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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第15章:同盟会談

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護衛ミッション開始直前

「さて。そろそろ出発の時間なわけだけど、みんな準備は良い感じかな?」


 ついに両種族の王様が首都を旅立つその直前、僕は屋敷のリビングに仲間たちを集めて最終確認を始めた。

 ちなみに偶然なのか意図的なのか、両種族の王様は同日のほぼ同時刻に出発するっぽい。まあたぶん意図的だろうな。お互いに同じタイミングで出発する事で、変な策謀とかは抜きにしようって感じなんでしょ。


「無論だ。一体どれだけ長い間、この時を待っていたと思っている?」

「もちろん、いつでも大丈夫です。ご主人様のため、絶対に今回の両種族の会談は無事に成功させて見せます」

「贖罪と恩返しのために頑張るです。期待しててくださいですよ」

「魔王を守らねばいけないなど正直不愉快だが、ご主人様の命令ならば仕方ない。非常に不本意だが従うとしよう」

「が、頑張り、ます……!」


 普段は無感情な顔にちょっとやる気を浮かべるレーン。ボクに対する忠誠心が高いから凄い頼りになる事を言う執事とメイドの猟奇カップル。ミニスちゃんの顔で何かよく見るすっごい嫌そうな表情をして頷くベルと、相変わらず僕が怖いのか青ざめた顔で必死に笑顔を浮かべるミラ。

 うん。コイツらは良い感じだね。コイツらは……。


「帰ってきたらブチ犯す。覚悟しとけ」

「主、主~っ! せめて、せめて最後にキッスを!! 脳みそが溶けるほどに熱いベ~ゼを~っ!!」

「あ、あたしも、ちょっとだけ良いかな? それとちょっとだけクルスくんの匂い、嗅がせてくれないかな? 良いよね? ね!?」

「お前らはよぉ……」


 飛び切り駄目な三人衆があまりにも救い難いから、最早呆れて二の句が継げなくなる。

 殺人猫はもう獲物を狙う鋭い眼光を向けて来てるし、馬鹿犬は唇を突き出して迫って来るし、セレスはちょっとイっちゃった感じの表情でゾンビみたいににじり寄ってくる始末。

 他二人はともかく、セレスはもうちょっとマシな子だと思ってたんだけどなぁ? 何か馬鹿が増えた感じがする……。


「……それで、お前らは?」


 気持ちの悪いキス顔で迫ってくるトゥーラを右手で押さえ、鼻息を荒くしながら寄ってくるセレスを左手で押さえつけつつ、残りの面子に声をかける。

 この面子だと残りはまともなはずなんだけど、何かそいつらも微妙に様子がおかしいんだよね。


「あははっ。もちろん良いに決まってるじゃない。今の私は女神様が見守ってくれてるんだし、絶好調よ!」

「ちょっとキャラ変わったね、君……」


 朗らかに笑いながら上機嫌で答えるのはミニスちゃん。ぶっちゃけこんな風に笑ってる所、数えるくらいしか見たこと無いな? 一緒にデートしてて僕が犬のフンを踏んじゃった時よりも笑ってる感じだ。

 まあそれも当然と言えば当然。何故ならミニスはグループ分けで滅茶苦茶良い感じの結果になったから。それこそ女神様が見守ってくれている、っていう発言も納得できるくらいにね。まあ駄女神様は目を逸らしてるから見てないはずなんだが。


「……で? そこの吸血鬼さんは」

「………………」


 ただし誰かの幸せは誰かの不幸。ミニスが幸運を手にした事でその煽りをもろに食らった人――もとい真祖の吸血鬼バールが、この場で酷く陰気な空気を垂れ流してた。

 何か魂を抜き取られたみたいな感情を失った目をしてるのに、口元だけ半笑いだから余計に痛々しい。吸血鬼っていうよりゾンビみてぇだな?


「くじ運が悪かったと諦めるんだね。大丈夫、取って食われたりはしないさ。食われたってお得意の再生能力があるんだから死にはしないでしょ?」

「……せめて、せめて我がメイドたちを何人か連れて行っては駄目だろうか……?」

「別に良いけど、面白半分で壊されたりしてもしらないよ?」

「………………」


 縋るような目を向けてくる見た目はイケメンのバールにそう返すと、途端に無言で膝から崩れ落ちたからちょっと笑う。バール側のメンバーがマジで酷いもんなぁ……。


「まあ、アレだ。今回の会談が無事に成功すれば、世界平和実現に大幅に近付く事になる。そこからある程度は聖人族と魔獣族が勝手に色々やってくれるだろうし、こんな風にお前ら全員を駆り出すような事はしばらくなくなるはずだ。だから護衛ミッションが終わった後には長いバカンスが待ってるって思って、出来るだけ頑張ってくれや」

「うう……それだけが、せめてもの救いか……」


 このままだと使い物にならなさそうだから、しゃがんで肩を叩きながら慰めてあげた。

 そしたら何とか立ち上がってくれたけど、身体はふらついてるし顔色悪いしでマジで駄目そう。でも人出少ないから働いて貰わないと困るんだ。ごめんな?


