されていて諍いも無く、涙が出そうなくらいに安心できるメンバーだね。些か物足りなさを感じるくらいだよ」

「あんたもだいぶ毒されてない……?」


 ミニスに控えめにツッコミを入れられ、思わず私は自分も汚染されてきている事に気付いてしまった。そうか、私もクルスたちに毒されてきているのか……それを嫌だと思う辺り、私も比較的まともな方なのかもしれないな……。






 煌々と忌まわしい日の光が肌を照り付けてくる。本来なら音を立てて皮膚が焼け爛れる所だが、クルスの魔法によってその弱点を克服した我には日の光など通用しない。多少の煩わしさはあれど明るい昼間の世界を垣間見る事が出来るという未知の探求に、我の心は相応に踊っていた。


「さて。これからすべき事だが、まず我らは――」

「何をリーダー面して仕切っているのだ、コウモリ風情が。この私を差し置いて命令するとは、随分偉くなったものだな?」

「……すまん」


 しかしクルスの屋敷を魔王護衛チーム全員で出発した我は、考え得る限り最悪の居心地であった。

 少し発言をしただけでミニスの姿をしたベルフェゴールに殺意のこもった鋭い目を向けられ、強制的に黙らされてしまう。もうコイツと同じチームというだけで我は恐怖で落ち着かん。せめてコイツだけでも別のチームであれば、まだマシに思えたかもしれんが……。


「そういえばリーダーを決めていなかったね~。一応決めておいた方が良いんじゃないかい~? まだ魔王たちが出発するまでに時間はある感じだしね~」


 ベルフェゴールの発言にふと気付いたような発言をするのは、頭のおかしい犬獣人であるトルトゥーラ。被虐趣味と嗜虐趣味を合わせ持つ高レベルの変態だ。

 というかリーダー云々は正に我が口にしようとした事なのだが……。


「リーダーだとぉ? あたしは指図なんか受けねぇぞ」


 彼女の言葉に心底嫌そうに言い放つのは、こちらも異常性では引けを取らない猫獣人のキラ。生粋の連続殺人鬼であり、殺害した者の眼球を摘出して瓶詰めにし、コレクションするのが趣味の真正の異常者だ。

 どうやらクルス以外には従いたくないようで、リーダーに従う事に強い拒絶を示している。あの男は良くこの二匹を従えていられるな……。


「まあまあ。そこは気持ちを抑えて、愛する人のために頑張るです。そうすればきっと、いっぱい褒めてくれるですよ」

「……別に愛してるってわけじゃねぇが、まあ今回は従ってやるか」


 そんなキラを嗜めたのは、この中では唯一と言って良いまともな人材。メイドとしてクルスの屋敷で働く兎獣人の少女、リリアナだ。

 とはいえ話に聞く限り、コイツもコイツで異常なのは否定できない。噂によると恋人である執事のヴィオに身体を捧げ、夜な夜な拷問を嬉々として受け入れているとか……それでも他の者たちに比べるとマシに思えてしまう辺り、このチームのメンバーの異常性は突出している。

 どうして我はくじ引きでこのような失敗をしてしまったのだろう。運か。運が無かったのか。


「よし! じゃあリーダーは私という事で決定だ~!!」

「あ?」


 朗らかに宣言したトルトゥーラの言葉にキラが怒りと不満を露わにし、早速一触即発の空気が漂い始める。まだ屋敷の庭から出ていないのにこの状況だと……?


「待て。よく考えるのだ、二人とも。リーダーとは責任を負う立場だ。つまり私たちがこの任務に失敗すると、その罰を一身に受ける事となる。ご主人様の事だから連帯責任で全員纏めて罰を与えてきそうだが、その場合でも一番罰が重そうなのはリーダーだろう?」

「ふ~む、確かに~」

「まあそうなるだろうな」

「間違いないです」

「うむ、そ――」

「そしてこちらのチームの面々は、控えめに言って協調性に著しく欠けている。協力しなければならないこの任務に臨むというのにな? なので私たちは失敗する可能性が高い。そういった理由から、リーダーという立場は誉れあるものではなく、むしろ貧乏くじを引く立場といえるだろう」


 仲裁に入ったベルフェゴールの言葉に頷こうとすると、明らかに意図して被せてきたようなタイミングで続ける。

 コイツが我にばかり当たりが強いのは何とかならんだろうか……ならんだろうな……。


「確かにあんまそそられねぇな、そりゃ」

「ごめん被りたいです」

「じゃあやっぱり私がリーダーだ~! 主に罰を与えて貰えるなんてご褒美じゃないか~!!」


 化物の論理的な推測に猫と兎がリーダーを拒絶するも、被虐趣味のある犬は先ほどよりも熱烈に志願する始末。尻尾を振って瞳を輝かせ、無駄に庭中を駆け回っている。


「ご主人様の事だから、貴様にとっても辛い仕打ちを用意するはずだぞ。向こう一か月に渡って貴様を抱かず、貴様の前でミニスを抱くとかな」

「ぐああああぁあぁぁあぁあぁあ~っ!?」


 活力の塊とも思えるトルトゥーラだったが、ベルフェゴールの無慈悲な指摘を受けて血を吐いて倒れた。いや、実際には吐いていないがそんな風に思える絶叫だったな。コイツもコイツでクルスに想いを寄せすぎだろう……。


「まあそういうわけで、リーダーを決めるとしても本当のリーダーと名目上のリーダーを決めた方が良いだろう。名目上のリーダーは失敗した時のスケープゴートになって貰う、ただの捨て駒だな」

「捨て駒か……」

「ですか」

「わぅ~ん。なるほど~?」


 そして全員の目が我に向く。さも愉快と言いたげに歪んでいるベルフェゴールの目が、面白がるように妖しく光るキラの眼球が、特に興味も慈悲も無さそうなリリアナの瞳が、便利な掃除道具でも見つけたようなトルトゥーラの眼が。

 どうやら我は責任のみを押し付けられる名目上のリーダーにされてしまうらしい。無論断固拒否したいところだが、到底その権利があるとは到底思えなかった。もう嫌だ、早く地下の我の住居に帰りたい……。

⋇チーム分けは以下の通りとなっております。


●Aチーム(聖人族の国側)

レーン、ミニス、ミラ、ヴィオ、セレス


●Bチーム(魔獣族の国側)

キラ、トゥーラ、リリアナ、ベル、バール

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