「あとはほら、ちゃんと頑張ってくれれば、ある程度は望みを叶えてあげるのもやぶさかじゃないよ?」

「んじゃ干乾びるまで搾り取ってやる」

「三日三晩、主と濃厚に愛し合いたい~っ!」

「えーっと……まあ、あたしもそんな感じかな?」


 バールのあまりにもあんまりな姿に思わずそう口走ると、それを聞きつけた馬鹿三人衆が途端にヤベー望みを口にする。

 え、何? 僕、干乾びるまで搾り取られた後に三日三晩更に絞られるの? その上でワンモア? 水分飛び過ぎてミイラ飛び越えて化石になりそう。死んじゃう。


「あー、はいはい。もう良いからみんなさっさと持ち場に行っちゃえ! 今から護衛ミッションスタートだ!」


 かといってやる気を煽るためには明確に拒否も出来ず、僕は投げやり気味にそう叫んだ。

 ちなみに聖人族の王様を護衛するグループは転移の魔法で現地に飛ぶけど、魔王を護衛するグループは徒歩で行きます。だってここがそもそも出発地点である首都だもんね。


「了解した。望みを叶えるという言葉、努々忘れないようにしてくれたまえ」


 キラリと瞳を剣呑に光らせたレーンが、そう言い残してからいの一番に転移する。どうせ魔法関連の何かでしょ? 知ってる。


「それじゃあリリィ、ご主人様のために頑張るんだよ?」

「はいです。ヴィオがいないのは寂しいですが、一生懸命に頑張ります。んっ――」


 猟奇カップルはしばらく会えなくなるからか、人目も気にせず抱き合って濃厚な口付けを交わしてる。

 発言から分かる通り、このカップルは別々のグループだ。せっかく死で別たれた二人が再会できたのに分断するのはちょっと気が引けるけど、クジで決まった事だから仕方ないよね? 一番可愛そうなのはバールだし。


「いいか、リア? 私の代わりに花壇や部屋の鉢植えへの水やりや世話を頼むぞ? ここに書いてある通りにやってくれればいいからな」

「分かった! 任せて!」


 見た目ミニスちゃんのベルは何やら分厚い紙束を取り出し、それをお留守番であるリアに渡して植物の世話を頼んでる。

 この子、本来の姿が破滅的な割にはガーデニングって言う凄いまともな趣味があるからなぁ……一回部屋の中を見せて貰ったけど、どこもかしこも植物だらけでジャングルみたいになってたよ。アレの世話ってかなり辛くない? よくそんな笑顔で頷けるな、リア……。


「よーし! 女神様のために頑張るわよっ!」


 誰よりも強い意気込みを見せて転移していったのはミニスちゃん。

 やる気あるのは別に良いとして、せめて僕に何か言い残してから行ったりしない? 無いか。そういや気付いたらミラもいつの間にかいなくなってるし……。


「それじゃあ行ってくるね、クルスくん……あたし頑張るから、見ててね……?」


 そんな風に何かエッチな事を言い残して転移していったのはセレス。顔はやる気十分って感じだったのに、発言と口調がベッドでのご奉仕前のそれなんだよなぁ。まあ頑張ってくれるなら良いか。


「ほら行くぞ、お前たち。いつまでもご主人様に縋りつこうとするな」

「うあ~っ、主に会えないのは辛いよ~っ! 主、主、主~っ!!」

「絶対にブチ犯してやるからな……!」


 そしてもうすでにキマってる感じの犬猫コンビは、ベルに引きずられて無理やり連れていかれました。

 ていうか初日からあんな様子でマジで大丈夫かな? 少なくとも護衛ミッションは一か月以上かかる見通しなんだけど……。


「なあ、クルスよ。今からでも、メンバーを変更する事は出来ないだろうか……?」


 なんてこの土壇場で軟弱な提案をしてきたのは、当然我らが残念イケメン真祖吸血鬼バール。よりにもよって全員がいなくなったタイミングを見計らってそれを提案してくる辺り、メンタルの弱さが窺えるよね。


「お前のグループのメンバー全員からそれを許可して貰えたら良いよ」

「……………………」


 そんなバールに無慈悲な答えを返すと、絶望の面持ちでとぼとぼとリビングを出て行く。哀愁漂うあの背中……アレが二千年生きてる魔将の背中、か。現実は厳しいな……。


「はあっ……だるいけど、僕も配置につくかぁ」


 約一名を除いて全員がいなくなり静けさが訪れた中、僕はソファーに腰掛け魔法で幾つものモニターを展開した。仲間たちがいるからたぶん大丈夫だとはいえ、念のため両種族の王様の道中を監視して、場合によっては介入しないといけないし。

 普段ならここまで過保護な真似はしないけど、同盟が結ばれるっていうんだからこれを台無しにするなんて許されない。何としても両種族には手を取り合い協力し合って、邪神っていう最大の脅威を排除して貰わないといけないんだからね。手の込んだ自殺をしなきゃいけないこっちの身にもなってよ?


「えー? ちょっとくらい遊んでも良いんじゃないかなー? ほらご主人様、リアと良い事しよー?」


 しかしそんな僕の膝にぴょんと乗っかり、悪戯な笑みを浮かべ悪の道に誘う悪魔――もといサキュバスが一匹。

 屋敷に誰もいなくなって僕と二人きりになったせいかはしゃいでるみたいで、上機嫌に長い尻尾をフリフリ翼をパタパタさせてる。もちろん『良い事』が『エッチな事』なのは言うまでも無いね?


「えぇい、早速誘惑をしてくるな。どうせそういう事は毎晩出来るんだから、今やる必要は無いんだよ。とりゃっ」

「きゃー! ご主人様のエッチー!」


 退かすために両脇を掴むように身体を持ち上げてやると、途端にリアは身に覚えの無い中傷を投げかけてきた。しかもすっごい嬉しそうに。

 うーん、でも確かにちょっとくらい遊んでも良いかもな? 仲間たちには色々対応できるように特製の魔道具も渡しておいたし、僕が対応しなくてもきっと上手くやってくれるでしょ。それにモニターで監視&盗聴しながらなら何かあってもすぐに対応できるし?

 そんなわけで誘惑に屈した堪え性の無い僕は、まだまだ明るい内から合法ロリサキュバスとお楽しみになりました。初日からこれとか先行き不安だなぁ?


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